ビジュ完璧マックスくんと歌とダンスが完璧カートくんのふたりはアイドルをやってたんだけどカートくんの知らない間にマックスくんがアイドルを引退してサイボーグ手術を受けてフルフェイスサイボーグになってしまったのでカートくんはひとりでアイドルを続けることになってしまったのであったおわり。
二人組男性アイドルユニット「FASTFOODS」のカートとマックスは、正確な歌とダンスのカート、それから絶対的ルックスとトークのマックスで、銀河系でもそこそこの人気を誇る有名アイドルだった。
特にマックスはその端麗な容姿で、マックス推しのファンの心に火を点け、漏れなく湿度の高い強火担当者にしていった。湿っているのか燃えているのかわからないくらい、クセつよ厄介オタクと化すのだ。加えて、同担拒否ではないと謳いつつ、マックスの顔だけに釣られた新規には厳しく、マックスの容姿が良いのは宇宙の理であり当然のことなので、それ以上の魅力が語れなければファン失格の烙印を容赦なく押し付けてくる。
対してカートのファンは大人しく、民度が高いと言われる。ガチ恋がいないわけではないが、そこはお互い、なんとか上手いことやっているらしい。
両者は対立して諍うことはないが、それは互いに不干渉とも言え、なんなら地雷やいないものとして扱っているのではないかと思うほどだ。平和を求める箱推し担などは、カート側の席に甘んじることが多い。
とまあファンには色々あるが、当の本人達はマイペースで互いに仲良くやっていた。カートは体を動かすことにやり甲斐を感じていたし、マックスは自分の外見に自信があった。そういった相手の役割を尊重していたし、自分の役割にも満足していた。
筈だった。少なくとも、カートはそう思っていた。
「引退って、俺あの時初めて知ったぞ!?」
カートはツアーの最終日、最後のステージが終わって、マックスに詰め寄っていた。
「うん。カートには秘密にしてたからね。」
なんでだよ。今まで俺たち、ずっとふたりで上手くやってたじゃんか。
マックスがカートに黙っていたのは、普段の悪戯感覚のようで、今まで通りにこりと人好きのする愛らしい笑みを受けべていた。しかしカートは、それにいつもなら吊られて返す笑顔を、向けることが出来なかった。
動揺している。さっきのステージ上で喚き立てなかったことを褒めてほしいくらい。
「カート。」
カートを呼ぶマックスは相変わらず花が綻ぶように笑っている。
「そんなに寂しそうな顔しないで。俺がアイドル辞めても、カートがアイドル辞めるわけじゃないし、俺がカートから離れるわけでもないんだから。」
「でも、お前がアイドル辞めるなら、俺だって。」
マックスは緩く首を横に振って、金髪を煌めかせた。マックスの輝きはいつもカートを奮い立たせたが、その光に拒絶され、今はとてもそんな気になれなかった。
「なんで。」
「それが俺たちの役割だから。」
カートが納得していないのに、マックスは始終笑顔だった。
「安心して。カートのアイドル活動のスケジュールは、これからも俺がやったげる。」
そしてそれが、カートがマックスの「顔」を見た最後になった。
マックスは引退宣言をしてから、休みを取ると言って、それが一時的であることを強調してから、カートの前から姿を消した。当然カートは不安を覚えたが、ユニットを解散して単独となったカートのアイドルとしてのスケジュールは、マックスが管理と伝達を行っていたため、マックスと連絡の取れていたカートは一先ず安堵を覚えていた。
しかし休暇を終えてカートのもとへ戻って来たマックスは、フルフェイスの白いサイボーグと化していた。
「は?」
機械化しているとは言え、目の前の相手はマックスで間違いなかった。カートがマックスを間違えるわけない。しかし驚かないわけがないのだ。
「やっほー、カートくん。お休みありがとね。」
カートがマックスのスケジュール管理で未だアイドルを続けている間、連絡は電子メールだけでなく音声でも行っていたが、それがノイズ混じりでもなんの疑問も抱かなかった。だって、機械越しの声だと思ったから。
それが目の前にいるのにノイズ混じりで機械越しのような、そうだ、マックスはいるのだ、この目の前の機械越しに。
「あれ?カート前にサイボーグに偏見ないって言ってたよね?」
「言った、けど。」
「なら俺が機械越しに喋ってるとかじゃなくて、ここにいるって分かるよね?」
分かるよね、とは言われたが、分かってくれるよね、と言う意味に他ならない。だからカートは頷いた。
「分かるよ。お前はマックスだ。」
マックスがどんな姿になろうとマックスだ。それは構わない、マックスがサイボーグであることに、カートはなんら文句はない。しかし、どうしてサイボーグになったのかは、分からなかった。
「どうしてサイボーグになりたかったんだ?」
「俺の役割は終わったと思ったから。」
役割。マックスがカートと組んでアイドルをしていた時の役割は、容姿でファンを惹きつけることだ。
「終わった?」
「俺の外見がいくら良くても、それって今だけ。いずれはお爺ちゃんになっちゃうからね。そうなる前に、今の、今だけの姿で、印象に残りたかったんだ。例えそれが忘れられるとしても、その忘れられるさいごまで、綺麗な俺が良かったの。」
カートの役割は、与えられた歌と踊りを、ただひたすらに正確にこなすことが役割だった。
「なら俺は。」
「カートは逆に、何歳になってもかっこよく踊れそう。」
マックスは機械音と表情のないモニターでそう言ったが、カートにはマックスが笑っているのが分かった。
カートがマックスと一緒の引退が許されなかった理由がそれだった。
「でもマックス、俺から離れていかないんだろ?」
「勿論。アイドルカートくんのスケジュールは任せて。」
それに。マックスがどこか誇らしげに言う。
「俺はこれからもずーっと、カートのファンだよ。」
マックスの殊更機嫌の良い声が、機械音に乗った。
「分かった。でもマックス、俺だけアイドル続けるなら、俺もサイボーグになる。」
マックスは驚いたようだった。
「マックスがサイボーグなら、一緒が良い。」
「……俺が若さを止めるためにサイボーグになったから、あなたは老いを止めるためにサイボーグになってくれるの?」
マックスの言葉に、カートはしっかりと頷く。
「マックスとおんなじサイボーグになる。」
カートの意思は固かった。
しかしマックスが苦言を呈す。
「いや同じ型は嫌かな。自分と同じ姿がそばにいるのは絶対無理。」
マックスにまたも拒絶されたカートはショックを受けた。しかしサイボーグ化自体は許されたようで、カスタマイズは基本マックスのチョイスとなった。マックスがカタログから選び終わった辺りでカートは復活し、腕や運動部分に関してだけセッティングの注文をした。
そうして、元ユニットで活動していたアイドルのカートは、今ではサイボーグアイドルとなった。
マックスが手回ししているからか、カートはサイボーグになってからも、カートの思惑から外れて案外アイドルを続けられていた。あるいは、マックスが選んだサイボーグフレームが、顔の大部分がアニマトロニクスであることが原因かもしれなかった。
「カートくんおつかれさまー!相変わらずさっきのステージも良かったよー!」
マックスは今ではアイドルマネージャーのような立ち位置だ。周囲の人間からすれば、カートがかつて組んでいたアイドルユニットの相方の姿は、見る影もない。
マックスが引退して、マックスの強火ファン達もカートのもとから去っていった。元々マックス推しとはいえ、ステージ上で立ち位置を入れ替えるタイミングでは、きちんとカートのことも見ていてくれたファンたちではあった。だが、あのマックスへの執着からすると、マックスが隣にいないカートでは、見ているだけでつらくなってしまうのかもしれなかった。箱推しだったファンたちは、去った者もいれば、残ったカートを単推しする形で止まった者もいる。
マックスのファンがついてこないからか、今ではカートのファン層も、だいぶ様変わりしたかもしれない。ただ元からカートの担当だったファンたちは、問題なくファンを続けているかと思いきや、どことなく寂しそうだ。カートがそうだからかもしれない。そのせいで哀愁に惹かれた新たなファンが集ったとも言えるが。
以前からのカートのファンを自称するマックスは、マックスがアイドルを辞めても、ずっとカートのファンでいてくれる。アイドルのマックスがいるかいないか、一番影響を受けていないのは、ひょっとしたらマックス本人なのかもしれない。
俺だってマックスのファンだった。カートは思う。しかしそんな相手は、アイドルを辞めても自分のそばにいることは辞めないという。
マックスがアイドルを辞めて、一番影響を受けたファンは、間違いなく自分だとカートは断言出来る。
「おう。マックス、いつも応援ありがとな。」
何せカートには自覚があった。マックスには厄介ファンもガチ恋も多かったが、一番マックスに執着しているのは、自分だ。
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