(#1)
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なんだか緊張して早くに目覚めてしまった。
宿儺先生に、まさか任務同行にご指名されるとは。
早めにセットしたアラームよりも更に早く起きてしまったので、入念に顔面を整え、身支度も手荷物も入念に整えた。
うん、いつもよりも何割か増しで素敵な見た目になれている気がする。
───が、しかし。
集合場所に現れた宿儺先生は私を見るや否や、顔を顰めた。
「お前は、俺とデートでもする気で来ているのか?」
「えっ!?
……え?!なんッ?!なんて!?」
薄々気付きつつも、自分では気付かないフリをしようとしていた彼への好意の表れを指摘されたような気がして、動揺と羞恥で顔から火を噴きそうなくらい真っ赤になる。
任務だというのに、自分は何故こんなにも浮かれた準備をしてきてしまったのだろう。そして、その事に指摘されるまで気付かないなんて、恥ずかしすぎて死にたい。
アワアワと何も言い返せない私が、目を激しく泳がせてパニックになっていると、宿儺先生はフン、と笑って、すれ違いざまに頭をポンと軽く撫ぜた。
「車を出せ。乗り心地が悪ければ、お前はクビだ。」
「ひゃい、一所懸命に頑張らせていただきます!」
大股でのしのしと歩く宿儺先生の後ろを、私は置いていかれないように小走りで追いかけたのだった。
───高速使って、2時間強。
公共交通機関では辿り着けない山奥の細いトンネルを越えた、その先。
呪い蔓延る廃村が今回の目的地。
車から降りて、異様に冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んで深呼吸。
周囲に生き物の気配はないのだが、見られているような視線と重たい空気が纏わり付く。
しかし私にとっては、こんな外の空気でも緊張の連続だった車内よりは幾分マシに感じ、深呼吸を更にひとつついた。
幸い、運転技術に難は無かったようで、道中も今も、宿儺先生から何も指摘されなかった事に胸を撫で下ろす。
「そういえば宿儺先生、今回は一人任務なんですか?」
「あぁ。」
「もしかしてですけど、私が運転しなくても
…一人で来れた感じですか?」
「
……まぁな。」
「え
…?じゃあ私は元々必要無かった
…ってこと?」
「ついて来い。帳はお前が降ろせ。」
有無を言わさず大股で歩き始めた宿儺先生の後を、慌てて『非常用グッズ』の入った荷物を引っ掴んでから小走りでついて行くと、わかりやすく更に空気が重く冷たくなってゆき、鬱蒼と茂った背丈の高い木々のせいで、辺りは昼なのに薄暗くなってゆく。
周囲を注意深く見回していると、遠目に集落のようなものが見えはじめ、朽ちて屋根の落ちた木造の家だったものは苔生し、かなりの歳月を放置されていた様子が窺えた。
すると突然、ピタリ
…と宿儺先生が廃村に立ち入る前に足を止め、振り向く事なく私に指示を出す。
「此処から広めに帳を降ろし、外で待っていろ。」
「はいっ、いってらっしゃい!お気を付けて!」
まとわりつくような悪い空気を払うよう、意識して腹の底から元気な声をあげると、一瞬
……、宿儺先生から戸惑うような空気を感じたが、やや間をあけて振り返った彼と互いの視線がかち合うと、私を射るような鋭い視線はそのままに片側の口角が少し上がった。
「
…………存外、悪くないな。」
「え?なんて?」
「早く帳を降ろせ。行ってくる。」
「はい!わかりました!」
────闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え。
詠唱を終えると周囲の薄暗い世界に、より濃く黒い闇が垂れ落ちて包み込む。
宿儺先生はこちらへ振り向く事なく、真っ黒に塗り潰されてゆく夜の帳へ飲まれて消えていったのだった。
そういえば、今回の任務も一人で行く予定だったと言っていたし、宿儺先生はいつも一人任務
…。いや、でも生徒さん達の任務には同行するらしく、特に伏黒君の術式をいたく気に入っているらしく、目にかけて育てようとしているという噂はよく聞く話かも。
一般呪術師と任務同行は聞いたことないけれど、生徒さん達はちょくちょく研修も兼ねて一緒に任務に連れて行くんだとか。意外に面倒見がいいのかもしれない。
私も宿儺先生の授業、受けたかったなぁ
……。
などとぼんやり思いながら周囲への警戒は解かずに待機をしていると、足の裏で地面が少し揺れている気配を感じ取る。もしかすると、帳の向こう側は大変な事になっているのかもしれない。
解か、捌か、はたまた開(フーガ)か。
不謹慎ながら、噂だけで聞き知っている宿儺先生の強さに少しだけワクワクとした浮き立つ気持ちを抱きつつ、帳が上がるのを待っていると、今度は更に大きな振動が足に伝わる。
……あれ?もしかして、今回の報告書を上げるのは私?まさか、いや、確実に
…これは大変な事になりそうなのでは?
はた
…と、気付きたく無いことを気付いてしまい、じっとりとした汗をかきはじめていると、急に視界が開けて明るく眩い世界が広がるので、目が慣れずに顔を顰めた。
目の前いっぱいに広がる、ぼんやり眩しい世界にはぽっかりと空間があいていて、先ほどまであった朽ちた古民家も、空を隠すように鬱蒼と茂っていた木々も、まるっと綺麗に何にも無い。
次第に眩しさに慣れてきた目が捉えたのは、野焼き後のような広大な灰白い大地を踏み締めて真っ直ぐ歩いてくる肌色の人の影。
────肌色?
見間違い?
いや、圧倒的肌色。宿儺先生、隠して。見えてる!ものすごく見えてる!なんか、すごいぶらぶらと揺れてる!!?!宿儺先生のご立派様がッ!いやっ、隠して!隠してってば!!!!
これ以上見てる様子を悟られてはならぬと、乙女としての尊厳を保つため顔を手で覆い、宿儺先生に無防備に露出しているところを隠してもらうように注意しようと声を出した。
「でッッッッか!!」
違う、そうじゃない。完全に間違えた。
本来言おうとしていた言葉とは違う、ブツを見た率直な感想が口を割って出てきてしまった。
この驚きは、物心ついてから偶然お父さんのイチモツを見てしまった時のアレだ。
ともあれ、なんとか信頼回復に努めたい私は、あわあわとしながら顔を覆った指の間から彼との距離を測りながら、弁明の言葉を練っていると、宿儺先生はひょいと地面を軽く蹴って、ふわりと私の隣へと一気に近付いて舞い降りる。
「そんなに指の間から見る奴があるか。」
「いっ、いや!隠して下さいってずっと言ってますからね!!私は!(心の中で)」
そうだ、持ってきた非常用グッズの中に、同行者が全裸になってしまった時用のアイテムを用意してきているので、宿儺先生へお渡ししなければ。
大きなカバンの中から、白くフワフワのものを引っ掴んで素早く取り出すと、やはり発動してしまったラッキースケベへの謝罪の意を込め、頭を下げながら両手で宿儺先生へ綺麗に折り畳まれたバスローブを差し出した。
「フンっ
……まぁ良い。お前との任務は、いつもこうなのか?」
「す、すみません。だいたい
…、こうですね、はい
…」
怒られているような気がして、頭を下げたまま目の前にある宿儺先生のゴツゴツとした大きな足をしげしげと眺める。
こんな大きな靴、サイズあるのかな。特注?
まぁ宿儺先生ほどの術師になれば、履物を全部特注で買っても別にお財布は痛まないのかもしれない
…。
───などと意識を遠くへ旅立たせていると、静かで低い声が頭上から降ってくる。
「このまま次の場所へ行くぞ。」
「
…………へ?」
聞き間違いかと思い顔を上げると、白いバスローブを着て腕組みをしている宿儺先生は、私を真っ直ぐに見つめてニヤリと満足そうに嗤っていた。
怒ってはいなそうで良かったが、ゆるく纏ったバスローブの前がはだけすぎていて、戦闘後でパンプアップされた立派な胸筋から、ヘソ下の際どい所までが美しく露出してしまっており、あまりの良いカラダに、これからナニカの撮影が始まってしまうかと思って顔が赤くなってしまう。
「あ
……、あのぉ?」
「今回は俺の術式をまるまる返すことのできる妙な術を使う特級呪霊がおって、この通り全て燃やされた訳なんだが、なかなかに手応えがあって面白くてな
…。お前を連れていれば、これからも斯様な予想外の事が起きる、という事であろう?」
饒舌に帳の中の状況説明をしながら、ニコニコとしている宿儺先生はまるで新しい遊びを覚えた少年のようで、今回の任務がよほど愉しかった事が窺える。
「そう
……なんですかねぇ
…。私にはさっぱり。」
「さて、次は何が起きるのか、期待しているぞ。」
そう言う宿儺先生は、またすれ違いざまに私の頭をポンと軽く撫ぜると、車に向かって先を歩き始めた。
はためくバスローブの裾がマントのようでかっこいいが、そんなに大股でズンズン歩いたら大事な中身が見えてしまうのではないだろうか
……。
次に宿儺先生と任務に入る時には、非常用カバンにパンツも用意しておかなければならない
……などと、そんな事を考えながら、立て続けに近接している次の任務地へと私達は向かったのだった。
《続》
(#3)
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