風花莉亜
2026-01-13 09:06:29
5560文字
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つまりは、そーゆーこと。

第3回とどち版ワンドロワンライ参加作品。とどち同じ路線設定にしてます。1年生の頃の話。そして勝手に部活お休みにしてます。私の書くものは野球部の面々がとどち付き合ってるの知ってますし、見守ってます。とっても自由設定。誤字脱字は絶対あります。何でも大丈夫な方向け

(藤堂くん視点)

クリスマスソングを街中で良く耳にする十二月。
街の色も赤と緑で溢れる十二月。
イルミネーションが綺麗で映える十二月。
そんな世間も浮き足立つ大イベントの前日、正確にはクリスマスイブの前日の二十三日の事。
部活終了間際に、監督から発せられた言葉に俺達は驚いた。

「折角だから、明日は一日オフにしよう。休むのも大事だからね」

今年もクリスマスなんて関係なく部活はあるものだと思っていた俺達は、それはもう、物凄く驚いた。
驚くと同時に少しだけソワソワして、それから明日一日をどう使おうかと考える。
隣に立っていた千早をチラリと見遣れば、同じタイミングでこちらを見た。
多分、同じ事を考えている。
『明日、二人で過ごさないか』
そう口から出かかった所で、要の声に阻まれた。

「皆でクリスマスパーティーやらない?」

ワクワクが抑えきれないと言わんばなりに目を輝かせる要を見て、拒否する事は憚られてしまう。
それは千早も同じだったようで、俺に視線を送ってから口を開いた。

「それ、拒否権ないですよね?」
「えー?なくはないけど、瞬ちゃんは一緒にパーティーしてくれないの?」

なんだあれ、垂れた犬耳が見える。
くぅーん、と弱々しく鳴く幻聴まできこえてしまって、よっぽどの人でなし以外は断れまい。
千早は人の事を揶揄ったりするけれど決して人でなしではないので、やっぱり断れないだろう。
仕方ない、二人きりで過ごしたかったけれど要の事を無下にはできない。
再び俺へと視線を送る千早に頷いてみせると、小さく溜息を吐いてからこうなると思ったとでも言いたげな表情を浮かべた。

「場所はどちらで?」
「それって参加してくれるって事?」
「仕方ないので」
「瞬ちゃん、もっと素直になって良いんだよ?」
「俺は元々素直です」
「素直とは」
「ふっ」

要が首を傾げるのに思わず笑ってしまった。
そんな俺に失礼な、と眉を上げる千早に更に笑いが込み上げる。
まぁ、ある意味素直っちゃー素直だよな。
……俺の前では。
噛み殺し切れない笑いが口の端からこぼれるのに対し、千早から力が入っていないパンチを貰う。
効果音を付けるならば『ポスン……』だろうか。
これあれだろ、猫パンチ。
全くもって可愛い事をしてくれる。

「そこー、いちゃつかないでくれます〜?」
「イチャついてません」
「ほんとー?」
「本当に!」
「ほんとのほんと?」

尚もしつこく聞いてくる要に、千早はげんなりし始めている。
そんな千早に助け舟を出したのは、やはり我らがヤマだった。

「要くん、話進まないからその辺にしとこ?」

優しく諭すような物言いに、要もおとなしくなる。
これは一気に畳み掛けるチャンスだ、そう気付いた俺も加勢する事にした。
マジでこのままじゃ話進まねーし、帰れねーし。

「ヤマの言うとーりだな。で?場所は要の家でいいのか?」
「うぅ……えっと、その日はババアがパートで居ない日だった筈だから、OKです」
「決まりだな」

決まった決まった。
場所さえ決まれば後は集合時間って、ぶっちゃけこれらメッセでも良くね?
早く帰って来いとは言われていないものの、俺には帰ってからやる事がアレコレとある。
特に用もない時は出来るだけ早く帰りたい。
しかし、そんな俺の願いを簡単に木っ端微塵にするのが要圭である。

「あ!どうせなら皆でサンタとかトナカイの格好しよ?」
…………ンなもん買う金はねーよ」
「却下です」
「僕もちょっと、恥ずかしい、かな」

俺を含めた三人に断られ、要は頬を膨らませた。
それから、隣で事の成行を見守っていた……いや、ただ話すら聞いていなかっただけかもしれない清峰の腕に縋り付く。

「えぇ〜、皆ノリ悪い!ハルちゃん!ハルちゃんは一緒に着てくれるよね?」
「圭が球捕ってくれるなら」
「う、うーん、えーっと」
「ダメなのか?」
……ダメじゃないデス」
「あはは、そんな捨てられた子犬みたいな顔されたら断れないですよね〜」
「瞬ちゃんだって同じ状況なら断れないでしょ!?」
「そうですね」
「あっ、何か他人事みたい!」
「他人事ですし」
「もー、瞬ちゃん!」
「ねぇ要くん、これくらいだったらいいよ?」

また話が脱線しかけた所でヤマが見せたのは、サンタの帽子とトナカイのカチューシャの写真。
正直それすらも装着したくないが、要の目が再びキラキラと輝き出してしまったので口を挟めなかった。
何だかんだと俺達は要に甘い。
要のキャラがそうさせるのだろうか、だとしたらとんだモンスターだ。

「いっぱい種類あるねー?どうする?お揃いにする?それとも皆バラバラ?」

いつの間にか検索をかけたらしい要は、これなんかどうだと逐一こちらに画面を見せてくる。
うん、どれでもいーわ。
どれを選んでも恥ずかしさは拭えない、だとしたらもう何でも良い。
全員同じ意見らしく、要の意見に当たり障りの無い返事をするのみだった。
清峰に至っては考えているのかいないのか、相変わらずハンドグリップを握っているだけだ。
野球以外にとんと興味がないらしい。

「あっ!」

突然、要が大きな声を出した。
何かと思えば、さっきとはまた違ったキラキラオーラを放っている。
なんだ?

「ねー、チャイナ服ってエロいよね?」
「何の話だ」
「突然どうしたの?」
「検索してたらさー、彼女に着て欲しいコスプレ衣装とか出てきてつい」
「つい、じゃねーよ」
「いやだってこれ!見て!」

ずい、っと眼前にスマホを突き出され、やや後ろへと下がる。
ピントの合った瞳が映し出したそれは、際どいスリットの入ったチャイナドレスを着た女性。
確かに太ももが艶かしい。
若干画面を凝視しすぎたらしく、隣から鋭い視線を感じる。
これはそちらを向いたら駄目なやつ。
サッと視線を明後日の方へ向けると、バシリと背中を叩かれた。
痛くはないが、もしかしなくても嫉妬だろうか。
千早でも嫉妬とかするんだ、口元が緩んだ。

「葵ちゃん、こちらはどうよ?」
「あ?」

またもやずい、とスマホを近付けられて後ろに下がる。
近過ぎなんだよ、さっきから。
表示されたそれは、丈の短いタイプで勿論スリット入り。
こっちも良いな、と考えて、そう言えばこれは『彼女に着て欲しい』衣装だったと思い出す。
とくれば、俺の脳内は必然と千早での変換を希望した。
スマホを見て、それから千早を見る。
俺の方が背が高いので必然的に上目遣いな千早が目に入って、目ェでけーな、と心の中で感想を述べた。
さっきの似合いそうだなぁ、色はどうする?緑とか着てほしいかも?
そうやって先程見た服と千早を脳内で合成させれば、チャイナドレスを身にまとった千早が完成。
こいつ、くっそ似合うな!?
何ともアホっぽい感想であった。

「藤堂くん、何考えてるんですか?」
「そりゃお前で……っ、なんでもありません」

笑顔が黒い。
めっちゃニコニコしてるけど、目がひとつも笑ってない。
やめて、その顔怖いから。

「はぁ……藤堂くんってアホですよね」
「否定はしないが、男なんて皆そんなもんだろ」
「一括りにしないでくださーい」

逃げるようにヤマの方へ向かう千早に苦笑する。
仕方ねーだろ、好きな奴に色々着せたいと思うのは。

「葵ちゃん、振られた?」
「うっせーよ」

一部始終を見ていた要は、笑っている。
その顔が何だかムカついたので、とりあえずケツ目掛けて蹴りをひとつお見舞いしといた。
これは八つ当たりではない、断じて。



その後、明日の予定を詳しく立てて解散した。
ウキウキしながら「また明日」と手を振る要と「球捕れ」と連呼する清峰と別れ、その後は最寄り駅で路線の違うヤマとも別れた。
偶然にも同じ路線の俺達二人は、連れ立ってホームへと向かう。
電車が来るまで後少し、千早とクリスマスをどうするかと言う話になった。
大部分は五人で過ごす事になりそうだったが、折角のクリスマスだ、少しでも二人きりでも過ごしたい。
俺達の気持ちは同じだった。

「あのさ、」

そう言った所で目の前を仲の良さそうなカップルが通り過ぎる。
何故か目で追ってしまって、つい無言になった。
続きのない言葉に首を傾げ、千早は俺の視線の先を辿ってもう一度首を傾げる。
誰だろう、といった所か。

「知り合いでした?」
「いんや、全然」
「?」
「あ」
「どうしました?」
「いや。なんか、良いよな。あーゆーのちょっと憧れる」

先程の仲の良さそうなカップルは、身を寄せ合って一つのイヤホンで音楽を聴きだした。
流れているのは、何だろうか。
時期も時期だからクリスマスソングだろうか。
それとも流行りの曲だろうか。
ひとつ言えるのは、二人共幸せそうな表情を浮かべていると言うこと。
それはまるでドラマのワンシーンのようだった。
ボーッ眺めていると、隣からクスクスと笑い声がして意識が浮上する。
声の主を見れば、ぱちりと目が合った。
するとニヤリ、と八重歯をこぼれさせるのが目に入って、つい構える。
あ、弄られそう。

「随分と可愛らしい事言いますね?」
「ンだよ、いいだろ別に」
「誰も悪いなんて言ってないじゃないですか。まぁ、ロマンチストだなとは思いましたけど」
「自分でもわーってるっての」
「まぁまぁ、いじけないでくださいよ。はい、どうぞ」
「あ?」
「したいんでしょ?半分こ」

差し出されたのは千早が普段愛用している有線イヤホン。
千早とイヤホンを交互に見やって、それから恭しく受け取る。
潔癖な所があるのに貸してくれた、その事実が嬉しくて顔が綻んだ。
まるで俺の事が特別だと言っているみたいで──実際そうなのかもしれないけれど──普段言葉にされる事なんかないから、こうやって行動で示されると嬉しくて仕方がない。

「ははっ、さんきゅ」
「どーいたしまして」

ゆっくり耳にイヤホンを着けると、千早はスマホを弄る。
どうせ流れてくるのは俺の知らない日本語じゃない曲だろうけれど、それでもいいか、と思っていると、流れ出した曲に思わず目を見開いた。
だってこれは、以前自分が良いと好きだと言っていた曲。
J-POPなんて耳が腐るとか言っていたのに、と千早を見れば、耳が赤かった。
たまたまです、なんて言っているが、そんな訳がない。
俺が好きだと言った曲だからこれを選んでくれた?
それとも実は千早も良く聴いてくれている?
真相はわからないが、少なくとも好意的に捉えて問題ないだろう。
そう考えたら途端に千早の事が愛おしくてたまらなくなって、ここが駅でなかったら思いっきり抱き締めていた所だ。
千早は、たまにとんでもなく俺の事を喜ばせてくる。
不意打ちやめろよ、マジで。
心臓が幾つあっても足りない。
きゅうきゅう締め付けるような胸を抑えながら、電車が来るまでの数分間を何とか耐え切った俺、マジ偉い。
ホームに滑り込んできた電車が見えた所でイヤホンは回収されてしまったが、きっとまたいつか半分こしてくれるに違いない。
遠くない未来に、必ず。



乗り込んだ車両は想像よりも空いていて、窮屈でないのが有難い。
それでも座席は埋まってしまっていて、ドア付近を陣取って立っている事にした。
何か話題をと思ったが、二人共照れ臭くなってしまっていて、上手く会話にならない。
流れる風景を見てやり過ごすしかないかと、会話は諦めた。
それに、千早の事を見ながらの会話なんてしたら、再び抱き締めたい衝動に駆られてしまいそうだった。
だってずっと可愛い顔してんだよ、こいつ。
流石にこんな場所で抱き締める訳にはいかないし、そんな場面を誰かに見られる訳にもいかない。
奇異な目で見られるのは避けたかった。


もう少しで俺の降りる駅に着く。
離れ難くなってしまっているが、仕方がない。
明日の予定も立てられずじまいだったが、帰ってからメッセージのやり取りでも通話でもして決めれば良い、そう考えたところで、千早が俺の袖をきゅっと握った。
その指は、少し震えていた。

「今日、泊まっていきませんか?」
「ん?」
「親、明後日まで帰って来なくて。なので、その、藤堂くんさえ良ければ、ですが」

ぽつりと呟くように言ってから赤く染まる頬をふい、と逸らす。
衝撃すぎて言葉が出なかった。
まさかそんなお誘いがあるなんて思わねーだろ。
あー、無理。
すっげー抱き締めたい。
顔を覆って天を仰ぐ俺に、千早は何を勘違いしたのか、嫌ならいいですと弱々しく呟いた。
まてまてまて、嫌な訳がないだろーが!
勝手に勘違いして勝手に自己完結すンじゃねェーよ!
がし、と千早の両肩を掴み、少しだけ屈んで目線を合わせる。
一語一句ゆっくり噛み砕くように、言葉を選んだ。

「嫌じゃねーから」
「でも……
「マジで嫌じゃーねーし。千早が来てもいいって言うなら行きたい。もっと、一緒に居たい」
…………っっ」

これ以上ないってくらい赤く染まる頬に、林檎みたいだと思った。
自ら誘っておいてコレだもんな。
まぁ、誘ってる自覚はなくて、ただ一緒に居たいだけな気もする。
でもさァ、付き合って初めてのお泊まりで?しかも親は不在。

「なぁ、それってさ、期待してもいい?」

そう言えば、千早はあっちこっちへと視線を動かして、それからゆっくりと頷いた。
ちゃんと意味を汲み取ったようだ。
だからつまりは、そーゆーこと。



どうやら俺は、ちゃんと誘われていたらしい。


END