toozawa
2026-01-12 00:55:48
3634文字
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二十歳の誕生日に兄貴からバイクのキーを貰う話

小説のようなメモのような小話前半。げんゃの誕生日に向けて続きをあげます。さねげん要素そんなに無いですがさねげんです。誤字脱字はご容赦。

 「駄目だって言ってんだろ」

 大学二年の夏休み前、俺の必死の説得が虚しく却下されるのももう何度目か。ダイニングテーブルに座っていた兄はこれ以上話す事はないというように、視線を向かいの席に着いていた俺から外し手元の朝刊に移した。
 何故俺が必死に兄にお伺いを立てているのかというと、俺より五つ年上で社会人の兄が不死川家の長男兼随分と前に亡くなった父親の役割も担っており、何かにつけても先ずは母と兄の許可を取るようにと俺含む下のきょうだい達は自然とそういう風になっているからだ。しかし俺ももう来年には二十歳になるしとっくに成人(十八歳)は過ぎているのだから、自分のことはある程度自分で決めてしまっても良いような気もするけれど。正直ここまで暖簾に腕押し状態なのは予想外だった。

 そんなに難しいお願いをしているのだろうか。ただバイクの免許が欲しい、というのは

 バイクは死んだ父が若い頃乗り回していたらしく、幼い頃に見た大型バイクに跨って格好つけている父の写真を見せて貰ってから俺の密かな憧れでもあった。父は俺の物心ついた頃にはバイクには乗っていなかったが、好きなのは変わらなかったようで酒が入るとよく自慢のように話していたのを覚えている。そうしているうちにいつかは自分もバイクに乗りたいと思うようになったのは自然の流れな気もする。
 そしてそれは実のところ兄も同じなのだ、何故なら断固として俺のバイク免許取得に反対している兄は、十八になったその年すぐに大型バイクの免許を取り何年も乗り回しているのだから!あまりにも理不尽に感じてしまうのはしょうがないだろう。なぜ自分はよくて俺は駄目なのか!
 バイクの免許を取りたいと言った時、いつもは温厚で子供たちのやりたい事はなるべくやらせてくれていた母が難色を示したのも兄が頑なに許可を出さない原因でもある。母曰く、「バイクに乗りたいなら、今まで通りお兄ちゃんの後ろに乗せてもらったらええんやない?」だ。そう、俺は度々兄が運転するバイクの後ろに乗り学校の送り迎えや日帰りの小旅行などに連れて行ってもらっていた。母としては本当は子供たちに危ないからバイクには極力乗ってほしくは無い(父が若い頃バイクで大怪我をしたらしい)が、兄には一番信頼を寄せているので許可を出しているといったところだ。なんだそれズルすぎる、羨ましすぎる。
 こういう訳で母と兄にタッグを組まれ、難攻不落の要塞が出来上がったというわけだ。最早半分以上諦めかけているが、一縷の希望に賭けて度々交渉しているのである。今日は兄も俺も休日で時間も融通がきくし、きょうだいたちはそれぞれ出かけて行き大家族の不死川家にしてはめったにない静かな空間、絶好の交渉日和だ。
 「なぁ、兄貴。俺だって来年二十歳だぜ?そりゃ兄貴よりは色々、出来は悪いかもしれねぇけど……ちゃんと安全運転するし、無茶はしねぇ。もし万が一、億が一!事故っても身体だって人一倍頑丈だし大丈夫だよ。だから、お願いします!バイクのめんき「駄目だ」
……食い気味に言われた……
 「お前ぇな、安全運転なんて当たり前だァ。自分がどんだけ安全に運転しててもどっかのバカがやらかしてこっち突っ込んでくる事だってあんだよ。道路状況でスリップしたり、山道で落石だったり野生動物が出て来たりしかも当たられたら高確率で大怪我すんのはバイクだ。自分が事故る事前提で話す奴になんざ間違っても許可できねェな」
 もう何回と聞いた台詞を若干ため息混じりに言われてなんだかこっちが情けなくなってきてしまう。今の言い分はそのまま兄貴にもあてはまるのだが、そんなに信用がねぇのか俺は……いや心配してくれているのは分かっているが、こちとら身長180cmある同世代の中でもガタイが良い部類の男である。ちょっとばかし過剰ではないか。
 「お袋も言ってんだろ、バイク乗りたきゃ俺の後ろに乗っけてやる」
 「……それも別に嫌じゃないんだけどさ。兄貴と出かけるの好きだし……
 どうにも不甲斐なさが態度に出てしまい顔を俯かせチラと上目遣いで兄を見やる。と、目が合った兄の短い眉が少しだけピクリと動いた気がした。……なんだ?今の何が兄の琴線に触れた?少し押してみるか……
 「でもやっぱり俺は兄貴の隣を走りたいんだよ。なんつぅか、憧れるだろ?バイクで並走してツーリングって……
 目線は兄に向けたまま眉を下げて同情を誘うような顔をしてみた。兄は何も言わないままだが俺を真顔で見ていた。いつもなら素気無く話を終わらせるのに、何か考え込んでいるような素振りだ。いける、のか?ひょっとして、兄は……
 「後ろに乗っけて貰うの良いけど、それじゃ兄貴ばっか疲れちまうし、俺が免許取れば兄貴を後ろに乗せて走るのも有りかと思うんだけど……!」
 とうとう兄は腕を組んで目を閉じ俯いてしまった。無言ではあるが少し眉間に皺がより、何かを耐えているような表情だ。これは良い兆候なのか?何となく兄は、俺と一緒に出かけることに重点を置いているのでは?とさっき思いついてそこに訴えてみたのだが、かなり良い線をいっていたのかもしれない。
 「それにニケツだっていつまでも出来ないだろ?兄貴だって歳いけば……
 「俺がそうそうに衰えるって言いてぇのか」
 「そうじゃなくて!」
 兄が閉じていた目を即座に開け俺を鋭く睨みながらそう言うので思わず身をすくめてしまった。つぅかそんな遮るように言われると逆に気にしてんのかと思うんだけど……
 「違くて。俺だっていつかはおっさんになるし、おっさん二人でニケツは色々とキツいだろってこと!」
 「俺はそれで全然構わねェけどな」
 フン、と兄は誠に遺憾であると顔に出しつつ鼻を鳴らした。
 「……つぅかお前ェはおっさんになっても俺と一緒に出かけてぇのか」
 「?当たり前だろ」
 俺が何を当然のことを言うんだろうかと迷いなく返答したら、兄の口元がほんの少しだけ緩んだように見えた。やっぱり兄は意外にも俺と二人きりの時間を楽しみにしていてくれたみたいだ。ということは活路もここに見出すしかない。
 「だからな、兄貴!俺はおっさんになっても兄貴と二人で出かけたいし、今までは日帰りだったけど俺が免許取れば泊まりで遠出したりとかも気軽にしたい、と、思っているんだけど……
 『泊まりで』のところで何故が兄が急に咳き込んだので拙いことでも言っただろうかと最後の方は尻込みしてしまった。しかし兄は揺れている、というか動揺している?ようなのでここで畳み掛けてみる。
 「出かけるだけなら電車でも行けるのは分かってる。でも俺はバイクも好きだけどバイクに乗ってる兄貴にも憧れてるんだ!すげぇカッケェなってずっと思ってたし、バイク乗れる歳になったら並んで走りたいってのは俺の夢、というか目標でもあって!」
 今まで恥ずかしくて言えなかった本音もこの際ええいままと混ぜて伝える。父に憧れていたのは勿論ある、でも父が実際運転していた所は見た事がなかったし、だからバイクを乗っている兄をずっと側で見てきた自分が父以上に兄に羨望の眼差しを向けるのは当然の成り行きだと思う。
 「お願いします!本当に気をつけるから!絶対家族に迷惑はかけないようにする!」
 悲願達成のためとはいえ態々本人に告げる気はなかったことを真っ直ぐぶつけ深々と頭を下げる。気まずさと照れから顔に熱が集まるのが分かった。目の前に座る兄はどんな顔をしているのだろうか。
 「分かった……
 聞こえた兄の言葉にバッと顔を上げた。兄はまだ僅かに眉間に皺を寄せて渋々といった顔をしていたが、まとう雰囲気はどこか柔らかかった。
 「ほ、本当……?」
 「あァ」
 「やっ!」
 「ただし条件がある」
 とうとうお許しが!と両手を上げ喜ぼうとしたところを、兄の厳しい声でピシャリと制止された。
 「条件?」
 「そうだ」
 何だろう、色々ありそうだが……一応免許取得のための資金はせっせとバイトをし貯金していたので自分で支払うつもりだ、と伝えたら金のことは気にしなくて良いと言われた。分からないと表情に出ていたのだろう、兄が俺の目を真っ直ぐ見て言った。
 「筆記試験で満点取れ。言っとくが免許センターで受ける奴じゃねぇぞ。アレは90点で合格でちまうからなァ。俺が作る試験問題だ。」
 ……は?
 「兄ちゃんがつくる……?」
 言われてる意味が分からなくて思わず兄ちゃん呼びになってしまった。
 「おゥ。教本全部暗記しとけ。」
 え?
 「ぜ、全部?!」
 「ったりめぇだろうがァ。たかだか95問で合格できると思うなよ?交通ルール頭に入ってるかしっっかり試験してやるから、せいぜい気張れや」
 
 マジかよ?!

 かくしてバイク免許取得にむけた猛勉強が始まったのであった。

続く