(#2)
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次の任務地ではバスローブが溶けてなくなってしまい、またもや全裸になってしまった宿儺先生にお渡しできる布製品といえば、車に常備してあったタオルのみ。
仕方なく大判のバスタオルを渡して腰に巻いてもらった。
どっ、どうしよう
……。
僻地すぎてコンビニもないし、こんな雄っぱい丸出しの格好になってしまった宿儺先生を外で歩かせる訳にはいかない。
しかし私の服だとサイズが合わなすぎて、きっとジャケットに袖を通そうとするだけで破れるだろうし、こういった場合どうすれば良いのだろうか。
圏外ギリギリの微弱な電波を頼りに最寄りのコンビニと衣料店を探してみるも、どちらも現在地から一時間はかかるらしいし、なんなら今日押さえているらしい宿が一番最寄りである。
スマホ片手にウンウンと唸っていると、後ろからヌッとそれを覗き込んだ宿儺先生が、私に指示を出す。
「構わん。このまま宿へ向かえ。」
「いやっ、でも宿儺先生!温泉に入る前からタオル一枚だなんて、そんな!」
「馬鹿者。誰がこのまま出歩くと言った。」
「───???」
「今回は泊まりがけだったからな。トランクに替えの服がある。」
「さ、さすが宿儺先生!」
「だが明日の任務で、これらが無事かは判らんがな。」
「
…………っぐぅ
…」
ラッキースケベ体質に巻き込んでしまっている申し訳なさで何も言えずにいると、宿儺先生は車のトランクを開け、荷物から大きなポロシャツを取り出す。
着ている服も大きいな、と感心して眺めていると、宿儺先生にそれが着られた途端、あんなに大きかったポロシャツはなんだかピッチリ小さく感じるようになった。手品?
「───おい。」
「はい?何でしょう?」
「このまま俺の着替えを見続ける気か?」
「っは?!え?い、いや!!違います!見てません!」
「嘘をつけ。」
「こっ、これから見ません!」
無意識に見続けてしまっていた自分にびっくりしながら、車の運転席へと逃げるように飛び乗った。
ドクドクと激しく脈打つ心臓を片手で押さえながら、動揺で震える指先を動かして、目的地の宿泊先をナビに入力を終えると、車が軋み揺れてドアが閉まる。
「もう良いぞ、出せ。」
「はっ、はい!出発します!」
宿儺先生の静かな声が車内に響き、私は慎重に車を発進させた。
現在、山間部に居るせいなのか、夕方から夜になるまでの時間が普段の体感よりもかなり短く、心の準備をするよりも前に周囲はあっという間に暗くなってしまう。
民家さえも疎らなこの地には、もちろん外灯というものが存在しないので、ただでさえ慣れない山道で、車のライトに照らされた部分しか見えない真っ暗な道に焦りを抱く。
「山道なのに、ガードレールが無い
……これ、落ちたら
…即ち、死?」
失敗は絶対に許されない。
緊張をポツリと口に出して冷静になろうとするが、じわりと手に汗が滲んでくるのを感じる。
車一台が通れる道幅が続き、たまに申し訳程度のすれ違いがギリ可能なくらいの道幅が現れてくれるが、カーブもあるし、ガードレールがあったりなかったりするのが信じられない。道端のガードレールって道という道、全てに必要なものなんじゃないの?
頭の中に駆け巡ったものを口に出したり、出さなかったり独り言を発していると、宿儺先生が忙しくしている私を嗤う声と、後部座席から前へと乗り出すような気配を感じた。
「
……おい。」
すると車内の空気が揺らいで、宿儺先生の匂いがする。
一日戦ってきた彼から、すっかり薄くなった香水の香りと濃くなった彼独特の匂い
…体臭というか、汗の匂いがふわりと漂う。
あぁ、この匂い
……、好きすぎて目眩がする。
「まッ
…待ってください動かないで、良い匂いするんで!!!!!」
「
……あ゙?何を
…」
「無理です!私、運転中なので話しかけないで下さいぃ!事故ったら死んじゃいます!」
「気にするな、俺は交通事故程度では死なん。もう少し楽に運転しろ。」
「は!?え?!でもそれって、“俺は”って言ってる宿儺先生限定ですよね!?私は!私はどうなるんですかッ!?ひどいです!!補助監督だって、生きているんですからね!」
ぴぃぴぃと騒ぐ私に反応は返ってこないが、喉を噛み殺すように嗤っている声が耳に届く。
もうこれは今日が命日かもしれないと心のどこかで諦めかけた時、急に視界が開けて突然細い山道から解放された。
相変わらず外灯は無い暗い道だが、安心してすれ違いのできる道幅になったのはなんとも嬉しい。
「たっ
……、助かったァ
…」
「良かったな。」
「生きて帰れました
…。」
「あの程度で死ぬ訳が無いだろう。」
「
……!!すっ
…、宿儺先生は大丈夫かもしれないですが、私は駄目ですからね?!そこんとこ、解ってらっしゃいます!?」
バックミラー越しにニヤつく彼と目を合わせ、ワナワナとハンドルを握って声を荒らげたが、宿儺先生は微塵も気にする様子がなく、真っ直ぐに私を見つめ返して言葉を続けた。
「俺が指名して連れて来たんだ。術師より弱いお前を守り助けぬ訳が無いだろう。」
「なっ
…、ッえ?!そっ
…それはッ
……つまり!?」
「ほれ、前を見ろ。道の中央に獣が居るぞ。」
「えッッッ!?ほあ!!?鹿!!?!??!」
突如現れた大自然あふれる生物の登場に意識を全て奪われ、速やかに減速をして緩やかにハンドルを切って避ける。この間、私の中ではスローモーション。
鹿を回避して平静を取り戻した時には、もう宿儺先生はこちらを見てもおらず、腕組みをして目を閉じ会話を終了させていたのだった。
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