フリンズさんが家庭教師をしてくれる話

※現パロです。
※一つ前の話(車で迎えにきてくれる話)があります。

――ピンポーン

「はーい」
「こんばんは、今日もよろしくお願いしますね」
「はい、よろしくお願いしまーす」

 模試の英語の成績がいよいよやばいってことを自覚し始めて、兄に相談してみたら、トントン拍子でフリンズさんが家庭教師をしてくれることになった。「いやいやそれはフリンズさんに悪いでしょ」って思ったし伝えたんだけど、なぜか良い返事を貰えたらしい。一体、お兄ちゃんはフリンズさんにどんな恩を売ったの?聞いても答えてくれないから、もう聞かないことにしたけど。――彼の命でも助けたのかな。
 週に一回二時間程度で、場所は私の自室なんだけど、扉は開けておくという条件を兄が付けていた。そんなに神経質になる必要あるの?教えてくれるのはフリンズさんなので、別に問題なさそうなんだけど……
 毎週課題を出されており、事前に参考書と課題を解いておく。分からないところを来てもらった時に解説してもらうのだ。課題内容も模試を想定している内容で、とても為になる内容だ。フリンズさん、地頭が相当良いんだろうね。
 
「さて、今週はどこか分からないところありましたか?」
「ここなんですけど……
 学習机の右側に椅子を並べて座ってもらい、理解できなかった熟語や、なぜこの英単語が使われるのか――などを解説してもらう。解説してもらった箇所は理解しやすく、留学経験もあるらしいフリンズさんの発音は綺麗で、リスニングにも少し自信がついた。

 気になってた問題をクリアし、その場で出された応用問題を解いて解説してもらっていたら、あっという間に二時間なんて過ぎてしまう。掛けていたタイマーがピピピッと鳴る音が聞こえた。
「では、今週はここまでですね。次までの課題はこちらになりますので、進めておいてください」
「はーい、ありがとうございました」
 鞄から取り出された課題を渡して貰った後、片付けをするために彼が立ち上がる。私も参考書などを机上でトントンとまとめていると、はみ出した付箋を一つ見つける。
 ――あっ。
「フリンズさん、すみません……もう一箇所確認したいところが――
 声をかけながらフリンズさんの方を仰ぎ見ると、彼も私の手元を覗き込もうとしていたらしく、二人の目線が近くで合わさった。
――、すみませんっ!」
「いえ、こちらこそ。……聞きたかったのはどこの問題ですか?」
 めちゃくちゃ動揺する私とは反対に、彼は微笑みながら何一つ変わらぬ声色で続けていて、大人の余裕がずるい。「ここです」と震える指で指し示すと「あぁ、こちらでしたら――」と説明してくれたのだが、自分の心臓の音がうるさ過ぎて集中力出来ない。
「ちょ、ちょっとだけ待ってください」
「はい」
 スーハー、と深呼吸して少しでも落ち着かせる。よし。
……すみません、もう一度聞いても良いですか?」
「勿論ですよ。ではこちらの――
 
 二回目の説明はしっかり聞けた、と思う。相変わらず分かりやすい。聞き取った内容をノートにメモしていく。
「あぁ、惜しいですね。ここの単語の綴りが違いますよ」
「え、どこですか?」
 右斜め後ろに立つフリンズさんが、私のノートに手を伸ばして「ここです」と、指し示してくれる。その時、さらりとした何かが私の頬に触れた。横目で見ると、それは少し屈んでくれた時に降りてきた、彼の綺麗な長い髪の毛だった。思わず右手でその髪の毛を掻き分けると、またフリンズさんの顔を間近で覗くことになってしまった。
「おや、すみませんね」
――いえ、ちょっとくすぐったかっただけです」
「ふふ、そうでしたか」
 本日二回目となった綺麗な顔の観察は、初回よりも落ち着いて対応できた、のでは。……いや、やっぱり自分の心臓早いな?というのは、必死に気づかない振りをする。
 教えてもらった箇所も無事に修正し、今週の家庭教師時間は終わりとなった。


 ***


「今週もありがとうございました!」
「はい、お疲れ様でした」
 玄関まで彼を見送ると、リビングに居た母から「夕飯も一緒にどうですか?」と、声をかけられていた。しかし、フリンズさんはこの後用事があるらしく、断られてしまった……少し残念。
「次の模試の予定は、いつ頃でしたか?」
「来月ですね。せっかく教えて頂いてるので、良い結果が残せるように頑張りますね」
「それはそれは、僕も楽しみにしてます。――成績が良くなっているようでしたら、何かご褒美を考えないとですね」
「ほんとですか?!そういうことなら、気合い入れて頑張りますね」
「意欲があるということは、とても良いことですね」
 靴を履き終えてから私の方へ振り返り、私の頭をポンポンと優しく撫でた。……ちょっとくすぐったいね。
「それでは、また」
「はい、またお願いしますっ」
 彼が玄関の扉から出て、パタンと扉が閉じたと同時に私はしゃがみ込み、撫でられた頭を抑えて……少し悶えた。


 
「ふふ、良い傾向です。少しのスキンシップぐらいは……問題なさそうですね」
 そう一人で小さく呟き、停めていた車に乗り込んだ。

 

『ご褒美を欲しがるのは、どっち?』