華子
2023-10-24 22:05:44
1386文字
Public 1話完結(宿夢)
 
1929829

(全年齢)お月見(一話完結)(宿夢)

生前様とお月見する話。

🌸🌸🌸🌸🌸🌸
「───偶には、散歩もいいだろう」


 宿儺の思い付きで、日が沈みきった少し肌寒く涼しい夜、二人で手を取り合って歩く。

 屋敷から少し歩いた所にあるススキ林に到着すると、背が高いススキ林のけもの道を並んで歩く。
風に撫でられ、そよそよと揺れ擦れるススキの音と、虫の音しか聞こえない静けさが、なんとも心地がよい。


さて、ここらで月見でもするか?」

 ふと歩みを止めて、宿儺様が私を見下ろす。
その言葉に空を仰ぐと、🌸の背丈からは周囲のススキの方が大きいので、ススキの穂がまるで月を撫でているかのような景色が見えた。


そうか。お前からはこのススキ林も見渡せぬな。よし、此方へ来い。」

 ひょいと身体を軽々と持ち上げられたと思ったらば、担がれるように宿儺様の肩に乗せられる。🌸は急な浮遊感に身体が強ばり、宿儺様の頭へと思わずしがみついたのも束の間。
飛び込んできたその光景に、感嘆の息を小さくもらした。


……綺麗。」

 宿儺の肩に乗せられた事により、普段は見られない高さでの視界が広がり、よくよく見渡せるようになる。

宿儺達の周囲を取り囲んで、優しい月光に照らされ、黄金色に輝くススキの穂が、風に揺れて海原ように波打っていた。


 暫し夢中でその光景を眺めていたが、
──ッくしゅん、
肌寒いと、立ち上がった鳥肌に🌸が気付いた頃には、くしゃみがひとつ出てしまう。


「なんだ?寒いのか。」

 宿儺は🌸を肩からおろすと、その場で胡座をかいて座り、その膝の中にすっぽりと閉じ込めるように座らせて抱き込んだ。


「あの、私は大丈
「いいから、お前は黙って俺で暖をとれ。」

 一度こうなってしまうと、何を言ってもほぼ聞き入れてくれなくなる経験則から、🌸は早々に諦めて宿儺の胡座の中で大人しくし、再び風に揺らめくススキと月を見上げた。


 布越しにじんわりと伝わる、互いの体温が心地よい。
安心しきった私は宿儺様に身体を預け、静かに髪を撫でられながら月を見ていたが、今日はやけに視線を感じる。

その視線に気付いてはいたが、なんだか、気恥しくて目を合わす事が出来ずに、私はじっと月を眺めていた。


次第に触れる宿儺様の手が増え、触れる箇所も移動してくるので、思わず制止の声をあげる。

「あのっ、そこは
「月明かりの下でというのも、それもまた一興だな。」

 それはなりません、と抗議の声をあげようとして、慌てて宿儺様の顔を見たが、その瞳の奥にはもう消えそうにない、青い炎が見えてしまっていた。


「誰か来ちゃう

「こんな処に、誰かが来るとでも?」

 確かに屋敷の近くには昼間でも誰も寄り付かない。
これは正直に訴えていくしか手段はあるまい。


今日の月明かりは、高灯台よりもよく見えてしまうので、私は恥ずかしいです。」

「そうか。」


 🌸の言葉に宿儺はニィと意地悪く笑い、流れるように自分の身に着けていた物を地面へと敷き、軽々と彼女を組み敷いた。

大きな体躯に身体がすっぽりと包まれて、彼女に月明かりも届かなくなる。


「ケヒッ安心しろ。俺は端から、月にも見せてはやらぬつもりだ。」


 月の明かりを背負った宿儺は、その存在通り不敵に口の端を上げて笑ってみせたのだった。