望月 鏡翠
2026-01-13 02:20:42
885文字
Public 日課
 

#1957 泥の味を知るものたち7

#毎日最低800文字のSSを書く/我らが王の身罷りて 二次創作

 同じ家に属し同じ場所に立ち、同じ目標を見ていても、二人の間にある溝は深く、決して理解しあうことはない。いや、二人の間にあるのは溝ではなく階層の違いなのだろう。
 同じ場所においても、決して交わらない。
 ジョアンはおそれを知らずに申し上げるなら、ときり出した。
 この男がトルガを恐れるところなど見たことがないのだが、好きに話せばいい。
 しかし主人を相手取るときの形を保ち、意義を整えようとするのはいい傾向だった。
「あなたは心が死んでいる」
「ひどいな」
 その言葉で怒ったり傷ついたりするかと言われれば、確かにそんなことはない。それは心が死んでいるからではなく、彼らの評価に興味を持っていないだけだ。
「なぜエリセオのような男を侍従に?」
「出自や身分を問わず、広く登用の意思があることを見せれば、貴族主義に反感を抱く層を味方に取り込める」
「それは私を納得させるための都合のいい理由であって、本質ではないのでは?」
 今日はやけに噛みつく。トルガは結論がどこに落ちるのかを待った。
 教育係が負担だから辞めたいのか。平民を引き込む方針を阻みたいのか。それともエリセオを首にして、もっと身分の立場のあるものに変えろというのかもしれない。
「あなたの本心が知りたい、なんて言ってくれるなよ。女に言われればそれなりに胸が踊るセリフだけどな」
「残念ながら、それに近い。あなたはその場を凌ぐために言葉をでっち上げるのがうまい。状況を周りの立場を利用して、それ以外ないと相手に信じ込ませようとしてくる。しかしそれらはあくまでその場しのぎであって、意思も信念もない。エリセオを使うようになったのも、もっとくだらない理由でしょう」
 例えば他に味方になってくれそうな人間がいなかったので、素直でいうことをよく聞きそうな人間に適当に声をかけただけ、というような理由だ。ただトルガはそんな返事はしないし、態度も明らかにしない。領主たる威厳をその態度を理由に剥奪したいのであれば対策を考える。
 しかしその場合は、トルガにこのような形で思っていることを伝えてはこないだろう。