アユム
2026-01-14 22:19:21
2426文字
Public
 

キャンディひとつ、噛み砕き

【予告】
khmd女体化百合小説『コットンキャンディ』🍬

性にトラウマがあるmdrと、
待つと決めたkhkの1年間の話。

プロローグのみ先行公開(シリーズはR1予定/本連載はpixiv)

 好いた惚れたに始まる恋愛、それに付き物の聖愛、そして結婚から墓場まで。それを夢見る少女は多い。早くは幼稚園の頃から、〝みけちゃんはだれがすき!?〟と話を振られたものだ。
 〝またそのおはなしかあ?〟――軽蔑すらするクラスメイトたちの科白。〝だって、きのうもおはなししたのに?〟、〝みんな、きのうとすきなひとがかわってるのに?〟
 内心に渦巻く暗くて排他的でもあるそれ。それを飲み込めるほどには、斑は大人だった。そして、可哀想な子供だったのだ。
 そんな話を聞く度に、三毛縞の家に生まれた自分には恋愛というものは関係のないことだと思い知らされてきた。家柄としては婿を取るだろうが、次女の真黒と比べて不出来な長女とされている斑が、まともな結婚を望めたろうか。婿を取る。しかしそれも親が決めるであろう。もしかしたら神に仕えるために、身は綺麗なままが良しとされるかもしれない。そんなことは、幼くして聡明な斑はとっくに考え及んでいた。だから。
〝みんなであそぶとたのしいから、わたしはみーんなだいすきだぞお! ほら、ヒーローごっこしよう! お姫様はまもってあげる! おままごとでもいいなあ!〟
作り上げた笑顔の似合う自分らしく声を大にしてきた。
 幸せになる前提の恋愛とその未来の話に咲かせる人間を、心の底から憐れに思い、軽蔑しながら。
 
 小学三年生の終わりで早すぎる初潮を迎えたときは絶望した。忌々しく面倒くさいものと縁ができてしまったから。
〝三毛縞ってもう胸デケェよな〟――男子の目が刺さるから、無関心な、しかし世間体のためなら金を惜しまない親から金をもらってスポーツブラを買った。
〝斑ちゃんって胸大きいの自慢してるよね〟――女子の目が刺さり出したのもこの頃だ。仲のいいクラスメイトはいるにはいたが、深い仲になるわけでもないから仕方がない。誤解する方が悪いのだ。抱く憐れみの感情。小学四年生の夏休み明けのことだった。

 お洒落は好きだ。小さい頃から背は高く足も長く、なにより顔が人よりずっとずっと整って綺麗で可愛く、美しいことを知っているから。
 誰が言ったか、お洒落とは武装である。自分を磨くために気持ちを奮い立たせてくれる戦闘服だ。夢ノ咲学院に入学したその時からずっと、内心ではファッションリーダーの座を譲ったことはない。そのぐらい好きであったし、なにより誰より自分の魅力を知っているのは、斑本人だった。
 
 生まれ持った背の高さ。手足の長さ。それを活かすスリット入りのロングスカートも、ミニスカートにオーバーニーブーツも。ビスチェやコルセット風のデニムジャケットのデザインが流行った頃には、豊かなバストと鍛えて締まったウエストが映えた。人々が皆振り向くほどに。
 
 メイクも好きだ。理由は同じく、自分の魅力を最大限に引き出すために必要な手段であり、その創意工夫も楽しい。お洒落もメイクもトライアンドエラーの積み重ねでできている。なにもせずともなんでもできてしまう斑ではあるが、そういうものも案外嫌いではなかった。

 少しつりながらも大きな瞳の元気さ、明るさ、そして鋭さ。はっきりとして魅力的な口元。どれも天性の魅力ではあるが、それを最大限に活かすだけのメイクとファッションは常に正解を超えていた。

 斑は活発で豪快ではあったが、おしゃべり好きでお洒落が好きで、服もコスメも大好きで、美人でも可愛くもありたくて、――なにより、小さな頃に憧れたヒーローに、そしてアイドルになりたくて夢を見ている――普通の、ごく普通の少女なのだ。本当は。

 恋愛と、性愛を、除けば。


「斑はん!おはよ」
時は流れ、夢ノ咲学院を卒業し、アンサンブルスクエアのニューディメンションに所属し、いつしか相棒と呼ばれる者ができた。〝斑はん〟というのは、彼女が斑を呼ぶときの特別な呼称だった。オレンジ色のクロップドトップスに短い白のスカートパンツ。厚底のスニーカー。健康的だが白い肌が光る桜色の髪をした少女が、雑踏の中から斑を見つけて駆け寄ってくる。
「おはよう!こはくさん!」
その名前を呼び返すのも不思議な心地だった。出会った頃はこんなおぼこい箱入りの田舎娘をどうしてくれうかと思ったものだ。しかし、互いに深い傷を舐めあい、いつの間にか、本当にいつの間にか、穏やかで特別な関係を築き上げていたから。
 そして今日は、彼女とウィンドウショッピングをする日である。なんと健全なことだろうか。こんな日が来ることを、斑自身考えていただろうか。
「こはくさん、今日も可愛いなあ!」
「思ってもない口聞くなや」
「本当だぞお!」
「けどなぁ、まぁマスカラは上手くいったんよ」
「やっぱりなあ!それにチークも変えただろう?パールが似合ってる」
「あっえっ、わかる!? 昨日ラブはんと限定の買いに行ったんよ! 最後の一本やで!? ほんでそのあとパンケーキ食べに行ったら二兎はんが大学のお友達とおったんよ。それからほんならみんなでってなってカラオケ行って――
こんなに普通の女の子としての会話を、心底楽しんでいる自分がいる。斑は今が、そんな今が楽しくて仕方ない。純粋で、きれいで、大切で、なにより誰より大好きで、相棒で腐れ縁で年下の親友。そんなこはくが傍にいる。レオと一緒にいるのとはまた別のベクトルで、斑の胸を踊らせてくれるのがこはくだった。

 スタイリストに任せなければメイクはおろか着替えすらできなかったこはく。HiMERUの手を借り、藍良の手を借り、そして斑の手を借りて、いつしかこんなにも美しく明るい少女に変身したことが誇らしい。そして少しだけ寂しいのだ。もっとも、その気持ちは誰にも内緒だけれど。
 
 優しくなれるこの時間が、こはくとの時間が、大切でならない。未だ自覚はないが、斑の世界で一番と言っていいほどに。


to be continued.