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osoba1
2026-01-14 00:22:55
13278文字
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【SQV自ギルド話】3 弱くないだけ、強くないだけ
ステゴロ少年とショタコンお兄さんメインの回
「「カンパーイ!!!」」
酒場。ビミョーに盛り下がる。
明るい内に最初の迷宮で最初のミッションをこなしてきて、その報告ついでに祝勝会アンド、ギルド『アカラギ』結成記念会って流れで、もう夜。
といってもそこまで大がかりな宴会じゃなくて、そこそこの酒場、そこそこの料理、それに見合った周りのにぎわい。つまり相当ウルサイってこと。酔っ払いどもはキライだ。
てか祝勝ってほど勝ってないだろ。ギルド長のオッサン(ユーニア)はかなり甘いトコがある。
「お前らも乾杯って言えよ!! なんで六人もいて二人しかやんねーんだよ!!」
もう顔赤くしてがなってる隣席がサレン。剣士。今日の探索では一戦ぽっきりでリタイアした。
「うっせ、オレ酒飲めねーんだよ。まだ十五」
「そもそもカンパイなんて元気なことする人があんまりいないしねウチのギルド。ボクはやるし飲むけど」
逆側でグラスに鼻近づけて嬉しそうにしてるのはレア。やたらイケメン自慢してくる鎌使いで、オレの
……
弟子?みたいなヤツ。歳は確か十八とか。この街では十八から酒が飲める。
「飲めても飲まねーよ。成長に悪いから」
「あー確かに! チビだもんな! カルドお前チビだもんな!!」
果てしなくウゼえこの剣士ヤロー。だから酔っ払いはキライなんだ。
「サレン、ちょっと死んでろオマエ」
座ったまま、サレンの胸部に軽く一撃。腕が落ちる前に酒のジョッキはキャッチ。椅子の背もたれに寄りかかるサレンは、うめき声ひとつあげずに動かなくなった。
「これでしばらく寝てるだろ。吐くなよ」
酔ってなきゃこれくらい避けられるだろうに、バカが。ていうか初対面のときからガキ呼ばわりしやがって、失礼なヤツだよホント。
むやみに技を使うのは好きじゃないが、こんだけしつこい相手にはボコすもやむなし。
それが、男ってもんだろ。
オレはカルド、拳闘家。人を殴るのが仕事みたいなもんだが、人以外も殴りたくてこの世界樹までやって来た。
『最強』を目指して。
他人にバカにされるのは、まあ慣れてる。学もねえし字も大して書けないクセに最強なんてお題目掲げて、おまけにこのちっこい体格だ。ナメられない方が珍しい。
ケンカっ早い性格なのは自分でも分かってるが、いちいちキレ返すのも面倒だしたいていは頑張って我慢してる。けど、付き合いの長くなりそうな相手だったら話は別だ。
オレをナメていいのは、オレより強いヤツだけ。当然だ。
ナメられても仕方ない、なんて自分でも考えられなくなるくらい強い男に、オレはならなきゃいけない。
……
背ぇ、もう伸びねーのかな。
「レア、これやるよ。飲みかけだけど」
「サレンのでしょそれ、戻しときなよ。というかボクもお酒初めてなんだ。ゆっくり楽しみたいの」
「チッ、しゃーねーの」
クソ、ジョッキ戻しついでに頭からブッかけてやろうかあのダボ剣士。
「飲まないなら、くれ」
「あ?」
カササギが、向かいの席から相変わらずの眠そうな顔で見ていた。セリアンっていう、獣の耳が生えた怪力の種族。酒飲めんの?
「オマエ、十八
……
」
「十六」
「飲めねーじゃん」
「俺は飲める」
「自分で頼めよ」
「止められる。だからこうして頼んでる」
「
……
勝手にしろよ」
「ありがとう」
ジョッキを受け取るカササギの手はやけに丁寧だった。オレよりちょっと背高いからってデカい顔しやがって。こっちはミルクでも飲んでますよ。
「あまり、美味くない」
そーですか。飲めない分オレは肉食ってやる。野菜より、肉だ。
「ねね
……
カササギくん、間接キスだね」
レアうるさい。
「こっちは美味いぞ」
見ると、カササギが料理の皿をこっちに突き出していた。どういう風の
……
なんだっけ、吹き戻し?
「何コレ、魚?」
「刺身。魚の身を切って並べただけ。でも美味い」
そう言いながら、カササギはサシミとやらを足元に持っていった。
「リュウ、ご飯だ」
犬。真っ白な巨犬がいた。わっふりって雰囲気の猟犬で、カササギの前だとずっと大人しい。数日前の顔合わせでも見た顔だ。
リュウっていうその白犬はうまそうにサシミを食べている。続くカササギも同じく。
「む
……
」
食べてみた。
ほんのり味がするけど、うまいかコレ
……
? いや、脂がにじみ出て、じんわり広がってくる。肉とは違う味だ。香りがずっと口に残る。
「うまい」
「美味いものだからな。それは白身魚の刺身」
「もうひと切れ
……
」
「もうやらん。欲しかったら頼め」
「ケチ」
「今のは酒の礼。赤身も美味いぞ」
妙に義理堅いところがある。あまりしゃべらないと思ったら今日はいやに積極的だし、昼の生意気からはちょっと想像つかない感じだ。
こいつもセリアンらしく力はかなり強い。けど殴り合いになったらきっとオレが勝つ。弓使いだけあって近距離戦の身のこなしはそこまでじゃない。
代わりに弓の威力はズ抜けてる。職業柄か、野生動物の察知もオレよりはるかに上手い。正面から殴り合いできるタイプだったらなあと思うと、なんだかモヤモヤした感じだ。
「その剣士ヤローなら心配すんな。寝てるだけだから」
さっきのめしたサレンを心配そうに覗きこんでるヤツ、これがマリエル。ヒョロいガキ。オレよりガキだ。
「座ったままの睡眠は血行不良や首の疾患を招きます。ですから」
「寝かしとけ寝かしとけ。二日酔い怖がるヤツは酒飲まねえ」
「しかし
……
」
コイツはサレンにベッタリ付いてる。どこがいいんだか。
「肩首周りのマッサージ、酔い止めの薬
……
いえいえその前にサレン殿を宿までお連れしないと
……
」
「それよりマリエル、オマエ今日のアレ何? あの火の玉。魔法ってヤツ?」
普段なら前衛にも出られないヒョロヒョロ男に興味なんて湧かない。けど、あの火の玉は見てて冷や汗が出た。道場で稽古してるだけじゃ出会えない種類の、強さ。
「ああ、はい
……
お察しの通り、私は魔法を用いて戦います。私達ルナリアには魔術の素養を持つ者が多いですから」
「ルナリア
……
ってその、耳?」
確かに、やたら尖った逆三角の耳だなとは思っていた。背の高い低いみたいに、まあそういう体のヤツもいるよな、くらいに。
そういえばユーニアのオッサンもそうだ。マリエルとは親戚とかじゃないのか。
「そうです。セリアンの方々ほど分かりやすくはありませんが。現に、サレン殿はまだ私のことをアースランだと思っていらっしゃるようです」
アースラン
……
ってのはオレたち『普通』の人間、のことだったハズ。耳も長くない、魔法も大して使えない、でも苦手なこともあんまりない。
「我々ルナリアに共通の特徴として、体力及び筋力が著しく低いという弱点があります。まるで魔法への高い適性と引き換えにしたように」
「
……
? 待った。ユーニアのオッサンもルナリアなのか?」
「ええ」
「でもあの人胸板スゴいぞ」
「
……
そうなのですよね。私もルナリアであれほど筋骨逞しい御方を見たのは初めてです。一体どれほどの鍛錬を積まれたのか
……
」
鍛錬、ね。オレも相当やってるんだけど、年季かね。
ズルい、とは言わないけどオレみたいなガキはこういう比べ合いじゃどうしても不利だ。あと五年、あと十年あれば絶対オマエ以上の強者になってやるのにと思ったことは何度もある。肉体も技術も、たった十五年足らずの経験値じゃ得られないモノばっかりだ。
……
てか、歳いくつなんだあのオッサン?
「そう言えば」
何か思い出したようなマリエル。
「あるルナリアが、武の者を目指さんとしてその肉体を限界まで鍛え上げた、という記録を物の本で読んだことがありますが
……
」
「おっ、ソレ気になる。どうなったって?」
「人並み以上の膂力は付いたものの、体力・持久力がそちらに追い付かず
……
またルナリアとしては怪力と言っても、鍛えたアースランには敵わなかったようで、ルナリアに力仕事は向かないようだと悔しげに締められていました」
「
……
なんか、もったいねえな」
「先ほどから、何の話かな?」
横からヌッと割り込んできたこの大男がユーニア。ムキムキのルナリアでオッサンなウチのギルマス。
「うわビックリした、いきなり出てこないでくれよオッサン」
席はマリエルが正面向かいでユーニアがその横。斜めから乗り出してマリエルより顔が近いってのは尋常じゃないタッパのデカさだ。しかもこの筋肉。
「私の身体についてなら、これは若い時分の賜物だな。今はそれほど鍛えてはいないよ」
「ウソっつけ、筋肉ってのは作った後が大変なんだ。オッサン今日も野菜ばっか食ってるだろ、肉食ってねーハズねえんだよ」
「ルナリアが筋力に秀でたとしても持久力の面でアースランやハウンドに劣る。確かにそれは事実だ。しかし、嘆くことばかりではないぞ。例えば私は牛乳が好きなのだが、牛の乳を搾る時の力の入れ具合が丁度」
「どーでもいいんだよその辺は!
……
ひとつだけ答えろ、オレとアンタで殴り合って、どっちが勝つ」
「それは簡単な質問だよ、カルド君。君だ」
「絶対にか?」
「絶対だ。体力、俊敏性、そしてここぞという時の爆発力。いずれを取っても君には及ぶべくもない。腕力の差もあってないようなものだ。いや、立派な筋肉だと言われても、拳を振るう事などここ数年なくてな」
ユーニアのオッサンはずっとにこやかだ。煽ってる風でもない。
「
…………
わかった」
つまんねーの。つまんねえ。
マリエルもユーニアのオッサンもルナリアってので魔法とかが専門なんだと。まだ手の内は見せないが、マリエルの火の玉みたいに、オッサンもそっち方面の後ろに下がった仕事がメインなんだろう。どっちもオレの土俵じゃない。
カササギもそもそも畑違い。サレンは、光るモノはあるけどまだまだ駆け出しだ。
……
こういうの、バランスのいいパーティっていうんだろーな。前衛と後衛がちょうどいい。
魔物相手に鍛えられるのはいいけど、生身の人間とだってヒリつく掛け合い、してえよ。
「どうだった?」
引っ込んだユーニアのオッサンと入れ替わりで、隣席のレアがまた話しかけてくる。
「聞こえてたろ、オレが勝つってさ」
「ふーん。やっぱり強いね、カルドは」
あとはレア、いつもニコニコと笑ってるコイツ。コイツも、オレより弱い。けど
——
「じゃあその“カルドに勝った”ボクが、このギルドで一番強い
……
ってことになるのかな?」
薄目の開いたニヤけ顔が目の前にあった。
「
……
バカ言ってんじゃねぇぞ、テメエ」
「あは、あはははは! もちろん、もちろん冗談だって! ね、怒らないでよ。ボクなんてキミの手にかかったら瞬殺されちゃうんだからさ」
殴ろうと握った拳の前から、ひらひらと逃げていく。
「ボクももっと頑張るからさ、もっとボクのこと信頼してよ。ねえ、カルド。ボクの、大切なひと」
レアが来たのは、アイオリスに着く少し前だった。『出会った』とかじゃ断じてない。『来た』。
アイオリスの隣町の隣町で干し肉の売ってるのを眺めてたら、いきなり声をかけてきた。
「そこのキミ、ボクと一緒にお茶しない?」
って。当然断った。
まず、茶は苦手。次に、金がない。最後に、オマエみたいなクソ怪しいヤツに奢られる筋合いはない。そう言ってやった。
紫の長髪に紫の
……
なんて言うのか知らないが手先足先までやけにピッチリした服。とにかく全身ド紫で、しかも腿や肩の部分だけ開いてる念の入りっぷり。普段から上半身むき出しのオレが言えたことじゃないが、マトモなヤツじゃない(オレは旅装束のローブ的な物を羽織ってたからノーカン。ボロ布だけど)。
男のクセして、女みたいな格好だった。
顔の方も、ほとんど女にしか見えない、いや今まで見たどの女よりも美形で、目が一瞬だけ釘付けにされた。
「あれ、おっかしいな〜
……
? 美人さんのお誘いだよ? いきなりここまで嫌われるなんて初めてだな」
美人なのはまあ認めるが、それでオレがスンナリなびくと思われてるのが気に食わなかった。こういうキラキラした手合いは理解できない。
「アホが、こういう誘い方は人さらいか変質者の手口って相場が決まってんだよ」
「むう
……
人さらいでも変質者でもないのにな。ボクはただ、可愛い男のコと楽しくお茶がしたいだけなのに」
変質者の方だった。いよいよどうにかしないと世界樹までたどり着けねーぞコレ。
「あいにくと、カワイくないんでな。顔自慢はよそでやってくれ。じゃ」
オレはその場からさっさと逃げ出した。これに限る。
「あっ待って、待ってよ!」
後ろは振り向かずに全力疾走。買い物客たちの間を縫って駆け抜ける。こういう時だけは小さい方が得だ。シャクだけど。
多分今、視線が切れた。旅の荷物を詰めた背負い袋が揺れて、何度も背中に当たる。あの変質者ヤローのせいで走らされてるとはいえ、やっぱりこの感覚は好きだ。走る、殴る、叫ぶ。体を動かしたいように動かすだけで見えてくる物がある。
町の外、街道沿いまで出てきて、ようやく大きな息をした。肌にじっとりと湿った布の感触。上は普段着ないけど、この感覚も好きだ。
大回りして最初と逆の方向に走ってきたから、あの紫男も今頃どんどん遠ざかってる、と思いたい。
「名前、教えてーーっ!!」
……
やっぱウソ。ゼンゼン撒けてねーわ。
聞き覚えのありすぎる声だった。
「ボクの名前はレア! キミの名前も教えて!!」
声の方を見ると、汗だくになったヤツがいた。それなりに息も上がってるが、視線だけでもコイツに追っ付かれたってのか? 納得いかない。
「レア
……
だっけ? どーやって追い付いてきたのオマエ」
「名前。キミが教えてくれたら答えてあげてもいいよ」
汗を垂らしながらレアはニンマリと笑顔を向けてくる。ヤなヤツだ。髪が濡れて乱れても変な色気があるのがもっとイヤ。
「
…………
カルド」
「カルドくんか。名前もイイね」
キショいキショいキショい。答え聞いたらサッサと逃げるか殴ろう。
「ボクがキミの所まで辿り着けたのはね、それはひとえに愛の力
……
」
「は?」
「
……
なんて言うと怒られそうだから白状すると、運です。ただのラッキー」
いや、は?
「あの後すぐにカルドくんのこと見失っちゃってね、町中をうろうろしてたんだけど迷っちゃってさ
……
ホラ、初めてのトコだし? それでえいやっと外に出てみたら、なんと道の真ん中に愛しのカルドくんがいるじゃないか!ってこと。いやあ、運命感じちゃうよね」
……
アホらしい。何かあると思ったオレがバカだった。
「それでね、よかったらカルドくんの旅にご一緒させてほしいんだけど」
「
……
は? キモくない発言できないのオマエ?」
「キモいかキモくないかは置いておいて、大事な話なんだよコレ。何故って、ボクはカルド少年に一目惚れしてしまったからです!」
レアはウットリとした顔だった。
ダメだ。殴ろう。気ィ失うまで殴って、それから行こう。
「
……
腹、締めとけ」
「待って待って、ねえ待って肩押さえるのはやめようそれ痛いヤツだよね!? カルドくんにもメリットのある話なんだって! ほらこれ!」
そう言うと、レアは背中に掛けていた何かを両手で持った。鎌だった。麦の刈り取りに使うようなのじゃなくて、生き物を刈るための形、大きさ。
「何? それ使えんの?」
「使えますとも。キミ、武者修行か何かの途中でしょ。一応だけどボクも戦えはする、だから連れてってください!! 弟子でも荷物持ちでも、何でもいいから!」
オレにまで背中が見える勢いでレアが深々と頭を下げた。キモいなあ。
「いらね。第一オレがどこ行くか知らねーだろ。こっから丸一日歩いたとこにある、世界樹に挑もうってんだ。ギリ戦える、レベルじゃ話になんねーの」
ま、オレもどのくらいの強さなら通用するかは知らねーんだけど。ただただコイツと一緒に行きたくなかった。
……
まあ、憂さ晴らしくらいはしておいてもいいか。
「ってワケで、試しをやる」
「試し、って?」
レアは本気で察しがつかないらしかった。やっぱりどつき合い向いてないなコイツ。
「簡単な話。オレに勝てたら来ていい。負けたら帰れ」
「
……
無茶じゃん!?」
無茶だから言ってんの。
「だってオレ他人を鍛えるのとか興味ねーし。オマエなんかにはもっと興味ねー。大サービスだぞ、やるか? それとも」
「やるよ!
……
やらなきゃ、一緒にいられないなら」
「上等」
覚悟の決め方だけはナヨい見た目に似合わず早かった。
でも、これはただの憂さ晴らし。それとコイツを手っ取り早く納得させるための、ちょっと痛いオシオキだ。
「構えろ」
背負い袋とボロ布を投げ捨てて叫んだ。レアがしゃがみこんで腰の布袋を道ばたに置くのが見えた。
オレの武器は素拳、向こうは布で刃を覆って斬れなくした大鎌一丁。こんなでも当たりどころ次第で十分死ねるのが立ち合いの怖さ、そして面白さだ。
街道ド真ん中で向かい合う。まだ、どっちの間合いでもない。レアの緊張した顔付きがハッキリと見えた。
少し、意外だった。
不安げな表情は変わらないのに、大鎌を構えた姿勢には隙らしい隙が見当たらない。重心に沿って刃を低く下げた姿からは、さっきまでのキラキラは感じられなかった。
感じるのは、恐れと闘志。バランスは不安定だけど、いい張り詰め方だ。
摺り足で距離を詰めていく。上目に見るレアの表情が少しずつ険しくなる。大鎌の間合い一歩外で、止まった。
ひと呼吸置いて、地を蹴った。レアが動いた時には、鎌の間合いの内側に入っていた。そのまま右拳を突き出し、左肘を鎌の柄に当てる。これで鎌は振れない。
動きを封じられたレアが大きく後ずさった。追わずに見ていると、呼吸が乱れ始めたのが分かる。胴への右拳の一発。浅くても苦しいのが、剣や鎌と違うところ。
「オマエ、人間相手したことねーだろ」
息を乱しながら、それでもレアは汗の粒を顔に浮かべて不敵に笑った。
「どうかな」
キレイだな、とまた思った。キレイなだけだ。強さとは何の関係もない。
今度はレアから一歩踏み込んできた。大鎌の間合いギリギリでひと薙ぎ、ふた薙ぎ。三回目で間合いがグイと伸びて、思わず後ろに飛んだ。
……
柄の先端を持ってやがる。今までの深い握り方と違って、持ちにくい分だけ間合いを広く保てる。不意打ちの一発だけなら効果は大きいだろう。機転は利くらしい。
勢いのままレアが距離を詰めてくる。鎌の間合いは保ったまま、振り方もコンパクトで隙が少ない。こっちは防戦一方で、リーチの短い拳じゃ割り込むのは難しいだろう。
息を吸った。
何度目かの横薙ぎを避けざま、振り切った直後の鎌の間合いに飛び込んだ。当然、返しの刃が来る。これも意外に速い。
レアの顔が大きく上に動いて、視界の外に消えた。地面が下から近づく。ヒリつきが汗になって伝わってきた。
これだ。オレの、好きな瞬間。
動けるか動けないか。できないかできるか。勝つか負けるか。どっちが、強いか。この一瞬で全部決まる。
秋なのに風が熱いな、と思った。
次に息を吐いた時、レアを殴り倒していた。
自分の速い呼吸と、もうひとつ荒い呼吸の音をただ、聞く。
「
…………
なに、いま、の?」
仰向けに倒れたレアが息も絶え絶えにつぶやいた。さっきの一撃はほぼ完璧に胴に入った。オレは立っている。
「すらいでぃーんぐ。オマエ横振りばっかなんだもん、足元狙わしてもらった」
やっぱりコイツは実戦経験がない。攻めはまあまあでも、受け方がからっきしだ。最初の奇襲、オレの反撃、足元の不注意。後手に回ると脆いトコが出る。
「あとオレが突っ込んだ時に大振りしただろ。反応はよかったけど、避けられた時のこと考えて武器使えよ。隙作らされてるってコト忘れんな」
勝負の話になると、言わなくてもいいことが口から出てくる。もうコイツとは会わないで済むのに。
「
…………
そう、ボクは、まだ」
マジか。
レアが、立ち上がって、来る。
「キミと一緒に、ッ
……
行かなきゃ」
手袋を外して、フラフラで、鎌を構えた。呼吸もキツい体でよくやる。
振りかぶって、袈裟懸けに大振りも大振りの一撃。
「付き合うかよ」
後ろに飛んで、外した。
足が地面に着くよりも早く、レアが鎌を投げ捨てるのが見えた。
「うおおおあああああ!!」
叫びながら、勢いのままに素手で殴りかかってくる。捨て身だ。
「そーいうの、いいから」
顔目がけて飛んでくる拳を、手の平で受けた。そのまま握り込む。
「どうしてもオレに勝ちたいらしいけどさ、そんなヘロヘロパンチじゃ意味ねーの。ホラ、オレの目ん玉の前まで来ても、何もできない」
手の中の拳がさらに握り込まれるのが分かった。そこからぽた、ぽたと何かがこぼれる。血だった。
「拳じゃオレに勝てねーよ」
掴んだ拳の奥に、レアの顔が見える。歯を食いしばって、眉が吊り上がって、キレイさよりも必死さが勝ってる。その顔から目が離せないのも、面のいいヤツの魅せる何かのせいなんだろうか。
その顔から、歯が見えなくなって、口の端が上がるのが見えた。笑ってる。
視界が、少しぼやけた。
気が付くと、空を見ていた。
「動か、ないで」
レアの声。状況が分からない。背にも頭にも尻にも、固い何かが当たっている。首を回して横を向くと、固いのは街道に敷かれた石だと分かった。
…………
地面?
「動かないで」
オレは地に、倒れている。
なんで。
オレはレアと勝負をしてて、それでレアを殴り飛ばして、それで
……
レアは?
混乱しながら、起き上がろうとした。視界の端に、折り目の付いた白い布が見えていた。
「動くな」
それでようやく声の方を見て、一気に目が覚めた。
レアが鎌を持って、オレのことを見下ろしている。白い布はその鎌の先から出ていて、しまっていたハズの刃が剥き出しにされていた。刃の先端は、腹の上。
コイツはいつでも、オレを殺せる。
「
……
どうやった?」
「冷静なんだね、意外と」
つぶやくような声のレアは、無表情だった。今までのどの調子とも違う。
「どーも。オレ勝ってたよな? なんでこうなってる?」
「その前に、だよ。降参してくれないかな? イヤとは言ってほしくない」
「降参したらどうなる? 何がしたいんだよオマエ」
「カルド、やめにしよう。質問を被せるばっかりじゃ進まないよ。キミが答えてくれたら、ボクも答えてあげる」
多分、殺す気はない。でも、殺せる目だ。
「じゃ降参。どう見ても負けてるし」
「本当に?」
「ホントに。オマエが言えっつったろ」
「
…………
そう。よかった」
レアが鎌をどけた。ようやく起き上がれる。
立ち上がって背中についた汚れを払っていると、レアは逆に鎌にすがってしゃがみ込んでいた。
「よかった、よかったぁ
……
」
うつむきながらブツブツつぶやいてるのは最初に見た時のレアっぽい、か
……
? 声も表情もまとも(?)に戻ったらしい。
「じゃあ教えろ、なんでオレは負けてる? あー、やっと腹立ってきた」
「そう言われるとちょっと言いにくいけど、言うよ。キミはね、眠ってたんだ」
「
……
続けろ」
「うん。でその方法についてだけど、簡単に言うと、毒を使った。ボクは“体から毒を出せる”。厳密には瘴気っていうんだけど」
「
……
はぁ」
「傷がね、トリガーになってる。血をその瘴気に変えて傷口から流し込むんだけど、今回は口と、鼻から」
「ああ、そういうコトかよ
……
」
最後のパンチ。アレだ。顔の前で止めたつもりで、毒を吸わされた。
「つまり何か? オレは目の前の相手が隠し玉の準備してるとも知らずに、勝ったつもりになって、ご高説垂れて、格下だって見下した男にどうしようもなく負けた、ってのか」
自分の奥歯がすり減る音が聞こえてきそうだった。
「いや、ボクは一発も入れられなかったわけだし、ほとんどカルドが勝ってたようなもの
……
」
「関係ねえ。オマエはオマエにできる範囲で最大限戦って勝った。オレは相手をナメて力を出し切らずに負けた。大バカが一人いるだけだ」
説明しながら情けなくなってくる。レアは明らかに素人仕草だったが、もし強敵だと感じたらオレだって奇策、不意打ち、いろいろ考える。格上ならなおさらだ。
じゃあなんで、相手が同じことをすると考えなかった?
「
…………
行くぞ」
「へ?」
「勝負で決めるっつったろ。でオマエが勝った。じゃ、来いよ」
「
……
いいの?」
「オマエはオレが約束反故にする男だと思ってんのか
……
? やっぱ置いてくわ」
「待って待って! わ〜〜ありがとう〜〜〜カルド〜〜!!」
涙を流しながらベタベタと抱きついてくるレアは相変わらずウザさ百倍だった。でも。
「
……
オレも少し気が変わった。ムカついてんだよオレ。オレ自身にも、オマエにも」
「
……
え?」
「オレは負けた。それはオレの問題だ。それはそれとしてレア! オマエあんな便利なモン持ってんのになんであんな弱えーんだよオマエ! あんな手札がありゃ不意打ちなんか使わずに勝てたろテメー!! オレを負かしたのはいいとしてもオマエが負けそうになってんじゃねーよ!」
「え、だってボク格闘家とかじゃないしっ」
「その程度の覚悟で一緒に来たいとか言ってんじゃねー! オマエはな!」
そこで大きく息継ぎをした。大声を張るために。
「オマエは、オレより強くなれ!! 伸びしろだけならオレより上なんだ、一人前になればその辺の相手には負けなくなる。オレの、弟子になれ」
……
あれ。なんだか思ってたのと違うことを言った気がする。
オレを負かした相手だ、レアから学べるものは多少あると思う。でもオレより強くなるってのは、真面目に考えてみると想像つかない。互いに磨き合える好敵手が欲しいとは思ってるが、コイツがソレってのは違うだろ。そもそもオレが誰かを鍛えるなんて、う〜ん
……
「よろしくお願いします、師匠」
受け入れは、弟子の方が早かった。
「戦いは好きじゃないし、得意になるとも思えないけど、カルドのそばにいるためなら、頑張ります。ボクを、強くしてください」
……
ま、いいか。弱くさえなければ。
「オシじゃあアイオリスまで駆け足! 遅れんなよ!」
「りょ、了解! 師匠っ」
オレも弱さを捨てて強くなる。
この日、オレに新しい目標ができた。
「今日もよろしくお願いします! カルド師匠!!」
レアが元気いっぱいにうやうやしく
……
アレ、にぎにぎ
……
?ぎょうぎょうしくだっけ、要するにバカ丁寧に呼びかけてくる。
「あ? まだ言ってんのソレ」
「『まだ』って、まだ一週間も経ってないよ師匠就任から。初めて呼んだときにはけっこー嬉しそうだったのにな〜、そっかぁ昨日ボクの方が強いって言ったのが効いちゃったかな〜師匠〜〜?」
「
…………
オマエ、ホント、キライ」
「あははは、カタコトだ」
この性格にだけはまだ馴染めない。元々鍛えて鍛えられての関係でしかないとはいえ、ちょっと心が逆立つ。これも修行
……
か?
「つーか話してる場合じゃねぇ、今日も朝から迷宮潜るんだろ」
迷宮入り口まではイヤでもレアと一緒だ。オッサンいわく、コストと利便性がうんたらで宿屋は二人ひと部屋が丁度いいらしい。で、オレは見事相方にコイツを食らった。ま、だろうなって感じだ。
ついでに言うと組ごとに宿もバラバラなので(部屋の相性とか条件とかあるんだそうだ、カササギの犬とか)、現地集合が基本方針の迷宮行きがけはありがたくないことにレアと二人っきりだ。多分この先ずっと。
「ボクは救われるよ、とっても。どんな形であれ、愛しい人の側にいられるし、手を差し伸べてもらえるから」
だから道中、こういう妄言をじっくり聞かされることになる。
「それこそまだ言ってんのかよ。男が好きで、しかもオレみたいなのが好きとか、そこが一番気持ち悪いんだよオマエ」
「キミは毎回毎回そう言うけど、恋とか一目惚れってものをご存知ないんだカルドは! だからそんなことが言えちゃうんだ」
「ご存知してるわオマエよりはよ」
「
……
それに、キミは好かれる人だよ。見た目や言動どうこうじゃない、言葉遣いは乱暴でも、心根が真っ直ぐな人だ。だから、ボクみたいな人間でも受け入れてくれちゃうんだ」
はいはい、イケメン様に言われてもイヤミにしか聞こえねーよ。そろそろ聞く価値がないことが分かってきた。
てかコレを探索のたびに浴びなきゃならんの? ちょっとどころじゃなくグッタリしそう。
「お前ら遅えぞー」
迷宮入り口にはもうギルドメンバーが集まっていた。
剣士のサレン、狩人のカササギ、魔法使いのマリエル
……
アレ?
「ギルマスは来ない、らしい」
「昨日の要領であれば次の階層の探索も問題なくこなせるだろう、私は所用があって今日は不参加だ、との言伝です」
カササギとマリエルは司令塔が来ないと知ってものんきそうだった。コイツら後衛だもんな、お気楽だ。
「まあまあ、ボクたち五人が揃えば大丈夫でしょ。昨日もユーニアさんは戦ってなかったわけだし。ね、カルド?」
レアがのうのうと笑顔を向けてくる。コイツにだけは、言われたくない。血管切れそう。
「オマエら
……
ちょっと聞け。昨日の振り返りも兼ねて、作戦会議しようぜ」
こめかみのピクつきを抑えて冷静に発言したつもりだったが、今にも出発しそうだったサレンは露骨にうんざりって感じの目をしてる。
「今からかぁ? 別にそこまで詰めな」
「黙って聞け!!」
クソ弟子に続いてクソ剣士までお花畑なザマを見せられて、頭より先にオレの喉が我慢の限界だった。
「まずサレン! オマエの剣はアテにしてないから回避に専念しろクソ剣士」
「おい俺年上だぞ!!」
「モモンガ二体程度で振れなくなる剣ならいらねーんだよ。それより、オマエは多分目がいい。ギリギリの体力でも少ない動きでいなせてたし、アイツらの攻撃は一発も食らわなかったワケだからな。そこを活かせれば剣も上達するだろうが、今はひとつに特化しとけ。次! マリエル!」
「は
……
はい!」
「
……
は魔法だから、特にオレから言えることねーわ。味方にだけは当てないように、あと不意打ち警戒で常に目は光らせとけ。カササギも特に注文ねーから、最後、レア! テメーには言いたいことが山ほどある!」
「お、お手柔らかに頼むよ師匠
……
」
奇襲の初撃で気絶したこと、仲間の負担を増やしたこと、復帰しても敵を一撃で仕留められなかったこと、その後また気絶したこと
……
他にもチラホラ、三倍増しの説教タイム。
「そもそも基礎の身体能力が低いんだよテメーは。いいモン持ってんのに活かせる場面でポックリ倒れてんだもんな」
「面目次第も
……
ございません
……
」
「他人がどう動くかなんて関係ないだろう。自分が上手く動けばいいだけだ」
「甘めーぞカササギ! コイツらが動けねーとオレとオマエにツケが回ってくんだよ。オマエはともかくオレは動き回る分消耗激しいかんな、奥まで潜るならムダはなくしとかなきゃな。オレがやられるコトもあるわけだし。結論! レア、テメーはヒトの三倍注意しろ! 足りないフィジカルは思考で補え!」
「
…………
わかったよ、カルド」
「ならよし、作戦会議終了! 行くぞ」
それでようやく、パーティが迷宮へ進み始める。レアが、オレのすぐ脇についた。いつもそうだ。横とも後ろとも言えない、半歩外した微妙な距離。見えないのに見られてるコトだけはよく分かる、イヤな位置だった。
「何」
「いやさ、カルドはすごいなぁって」
「何が」
「あれだけ乱暴なこと言ったのに、みんなそこまでキミのこと嫌ってる感じがしない」
「ほとんどオマエ向けだからな」
「それもあるけどね。ちゃんとボクらのことよく見てて、できないこと、向いてることを教えてくれる、先生だ」
「そんなんじゃねーよ。やるコトちゃんとやってねーヤツに負けたくないだけだ」
「そっかぁ
……
エラいね」
振り向いて、レアの膝を思い切り蹴っ飛ばした。
「ぐえッ
…………
そんなとこも、愛してるよカルドーー!! でも逃げる!」
「バカがよ
……
」
隣に誰もいないまま、歩く。今はこれでいい。
オレは、オマエが大ッキライだよ。レア。
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