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みずあめ
2026-01-14 18:07:56
2270文字
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rkrn
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久々綾
現パロ
たった一年違うだけなのに、と。好きな人の横顔を見ては何度もそう思う。
つまらないと思う心を誤魔化すように、僕はストローの刺さったグラスを持ち上げて口をつけ、甘いジュースにぷくぷくと空気を吹き込んだ。
二つ上の先輩たちから僕たちの学年まで混ざった大所帯が、カラオケの大部屋の中に詰め込まれていた。誰かがスイッチを入れたミラーボールがギラギラと光を放って時折視界を鮮やかに染める。
学年関係なくランダムに座って楽しそうに盛り上がる輪には混ざらず、僕は隅っこの方でぽつんと誰とも喋らずにいた。話したい人とはすでに食事の時に話したから本当は二次会まで着いてこなくたってよかったんだ。きっとここにいてもいなくても変わらないような存在で、ただ一人で帰りたくなくてついてきただけだった。
スピーカーから聞き覚えのある曲が流れ出して、久々知先輩がパッと手を上げた。赤ら顔で「俺だ!」と言うとすぐに誰かがマイクを手渡す。にこにこと楽しそうな笑顔に、また、つまらないと思った。
明日予定がある人や終電で帰りたい人がパラパラと帰って行く中、僕は一曲も入れず、一度もマイクを持たず、ジュースを飲むだけなのに帰らずにいる。周りからの壁になるように僕の隣にいた立花先輩が「何か歌わないのか?」と聞いてきたけれど、僕はふるふると首を振って席を立った。どこに行くんだ、と後ろから問われ、聞こえなくてもいいやと思いながら適当に「トイレです」と答える。部屋を出ても他の部屋から漏れ聞こえる音楽や歌声が騒がしくて落ち着けそうになかった。
トイレとは逆方向に廊下を進んで受付の近くまで行き、エレベーター前で他の階には何が入っているんだろうとフロア案内を眺める。別にどこかに行きたいわけでもないけれど。
「喜八郎? もう帰るの?」
「
……
久々知先輩?」
後ろから声をかけられ、バッと振り向いた。数時間ぶりにその人と目が合っただけでどくんと心臓が跳ねる。
部屋を出る僕の方なんて全く気にせずに尾浜先輩と話していたのに、どうしてこんなところにいるんだろう。少し驚いて、でもそれを表情には出さずに僕はいつも通りの顔をしてきょとんと首を傾げて見せた。
「トイレはむこうですよ?」
「分かってるよ。喜八郎がこっちに行くのが見えたから、迷ったのかと思って追いかけてきたんだ。トイレに行きたかったんじゃないの?」
「
……
酔ってるわりに、よく見てますね」
「そんなに酔ってないって。なんで怒ってるの?」
「怒ってませんよ」
本当に、全然怒ってなんかいない。ただちょっと拗ねているだけだ。年齢という、どうしたって埋まらない先輩との差に。
ほんの少し目を逸らして息を吐き、どうやってこの場を誤魔化そうかと思案する。素直に拗ねてるなんて言いたくないし、適当に笑うことだってしたくない。ちらりと視線を上げれば久々知先輩は僕のことをじっと見つめたままでいた。
酔ってないと言ってたけれど、明るい照明の下で見ると明らかに酔っ払いの顔色だ。思わず手を伸ばして頬を撫でればそこはしっかり熱を持っている。
熱い、と小さく呟くと久々知先輩は僕の手のひらに顔を押し付けるようにして甘え、唇をそっと開いた。
「帰りたい?」
見慣れた瞳で見つめられて、僕はちょっと考えてから首を横に振った。
「どうせもう終電もありませんから、朝まで付き合いますよ。明日はお休みですよね?」
「そうだけど、でも」
「それに、先輩、酔ってるから」
「だからそんなに」
「せっかく帰っても使い物にならないかもしれないでしょう?」
なにが、とは直接言わずとも、久々知先輩は僕の言いたいことを察したらしく、驚きに目を見開いた。すでに真っ赤に染まっていた顔色が、一瞬で耳まで赤く色付いていく。
「騒がしいのは好きじゃないけど、いいですよ、今日くらい。先輩たちのことは好きですから」
「
……
俺のことは?」
「え?
……
やっぱり酔ってますよね?」
「酔ってないよ。酔ってないけど、喜八郎、俺の隣に来ればいいのに」
「ふ。いやです。お酒飲んだ久々知先輩、距離近いんだもん。他の人がいてちゅーもできないのに隣にいたらストレス溜まっちゃいます」
「キスしようよ」
「ばか。ほら、もう戻りますよ」
「喜八郎」
久々知先輩の横を通り過ぎようとして手首を掴まれ、その手の熱さにぞくりと鳥肌が立つ。こんなに明るい場所なのに、心が暗い寝室へ行ってしまう。目を合わせたらダメだと思って僕はわざと大袈裟に顔を逸らした。
それなのに、この酔っ払いはここがどこだか分かっていないのか、伸びてきた指先が僕の顎に触れ、頬を撫で、耳から後頭部へと手のひらが滑る。「きはちろう」と甘ったるい声で名前を呼ばれて、僕は我慢できずに久々知先輩を見上げてしまった。
「よかった、泣いてない」
「
……
部屋に戻らなくていいんですか」
「少しくらい抜けてたって誰も気が付かないよ。そんなことより喜八郎といたい」
「わがまま言わないでください。大人でしょう」
「まだ全然大人じゃないよ」
こっち来てと言われるままに人気のない階段まで手を引かれて、店内より薄暗い場所で壁際に追い詰められる。目を合わせないように俯く僕の顔は先輩のあたたかい手が簡単に上を向かせてしまった。
「だめ?」
ダメだと言ったってやめないくせに。
瞬きをするように目を瞑れば、ふっとやわらかく空気が揺れたあとすぐに唇が重なった。いつもより性急に舌が絡んで、いつもと違う苦い味に僕は眉間に皺を寄せた。大人じゃないなんて、嘘つきだ。
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