たくとろ
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出茶 「拠り所」

429話後、1ヶ月経つか経たないくらいの話
2ページ目はプチあとがき

「デクくん、今日ちょっと時間ある?」
「うん。特に予定はないよ。何か用?」
「ちょっと練習に付き合ってほしいんだ。個性カウンセリングのいいかな?」
「もちろん。僕にできることならなんでもするよ」
「ありがとう。じゃあデクくんの部屋でいい?」
「うん、いいよ」

軽く了承した出久だったが、放課後部屋に戻ってカバンを置くと眉間に皺を寄せた。よく考えたら女子と部屋で二人きりになるということじゃないか!?いいのか!?いや何もしない何もしないけど!脳内を駆け巡った考えは次第に口に出てブツブツと唱えている。お茶子が部屋にやってくるまで数分、部屋を片付けるべきか、そもそも入れていいのか、出久の頭にはいくつものパターンが浮かぶ。そうこうしているうちにドアをノックする音がした。

「デクくん、入っていい?」
「あ!うん!どうぞ!」

反射的に答えてすぐ、ドアが開いてお茶子が顔を見せた。お茶子は出久と目が合うやいなや頬を丸くして微笑む。ドアを閉めたお茶子は部屋をキョロキョロと見回す。オールマイトのフィギュアやポスターがずらりと並ぶザ・オタク部屋だ。

「相変わらずデクくんらしい部屋やね〜!」
「ご、ごめん片付けた方がいいかとも思ったんだけど
「いいよいいよ。もしかしたらカウンセリング先の子の部屋に行くこともあるかもしれんし、それに私はこういう部屋好きだなあ。デクくんの好きが詰まっとるもん」
「へへありがとう。じゃあ早速始めよっか」
「うん。よろしくお願いします」

二人は向かい合って、床に正座で座った。お茶子はノートを開きながらカウンセリング練習の説明を始めた。

「えっと今日はデクくんの経験をそのまま聞かせてほしいんだ。無個性の頃のこと、ワンフォーオールを受け継いでからのこと、これからのことよかったことも辛かったことも聞かせてもらえたらなって」
「なるほどでも、麗日さんがやりたい個性カウンセリングに僕が無個性だった頃の話って役に立つかな?無個性は僕たちの世代でもかなり珍しいし、これからまた減っていくだろうから
確かにデクくんとまんま同じ経験する子は少ないと思う。でも、ゼロじゃないからちゃんと知っておきたい。それに、後天的に個性を使うのが難しくなる子もいると思うし、そういう子のためにもデクくんの話はすっごく参考になると思うんだ」

お茶子はそう言ってにっこりと笑った。初めての下校の時を彷彿とさせるような彼女の笑みに、出久は目を輝かせて頷いた。

「そうだね。よし、じゃあまずは無個性だった頃からかな?」
「うん。聞かせて」
「あの頃はやっぱりけっこう辛かったなあ。ずっとオールマイトみたいなヒーローになりたかったのに、個性が無いから諦めた方がいいって言われてお母さんにごめんねって泣かれてかっちゃんにもずっとバカにされてたし

出久は頬を指で掻きながら語った。暗くなりすぎないよう少しばかり笑みを浮かべる。お茶子は出久の表情を見ながら話をメモしていく。

「やっぱり、いじめが一番辛かった?」
「うーんどうだろう確かにバカにされるのは辛かったけど、それそのものより、ヒーローになれないって決めつけられるのが辛かったかなそれでもヒーローになるんだって意気込んでても、僕自身どこかでそれは無理なんだって思ってたところもあって誰にもヒーローになれるって信じてもらえなくて自分でも信じられなくなっていくそれが苦しかったんだ」
そっか。そうだよね、誰にも応援されないなんてそんなん自信失くす

お茶子の瞳は曇り、憂いな顔を見せていた。そんな彼女を見て、出久は微笑んだ。

「でも、だからこそ憧れていたオールマイトに『君はヒーローになれる』って言ってもらえて、ワンフォーオールの後継に選んでもらえて、憧れの雄英に入ってヒーローへの道を踏み出せたのが嬉しかったんだ」
「デクくん
「それに入学してすぐ、麗日さんが言ってくれた。デクは頑張れって感じがするって。あんな風に言われたのは初めてだったし、ずっと嫌なあだ名だと思ってたから本当に嬉しかった。ありがとう、麗日さん」
!も、もうお礼言われるようなことじゃないし今言うことでもないやろ?」
「あはは。そうだね、でも僕にとっては大事なことだから。それに、もし僕と同じような立場の子がいたら、僕にしてくれたみたいに応援してあげてほしいんだ。きっと元気が出ると思う。麗日さんは素直で優しくて明るくてきっと色んな人の心を照らしてあげられるよ」
「ほ、褒めすぎやってでも、ありがとう。応援うん、どうすればいいか分かってきた」

両手を力強く握って、お茶子はノートにデクの言葉と自分自身が気づいたことを書き込んでいく。応援で救われる人がいること、それはきっと個性があるかどうかに関わらないこと。トガヒミコの個性は誰かを助けることができる個性だった。でも周りの環境がそれに気づいてあげられなかった。気づいて後押ししてあげれば、彼女自身の欲求も満たせる生きやすい社会にできたかもしれない。個性のことで苦しんでいる人の素敵なところを見つけて、応援する。目指すべき道が見えてきていた。

「じゃあ次は、ワンフォーオールを受け継いでからといっても、辛いことと言えば、力を上手く使えなくてみんなに心配をかけたり、助けたい人を助けられなかったり多分、ヒーローを志す人ならみんなぶつかる問題で、僕はただ強くなって乗り越えるしかなかった」
「そうだね。デクくんはいつも目標のためにいっぱいいっぱいででも、怪我の痛みとか、それで怖くなったりとかはせんかったん?」
「うーん確かに百パーセントのスマッシュを撃つと痛くて動けなくなるし、それは弱点だから合宿の時とかそのせいでかっちゃんを助けられなくて辛かったし、もうそんなことにならないようにもっと訓練が必要だとは思ったけど、痛いから嫌だとかは思わなかったよ」

出久がやや早口でそう語ると、お茶子は体が固まったまま唖然として、しばらくして大きく息を吐いた。

ほんとデクくんは爆豪くんがああ言ってたんも分かるわ」
「え!?なに!?」
「ううん、こっちの話。って、あかんよね、カウンセリングでため息なんて」
「あははちょっと休憩しよっか。チョコチップクッキーあるけど食べる?」
「食べる!」

元気にいただきますと言って、お茶子はクッキーにかじりついた。スーパーやコンビニによく置いてある普通のクッキーだが、彼女は無垢な笑顔で味わう。出久もまた、その顔を見て微笑みを浮かべながらクッキーを食べた。
休憩を終えてカウンセリングの練習に戻ると、お茶子は真剣な顔で聞いた。

「最後にこれからのこと期待も不安も教えて」
「うん。ワンフォーオールの残り火は、多分そのうち無くなる。今までみたいにヴィランと戦って誰かを助けるのは、多分難しくなると思う」
やっぱり、ヒーローの夢は
「うん僕が思い描いたヒーローの夢は終わり。でも、憧れのオールマイトから最高のヒーローだって言ってもらえて、たくさんの人を助けることができて、社会が少し変わって、もう十分いい夢を見せてもらった。元々、授かった力で目指すことができた夢だから、仕方のないことだしちゃんと整理はついてるよ」

出久は胸に手を当てた。鼓動と共に、ワンフォーオールの微かな残り火が弱々しくも燃えているのを感じて、彼は続けた。

「新しい目標もできた。先生になって、これから育つ子どもたちを最高のヒーローにするんだ。今までの僕の夢は終わっても、僕の人生はまだまだ続いていて、そこでしたいことも決まってる。だから、あんまり不安とかは無いんだ。みんなと同じゴールを目指せないのは寂しいけど

話している間に、出久は自分の拳を見つめていた。これからの未来に幾重の想いを重ねて。すると、床に何かが落ちて転がる音がした。目をやると、それはお茶子の手にあったペンだった。さらにノートも、彼女の膝に落ちた。出久が顔を上げると、お茶子は両手で顔を拭いながら泣いていた。

「麗日さん!?どうしたの?大丈夫?もしかして僕悪いことを
「違うデクくんは悪くなくてごめんあんときデクくんの前でいっぱい泣いて、梅雨ちゃんやみんなにも慰めてもらって、もう大丈夫やって自分でも思っとったのにメンタル弱なったんかな
「麗日さん?」

彼女が泣いている理由が分からないながらも、出久は彼女の手を握った。少しでも気持ちを和らげてあげたい。その一心で。

「ごめんデクくん困らせて
「ううん、困ってなんかないよ。辛いことがあったんだよね?聞かせて」
デクくんの残り火の話あの日、聞いて思ったんだ私が心配させたせいで、デクくんがヒーローやれる時間奪ったんちゃうかなって
「!そんな麗日さんのせいじゃ!残り火はいつかは無くなるんだ。だから!」
「でもっ!あの時デクくん飛ばしてきてくれたんやろ?私が変に抱え込まずにみんなにヒミコちゃんのこと相談してたら、デクくんに無理させずに済んで、ちょっとでもちょっとでもデクくんがヒーローできる時間が増えたかもしれへんやろ!」

静かで、力強い、出久ではなく、お茶子自身を責め立てる言葉だった。出久に握られた自分の手を、彼女は睨んだ。こんな風に握ってもらっていい手なのかと、内心でも自分を責める。そんなお茶子の手を、出久はさらに強く握った。

「麗日さん、確かにその通りかもしれない。でも、僕はあの時麗日さんの元に行くのにワンフォーオールを使ったこと、絶対後悔なんてしないよ」
デクくでもずっと夢やったのに諦めろって言われて自分でも諦めかけてでもやっと勝ち取ったのに
「この力は誰かを助けるための力だから。受け継がれる中で、たくさんの人を救ってきた。その力を、大事な友達を助けるために使えて、僕はすごく嬉しいよ」

お茶子は少し顔を上げた。淀みのない、胸の内をあたためるような優しい笑顔が目に焼きついた。

「僕は君に何度も救われてまだまだ返したりないくらいだ。君が辛い時に一番に駆けつけて、受け止めてあげられるなら、残り火全部君に使ったって後悔しないよ」
あかんよそれはそんなん、私だけのヒーローになっちゃう

お茶子は出久の胸に顔を埋めた。出久は彼女の手をしっかりと握って、空いてる手で背中を撫でた。「それでもいいんだ」という言葉をかけて。
しばらくして、泣き止んだお茶子はまだ出久の胸にいた。握られていない手で彼のシャツの裾を掴んだまま動かない。

「あかんよねカウンセリングの練習に付き合ってもらってるのに私が泣いて、逆にカウンセリングされてる」
いいんじゃないかな。ちょっと冷たい言い方かもしれないけど辛い時、誰かにきちんと甘えられない人に相談なんてできないよ」
そうだね。誰かを支えるなら、ちゃんと支えられる側の気持ち、知っとかなあかんよねごめん、もうちょっとだけこのまま
「うん。大丈夫だよ」

お茶子はより深く顔を埋めた。握り合った手のぬくもりが、背中に置かれた手の大きさが、彼女にとって、ただひたすら心地よかった。しばらくして夕飯時になり、二人は気持ちを切り替えてみんなの元に向かった。今日の涙は秘密にして。