かつて、世界には神々の集う地《シンフォニア》が存在する、そこは秩序と調和の象徴であり、最高神ゼウスとその弟ジュピターによって統治される、神々の時代の中心地であった
ゼウスは力によって世界を支配する神ではなく、理想を掲げ、仲間を集める神だった
スフィーをはじめ、さまざまな役割を持つ神々を迎え入れ、互いに支え合いながら世界を見守る――
それが、ゼウスの望んだ神々の在り方だった。
神々は人間界と距離を保ちながらも、確かにその存続に関わっていた、災厄を退け、歪みを正し、必要な時にだけ手を差し伸べる、人と神の間には暗黙の均衡があり、世界は穏やかな日々を重ねていた
誰もが、この平穏が続くと信じていたが
世界の深奥、時空の歪みと共に原初の層より現れた、原初の怪物《ヴァーリー》がシンフォニアを襲い始めた、ヴァーリーは神に対抗するために生まれた存在ではなかった、秩序や理そのものを拒絶し、世界が「形を持つこと」を否定する存在
その出現は侵略ではなく、世界の成り立ちそのものを崩す現象だった、ヴァーリーが歩いた跡には、土地の理が歪み、感情が濁り、生命の循環が狂っていく
世界はゆっくりと、しかし確実に崩壊の淵へと引きずり込まれていった
ゼウスは神々を率い、ヴァーリーとの戦いに身を投じる
それは神話に語られるような英雄譚ではなく、終わりの見えない消耗戦だった。
多くの神々が力を失い、ある者は消滅し、ある者は人間界へと堕とされる。
それでもゼウスは退かず、世界が存在する限り、最高神として立ち続けることを選んだ
激戦の果て、ゼウスは神々の残された力を集め、ついにヴァーリーを封印する術を完成させる。
だが、その封印は完全ではなかった
封印を成立させるためには、同等の存在――すなわち、最高神自身の消滅が必要だったのである
封印の瞬間
消滅するゼウスと、理の底へと沈められるヴァーリーは、互いに異なる存在でありながら、同じ願いを抱いていた
『この争いが、二度と繰り返されない世界を』
神の願いと、怪物の願い
相反するはずの想いは奇妙な共鳴を起こし、ひとつの結晶となる
それは神にも怪物にも属さない、“奇跡”と呼ぶほかない存在だった
奇跡は世界の理から外れ、人知れず人間界へと落とされていく
ゼウスの消滅をもって、神々の時代は終焉を迎えた、だが、戦争は終わっても、世界は救われてはいなかった。
戦争によって残された混沌、負の感情、神々の残滓。それらは大地に、人々の心に、目に見えぬ傷として残り続ける。
そのすべてを浄化する役目を担ったのが、スフィーだった
スフィーはただ一人、長い年月をかけて世界を巡り、歪みと穢れを吸い取り続けた。
怒り、悲しみ、恐怖、絶望――
それらを受け止めるため、スフィーは次第に自らの感情を捨てた
(この頃所持していたオルキアにもどんな影響を及ぼすかわからないため)
笑うことをやめ、語ることをやめ、心を閉ざす、かつて朗らかだった神は、やがて感情のない存在へと変わっていった
人々はスフィーの真意を理解できなかった
ただ、近づけば心が重くなり、恐怖が湧き上がる存在として認識するようになる
やがてスフィーは、長い年月の結果、原初の怪物ヴァーリーと混同される
――ゼウスを滅ぼした怪物
――世界を蝕む存在
歪められた神話が、スフィーの名を覆い尽くしていった
一方、ゼウス消滅後の世界で、神々の秩序を辛うじて保っていたのが、その弟ジュピターであった。彼は兄のように世界の前に立つことを選ばなかった。
世界の核《オルキア》と共鳴した人間の魂を選び、神子として導く
神の力を分け与えながらも、神話が再び全面に立ち上がらぬよう、影から均衡を保ち続けていた。
時は流れ――
かつて人間界へと落とされたゼウスとヴァーリーが願った“奇跡”は、一人の人間として生まれ育つ
その名は、ラウル。
彼は自らの正体も使命も知らぬまま、人として生きてきた
魔法の才には恵まれなかったが、神にも怪物にも縋らず、己の肉体と意志だけで立ち続ける強さを得ていた
やがて、世界に再び歪みが生じる
封じられたはずのヴァーリーの因子が、静かに目を覚まし始めたのだ
二度目の戦争の兆しを前に、ラウルは導かれるように神々の集う地《シンフォニア》へと足を踏み入れる。
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