風花莉亜
2026-01-15 07:20:15
4156文字
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繋いだ手。

第5回とどち版ワンドロワンライ参加作品。初詣に向かうお話です。千早くん視点。誤字脱字は絶対あります。毎度のことながら、何でも大丈夫な方向け!

『なぁ、初詣行かね?』

十二月三十一日午後十時を少し回った辺り、お風呂から出て自室のベッドでゴロゴロしていた時の事。
手に持っていたスマートフォンが振動して液晶画面に映し出されたのは、初詣へのお誘いだった。
このまま文字でのやり取りをするのも良いが、通話してしまった方が早いと電話をかける事にする。
声も聞きたいし、一石二鳥だ。
音声通話をタップして数コールで電話の相手、藤堂くんの声が耳元でした。
肉声とは少し違う、けれど俺の好きな声。
姿は見えないけれど、目を閉じれば藤堂くんの姿は思い描ける。
毎日毎日一緒にいて、飽きる程にその姿形を見ているのだから。

『いきなり電話きてビビったわ』
『だってその方が早いでしょ?』
『まーな。ところで、通話してて大丈夫なんか?』
『大丈夫じゃなかったら掛けませんよ』
『ははっ、そらそーだ』
『藤堂くんこそ、大丈夫でした?』
『おう』

大丈夫、その声が今日イチで優しくて、俺の心臓がきゅんっとなるのを感じた。
ダメだ、この男に心底惚れすぎだろ自分。
スマートフォンを持っていない方の手で顔を覆って、ぼふんっとベッドに背中から倒れる。
ベッドのスプリングがギジリと音を立てた。

『初詣……
『うん?』
『行くんですよね?』
『おー、行こうぜ』
『何時に何処集合ですか?』
『本当はカウントダウンしたかったんだけど』
『けど?』
『夜中出歩くのはなぁ』
『まぁ、そうですね。藤堂くん目立つので最悪補導されかねないかと』
『言い返せねーのがムカつく』
『あはは』

俺達はまだ未成年だ。
夜十一時以降に外出してはいけないというルールがある。
見付からなければ、そんな風に考えて万が一補導なんて事になったら、色々と面倒臭い。

『早朝は?』
『早朝?』
『五時くらいに集合して、初詣。お前人混み苦手だし、早朝ならあんま人いないだろ』
『なるほど。何処集合します?現地?』
『いや、迎えに行く』
『は?』
『迎えに行く』
『わざわざ来ていただかなくても』
『だーめ。俺がそうしたいの』

女子じゃあるまし、迎えなんていらないのに。
確かに五時はまだ外は真っ暗で、世界は眠っているような時間。
けれど、この辺りは比較的街灯も多い上に家も多い。
そうそう滅多な事は起こらないだろうに、藤堂くんは心配しているのだと声から悟った。
女の子扱いされている訳ではないけれど、どうにも藤堂くんの特別扱いは手厚すぎる。
一緒に住んだりなんかしたら、デロデロに甘やかされて藤堂くん無しじゃいられなくなりそうだ。
俺は恋人とは対等でありたいと考える人間なので、何とか抗ってやるつもりだが。

『藤堂くんって、俺の事駄目人間にしそうですよね』
『あ?なんの話?』
『なんでもないです』
『よくわかんねー。あーっと、着いたらメッセ入れるからくれぐれも勝手に外出るなよ?』
『わかりました』
『じゃ、明日楽しみにしてる。おやすみ』
……っ、おやすみなさい』

サラっと楽しみにしてるとか言ってくるのやめてもらっても良いですか?
ぶわっと顔に熱を持って、鼓動も速くなってしまった。
俺ばかりが藤堂くんに翻弄されていて、悔しい。
藤堂くんも俺にドキドキすれば良いのに。

時間にして五分もなかった通話。
あっという間に切れてしまった電話に寂しくなるが、後数時間後には本人に会えると思えば平気だった。


*****

セットしたアラームに起こされ、ベッドの上で上体を起こす。
ググッと両腕を上げて伸びをすると、自然と欠伸が出た。
時刻は午前三時半。
藤堂くんが来るまで後、一時間半。
とりあえず目を覚ます為にも、顔を洗いに洗面所へと向かった。

身支度を終えて後は藤堂くんを待つのみ。
温かい飲み物でも飲むかどうしようか、そう考えていたら、タイミング良く藤堂くんから『着いた』と送られてきた。
時刻は午前四時五十分。
十分前のご到着とは、考えていたよりも早かったなと思う。
『今行きます』一言返せば、『了解』とスタンプが返ってくる。
一度鞄の中身を確認してから、鍵を片手にドアを開けた。

エレベーターで下まで降り、エントランスを抜けてその更に外、自動ドアの向こう側で藤堂くんが白い息を吐きながら壁に凭れていた。
マフラーと手袋を装備していて、防寒対策はきっちりとしているようだ。
因みに俺はマフラーと手袋は勿論の事、更にイヤーマフも装備している。
それでも寒いと思うので、カイロも両ポケットに一つづつ忍ばせていた。

「あけおめ」
「明けましておめでとうございます」
「今年もよろしくな」
「こちらこそ、お願いします」

新年の挨拶を済ませ、並んで神社へと向かう。
まだ動き出していない世界は、暗くて静かだった。

「千早、手繋ごう」
……神社まで、ですからね」
「おう」

心底嬉しそうな顔をして俺の手を取る藤堂くんに、胸がきゅっとする。
まだ暗くて良かった。
絶対今の俺は顔が赤い。
手袋もしていて良かった。
絶対手汗も凄い。

「千早、夢見た?」

唐突な話題に、一瞬思考が追い付かなかった。
夢を見たかどうか?
あぁ、初夢の話か。
そう合点がいったのは、藤堂くんの顔をまじまじと見てからだった。
夢は見たか見てないかと言ったら、見た。
藤堂くんにも話すつもりでいたのだが、すっかり抜け落ちていたので藤堂くんファインプレーです、と心の中で褒める。

「そういう藤堂くんは見たんです?」
「見てないってか、覚えてねー」
「残念ですね?」
「だから千早はどうかなって」
「俺は、見ましたよ」
「おっ、どんな?」

俄然興味津々です、といったように顔を輝かせる藤堂くんにクスクスと笑う。
まるで子供のようで可愛らしい。

「俺が見た夢は、藤堂くんといちご狩りに行く夢でした」
「いちご狩り?」
「はい」
「行きてーの?」
「特別行きたいと思っていた訳ではないんですけど、正夢にするのはナシ寄りのアリですかね?」
「じゃあ、行くか」
「妹さんも連れて?」
「夢に妹も出て来たんか?」
「いいえ。二人だけでした」
「じゃあ、二人で行こうぜ。お土産持って帰れば問題ないだろ」
「そうですか。では、行きましょう」
「ん」
「日程などはおいおい決めますかね」
「だな」

思いがけずデートの約束が出来てしまった。
しかもいちご狩りだなんて、久しく行っていない。
それを藤堂くんと二人だけで楽しめるのは、なんだか贅沢な気がした。

神社が近くになったからだろう、前を人が歩いているのが見える。
繋いだ手は、神社までという約束だったけれど、もう離れてしまうだろうか?
普段だったら人の目に触れるような所で手なんて繋がないし、繋ぐのを躊躇ってしまうのだけれど、今は人がいても構わないからそのまま繋いでいて欲しいと思った。
藤堂くん、小さく呼びかけると繋ぐ手に力を込められて、まるで離さないと言われてる気がして恥ずかしくなる。
でも、嬉しい。

「千早」
「はい」
「帰りも手繋いで帰るか?」
「それは流石に……
「嫌?」
「嫌と言うより、恥ずかしいです」
「ははっ、そっか」

突然笑い出した藤堂くんは上機嫌なようで、何でいきなりご機嫌になったのかわからないけれど、藤堂くんが楽しそうなのは見ていて気分が良い。
好きな人の楽しそうな顔なんて、いくらでも見ていたいじゃないか。

「神社まで走るか?」

俺の手をクイッと引きながら、そんな事を言う。
何かと走りたがるなぁ、と気付いたのは最近の事だ。
一緒にいるようになって、今までにも何度かこんな場面に出くわした気がする。
なんと言うか、ド直球の青春漫画みたいな。
王道の青春ラブストーリーとか好きそうですもんね、藤堂くん。
けれど今の俺は走る事は希望したくない。
だって、走ってしまったらすぐ神社に着いてしまうではないか。

「走りませんけど」
「ンだよ、ツレねーな」
「走った分だけ早く手を離さなければならないじゃないですか」
「お?」
……もう少し、ゆっくりでも良いんじゃないですか?」
「え、かわいい」

藤堂くんの言葉に瞬間的に沸騰する。
可愛いって、何いってんだコイツ!
馬鹿なんじゃないのか!?

「か、可愛くないです!」
「可愛かったけど?デレる千早とかレアだし」
「デレてないです」
「ま、そーゆー事にしといてやるか」
「何でそんな上から目線なんですか」
「藤堂葵様だから?」
「うざー」
「お前彼氏に向かって酷くね?」
「酷くないでーす」

赤くなった頬をマフラーで隠すようにして、藤堂くんを揶揄う。
デレるとか俺らしくないし、そもそもデレてなどいない。
気の所為、気の所為。

神社の鳥居が見えてきて、そろそろ本当に手を離す時間が来てしまったようだ。
少しだけ曇りそうになる俺の顔に気付いたのかいないのか、藤堂くんは気持ち大きめな声で俺の名前を呼んだ。
すぐ隣なのだから聞こえてるのにも関わらず。
でもそれは、俺が名残惜しいと思っているのに気付いて、態と明るく振舞っているらしかった。
本当に、俺の事よく見てますね?

「あぁそうだ。神社着いたらおみくじ引こうぜ」
「いいですよ」
「どっちが大吉出せるか勝負」
「そんな事も勝負するんですか?」
「するする」
「はぁ。わかりました、絶対負けませんけど」
「よーし、負けたらいちご狩り奢りな!」
「いいですけど、藤堂くん大丈夫なんです?」
「何が」
「二人分とか、割と高いと思いますよ?」
「俺が払うの前提かよ」
「だって俺、負けないので」
「はっ、俺だって負けねーわ」

強気に笑う藤堂くんにつられて、俺も自然と同じような顔をしていたと思う。
沈みそうになっていた気持ちも、すっかりと浮上していつも通り。
藤堂くんには、敵わないなぁもう。


そうして絶対に勝ってやる、と意気込んで引いたおみくじの行方は、神様のみぞ知る。


END




書き忘れてました。「願わくば〜」の方では注意書きしてたけど、こっちでは書いてなかったですね
初夢については、大晦日から元日説で書いてます