風花莉亜
2026-01-13 09:10:46
8958文字
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願わくば、また一緒に。

千早くん視点。高校1年の頃。都合良く藤堂家には藤堂くん以外いなくて、千早くんが藤堂家で年越ししたり初詣行ったりする話。色々ご都合主義設定です。今回ちょっといつも以上に場面転換の多いブツ切りな形になってます。読みにくかったらすみません

もう少しで、年が明ける。
炬燵で丸くなる猫よろしく、俺は藤堂くんの家の炬燵でぬくぬくと暖をとっていた。
年越し蕎麦もきっちりと頂いて、その後は食後のデザートと言わんばかりにミカンを頬張っている。
我が家には炬燵はないので、藤堂くん家に来た時に初めてその魅力に取り憑かれ、今はもう炬燵なしなんて考えられない状態だ。
とは言え俺の家に炬燵が取り入れられる事はないので、専ら藤堂くん家に遊びに来つつ入られせもらう毎日なのだが。
ただここで問題なのは、炬燵は人をダメにするという事。
あの、人をダメにするクッションと同じように、動きたくなくなるのだ。
しかも藤堂くん家にお邪魔している言うなればお客さんの立場なので、藤堂くん自身があれこれと動いてしまうのも原因だった。
最近の俺はどうにもダメ人間に近付いている気がしてならない。
いや、もしかしたら既にダメ人間なのかも。
ははは、乾いた笑いは俺一人しかいないこの空間で、誰に聞かれるでもなく消えていった。

お茶を淹れてくると言って台所に行っていた藤堂くんが、見計らったかのようなタイミングで居間へと戻って来る。
急須と追加のミカンをお盆に乗せて。
お茶はおそらく、玄米茶だろう。
藤堂くん家で出されるお茶は殆どが玄米茶だったから。
本人もそれで育ったらしく、学校でもよく紙パックの玄米茶を飲んでいるのを見かける。
お茶と言えば緑茶だった我が家。
けれど藤堂くんと付き合うようになってお茶と言えば玄米茶になりつつあるのだから、自分を形成する物は好きな人に左右されるのだと初めて知った。
藤堂くんに影響されている。
まるで一つにでもなったみたいで、俺の中に藤堂くんがいるみたいで、嬉しかった。

「お茶飲む?」
「いただきます」

湯呑みを差し出すと、藤堂くんは玄米茶を注いでくれる。
トプトプと注がれる緑色をぼぅっと見ながら、こうやってお茶を淹れてもらうのも当たり前な光景になってしまったなと笑う。
藤堂家に来る事が多くなった辺りから、お客さん用の湯呑みから俺用の湯呑みが出されるようになった。
いつだったか『これ千早専用』なんて言いながら、明らかに藤堂くんとお揃いの湯呑みを宛てがわれて驚いたものは良い思い出だ。

向かいに座る藤堂くんは俺を見ながら頬杖をつき、微笑んでいる。
愛おしい物を見る目だった。
お茶の温かさと、炬燵の心地良さに少しだけ睡魔に襲われている俺を見ているらしいが、半目になっているかもので見ないでくれ。

「千早、眠いんなら先に歯磨いとけよー」
「はーい、お母さん」
「誰がお母さんだ」
「ふふっ」
「なんだよ、案外まだ眠くない?」
「そんな事はないですけど」
「けど?」
「年が明けるまでは、起きていたいかなと」
「そっか。じゃあ、尚更磨いてくれば?目ェ覚めるぜ」

ニカッと歯を見せる藤堂くんに目を細める。
眩しいなぁ。
この太陽みたいに真っ直ぐであったかい笑顔が好きだ。
心がポカポカするのを感じて、やっぱり好きだなぁと俺の全身が言っている。
藤堂くんの事が、どうしようもなく好きだ。
そんな事は口が裂けても本人には言ってはやらないけれど。

年が明けるまであと三十分程。
また少し重くなった瞼を叱咤させる為にも、藤堂くんの言う通り歯を磨きに立ち上がった。



*****

『カウントダウン始めます!じゅう、きゅう……

歯を磨いた後何となく観ていたテレビの向こうで、カウントダウンが始まる。
大きな有名神社にカメラが入っているらしく、そこでカウントダウンをする人達を映していた。
ぼんやりとそれを観ながら、この一年、色んな事があったと振り返る。
濃い一年だった。
隣に藤堂くんがいる事の多い年だった。
出来るなら、来年もそうだと良い。
今は恋人という関係で、俺の気持ちはこれから先も変わらない予定だけれど、藤堂くんもそうだとは限らない。
気持ちを疑うとかではなく、ただの事実。
藤堂くんは普通にモテるので、可愛らしい女の子に目移りしたとしてもおかしい話ではないのだ。
それでも、少しでも長く隣にいるのが俺であれば良いと願う。
藤堂くんが俺を選んでくれた事が奇跡で、だからその奇跡がこれから先も続きますように、と。
まぁ、奇跡なんてそんなに長くは続かないだろうけど。

「藤堂くん……今年は、お世話になりました」
「こちらこそ」

向かい合った状態でお互いにぺこりと頭を下げる。
炬燵の天板に頭をぶつけない程度に下げて、同じタイミングで顔を上げた。
息ピッタリじゃないか。
そんな事が嬉しくなって、少し前の暗闇に沈み込むような思考を晴らすようにあはは、と笑う。
それとほぼ同時に、テレビの向こうがどっと沸いた。

『ぜろ!!ハッピーニューイヤー!!』

カウントがゼロになって、年が明けた事を知らせる。
お互い顔を見合わせて、同じタイミングで今度は頭を下げた。
それから頭を上げるタイミングもやはり同じで、こんなにも息の合う人間は他にいないんじゃないかと思う。

「明けましておめでとうございます。今年もどうぞ宜しくお願いします」
「明けましておめでとう。こちらこそ、今年もよろしくな」

年の最後を藤堂くんと過ごし、年の始まりも一緒に過ごす。
こんな贅沢があっても良いのだろうか?
偶然が重なって出来た二人きりの時間。
藤堂くんのご家族はお祖母さんの家に行っていて、俺の両親は旅行中。
本来ならば藤堂くんはご家族と一緒に行く筈で、俺も両親について行く筈で、けれどお互いそれを蹴って無理矢理時間を作ったとも言う。
年が明けたら藤堂くんの家に遊びに来る予定を立てていた俺に、お姉さんの「葵一人になるし、千早くん家に泊まり来れば?」という鶴の一声が全ての発端だった。
そこからはトントン拍子に話が進み、俺達は大晦日から一緒に居られる事になったのだ。
お姉さんには一生頭が上がらないだろう。
そんな事を考えていたら遂に限界を迎えた。
ゆっくり閉じていく瞼に抗う事無く、身を委ねた。

「千早?」
…………
「寝ちまったか。眠そうだったもんなぁ。とりあえず運ぶか」

こんな所で寝たら風邪を引く、そう言って藤堂くんは俺を抱えて自室の布団へと寝かせてくれた。
布団に寝かされた僅かな衝撃で一瞬だけ目を開けて、「とぉどぉ、くん」と呼びかけた気がする。
それに対して、起こしたかと申し訳なさそうな顔をされて、大丈夫ですと答えたのは覚えている。
覚えているのは、そこまで。
その後額にキスをひとつ落として頭を撫でられ「良い夢見ろよ」なんて言って去っていった藤堂くんは知らない。



*****

「千早ー、起きろー」
……んぅ?」

頬をつつかれる感覚と、大好きな声が俺の意識を浮上させる。
ゆっくりと重い瞼を持ち上げてみれば、すぐ近くに満面の笑みの藤堂くんがいた。

「〜〜〜〜〜〜っっ!?」

声にならない叫びを上げて、勢い良く布団を被る。
寝起きのドアップは心臓に悪い。
さてはコイツ、俺が君の顔を好きなの知らないな!?
まぁ、言った事はないから知らなくても無理はないのだけれど。

「すまん、驚かせたか?」
「心臓に悪いです」
「そんなにかよ」

ちょっとショック、などと言いながらサラサラと俺の髪を弄りながら頭を撫でるのやめてもらっても良いですかね?
そんなまるで彼氏みたいな。

「ちょっと、彼氏ヅラやめてください」
「彼氏なんだが!?」

まだ頭が上手く働かなくて、上手い返しもできやしない。
でも藤堂くんの口から『彼氏』という単語が出てきたのは素直に嬉しい。
ちゃんと俺の恋人のつもりなんだ、と。
開けられたカーテンから降り注ぐ日差しが眩しいなんて理由を付けて、もう一度布団へと潜る。
本当はただ嬉しくて、絶対変な顔をしているから隠したかっただけ。

「ほれ、起きるぞー」
「直ぐ行くので先に行っててください」
「わかった。二度寝すんなよ?」
「はい」

二度寝なんかできる訳がない。
ふぅ、大きく息を吐いて布団から出る。
軽く身嗜みを整えてから先に洗面所に向かい歯を磨く。
それから藤堂くんの居るであろう居間へと向かった。

「おう、起きたか」

そう言ってこちらを振り返った藤堂くんは、お餅を頬張っていた。
お雑煮だろう、いい匂いが鼻を掠める。

「千早も雑煮食う?」

餅沢山あるから入れ放題だぞ、なんてウキウキした声で藤堂くんは言う。
起きたてなのでそんなに入る気はしないけれど、匂いに釣られたのと折角勧められているのだから食べないという選択肢は除外する。
けれど、餅入れ放題な所申し訳ないが、ひとつでお願いします。
寝起きでもバクバク食べれる君とは違うんです。

「いただきますけど、餅はひとつで大丈夫です」
「遠慮しなくて良いんだぞ?」
「遠慮ではなく、起きたてなのでそんなに入りません」
「そっか。食いたくなったらいつでも言えよー」
「はい」

じゃあ、焼いてくると言って台所へと向かう藤堂くんに、お願いしますとだけ答える。
一度入ってしまえば出たくないので、自らは動かずに手を振って見送った。
ほら、炬燵は人をダメにするので。
そんな俺に対して、よく藤堂くんはあんなにも軽々と炬燵から出れるものだと関心してしまう。
炬燵があるのは当たり前だからから?
それとも藤堂くんだから?
考えた所で答えなど出ないのだけれど。

「雑煮出来たぞー」

台所の向こうから藤堂くんの声がした。
取りに来いって事だろうか?
呼んでいるのなら行かなくては、と重い腰を上げた所で、お盆片手に藤堂くんが戻って来て、あ、違ったと再び腰を下ろした。

「ありがとうございます」
「おう」

そうして食べたお雑煮は、優しい味がした。

炬燵で他愛ない話をしながらのんびり過ごす。
今日は少しも野球をしていないな、と心の片隅で考えて、もしかしたら後でキャッチボールしようなんて藤堂くんの方から言ってくるかもと考える。
ボールに触らない日なんて、結局の所ゼロだろう。
どっかで触りたくなるのが俺達の宿命。
それでも今のこの時間を楽しむのも悪くないと心が言っているので、会話を続ける事にした。

「そう言えば、夢を見ました」
「お?初夢ってやつか」
「そうですね」
「で?どんな?」
「えっと、藤堂くん家で妹さんも交えて駒回したりカルタしたり、羽根突きしたり?」
「残念だが、家に駒はねェ」

羽子板はあるのかよ。
出かかった言葉を飲み込んで、続きを話す。

「カルタに富士山の絵柄があったので、縁起の良い夢でした」
「それはカウントしていいやつなのか?」
「出てきているので、いいでしょう。俺が許します」
「ははっ。えー、なんだっけ?一富士……?」
「一富士二鷹三茄子」
「呪文か?」
「藤堂くんには難しかったですかね」
「おい、今年も絶好調だな」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてねーんだわ」

あー、楽しい。
藤堂くんを揶揄うのが、と言うよりこうやってポンポンと続く会話が、だ。
それはきっと藤堂くんも同じで、だから揶揄われて楽しそうな顔をする。
藤堂くんの沽券に関わるので言っておくが、これは決して藤堂くんは揶揄われるのが好きとかいう類の話ではない。

「そろそろ初詣行くか?」

初詣に行く予定だったのは初耳なんですけど?
まぁ、行くのは良いとして。

「人混みの中突撃したくないんですけど」
「大丈夫大丈夫。穴場があっから」
「穴場?」

首を傾げる俺を無理矢理炬燵から出して、身支度してこいなんて言う。
それに渋々従って身支度を済まし、二人揃って家を出た。

寒さに耐えつつ歩いて数分。
そうして連れて来られたのは、小さな神社だった。
なるほど、穴場と言うだけある、人っ子一人いやしない。
まさか廃神社じゃあるまいな?と勘ぐってしまったが、ちゃんと手入れが行き届いていて、古いけれどちゃんとした神社だった。
小さい頃から来てるんだと笑う藤堂くんに、藤堂くんの幼い頃を想像する。
素直でちょっと馬鹿で、元気いっぱいで動いてないと死ぬのかって程に活発な、そんな子供を想像した。
あはは、可愛いかも。

「何笑ってんの?」
「あれ?俺笑ってました?」
「おう」
「ちょっと子供の頃の藤堂くんを想像してました」
「へぇ?どんなイメージ?」
「今と変わらず冬場でも半袖で元気に走り回ってるような」
…………違うとは言えねェのが悔しいな」
「あはは」

二人きりの神社でお参りをする。
最初に、また野球を始められた事と小手指に入って良かったなどを報告して、それから神頼みだってしてしまいたい事を強く願う。
あまり高望みはしないから、せめて、来年もこうやって藤堂くんと一緒にこの神社へ初詣に来れますように。
ゆっくりと閉じていた瞼を上げると、隣の藤堂くんはまだ熱心に何かを祈っていた。
暫く眺めていると、やっと藤堂くんの目が開く。

「何をそんなに熱心に祈ってたんです?」
「えっ、や、あー、いろいろ?」
「気になりますね」
「まぁ、いいじゃねェか。そーゆーお前こそ何祈ったんだよ」
「言ったら叶わないって言いますし、口が裂けても言いたくないです」
「おい」
「お互い秘密って事で」
「しゃーねーな」

帰るか、の一言に頷いて、人通りが無いのをいい事に手を繋いだ。
誰かと鉢合わせたらどうしようと脳裏を過ぎったが、まぁ、いいかと思い直す。
ここに来るまでに誰一人と出会わなかったのだし。
指を絡ませてお互いに熱を分け合う。
そんな些細なことにも幸せを感じた。
途中、来たルートとは違う道に入っていくのに気付いて、けれど態と遠回りをしているのだと悟った俺は、黙ってついて行く。
少しでも長く手を繋いでいたいのかな、なんて。
そんな可愛らしい理由なのかは定かではないが、それが理由なら嬉しい。
心做しか歩く速度もゆっくりになっていって、まるで帰るのを嫌がる子供みたいだ。

「藤堂くん、まだ帰りたくないんですか?」
「そーだなぁ……そーかも」
「そうですか。でも、俺は寒いの苦手なのでそろそろ帰りたいです」
「マジかよ、ムードも何もねーな」
「藤堂くんにムード云々言われる日が来るとは笑えますね」
「笑うのかよ」
…………家でぬくぬくしながらイチャイチャしたら良いのでは?」
「イチャイチャしてくれんの?」
「まぁ、一応」
「言ったな?」
「えぇ」
「よしっ、走るぞ千早!」
「は?ちょ、急に引っ張るなバカ!」

走り出した藤堂くんに引っ張られる形で、足を動かす。
走ることは苦ではない、寧ろ好きだ。
この状況、まるで青春映画みたいな事をしている自覚はあるけれど、嫌ではなかった。
高校生なので、青春を謳歌するのも吝かでは無い。
と言っても、相手は小学生みたいな事しかしてないのだが。
途中から家まで競走な、そう言ったと同時に繋いだ手を離して走り出し、俺を置いて行ったのだから。
藤堂くんの家までの距離はあと少し。
長距離ならば負けたかもしれないけれど、短距離ならば負ける気がしない。
絶対追い付いて、そして抜かしてやる、そう意気込んで走り出した。



*****

全力疾走の末、同時に藤堂くんの家の玄関に到着し、勝敗は引き分けとなった。
寒いとは言え走ったので汗も掻いていて素肌を滑るそれが気持ち悪い。

「っ、ハァハァ、藤堂、くん、お風呂入りたい、です」
「ハァハァ……そーだな、すぐ、沸かす」

そう言ってドアに手をかけた藤堂くんは、首を傾げた。
鍵を開けていないのに、なんの抵抗もなく開くドアに驚いて、お互い顔を引き攣らせた。
まさか、閉め忘れた!?
いや、それはない、鍵を閉める所を俺も一緒に見ていた。
と言う事は、もしかして泥棒……っ!
どうしよう、確認する?それとも直ぐに警察?
プチパニックに陥っていると、中から聞き慣れた声がしてピタリと止まる。

「あけおめー、そんでおかえりぃ」
「あ、姉貴!?」
「あ、明けましておめでとうございます。えっと、どうしてここに?」
「挨拶できて千早くんは良い子よねー、どっかの誰かと違って。ちょっと荷物取りに来ただけだから、すぐまた向こう戻るつもり」
「悪かったな!ったく、焦ったじゃねーか!」
「なにが」
「鍵開いてっから泥棒かと思っちまったじゃねーか!」
「知らないわよ、バカ」

パシーン、藤堂くんの頭から小気味よい音がした。
痛そうだ。
頭を抑える藤堂には目もくれず、お姉さんは俺の方に向く。

「あぁそうだ千早くん」
「はい?」
「これ、お年玉」
「えぇ!?いや、あの、受け取れません」
「遠慮しなくて良いのよー。だって千早くん、行く行くはうちの子になるかもだし?」
「えっ」

突然の爆弾に目を白黒させる。
新年そうそうとんでもないジョークを飛ばしてくるじゃないですか。

「あはは。顔真っ赤。はい、今年もうちのバカよろしくね?」
「あぅ、えっと…………はい。お年玉もありがとうございます」
「どういたしまして。ほれ葵、あんたにも」
「別にいらねーのに」
「貰える物は貰っておきなさい」
…………さんきゅ」
「じゃ、そろそろ私は行くわね。家の事よろしく」

そう言ってお姉さんは去って行った。
まるで嵐が去った後のようで、何だか急激に疲れが押し寄せてくる。
お姉さんは俺達が付き合っている事に気付いていて、それなのに認めてくれていて、多分祝福もしてくれている。
藤堂くん家の子、か。
チラ、藤堂くんを見れば、彼もまた疲れた顔をしていた。
やっぱり弟という生き物は、姉には絶対的に敵わないものなのだ。
一人っ子の俺には到底理解出来ないと思っていたそれを、少しだけ身を持って知る事になろうとは。

「あー、疲れた。さっさと風呂入ってゆっくりしよーぜ」
「ふふっ、賛成」

ぐっと背筋を伸ばすように腕を伸ばす藤堂くんに笑って返す。
しかし次の瞬間一緒に入るかなどと宣ってきた藤堂くんを絶対零度の瞳で睨め付け、一人で先に浴室へ向かった。
誰が一緒に入るものか。



*****

それぞれで入浴を済ませ、今はお互い炬燵に入ってテレビを観ている。
藤堂くんが再び野球を始めた事を理由に、最近になってテレビを新しく買ったらしい。
今の時代テレビがなくてもあまり問題とは思わないけれど、個人的にはないよりはある方が良い。
ある方が良い筈なのだが、藤堂くんのお眼鏡にかなう番組がないらしく、さっきからチャンネルを変えてばかりいた。

「なんか、あんま面白いのねーな」
「まぁ藤堂くん野球以外興味ないですもんね」
「それは流石に言い過ぎじゃね?」
「そうでも無いと思いますけどね。だって野球中継以外に何か観ます?」
…………
「ほら出てこない」
「いや、ほら、お笑いとか?」
「何で疑問形なんですか」
「うるせー」

ん、と藤堂くんに向かって手を出せば、何?といった感じの顔をされたのでリモコンと言うと素直に渡される。
ほらやっぱり、興味がないのだ。
受け取ったリモコンでテレビ欄を見る。
何かめぼしい番組はないだろうか、と探してみるとこの時期特有のドラマ一挙放送やアニメ一挙放送、更に先へと日付を進めていたらしく、駅伝なんてものも出てきてしまった。
うーん、あまり食指が動かない。
俺もどうやら藤堂くんの事は言えないらしかった。

「おめーも興味ねェじゃん」
「たまたま、です」
「へぇ?あっ!」
「何ですか?」
「テレビ観る気起きないならイチャイチャしよーぜ」
「はぁ。まぁ、いいですけど」
「ンだよ、乗り気じゃねーの?」
「そうでもないですけど」
「んじゃ、こっちおいで」
「藤堂くんが来たら良いと思います」
「動きたくないだけかよ」
「さて、どうでしょう」

まぁ、動きたくないかどうかと聞かれたら、答えはぶっちゃけイエスなのだが。
最初にも言ったが、炬燵は人をダメにする。
出たら寒いのもあるけど、一度入ってしまえば動くのが億劫になるのだ。

「あー、さむ」
「くっついてれば温かいでしょう?」
「ははっ、違いねェ」

俺を足の間に挟むようにして座った藤堂くんの胸に、俺の背中がくっつく。
藤堂くんは子供体温だ。
腹の前に回された腕に引き寄せられて、更に密着する体の温かいこと。
手指が冷える事も知らないのか、手だってポカポカで人間カイロかよと思った。
藤堂くんは、俺をダメにする。
そう頭を過ぎったけれど、藤堂くんにダメにされるのなら悪くはない。

「藤堂くん」
「ん?」
「姫始めしません?」
「ごほっ」

噎せる藤堂くんにケラケラと笑って、冗談ですよなんて言いながらも頬にキスをした。
冗談じゃ、ないですけど。




END







おまけ
なんだかんだと千早くんには三日間くらい藤堂家にお世話になってもらいました(ここだけ藤堂くん視点)


「あっ、藤堂くん藤堂くん!」
「どうした?」
「体重が増えました!」
「うん?」
「ですから、なかなか増えない体重が増えたんです」
「えーっと、良かったな?」
「はいっ」
(嬉しそうな顔してまぁ。つーか、姉貴が聞いたらキレそうだな)
「この短期間で二キロも増えるなんて!」
(絶対姉貴の耳だけには入れないようにしないとな……。千早と言えどシバかれかねない)

そんな俺の願いも虚しく、姉貴の耳にもしっかりと届いてしまった千早の体重増加の話。
俺が千早を守らないと!
そう思ったのに、何故か姉貴は真っ先に俺の所へとやって来てヘッドロックをカマしてきたのだった。
理不尽だ!
俺がそう叫んだのはまた別の話。



おわり




今回、某所でネタくださいして貰ったものを全部盛り込んで書いたお話です。体重増加とか千早くん縁遠いと思いつつ、お正月って本当は太るんだぜって

初夢については、大晦日から元日説で書いてます