みゃ
2023-12-16 19:54:03
Public 創作小説
 

小さな猫又とクリスマス

2019年12月に書いたやつ。あちこちに話が散らばってるのでべったさんに集めようと画策中です。

 クリスマスと呼ばれる日のことを、チトセは最近知りました。
 チトセは猫又です。そうなったのは最近のことで、まだまだ強い力なんてありません。人の言葉は前々から何となく分かっていましたが、意味をはっきりと理解できるようになったのはごく最近のこと。なので知らない言葉の方が多いのでした。(12.01)
 さて、そのクリスマスについて、チトセは最初にクオンに尋ねました。彼女は猫又の先輩です。
「ニンゲンが、特別なごちそうを食べる日よ」
「それなら、毎日あるといいのにね」
「それだとありがたみがないから、年に一度なのかもしれないわ」
 含蓄のある言葉に「なるほど」とチトセは頷きます。(12.02)
 次に、知り合いのニンゲンに尋ねました。ニンゲンはチトセの首に巻かれたリボンにほつれ止めの液を塗りながら、
「神様の誕生日だよ」
「そうなの? クオンさんはニンゲンがごちそうを食べる日って言ってたよ」
「チキンとかケーキとかかー……その方向だと、いい子がプレゼントをもらえる日だね」(12.03)
 プレゼント。その言葉を聞いてチトセの耳がぴくりと揺れました。
「いい子じゃないともらえないの?」
「そういうことになってる。サンタクロースというおじいさんがいて――
 ニンゲンはそのサンタクロースについて説明しています。チトセはきちんと相槌をうちながらも、別のことが気がかりでした。(12.04)
「チトセはいい子?」
 その問いに、ニンゲンは一瞬きょとんとしたあと、慌てた様子でうなずきました。
「もちろん。チトセはいい子だよ」
……そうかなあ」
 ただの猫であった頃も、猫又になってからも、日がな一日好き勝手にごろごろしているだけなのです。それでもいい子と言えるのでしょうか。
 思いついた悪戯だって、ついついしてしまいます。怒られると分かっていてもやってしまうのは、きっと猫の性というものなのでしょう。猫又になってもちっとも変わりません。だから、
「チトセ、悪い子じゃない?」
「本当に悪い子だったら、自分がいい子か悪い子かなんて気にしないんじゃないかな」(12.05)
「サンタさんもそう思ってくれる?」
 ニンゲンはチトセの額のあたりを撫でながら「もちろん」と、彼女の悩みの深刻さをまるで分かっていないような気軽さで頷きます。
「もし何か欲しいものがあるのなら、サンタさんにお手紙を書こうか」
「お手紙? チトセ、字は書けないよ」
「代筆するよ」(12.07)
「うーん……笑わない?」
「笑わない笑わない」
「あやしい」
「ひどい」
 そんな子に育てた覚えはありません、とニンゲンは言いました。くすくすという笑い声のついた言葉でした。
「育てられた覚えないよ」
 なのでチトセも軽く返します。育ち切って、猫又になってしまってからの出会いなのです。(12.08)
「それで、チトセは何が欲しいの?」
「ん――
 少しだけ迷い、けれどもチトセは口を開きました。
「お洋服」
 猫又だったり動物だったりしない友人たちが、迷いながらも楽し気に服を選んでいるのを見ると、チトセも身にまとってみたくなるのです。かつては「面倒くさそう」と思っていたのですが。(12.09)
「なるほど、お洋服」
 引き出しをひっかきまわしながら「そっかそっか」とニンゲンは頷いています。
「レターセットがどこかに――ああ、あった」
 エアメール風の封筒と便箋のセットを引っ張り出すと、ニンゲンは手紙を書きはじめました。文面はどう見ても日本語で、チトセは不安になります。(12.10)
……サンタさん、読めるの?」
「サンタクロース村のサンタさん、日本語で話してくれるっていうし大丈夫じゃないかな」
「そうかなあ」
 読むのと話すのはまた違うような気がします。
「それに、保育園とか幼稚園でお手紙書くの、この時期の恒例行事らしいし」
「書いたことある?」
「覚えてない」(12.11)
 ニンゲンは話しながらも手紙を書き終え、ネットで調べた住所を封筒に書き写していきます。
「どこに送るの?」
「フィンランド。さっき話したサンタクロース村に送るよ。後の手続きはよく分からないから窓口に持っていくね」
「ポストにはいれないの?」
 そこまで見届けようと思っていたのですが。(12.12)
「国際郵便の出し方、よく分からないし……手紙もプレゼントも、ちゃんと届くから大丈夫だよ」
 ぐりぐりと額のあたりを撫でてくる指に甘えながら、そうだといいな、とチトセは思います。
 街のあちこちが輝くクリスマスの日。その日が来るのが楽しみなような怖いような、不思議な気分になりました。(12.13)

 そんなチトセの気持ちなんてまるで知らないニンゲンは、ある日チトセを街に連れて行きました。
「どこのお店でもクリスマスソングがずっとかかってるのがなんだかね」
「嫌なの?」
「嫌なわけじゃないんだけど、ちょっと食傷」
 どこかきらきらとした、楽し気な曲がずっと聴こえていています。(12.14)
 聴こえる曲はどれもこれも楽し気で、チトセはずっと聴いていたくなりました。これを「食傷」と言ってしまうなんてニンゲンはとても心が狭いのかしらん、と思いましたが、決して口にはしません。
 だってチトセは、サンタクロースにプレゼントを貰えるような良い子でいなければならないのですから。(12.15)
「クリスマスマーケットにも行こうね」
「うん」
 うなずき、チトセはさっき聞いたばかりの曲を適当に鼻歌で歌ってみます。
 クリスマスマーケットが何なのかはまだ分かりませんが、ニンゲンが上機嫌なのできっと楽しいことなのでしょう。このニンゲンの気まぐれっぷりは猫と変わりませんし。(12.16)
 ニンゲンは人波を気にせずに歩いていきます。ペット用の鞄で揺られるチトセは、思い立ってひょこりと顔を出し、辺りを見回してみました。
 人間たちは皆、思い思いに冬の装いをしています。もこもことしたコート。ふかふかしていそうなジャケット。くるくると巻かれたマフラー。ふわふわの手袋。(12.17)
 服はやっぱり素敵、と改めてチトセは思いました。
 季節に合わせて自らに「似合う」服を考えるというのは、きっと大変なのでしょう。着てみたくても着ることができない服だってあるのでしょうし。(たまにニンゲンが「これ以上食べたら太る……太るとあれが着れなくなる……」とか言っていますし)(12.18)
 いいなあ、とチトセは再び思いました。
 たとえ着ることのできない服があったとしても、それ以外にも装いはたくさんあるのです。きっとその中には、「好き」が数えきれないほどあるでしょう。
 「好き」を身にまとうことができるなんて、やっぱり素敵なことです。
(でも選ぶの、難しそうだなあ)(12.19)
 まずは一着、それから先のことは後々考えればよいのです。
「さ、着いたよー」
 ニンゲンのその声にチトセは物思いから覚めました。
 まず感じたのはたくさんの良い匂いです。チキン、ビーフ、チーズ、貝や魚。甘い匂いもします。
「そしてこれがツリー」
 ふわあ、とチトセは息を漏らしました。(12.20)
 円錐状の塔。建物の二階ほどの高さがあるでしょうか。その面には針葉樹の葉に似た緑が敷き詰められ、色とりどりの球状のオーナメントが飾られていましまた。金や銀、赤色の球は、冬の乾いた冷たい風に揺られながら、傾いた橙色の陽射しに輝いています。そのきらめきはいかにも楽し気に見えました。
「もう少し暗くなったらイルミネーションが始まるから、何か食べながら待っていようね」
 ニンゲンの言葉にチトセは頷きます。とはいえ、猫が食べられるものは売っているのでしょうか。
 ツリーを広く囲むように立食用の机代わりの樽があり、さらにその周囲にはたくさんのお店が並んでいます。(12.21)
 それらはいわゆる出店なのでしょうが、チトセの知っているそれとは違います。おもちゃのログハウスのような、可愛らしい見た目なのです。
 ニンゲンはそこでホットのぶどうジュースとローストチキンを買いました。
「ぶどうはだめだから、こっち」
 ほぐしたチキンをチトセの口元に差し出します。(12.23)
 チトセは匂いを嗅いでみます。いつものご飯よりもずっと強い、食欲に訴えるような肉の匂いです。その他に、彼女にはよく分からないような調味料の匂いもします。
 食べてみると、肉は思ったよりもずっとやわらかく、良い香りがしました。食べても食べても足りないような気がします。
 ぱくぱくと食べるチトセの様子を面白がるように、ニンゲンは次々にほぐした肉を差し出してきます。くれるというのなら食べねばなりません。
 チトセが食べ、ニンゲンがぶどうジュースを飲む間、いつの間にか日が暮れていました。
 辺りは暗く――なりませんでした。ビルの灯りや街灯、そして車のヘッドライトが照らすのはもちろんのこと、
「!」
 ひときわ輝くのはツリーです。木は橙色めいた暖色の光をまとっています。冬の寒さを忘れてしまうような、そんな色でした。
 うっとりとツリーを眺めるチトセの小さな額を、ニンゲンがそっと撫でました。
「メリークリスマス、チトセ」
 そうでした。今日はクリスマス・イブなのです。なのでチトセもニンゲンの手のひらにぐりぐりと顔を寄せてやったあと、
「メリークリスマス」
 と、猫の笑顔を見せました。


 さて、いよいよその夜。サンタクロースが来るといわれる夜です。
 チトセはそわそわしていました。頑張って起きていようと思ったのですが、
「どうあがいても平日だからなあ」
 というニンゲンは電気を消して早々に床に就いてしまいました。遊び相手にもなりません。
(つまんないの)
 ぺしぺしと額をたたいてみますが、起きる様子はありません。
 外を好き勝手にうろついているであろうクオンを探そうかとも思ったのですが、ぴたりと鼻をつけた窓ガラスが凍っているのではないかと思えるほどに冷たかったのでやめました。
 やっぱりおうちの中が一番です。
 ニンゲンの布団にもぐりこんで暖かさを満喫しているうちに、いつの間にか眠りに落ちていました。(12.24)

 翌朝。アラームの音に、チトセはニンゲンと一緒に目を覚ましました。
 さむい、ねむいとぶつぶつ言いながら諦め悪く目を閉じているニンゲンを横に、チトセは恐る恐る体を起こし、枕元を見ました。
「!!」
 そこに、小さな袋がありました。赤地に金で星や雪の結晶が描かれていて、袋の口を縛るのは金色のリボン。いかにもクリスマスらしいラッピングです。
「ねえ、ねえ!」
「んー……
 なに、とニンゲンはやっと目を開きます。声があまりにもぼんやりしているものだから、ちょっと爪を出して頬を叩いてやろうかともチトセは思いましたが、ぐっとこらえます。
「開けて!」
「おお」
 目をしばたたかせ、ニンゲンは起き上がります。そしてプレゼントのリボンをするりとほどくと、袋の中身をチトセに差し出しました。
「わ」
 それは洋服でした。薄青色のセーラーワンピースです。裾にはレースがあしらわれています。
「帽子もあるね」
 ワンピースと同じ色をしたベレー帽です。白いリボンがくるりと巻かれ、可愛らしくリボン結びで結ばれていました。
 チトセはどきどきしながら、プレゼントに袖を通していきます。ボタンを留めるのはまだ難しかったので、ニンゲンに手伝ってもらいました。
「可愛い!」
 ニンゲンが歓声を上げます。チトセは鏡の前まで歩いていき、覗き込みます。
 鏡の中の自分が顔を輝かせました。
「似合う?」
「すごく似合う!」
 可愛い、可愛い、と言いながら、ニンゲンはチトセを抱き上げ、頬ずりしてきました。ちょっとうっとうしいかな、と思った一瞬後「まずい遅刻する」とニンゲンは慌ててチトセを下ろし、ばたばたと出勤の準備をはじめます。
 大変だなあ、と頭のほんの片隅で思いながら、チトセはまじまじと己の姿を再び鏡で眺めました。
 猫又だったり動物だったりしない友人たちが着ているような洋服。贔屓目かもしれませんが、他の誰が持っているものよりも素敵に見えます。
 チトセは窓辺に寄り、空を見上げました。冬の青空は、チトセが身にまとうワンピースの色にとてもよく似ています。
 明るい空にソリは見当たりません。けれども、言わずにはいられませんでした。
「サンタさん、ありがとうございました」
 いつかちゃんと、お礼のお手紙を出さなきゃ、とチトセは思います。
 そのときはまた、ニンゲンに代筆をお願いすることとしましょう。
――じゃあ、行ってきます。メリークリスマス」
「行ってらっしゃい。メリークリスマス」(12.25)


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登場人物が考え付かなかったので、うちの同居人(ドール)になりました。