玲那
2026-01-13 22:18:17
4384文字
Public 創作子
 

👾✂️💕 事実は漫画より

創作子・湊玲那🚹とよその子・須藤透🚺の話。
湊が大学生。モブ視点。

本当にこんな漫画みたいなカップルがいるだなんて世界って本当に広い、と目の前にいる湊とその彼女を見て俺はしみじみ思った。
湊とは大学に入ってからの付き合いだ。自分で漫画も描くタイプのオタクな湊は見た目はイケメンでモテただろうに、思考や発言がオタクで実際はそうでもなかったのかもなと思わせるようなやつだった。友達としては面白いからいいけど。
今日は映画鑑賞会サークルの飲み会に俺も湊も来ていた。研究会と名乗らないのは、それぞれがただ観たい映画を観て感想を言ったり言わなかったりするだけのゆるいサークルだからだ。ただ、ジャンルは全く問わないので邦画も洋画もアニメも特撮も何でもありなので、意外にサークルの人数は多い。観たいものがあるときだけ来るスタイルで気楽だからというのも要因のひとつだろう。
なので正直、誰がメンバーなのか把握しきれていない。そのためインドアなサークルのわりに頻繁に飲み会が開かれる。もちろん、これも自由参加だし、サークルに所属しているかどうかも不問。そのせいかうちのサークルの飲み会を出会い目的で勝手に参加するやつもいることだけが、このサークルの微妙な点だった。
そのせいもあって俺と湊も普段はそんなに飲み会には参加しないのだが、今日の飲み会の店は飯が美味いところだったのでたまには行くかという流れになった。
「え、マジで来るの?いや、まぁ大丈夫だけど……
店に行く前に喫煙所で一服した後、少し離れた場所で待っている湊の元へ向かうと誰かと通話している声が聞こえてきた。
「わかった。あのさ、無理して飲んだりすんなよ?飲み過ぎるようなら途中で帰るから」
電話を切った後、やれやれといった表情の湊に声をかけた。
「飲み会、他にも誰が来るのか?」
「あー……うん」
「誰?俺の知ってるやつ?」
「会ったことはない」
「他の学部のやつとか?」
「彼女」
「誰の」
「俺の」
「え、妄想じゃなくて?」
「妄想だったら電話かかってくるかよ」
「一人芝居とか……
「お前、俺のこと何だと思ってんの?」
湊には高校時代からの彼女がいることは知っている。でも、その彼女というのが同じ高校の一個上の先輩で褐色肌でスタイルの良い美人だと言う。しかも先輩のほうからアプローチをかけてきたとか。オタクに優しい黒ギャルなんて漫画でしか見たことがない。だから俺を含めた友人たちは『オタクの妄想乙』と本気にしていなかった。
しかし、数分後に来たのだ。肉感的で、いわゆる出るとこ出てるタイプな背の高い褐色美女が。目の前で繰り広げられる会話と、二人の空気感と距離感が恋人関係であることを強制的に俺に認識させた。
しかし、どうやら現実と受け入れるにはかなり時間がかかったらしく、気がついたときには既に店の中に入っており、俺は隣同士で並ぶ二人の向かいの席に座っていた。簡単な自己紹介はどうやらしたらしい。彼女の名前が須藤さんだということは分かった。それ以外は正直覚えていない。
しかし、なぜ彼女は飲み会に来たのだろう。まだ会った数分だが、湊の浮気を心配して……というタイプでも無さそうに見える。男っぽい口調が故にそう感じるだけで実際はかなり束縛したがりなのか、それとも単純に常に湊と一緒にいたいだけなのか。
須藤さんは注文用のタブレットに手を伸ばしながら隣の湊の顔を覗き込む。
「湊、飲み物は?」
「ビール」
苦手なのに何でだよと須藤さんは怪訝そうな顔をするがこれには事情がある。うちのサークルでは飲み物はまず瓶ビールを複数注文するので最初の一杯はみんなビールと決まっている。とりあえず先に乾杯をして、その後好きなものを各自注文する。飲み物を揃うまで待つには人数が多過ぎるからだ。
だから、俺も湊も須藤さんも最初の一杯はビール。湊はあまり酒が得意ではないので注ぐ量は少なめにしておいてやった。そのため乾杯の後、あっという間にグラスは空になる。俺は酒は普通だけどビールはそんなに好きじゃないので、別のものを頼もうと注文用のタブレットを手にして湊に声をかけた。
「俺、別のやつ頼むけど湊は飲み物どうする?」
「そうだなぁ……
「お、二人とももう飲み切ったのか?ビールまだあるぞ」
おそらく先輩らしき人が空になった俺らのグラスを見て、返事も待たずにビール瓶を傾ける。飲み慣れているのだろう、注ぎ方が上手くて泡のバランスがちょうどいい。それを見て湊が一瞬『しまった』という顔をしたのも束の間、隣にいた須藤さんがごく自然な手つきで湊のグラスを奪って飲み出した。ごくごくと喉を鳴らしながら美味しそうに飲むその様は、まるでビールのCMを見ているようだった。良い飲みっぷりだと場が盛り上がり、再び注がれるビール。
「ちょ……先輩、俺の分まで飲まなくていいって」
「だって苦手だろ」
「少しくらいなら大丈夫だし、人のこと言えんのかよ。ほら、ノンアル頼んだから。そのグラス寄越せって」
「やだ」
「じゃあ、せめて何か食えよ。空きっ腹にアルコールは良くないから」
そんなやりとりをしている目の前のカップルを見て、なるほど、彼女の目的はこれだったのかと心の中で深く頷く。確かに前にサークルの飲み会でやたらと飲まされてひどい状態になった湊を送り届けた記憶がある。あのときのことを彼女も知っているのだろう。それにしても、黒ギャルお姉さんが酒に弱いオタク男子を庇って代わりに酒を飲むなんて漫画みたいなことあるんだな……と思った。
でもまぁ湊も見た目はイケメンだし、こうやって一緒にいるのを見ると意外ではあるけど美男美女と言えなくもない。あと何か二人とも楽しそうだし。……羨ましいな、おい。なんてことを思いながら俺はから揚げに箸を伸ばした。
それからも湊はノンアルコールメインでたまに酒を飲むも、気がつくと須藤さんがノンアルコールと差し替えたり、湊のグラスにビールが注がれると奪って飲んで……を繰り返していた。これを健気、といっていいのか俺が悩んでいると、須藤さんが席を立った。
すると、そのタイミングを狙っていたかのように女子がすかさず湊の隣に来る。
「隣、いい?」
「返事する前に座ってるじゃん」
湊の返しに楽し気に笑う彼女には見覚えがなかった。多分、サークルの子ではないな。俺もいるのに身体が完全に湊のほうを向いていて、湊しか眼中にない感じやぐいぐい距離を詰める様子から見て、いわゆる出会い目的の子なんだろうと思った。
「ねぇ、さっきまでここに座ってた人って知り合い?」
「彼女だけど」
「付き合ってどれくらい?」
「高校のときからだから……
湊が指折り数える様子を見て、さっきまでのイチャつき具合を考えるとそんなに長い付き合いには見えなくて少し驚いた。
「え、もしかして初彼女?」
「そうだけど…….」
「へぇ〜、そうなんだぁ……てことは、初体験も彼女?」
湊は不躾な質問にあからさまに嫌そうな顔をして黙秘を貫くが、どうやら肯定と捉えたらしい彼女は何が楽しいのかキャッキャと笑っている。
……なぁ、あんた、さっきから何なの。初対面だろ」
「ひどーい、同じ学部なのに。私は玲那くんのこと知ってるよ。前からかっこいいなって思ってたんだ」
腕が触れそうな距離から湊がさり気なく身体を離そうとした。けど、彼女はお構いなしにしなだれかかるように湊の肩に手を置いて耳元にやたらと艶めいたその唇を寄せた。
……彼女さんしか女を知らないなんてもったいないと思わない?私、湊くんだったらそういう関係、全然アリだよ」
そう言いながら彼女は湊のアシンメトリーに長い髪に触れようと手を伸ばしたが、触れる前に振り払われた。湊がぐいと彼女の肩を押して引き剥がすように身体を押し除ける。
「彼女だけで全然いいし。てか勝手に触んな。あと好感度足りないくせに下の名前で呼ぶな」
「えーいいじゃん。そんなこと言ってるけど、興味はあるでしょ?」
「うるさい。モブを抱いた経験値なんかいるか」
「え、ひど……
「は?ちゃんと断ってんのに何がひどいんだよ」
ふと視界の端に須藤さんが戻ってきているのが見えた。別の席の人に声をかけられている。湊は気づいていない。
「俺は好きな人としか、あの人としかしたくないだけ。レベル1のままで全然いい。……あんたもそれくらい好きな人とだけにしたほうがいいよ。彼女持ちになんて声かけてないでさ」
「あーもううるさい。説教も惚気も一秒も聞きたくない。バイバイ」
そう捨て台詞を吐いて彼女は「イメージと違う……」とか何とかぶつぶつ呟いて他の席へと移っていった。俺はというと、漫画みたいな展開を目の前で経験したため、楽しくて仕方なくて肩を震わせていた。
「湊、お前結構恥ずかしいこと言うんだな」
「うるさい。ちょっと……酔ってる……
だろうなと思いつつ酒を飲んでいると、須藤さんは先ほど別の席で声をかけてきた人と一緒に湊の隣に戻ってきた。
その人はどうやら湊の酒を奪う須藤さんを見ていたらしく、その飲みっぷりを讃えては「また見せてよ」とグラスを持たせてビールを注いでいる。須藤さんはノリ良くそれを飲み干そうとするが蓋をされた。湊の手だ。
「おい、何して……
「ダメ」
「え?」
須藤さんが戸惑っている隙に湊がグラスを奪って、さっきの須藤さんみたいにごくごくと飲み干した。……ってしたかったんだろうけど、途中で断念して「やっぱ一気は無理……」と残りを俺に渡してきた。
そして湊は自分のグラスを先輩の手に持たせる。
……先輩が飲むのは俺のだけ。他の男のはダメ」
酔いなのか、照れなのか、赤い顔で言った湊の言葉を聞いた須藤さんは『はいはい』と言ってグラスに口をつけた。その顔はやたらと嬉しそうだった。まるでいつもしているように自然な雰囲気で湊の肩に自分の肩を寄せている。さっきと違って湊はそこに距離を置かなかった。むしろ、須藤さんの後ろに手を付いて明らかに自分のパーソナルスペースに収めようとしている。目の前でいちゃつくな、おい。
先ほど目の前で繰り広げられた湊にしては大胆な行動は確かに酒に酔ってるせいだろうけど、俺は知っている。須藤さんに渡した飲み物がウーロンハイとごまかすために頼んでおいたウーロン茶であることを。そんな小細工ができる程度には酔っていない湊が言った言葉や須藤さんの表情に俺は、今日何度目かの『漫画かよ』という呟きを心の中でするのだった。
どうせこの後、二人で席を立って人目につきにくそうなところでキスしてさらにイチャイチャするに違いない。絶対にその場面に遭遇したくない俺は、二人がここにいる今のうちにトイレに行っておこうと席を立った。
まぁ何はともあれ、漫画みたいだけどお似合いだ、うん。