おヌヴィの新しい衣装があまりに公爵みが強いので、旅人に間違えられたりしないかなというのと、リオヌヴィ二人で海灯祭を回っていて欲しいなの気持ちを込めた小噺。伝任が出る前に書いているので妄想詰め込み放題。(ほぼおヌヴィと旅人とその相棒の会話)
今年も海灯祭の季節がやってきた。普段から多くの人で賑わう璃月港が、一年のうちで最も華やぐ璃月最大のお祭りだ。今年もまた、故郷を思い、英雄達を追悼するための霄灯が、ひとつまた一つと空へと放たれる。
テイワット中を旅し様々な美しい景色を見てきたが、何度訪れてもこの時期の璃月港の美しさはやはり格別だと、舞い上がる霄灯を眺めながら旅人は思う。海灯祭に合わせこの時期は各国からの観光客が璃月に訪れる。これまでも他国で出会った仲間たちとこの璃月港で再会することがあったが、今年はどんな仲間と出会えるだろうか。そんな話を相棒と話しながら、彼女は璃月港を散策していた。
「おい、旅人!あそこに居るのって、もしかして……」
旅人は相棒が指し示す方を見遣る。そこには一人の人物が璃月港を眺め佇んでいた。数多舞い上がる霄灯の灯りで影ができており、その顔や姿ははっきりとは見えない。けれど、優に六尺はあろう体躯、風に靡く肩掛けにされたロングコートを目にし、旅人はその人物が誰なのか大凡見当がついた。
「へへっあいつも旅に出たりするんだな?」
「この前ナドクライにも行ってたみたいだし、意外と何処にでも出かけて行くんじゃないかな。休暇の取り方は上手そうだし」
「それもそうだな。よし、旅人!声を掛けにいこうぜ」
嬉々として言う相棒の言葉に、旅人は頷く。歩みを進める毎に目当ての人物との距離は縮まるが、今度は立派な満月で逆光となり、その人物の顔はやはりよく見えなかった。けれど、こちらに向けている背に靡くロングコートのシルエットに、やはり思い描いていた人物に相違ないと旅人は思った。
「よっ!久しぶりだな!要塞を留守にしても平気なのか?」
「こんばんは。公爵も来てたんだね!フォンテーヌのみんなは元気?」
二人の声掛けに、古い友人は振り返る。しかしその友人の姿を見るや、旅人と彼女の相棒は異口同音に『あ』と呟いた。
「久しいな。旅人、パイモン。息災だったろうか?」
「ヌヴィレット!?」
旅人とパイモンが思い描いていた人物は、フォンテーヌの水底の監獄の管理人・リオセスリであった。しかし振り返ったのは同じフォンテーヌの人物ではあっても、水底の監獄と対を成す存在ーー最高審判官・ヌヴィレット、そのひとであった。
ちなみに対を成すという表現は単に彼らの社会的立場についてだけでなく、二人が恋人同士であるという点からも言えることである。
「やはり君達も海灯祭に訪れていたのだな。何処となく、君達と会える予感がしていた」
「え……っと、まさかお前が来てるなんて、思わなかったぞ」
「……会えて嬉しいよ、ヌヴィレット。お休みが取れたの?」
旅人とパイモンは、声を掛けた相手が自身の思い描いていた人物ではなかったことに驚きながらも、思ってもみなかった友人との再会に喜びの意を示した。それと同時に、人違いをしてしまったことをどう詫びるべきかと思案を巡らせていた。ヌヴィレットがこの程度のことで気分を害するような人柄ではないことを旅人達は充分知っていたが、とは言えやはり人違いというのは失礼なことである。どう切り出すべきか、旅人とパイモンは目配せをしあった。しかしヌヴィレットは意に介していない様子で、今回の璃月訪問の経緯を説明した。
「ああ。以前、半日時間ができたため璃月を訪れたことがあるのを、覚えているだろうか?」
「もちろんだぜ。でっかいスプーンをくれたよな」
「もしかして、今回も半日休なの?」
「いや。今回はきちんと数日休みを取っている……というよりも、取るように強く迫られた、というべきだろうか」
「どういうこと?」
「以前からセドナを始めパレ・メルモニアの職員達から、休みを取るよう強く言われていたのだが……どうすれば良いものか、わからなくてな」
「お前らしいぞ……」
「しかし前回の海灯祭での経験が大変素晴らしいものだった故、また参加してみたいと思っていたのだ。せっかくならばと、この時期に合わせて休みを取ることにした」
「良いことだと思うよ。一歩前進だね」
「ああ。リオセスリ殿もそう言ってくれていた」
「う……」
人違いをしてしまった人物の名前が本人の口から出たことで、旅人とパイモンは動揺した。
「あー……っと、そのぉ……あ!ヌヴィレット!その服、新しい服だよな?よく似合ってるぜ」
「本当だろうか?」
話題を逸らそうとしたパイモンの言葉に、意外にもヌヴィレットは嬉々とした様子で答えた。ヌヴィレットは普段の法服ではなく、新しい装いをしていた。スリーピースのスーツにアクセサリー類を着け、ヘアアレンジも変えており、普段の法服からは随分と雰囲気が異なっていた。特に肩から掛けられたロングコートはリオセスリを彷彿とさせ、旅人達がヌヴィレットをリオセスリと見間違えた要因でもあった。
「実はこの服は、メリュジーヌ達が仕立ててくれたものなのだ」
「へぇー!メリュジーヌ達がか?」
「ああ。休暇を過ごすのならば、それに相応しい装いをしてみてはどうか、と。私には内緒で準備をしてくれていたのだ。所謂、サプライズプレゼントというものだな」
「だからそんなに嬉しそうなんだね」
「顔に出てしまっていただろうか……」
旅人の言葉に、ヌヴィレットは咳払いをしながら気恥ずかしそうに言う。
「感情をちゃんと表に出すのは、良いことだぞ」
「そうだな……新しい服を着て旅に出るという体験は、何処か心が浮き足立つようで、素晴らしいものなのだな。何より、彼女達の心遣いがとても嬉しく、心地良い。こうして彼女達から贈られた服を着ていると、彼女達も共に旅に来ているように感じる」
「ヌヴィレット、随分と自分の気持ちを言葉にするのが上手くなったね」
友人の喜ばしい変化を旅人は称賛した。その言葉に、ヌヴィレットもどこか誇らしげであった。
「それにしても、本当によく似合ってるね」
「さすがはメリュジーヌだな!今までの法服も、最高審判官!って感じで威厳があって良かったけど、その服はリラックスして見えて休暇にぴったりだと思うぞ」
「ありがとう。フォンテーヌに戻ったら、君達が褒めてくれていたとメリュジーヌ達に伝えよう」
「おう!それに、その肩に掛けたコートなんて公爵にそっくりで、」
「パ、パイモン……!」
「はっ」
パイモンは話題を逸らそうとしていたにも関わらず、自らリオセスリの名前を出すと言う墓穴を掘ってしまう。思わず口元を覆うが、時すでに遅し。
「ふむ。そう言えば先程君達は、私に公爵と声を掛けていたようだが……」
ヌヴィレットの言葉に、旅人とパイモンは互いに見つめ合う。もう今しかない、今が謝罪のタイミングであると二人は口を開いた。
「あー……そのことなんだけど……その、悪かったぞ」
「月の影で顔もよく見えなくて、後ろ姿が公爵にそっくりだったから、私もパイモンもヌヴィレットのことを公爵だと思い込んじゃってたんだ」
「成程。そういうことだったのか」
「久しぶりに会えたのに、間違えてごめんね」
「いや、間違いは誰にでもあることだ。君達に悪気がなかったということは充分に理解している」
話しながらヌヴィレットは、思い出したようにふふっと笑った。
「ヌヴィレット?」
「どうしたんだ?オイラ達が勘違いしたのが、そんなに面白かったか?」
「いや……実はメリュジーヌ達がこの服を仕立てる際、リオセスリ殿の衣服を参考にしたそうなのだ。故に君達の思い違いも、ある意味、全くの見当違いとも言えないだろう」
「そうだったのか」
「公爵のモチーフだったんだね」
ヌヴィレットの言葉に、旅人とパイモンはほっと胸を撫で下ろした。
「ああ。君達が気に病むことはない。それに……」
「それに?」
ヌヴィレットは何処となく嬉しそうに微笑みながら、何かを付け加えるように言葉を続ける。ヌヴィレットの様子に、彼と対面する二人は首を傾げた。
「リオセスリ殿に見間違えられるというのは、嬉しく思う」
「ああ……そう、なんだ……?」
人違いをされて嬉しいことがるのだろうか。旅人とパイモンはどう反応すべきか戸惑う。そんな二人を他所に、旅行という特別な状況のためか些か饒舌になったヌヴィレットは、嬉々として自身の思いを語った。
「〝似た者夫婦〟という言葉を聞いたことがあるだろうか?そう言った夫婦は仲が良く、結婚生活も円満で満足度が高いそうだ」
「あー……うん、聞いたことある、カナ」
「元々性格や考え方が似ている者同士が惹かれ合うということもあるのだろうが……夫婦、すなわち番同士というのは似てくるという。同じ時を過ごし、同じ感情を共有し、それを積み重ねていくことで考え方や好みが似通っていくのだ。中には顔つきが似てくる番もいると聞いた」
「へぇー……すごいな……」
「君達が私をリオセスリ殿と見間違えたのは、確かに衣服のせいもあるのかも知れない。けれど彼に間違えられるというのは、私達が番として共に過ごていく中で〝似た者夫婦〟に近づいているからではないかとも思えて……非常に喜ばしく思う」
ヌヴィレットは、まるで梅の花が綻ぶように、穏やかで優しい笑みを浮かべた。
「……なんだ、惚気かよ……」
「まあまあ、パイモン」
げんなりとしているパイモンを、旅人は苦笑しながら嗜める。確かに旅人も、まるで砂糖を吐き出しそうな程の惚気話を聞かされるとは思ってもみなかった。
「公爵と順調そうで良かった。素敵な関係性だね」
旅人は、旧友達が順調にその関係性を深め、より強い絆で結ばれていることを心から祝福した。
海灯祭とはそもそも、新しい一年、春の始まりを祝う祭りだ。ヌヴィレットの花が綻ぶような幸せそうな笑顔は、まさに春に相応しいといえるだろう。
「でもヌヴィレット。さっきの笑顔、公爵の前以外で見せたらダメだからね?」
「何故?」
「公爵のことだから、ヌヴィレットのどんな表情も独り占めにしたいって思ってそうだもん」
「そうだぞ。お前のあんな嬉しそうな顔、オイラ達が見たって知ったら公爵にどんな目に遭わされるか……!」
「彼が君達に危害を加えることはないと思うが……そんな表情だっただろうか?リオセスリ殿のこととなると、どうにも気が緩んでしまうようだ……」
ヌヴィレットは表情を隠すように、両手で頬を覆った。ああまた、そんな無防備なことをすればリオセスリに見咎められる、と旅人とパイモンは指摘する。この場にリオセスリが居なくて本当によかったと、二人は心底思った。
「でも……公爵のことを話してたら、やっぱりアイツにも会いたくなってきたぞ」
「そうだね。会えないのが残念」
居なくてよかったなどとは思いながらも、やはり友人には会いたいものだと旅人とパイモンは思う。リオセスリのナドクライでの体験も詳しく聞いてみたいし、リオセスリとヌヴィレットの惚気話も若干の興味はあった。
「そのことなのだが」
残念がる二人に、ヌヴィレットはそう言えば、と声を掛ける。
「リオセスリ殿なら、先程から君達の後ろに居るのだが……気付いていなかったのかね?」
「えぇ!?」
ヌヴィレットの言葉に慌てて二人が振り返ると、いつもの装いのリオセスリが、満面の笑みを浮かべて立っていた。
「久しぶりだな。旅人、パイモン。相変わらず元気そうじゃないか」
しかし、リオセスリが扱う氷元素のように青いその目がまったく笑っていないことに、旅人とパイモンは気付く。霄灯の灯りに導かれた英雄達の霊魂よりもずっと恐ろしいものを見たような心地で、二人は震え上がったのだった。
END.
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