風花莉亜
2026-01-15 07:21:53
9398文字
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藤堂くんが小さくなりました。

藤堂くんが小さくなっちゃう話。中身高校生設定なのですが、ちょっと外見に引っ張られて中身も幼くなってます。あんまり必要ないかと思いつつ、両片想い設定です。千早くん視点。誤字脱字は絶対あるのと、千早くんがだいぶアレなので、いつも通り何でも大丈夫な方向け

突然目の前で人が小さくなった。
そんな経験をした事がありますか?
え?ないって?それはそれは、平凡な毎日を送ってるんですね、羨ましい限りです。
そんな事言うなら自分はあるのかって?
えぇ、俺はたった今経験しましたよ。
さっきから何を言っているんだって?
そんなものは、こっちが聞きたい!



【藤堂くんが、小さくなりました。】



なんて事ない日常。
いつも通りに野球をして、誰一人として怪我をする事なく終えた部活動。
先輩達を先に帰してから五人だけで練習を続け、いつも通り要くんのやる気が落ちてきた頃には終了させた。
疲れたぁ、一際大きな声で言う要くんの後に続いて入る部室は、普段となんら変わりはない。
しかし、くだらない雑談をしながら制服へと着替えていたその時、それは起きた。

『ぐ〜っ!』

なかなかの大合唱をキメた藤堂くんのお腹の音に、その場にいたメンバーが笑う。
体を最大限に使った後だ、お腹が減るのは当たり前だし、きっと皆だって同じ。
それでもシン、と静まり返ったタイミングで鳴ったので、面白くなってしまったのだ。

「盛大だねぇ、葵ちゃん」
「うるせーよ」

ニヤニヤする要くんに対して少し恥ずかしかったのか、藤堂くんは顔を赤らめてぶっきらぼうに返す。
そんな態度に要くんはしょうがないなぁ、と鞄をゴソゴソと漁り出した。
暫くして目当ての物を見付けたらしく、満面の笑みで藤堂くんへと近寄る。

「はい、手出して?」
「ん?」
「何もないよりはマシかなって」
「おー、さんきゅ」

藤堂くんが言う通りに手のひらを上に向けると、要くんはそこへとコロン、と可愛らしい包を乗せた。
形状からして、キャンディーだろうか。
淡いピンク色のそれは、藤堂くんの手のひらの上では酷く小さく見えた。

「貰い物なんだけど、葵ちゃんにあげるー」
「貰い物かよ!」
「まぁまぁ、女子から貰った物だからって僻むなよぉ〜」
「いや、知らねーよ」
「二つ貰ったからお裾分け」
「へーへー、ありがとーよ」

噛み合っているんだかいないんだか、そんな会話を繰り広げながら受け取った藤堂くんは、早速包からキャンディーを取り出して口へと放る。
チラリと見えたキャンディーは包み紙と同じピンク色で、女子から貰った物なだけある、形も可愛らしいハートをしていた。
カラコロ、口の中で転がす藤堂くんに要くんは美味しいかと聞く辺り、どうやら自分はまだ食べていなかったらしい。
毒味役かよ、と渋い顔をする藤堂くんにそんなつもりはないと要くんは首を横に振った。
ただ、折角女子から貰った物なので食べるのが惜しかったとの事。
だとしたら、そんな惜しく感じるような物を分け与える要くんは、かなりお人好しなのでは?
正直な所、この小手指野球部はそんな『お人好し』が多かったりするのだが。
これは類は友を呼ぶ、というやつなのかもしれない。

「葵ちゃん、キャンディー何味だった?」
「んー?いちご?」
「はっきりしないなぁ」
「っせーな、甘味料って感じの味なんだよ」
「甘いんだ?」
「あめー」
「凄く?」
「それなりに」

ポンポン続く会話を耳にしながら、俺は黙々と着替えていた。
あの輪に入ろうとは思わないけど、仲が良いなぁとは思う。
それは多分山田くんも同じで、どこか微笑ましい物を見るようにして二人を眺めていた。
そんな山田くんはもう着替え終わっていて、ただ手持ち無沙汰だっただけかもしれないが。
ネクタイを締め終えた所で山田くんが隣へと来て、まだかかりそうだねと苦笑する。
何が『まだかかりそう』なのかと言うと、藤堂くんと要くんの着替えだ。
俺と山田くんは着替え終えているし、清峰くんだって着替え終えてハンドグリップに勤しんでいる。
そんな中、会話を続けていた二人の着替えはまだ半分といった所で、これはまだ暫くかかりそうだと山田くんと顔を見合わせた。
早くしろと言ってもいいのだが、別段早く帰らなければならない用事ないし、二人のくだらないやり取りを眺めているのも悪くはない。
のんびりと待ちますか、そう山田くんに向かって口にした所で、突然『ボンッ』という音が部室内に響いた。

「!?」
「わっ、藤堂くん!!大丈夫!?」

その音の発生源は藤堂くんのいた辺りで、モクモクと上がる煙で藤堂くんの姿は完全に見えない。
どうした、何があった?
藤堂くんの近くにいた要くんは煙に覆われる前に清峰くんに救出されていたらしく、それでも少し煙を吸い込んでしまったのか離れた所でゴホゴホと咳をしていた。
そちらも心配ではあるが、多分大丈夫。
清峰くんが背中をさすってあげたりと気にかけているし、その内落ち着くだろう。
それよりも問題なのは……

「藤堂、くん?」

未だに煙に覆われてしまっている藤堂くんに呼び掛けてみるが、返事はない。
一体何が起きたのかわからなくて、近くにいた山田くんに視線を向けてみても、彼はゆっくり首を振るだけ。
山田くんにだって何が起きたのか、わからないのだ。
兎にも角にも、白い煙が晴れてくれなければどんな状況なのかも判断がつかないし、目を凝らしてみても何も見えない。
混乱しそうになるながら煙の上がる方をじっと見ていたその先、窓を視界の端に捉えた瞬間、俺は走り出していた。
藤堂くんのいた辺りの奥にある、締め切られていた窓の鍵を開け、勢い良くスライドさせる。
そうすれば新鮮な空気が流れ込んできて、徐々に煙が晴れていくのを見てほっとした。
後は、藤堂くんが無事ならば。
真っ白だった空間に人影が見えて慌てて近寄ると、鮮明になっていくその姿に安堵しかけて違和感に気付く。
シルエットが、小さいのだ。
座っているのだとしても、藤堂くんはもっと大きい筈で、だからこのサイズはどうにもおかしい。
嫌な予感が脳裏を掠め、だけどそんな事ありはしないのだと自分に言い聞かせながら、煙が完全に晴れるのを固唾を飲んで待つ。
頼むから俺の勘、外れてくれ!
そんな願いも虚しく、漸く現れたその姿に部室内にいた全員が呆然とする羽目になった。
人間、驚きすぎると声もでなくなるらしく、パクパクと口を開閉するだけ。
まるで魚にでもなった気分だ。
そんな時間を数分、いや数十秒だろうか、過ごして、誰一人として瞬きすら出来ないような、そんな状況からいち早く脱したのは我らがエースだった。

「あれは藤堂、なのか?」
「え、あ、葵ちゃん!?」

清峰くんは静かに呟く。
その呟きにすぐさま反応したのは、煙を吸い込んで咳をしていた筈の要くんだった。
もう復活したらしい。
大事にならずに良かったですね。

「ね、ねぇ瞬ちゃん!これって夢!?」

葵ちゃんが小さくなってるなんて、アリエナイツ!
そう言いながら俺の肩をゆさゆさ、そんな甘い表現ではないか、ガクガクと力一杯揺さぶってくるものだから、脳みそが揺れた。
それが良い刺激になったのか、パクパクと開閉するだけの口からスムーズに声が出るようになる。
動揺と緊張が解けたらしい。

「どう、でしょうね……ちょっと判断がつかないので頬を抓ってさしあげますね?」
「え!瞬ちゃんそれ嘘じゃん絶対わかってるじゃんっていぃぃったい!!」
「どうやら現実のようで」

思いっきり要くんの頬を抓ってやれば、目にぶわっと涙を浮かべる。
頬をさすりつつ吐き出された、俺のじゃなくて自分のほっぺた抓れば良いのに、なんて恨めしそうな声には無視をした。
俺だって痛いのは嫌だし、これが夢でない事なんてわかりきっていたから、自分で自分の頬を抓ろうだなんて考える訳がない。
これはただの、ガクガクと揺すぶられて脳みそが揺れた事への仕返しだ。
要くんが痛いと山田くんに泣き付いているのを横目に、どうせなら痛くなければ良かったのにと思う。
こんなのが現実だなんて、誰も信じたくなどないのだ。
そう、藤堂くんが小さくなっているだなんて──────…………


なんて事ない、普通の日常だった。
学校へ来て授業を受けて、放課後は部活動をして、終わったから部室で着替えていただけ。
誰かのお腹が鳴るなんて事も珍しい事ではなく、それに笑って早く帰ろうなんて言いながらそれぞれ帰路に着く。
今日だってそうなる筈だったのに。
そんな『日常』を『非日常』へと変えてしまったのは、先に述べた通り、藤堂くんが小さくなってしまったという事柄。
突然藤堂くんの体が煙で見えなくなり、煙が晴れたと思ったら、そこに居たのはミニ藤堂くんで。
今の藤堂くんをそのまま小さくしたかのような姿に、部室にいた全員が驚いた。
金色の髪も三白眼も健在なのだが、輪郭はぷにっという効果音がピッタリの丸さと柔らかさを持ち、体に至っても同じように丸さと柔らかさがある。
百八十を超える体躯は、今や百を超えるか超えないか位のサイズで、見た感じ三歳くらいだろうか?
普段の藤堂くんからは想像出来ない程に小さい。
そして何より、その姿は可愛らしかった。
この俺が思わず「は?可愛い」などと口走りそうになるくらいには。

自分の身に何が起きたのか理解出来ていない藤堂くんは、その場にペタリと座り込んだままキョロキョロと部室を見回したり、自分の手に視線を落としたりしている。
紅葉のような手、とはよく言ったものだ。
ふくふくとしてそうな手が目に付く。
そんな小さな手で体をぺたぺた触って、それから頬へと手を伸ばし、柔らかそうなそれをフニフニと触る。
フニフニ、フニフニ、まるで心を落ち着かせるかのような行動に、実はパニックになっているのだろうか。
無理もない、俺だって同じような目に合ったらパニックに陥っていたし、要くんだったなら『なにこれー!!』と大絶叫していたに違いない。
そう考えると藤堂くんはおとなしくて、扱いに困らなそうだ。

藤堂くんをよくよく観察してみると、制服に着替えている途中だった為に上はカッターシャツで、穿いていた筈のスラックスは下へと落ちてしまっている。
白いカッターシャツ一枚がまるでワンピースのようになっていて、サイズが大きい故に肩からずり落ちそうだった。
一体、どうしたものか。
子供服なんてものは勿論持ち合わせてなどいないのに、このままにしておくとシャツすら落ちてしまいかねない。
と言うかちょっと待て、パンツはどうなっているのだろう?
スラックスが脱げていると言うことは、パンツも脱げている可能性がある。
え、藤堂くんノーパンなんです?
頭を抱えながら唸っていると、藤堂くんは長い袖に隠れてしまっている手を出そうと、腕まくりに挑戦し始めた。
しかし、服のサイズは大きいのに己の手は小さい、それが生み出す効果は腕まくりが出来ない!だ。
一生懸命腕まくりしようとしても、ストン、と落ちる袖。
それでも再度挑戦し、そしてやはりストン、と落ちる。
めげずに何度も繰り返す姿を見守っている俺は、さながら我が子を見守る母親であった。
別段子供が好きとかそんな気持ちは持ち合わせていないと思っていた俺だったが、どうにもこの小さな藤堂くんには心を惹かれるものがある。
頑張れ、頑張れ、もう少し!
ギュッと手のひらに力が入ってしまうのは、仕方の無い事だった。
何故なら同じような面持ちで藤堂くんを見守っていたのは、隣の山田くんも要くんも同じだったから。
暫く奮闘する藤堂くんを見ていたが、ふと我に返る。
今まで目の前の幼児は藤堂くんだと認識していたが、これは本当に藤堂くん本人で合っているのだろうか、と。
煙で隠れてしまった瞬間、別人と入れ替わっていたなんて可能性もゼロではない。
藤堂くん本人でないとしたら、もしかして。

「ねぇ、もしかして……葵ちゃんの隠し子!?」
「そんなわけねーだろ」
「はっ!しゃべった!」

普段の低い声とは打って変わって、子供特有の高くまろい声音に若干舌っ足らずなのが可愛い。
要くんの発言にすぐさま反応する所を見ると、やはり本人で間違いないようだ。
隠し子説を一蹴した藤堂くんは、先程まで格闘していたダボダボの袖は諦めたらしく、ふぅ、と一つ息をついて俺達を順番にその瞳に映す。
それから俺を視界に入れた所でピタ、と動きを止めて「ちはや」と名を呼んだ。
俺の事を認識していると言う事は、中身は高校生の藤堂くんでいいらしい。
精神までも幼児化していたらどうしよう、そんな杞憂はいらなかったようで一つ安心した。

「えっと、藤堂くん、で合ってますか?」
「ほかに、だれにみえるんだよ?」
「瞬ちゃん!葵ちゃんってば発音が全部平仮名だよ!」
「そうですね」
「かなめ、うるせー」
「暴言なのに可愛い!?ズルくない!?」
「あはは」
「ちはやー、おれなんでちいさくなってんの?」
「何故でしょうねぇ、俺にもわかりません」

途中要くんを挟みつつ、そんな会話をする。
藤堂くんが小さくなった理由なんてここにいる誰一人わかりやしないし、なんならこっちが聞きたい。
何で君、小さくなってるの?と。

とてとて、そんな効果音が付きそうな足取りで俺の元に来た藤堂くんに、しゃがんで目線を合わせる。
普段見下ろされる側なのに、立場が逆転した事で少しだけ優越感が生まれた。
小さな手を俺の膝に乗せて話し出すその姿は子供そのもので、本当に中身は藤堂くんなのかと首を傾げる。
それ程までに、この子は愛らしかった。
いつもの藤堂くんより目が大きく見えるし、頬もぷにぷにだし、あぁ、その頬をつつきたい。
絶対触り心地が良いに決まっている。
あまりの可愛さにぎゅっと抱き締めたくなっているのは、あるはずの無い母性が働いているからだろうか?
それとも、所謂『萌え』というやつだろうか?
どちらにせよ、このままでは藤堂くんの頬に擦り寄る未来しか見えない。
誰か俺を止めてくれ、切実な願いであった。

「ちはや?どぉした?」

膝に手を置いたまま下から覗き込んできた藤堂くんと目が合って、俺の心臓は一際大きく跳ねる。
上目遣いは反則だろ!?

「うぐっ」

思わずうめき声が漏れた。
だって仕方ないじゃないか、可愛すぎるのだ。
元々俺は藤堂くんに惚れていて、そんな相手がこんな愛くるしくなってたら皆こうなります!
俺だけじゃないですって!
口元を覆って必死に取り繕うと試みるが、上手くいかない。
ちょっと待って、ほんと無理、タイム。

「すみません、ちょっとだけ手を離していただけますか?」
「?」

首を傾げながらも素直に手を離す藤堂くんにニコリと微笑んでから、スクッと立ち上がり深呼吸をする。
気を落ち着かせるように何度かそうして、心の平穏が戻ってくるのを待つつもりだったのだが、いくら待った所でその平穏とやらがやってくる気が全くしない。
ならば一層の事、心を無にししまえば良いのではないだろうか。
何か無心になれる物は……よく聞くのは素数を数える事だった気がする。
素数、素数、素数。
二、三、五、七……あぁぁぁぁダメだぜんっぜん集中出来ない、それもこれも全部、この小さくなってしまった藤堂くんのせいだ。

「だいじょーぶか?」
「んんっ」

俺のスラックスをクイクイと引きながら、心配そうな表情を浮かべる藤堂くんに思わず膝から崩れ落ちる。
君のせいで全然大丈夫じゃないです。
もう誰でも良いので、俺から藤堂くんを隠してください。
見えなくしてしまえばきっと、普段の俺に戻れるはずなので。
助けを求める様に辺りを見回すと山田くんと目が合うが、ぐっと握り拳を作って頑張れと言うだけで俺の意図を汲んでくれない。
山田くんがダメとなると結構絶望的なんですけど?
次に助けを求めるようにして視線を向けたのは、要くん。
お願いだから意図を汲んでくれ。

「瞬ちゃん……葵ちゃんの可愛さにノックダウン?」

そうだけどそうじゃなくて!
助けろって訴えてんですよ!
キッと睨み付けるようにしてやると要くんは肩を竦めて冗談だってば、そんな風な態度を取った。
口元が『怖い怖い』と動いたのは見逃してないですからね?

「葵ちゃん、ちょっとこっち来て」
「なんで」
「いーからいーから」
……しかたねーな」

やっと意図を汲んでくれたらしい要くんは、藤堂くんを手招きした。
最初は訝しがる様子を見せていたが、やがて渋い顔をしながらも大人しく要くんの方へと向かう。
大き過ぎるカッターシャツをズリズリと引き摺りながら。

「葵ちゃん、確保〜」
「わっ、ばかやめろ!」

目の前まで来た藤堂くんをヒョイっと簡単に持ち上げ、そのまま抱っこでもするのかと思いきや、肩車をする事にしたらしい。
しかしいきなりの肩車に、流石の藤堂くんも怖かったらしく、必死に要くんの髪にしがみついた。
いくら子供の力と言えど、髪の毛を引っ張られればそりゃ痛い。
痛い、もげる、禿げる!と叫びながら藻掻く要くんと、不安定故に余計必死にしがみつく藤堂くんという悪循環が生まれた。
「葉流ちゃん助けて」の声に、要くんの事なら動く清峰くんが藤堂くんを引き離そうとするが、藤堂くんの手が要くんの髪の毛から離れることは無い。
そうして生まれた更なる悪循環に、山田くんは頬を掻いて困り顔をしている。
このままでは本当に、要くんの毛根が心配だ。
今の状況を招いてしまったのは俺の責任も多少なりともあるので、仕方ない、助け舟を出してあげますかね。
気持ちも落ち着いてきた所なので。
なるべくはっきり、要くんにも藤堂くんにも聞こえるような声で名前を呼んだ。
俺の声に耳を傾けてもらえるように。

「要くん、藤堂くんをこちらへ」

ひと言そう告げると、ピタリと三人の動きが止まり、そして清峰くんはゆっくりと藤堂くんから手を離した。
理解が早くて助かります。
禿げる、もげると喚いていた要くんはと言うと、助かったと言わんばかりに涙を浮かべていた。
いや、元々痛みで涙目だったか。

「瞬ちゃん!!このままだと圭ちゃん禿げ散らかす所だったよ本当」
「その歳で禿げ散らかすのはちょっと」
「まだ禿げ散らかしてないんですけど?」
「あはは」
「笑い事じゃないんですけどー?全くもう!ほら葵ちゃん、瞬ちゃんが抱っこしてくれるって」
「え?抱っこするとは言ってませんが?」

要くんの反応が面白いのでついついそんな事を言ってしまって、それに対して「違うの!?」と大袈裟に驚いていた。
そんな要くんは置いとくとして、何で藤堂くんはそんな悲しそうな顔してるんですかね?
あれ?もしかして抱っこして欲しかったとか?
……やっぱり中身も幼くなっている気がしてならない。

「藤堂くん?」
「なに」
「どうぞこちらへ」

両手を広げてみせれば、曇っていた表情がみるみると明るくなり、要くんの髪を掴んでいた手がこちらへと伸ばされる。
小さな手を一生懸命伸ばす姿は、愛くるしいの一言だ。
落とさないように要くんから藤堂くんを受け取ると、何を思ったのか頬に擦り寄ってくるので、ピシリと固まってしまった。
藤堂くんって、こんなキャラだった?
柔らかい頬が俺の頬にくっ付いている現状に頭が追いつかない。
小さくなった藤堂くんに心を掻き乱されてばかりいて、ちょっとってか物凄く疲れた。
ズン、とまるで重力が倍になったかのように感じられて、俺の意思など関係なく、心も体もだいぶお疲れモードへと突入してしまう。
肩車からの抱っこで安定感が違うからなのか腕の中の藤堂くんは大層ご機嫌そうで、人の気も知らないでと恨めしく思った。
だめだ、このまま抱っこなんてしてたら俺の身が持たない。
要くんから引き取ったばかりだが、一度仕切り直しをさせてほしい。

「すみません藤堂くん、一旦おりてください……
「?わかった」

素直にこくりと頷く藤堂くんに駄々を捏ねなくて偉いですね、なんて言いかけて、中身は一応高校生だったと気づく。
全く、見た目に惑わされすぎる。
ゆっくりと藤堂くんの体を下ろし、小さな足が床に着くのを見届けて、これまたゆっくりと手を離す。
ただの一動作だというのに、ひと仕事終えたかのような気持ちだった。
そんな俺に対して藤堂くんは、俺のスラックスの裾を小さなその手でクイクイと引く。
一生懸命、そんな感じがとても可愛らしくて、先程からこんなにも可愛いと思っているのは、俺だけなのだろうかと考える。
まぁ、なんでもいいか。
可愛いものは可愛いのだから。

「ちはやー」
「なんですか?」

スラックスを引っ張るも反応を示さなかった俺に、今度は名前を呼ぶオマケ付きでもう一度裾を引っ張る素振りを見せる。
今度はそれに応えるように屈んで目線を合わせてあげると、少しだけ照れたような顔になった。
何だか良くわからないが、やっぱり可愛い。
きゅっと引っ張っていた裾を握る手に力が籠って、やがて意を決したかのような顔つきになったかと思えば、藤堂くんの顔が近付いて。

「すき」

そんな言葉と共に、ちゅっ、と可愛らしいリップ音がした。
頬に温かい何かが触れたと意識して、その何かを考える。
近付いてきた顔、ふにっとした柔らかい……
何かって、一つしかないじゃん!
小さな藤堂くんにキスをされたのだと気付いて、相手は子供だと言うのに、じわじわと頬に熱が帯びる。
違う、これはその、相手が藤堂くんだから!
好きな人にキスされたらそりゃ、照れもしますよね!?
だから子供だとかそーゆー事は関係なくて、その、えっと……
グルグルとそれこそ本当に目が回るような感覚がして、最終的にはボンッという音と共に白い煙が出た。
その煙はモクモクと俺の体を完全に覆い、隣にいた藤堂くんも巻き込んで、二人してゴホゴホッ、と咳き込んでしまう。
さっきからこの煙はなんなんだ?
よくわからないがこの煙が出たという事は、もしかしたら藤堂くんが元に戻っているんじゃないか、そんな期待が頭をもたげる。
小さな藤堂くんは可愛かったけれど、やっぱり元の藤堂くんの方が良い。
一緒に野球の出来る藤堂くんが。

兎にも角にもこの煙から脱出した方が良いだろうと一歩踏み出した次の瞬間、自分の身に起きた異変に気付いた。
あれ?制服、ダボダボ?
これではまるで、小さくなった藤堂くんと同じではないか。
段々と煙が晴れていき藤堂くんの姿が見えてくるが、相変わらず小さなまま。
元に戻ったかと思ったのに、と残念な気持ちになっていると、藤堂くんがびっくりした顔をしてこちらを見ていた。
どうしたのかとじっと見つめ返して、交わった視線に違和感を覚える。
あれ、なんで、目線が同じ?
先程気付いた異変が、段々とはっきりした物になっていくのを感じた。

「ちはや……ちぢんでる……
「ふぇ?」

意識の遠くの方で要くんが可愛いだのなんだの言っている気がするが、混乱の最中にいる俺の耳には届かない。
藤堂くんが小さくなっただけでも大事件だと言うのに、俺まで小さくなるなんて。
あぁもうこんな非日常、求めてない!


END