kanaco
2026-01-13 22:21:16
2556文字
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【四信】寒い日の朝は

《四信》成立済の四信の甘めの朝。信一くんのベッドから抜け出そうチャレンジ。

信一は心地よい気分のまま、そっと目を開いた。

窓の向こう、それほど遠くない場所から鳥の囀りが小さく聞こえてくる。電気が消えているはずの部屋の明るさからも、すでに夜が明けていることが分かった。ぼんやりとした意識の中、まず目に映ったのはよく知った景色恋人の部屋だった。寝返りなどを繰り返すうち、外向きで横寝の姿勢になっていたようだ。

背中で四仔が寝ている気配がする。

信一と四仔の寝起きの良さは大して差がなく、どちらが先に起きているかは日によって違う。昨晩、帰ってこない家主を待つ信一が先に寝入ってしまった時刻では、四仔はまだ部屋に戻らなかった。急患のためか、次の日の準備か。彼がベッドに入った時間は遅かったのかもしれない。信一は記憶がないので、起こさないよう気を遣ってくれたのだろうと思った。

信一は時間を確認するために掛け布団の上から腕だけを一本、ニョキリと出した。布団から抜いた瞬間に真冬のヒンヤリとした空気が肌を刺激する。暖かい布団の中とは雲泥の差。冷たさに数秒ためらい、それでも引き続き体は起こさずに横着して、手のひらだけを頭上でウロウロとさせる。目当ての腕時計を捜索すれば、5回の空振りでようやく手の中におさまった。

引き寄せて小ぶりな文字盤を見る。短い針は「7」を示していた。少し早いが起きるには悪くない時間だ。

(今日の予定はっと)

まだ上手く働かない脳のままベッドから這い出そうとして、信一はハタリと気がついた。

体が全く動かないのだ。

あれ?と考え直せば、布団の中が暖かいと感じていた理由が、布の素材や保温性のためだけではないことを悟る。

背中で眠っている四仔が、まるで信一を抱き枕であるかのように、両腕に抱きこんで眠っていたのである。心地よさは恋人の肌と体温によるものだった。恐るおそる片手を布団の中に戻して自分の腹の方を探ってみる。ご丁寧にも両腰から回された腕は信一のヘソの前で手のひらを組み、逃さないとでも言うように囲っていた。

(シートベルトじゃないんだから
っていうか腕が痺れていないか、大丈夫か?

すぐにそう思いついてやっぱり起きようと試みるが、どう動けば良いか分かりかね信一は困ってしまった。

四仔がまだ眠っているのは寝息から分かる。起こしたくはないので、起こさずにどう抜け出すかが問題だ。下や上へとすり抜けるのは現実的でないし、でも無理やり腕を解いたら起きてしまうだろうし

そうして辿りついた回答は(小さな刺激で四仔を動かそう)というものだった。信一はほんの少し自分側の布団を持ち上げて、暖かい空気を外に逃がすと共に、冷たい空気を少し入れて手を引っ込めさせようと図ったのだ。

………

パタン。

自分が向いている方向の掛け布団を少し上げてみる。

(さむっ)

面からしてダイレクトに冷たさを浴びるのは自分。正直なところ、俺だってこの温もりに浸っていたいのにと切ない気持ちになった時、四仔の体がもぞもぞと動いた。

ところが信一が(うまくいったかも!)と喜んだのは束の間であった。大きく動いたのは四仔の腕ではなく体の方。寒さが堪えてより暖をとろうとしたのか、信一の体にもっとひっつくようにしてピタリと密着し、ますます腕の中へと抱え込んでしまった。さらに信一の誤算となってしまったのは、辛うじて離れていた四仔の顔も急接近し、今やほぼ“うなじ”に口が触れていたことである。

「ひっ」

四仔の健やかかつ規則正しい寝息がフンワリと首に吹きかかった時、信一は感触にゾクリとして思わず悲鳴を上げそうになった。慌てて両手で口を塞いだため叫びきることはなかったが、引き続く恋人の息に顔を耳まで真っ赤にし、涙目にさえなっていた。耳や首、うなじなど、顔の周りの“こそばゆさ”に信一は弱いのだ。

(悪化してるっ)

抱きしめる力はより強く、体の触れ合いの温かさも心地よさも、ついでに恋人に包まれている嬉しさも想定外の倍増である。

(この状況で、こそばいのヤバイっ)

「ひゃっ」

せ、せいじゃい~っ!

「ふっ」

いや、ちょっと。

「んっ」

待て、これは。

「えい!」

信一は思い切って、グルンと無理やりに態勢を変えた。つまり外側に向けていた体を内側へと反転させたのである。バックハグではなく、フロントハグの状態になった信一は、ジトっとした目を正面にやってきた四仔に向けた。不機嫌そうに見えるものの、潤んだ瞳と赤く染まった顔では効力がないだろうと思いつつ、ツンと口を尖らせる。

「お前、さては起きてるな?」

その声に、四仔がパチリと目を開けた。

「わるい、面白くて」

そう言って、恋人は少しだけ意地が悪そうにニヤリと笑みを浮かべた。ずいぶんと目が覚めていそうな顔つきだ。「やっぱり!おかしいと思ってたんだよ、わざとらし過ぎてさぁ」と文句を連ねようとも思ったが、揶揄われていたことにしばらく気がつかなかったことが癪で言葉を飲み込む。それでも信一はますますムクれたし、ますます口を尖らせた。せめてもと、一番気にかかることだけを非難する。

「せめて“可愛くて”って言えよ」

四仔がハハ、とますます愉快そうに笑った。クールで騒がしいことを好まないイメージを持たれがちであるが、親しくなると思いの外に“ノリ”は悪くない医者は、それであっても珍しい“イタズラが成功した子供”のような顔をしてもう一度「そうだな、悪かった」と言った。

「可愛かったから、もう少し揶揄いたかった」
「ぐぅっ」

そんな風に素直に言われてしまえばこれ以上怒ることはできなくて、そのうえ額に甘くキスを落としてくるものだから、抗議の声も萎んでしまうというものだ。

「四仔、起きるの?」
「すっかり覚めた」
「俺、朝からご機嫌ナナメなんだけど?」
「機嫌が直るには?」
「この後のハチミツバタートーストで手を打とう」
朝から血糖値がハイテンションだな」

ボヤキながら四仔が体を起こす。

トーストの前にサラダを2倍食わせねばと四仔が不穏な言葉をブツブツ呟いているのは聞かなかったことにして、信一はやっとベッドから這い出すことに成功したのだった。