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haru_haru0704
2026-01-11 00:04:12
4785文字
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鈍い恋人(全年齢版)
哥仇 全年齢
鳴式とのあれやこれやの問題が片付き、俺は制限付きの自由を手に入れた。
制限と言っても、大した話じゃない。元・明庭の鎮撫司であった仇遠という男が、四六時中ぴったりと後ろについてくるだけだ。
それは、俺にとって特段の苦痛ではなかった。
俺が悪事を働いたり、鳴式の力に呑まれたりでもしない限り、仇遠が俺を害することはない。そう分かっていたし、何より・・・俺は、仇遠のことを憎からず思っていたからだ。
ぴったりついてこられて苦痛どころか、好いた男と一緒にいる口実ができてラッキーである。俺と仇遠がどうこうなることは無いだろうが、近くにいられるだけで嬉しいし、満足だ。
・・・などと、昔の俺は柄にもなく殊勝なことを考えていた。だが、今は違う。
なんと、ひょんなことから仇遠もやぶさかでないことが分かり、俺たちはいわゆる恋人という関係に収まってしまったのだ。俺にとって、なんとも都合が良すぎる話だ。
恋人になってから、俺と仇遠は順調に仲を深めていった。
他愛のない会話をして、一緒に茶を飲んで。
出先で珍しいものを見て、土産の菓子を分けあって。
互いの身体に触れて、口づけを交わして。
そして、欲望のままに身体を繋げた。
あの夜のことは、今思い返してもまるで夢のように感じる。
強く気高いあの男が、俺に身体を許してくれるなんて。切なく掠れた声で「哥舒臨」と名を呼んでくれるなんて。
仇遠を抱いた数はそろそろ2桁に達する頃合いだろうが、俺はいまだに毎回夢なんじゃないかと疑ってしまう。それほど、俺にとっては信じがたい僥倖だったのだ。
✦✦✦
とある朝。
哥舒臨が宿屋で目を覚ますと、仇遠の姿がどこにもなかった。
「まあ、そんなこともあるか」と哥舒臨は思う。最近の仇遠はあまり熱心に哥舒臨の様子を監視しておらず、ふらりと1人で買い出しに出かけたりすることも珍しくなかったからだ。
それだけ、哥舒臨のことを信用しているということなのだろう。
とはいえ、そう長い間監視対象のことを放っておくとも思えない。きっと、数時間もしない内に戻ってくるだろう。
哥舒臨は初め、そのように考えていた。
しかし、半日経っても仇遠は戻ってこなかった。
さすがに少し心配になり、哥舒臨は仇遠のデバイスにメッセージを送る。
まあ、その内返事が返ってくるか、あるいは本人が戻ってくるだろう。哥舒臨はそう思った。
・・・そう、思ったのに。なんと仇遠は1週間の間連絡を寄越さず、そして宿屋にも戻ってこなかった。
何でだよ。俺、何かしたか?
どれだけ頭を捻っても、哥舒臨には思い当たる節がない。知らず知らずのうちに何かやってしまっていたのかもしれないが、それにしたって連絡くらいは寄越すべきだろう。
あの生真面目な男が、哥舒臨の監視という仕事を1週間も勝手にサボるなんて。それほどの何かに、巻き込まれてしまったということなのだろうか?
仇遠が消息不明になってから、哥舒臨は何度も何度もメッセージを送った。そして何度も何度も電話をかけた。しかし、彼は一度も応答しなかった。
やがて、彼はメッセージを送るのも電話をかけるのもやめてしまった。どうせ返事など返ってはこないのだから、送るだけ無駄だと思った。
・・・もう、3週間も待った。十分だ。これ以上この宿屋に留まっていても、何にもならない。1人で旅を続けよう。
哥舒臨は名残惜しさを振り払い、宿屋を後にした。その足取りは重く、一歩一歩踏み出すごとに哥舒臨の心は陰鬱になっていった。
そして、仇遠の失踪からちょうど1ヶ月後。彼は何食わぬ顔で哥舒臨の前に現れた。
哥舒臨はぽかんと口を開け、ぱくぱくと開閉した後、なんとか言葉を絞り出した。
「・・・・・・・・・、幽霊?」
「幽霊?何を妙なことを言っておる」
仇遠は、いつも通りのぼやっとした顔で立っている。ちゃんと足もあるし、体も透けていない。しっかりとした周波数も感じ取れる。
つまり、目の前にいるこの男は幽霊なんかではない。1ヶ月も失踪した挙句、全く悪びれもしてない、無神経にも程がある、感性がおよそまともとは思えない、れっきとした生身の人間である。
哥舒臨はぶるぶると体を震わせると、怒りに任せて仇遠に殴りかかった。しかし、彼はひょいと容易く避けてしまう。
「何でだよ!!避けるなこの野郎!!」
「突然何を・・・怒っておるのか?」
「当たり前だろうが!!お前、お前な、1ヶ月だぞ1ヶ月!生きてるなら連絡のひとつでも寄越せよ!」
哥舒臨が叫ぶと、仇遠はぴくりと眉を動かした。どうやら、連絡を返さなかったことに対して少し思うところがあるようだ。
「・・・本兵様の密命をこなしておった。任務の折、デバイスが早々に壊れて連絡手段が」
仇遠が言い終わらぬ内に、哥舒臨は言い募る。
「そもそも!出かけるなら出かけるとメッセージなり書き置きなりで残せよ!何で事前連絡なしなんだ!報連相はどうした報連相は!」
「すまぬ、忘れて」
「忘れるな馬鹿野郎が!ぼーっとするのは顔だけにしろ!」
「哥舒臨、」
「お前何なんだよ・・・!ふざけるな、俺がどれだけ・・・どれだけ心配したと、・・・っ」
哥舒臨は不意に言葉を詰まらせた。いい大人だしここは往来なので泣きはしないが、泣きそうになるくらいの強い安堵を感じたからだった。
仇遠は哥舒臨の声の様子から、ようやく事の重大さを認識し始めたようだ。口を半開きにしたまま、何を言うべきかと迷っている。
「・・・弁明があるなら聞いてやる」
哥舒臨はそう告げ、仇遠の言葉を待った。
そう簡単に許す気はないが、仇遠の態度次第では・・・まあ、多少優しくしてやってもいい。多少な。
仇遠は少しの間を挟んでから、静かに語り始める。
「・・・弁明は、ない。お主に伝えずともよいだろうと判断した某に落ち度があり、申し開きのしようもない」
「何で伝えなくてもいいと思った?」
「それほどまでに・・・お主が心配するとは、思ってもみなかったゆえ・・・」
仇遠の言い草に、哥舒臨は再びふつふつと怒りを感じ始めた。
俺たちってちゃんと恋人だよな?お互いに好きだって伝え合ってるよな?それなのに、何で心配すると思わないんだ?やっぱり感性がイカれているとしか思えない。
哥舒臨の怒りを察したのか、仇遠は「すまぬ」と謝った。もちろん、その程度で哥舒臨の怒りはおさまらない。
「・・・とりあえず、俺が寝泊まりしてる宿屋に行くぞ。細かい話は後だ」
哥舒臨は仇遠の腕をぐいと引き、そのまま歩き出した。普段の仇遠であればすぐさま哥舒臨の手を振り払っただろうが、今日は大人しくしている。
彼なりに罪悪感があるのだろうと哥舒臨は思った。殊勝な態度を取られると、多少は怒りも和らぐというものだ。
✦✦✦
2人は宿屋へと移動した。
哥舒臨が寝泊まりしている部屋は、当然ながら1人部屋である。まさか仇遠が戻ってくるなどとは思ってもみなかったからだ。
簡素で狭い部屋にはソファーなど置かれておらず、一脚の椅子と小さなテーブル、あとはベッドくらいしかない。哥舒臨は仇遠をベッドに座らせ、自分も隣に腰かけた。
・・・まずは、何から話すべきだろうか。先ほどまでは、「この頓珍漢に言ってやりたいことが山ほどある」と思っていたのだが、いざ話そうとすると言葉に詰まる。
「・・・某に、愛想を尽かしたか」
ぽつり、と仇遠が尋ねる。
その声色は普段と変わりなく落ち着いているが、少しだけ不安が滲んでいるような気がした。
「愛想は尽かしてないが、呆れてはいる」
「・・・二度と同じ過ちは繰り返さぬ。今後、任務へ出る折には、お主に一言申し伝える。デバイスが壊れたとて連絡ができるよう、お主の連絡先を暗記しておく」
「いい心掛けだな」
再会した当初の仇遠は1ミリも反省などしていない様子だったが、この短時間の内にきちんと考えを改めたようだ。
哥舒臨とて、済んだことをいつまでもねちねちと問い詰めるつもりはない。誠実な言葉と態度に免じて、今回のことは許してやろう。
そんな哥舒臨の心情を感じ取ったのか、仇遠は小さく息を吐いた。おそらく、安堵の溜息だろう。
珍しく可愛げのある態度だなと思いながら、哥舒臨はベッドに後ろ手をついた。
「仕方ないな、今回だけは許してやる」
「うむ・・・あいすまなかった」
「ん」
何はともあれ、仇遠が無事に戻ってきてよかった。話の決着もついたことだし、久々に抱きたいな。まだ真昼間だが、誘ったら乗ってくるだろうか?
などと考えていると、不意に仇遠が口を開いた。
「それにしても、お主がそこまで本気とは。某のような男は、所詮いくらでも替えが利くものと思っておった」
「・・・は?」
そこまで本気とは?いくらでも替えが利く?急に何を言い始めたんだこいつ。
哥舒臨はぽかんと口を開けて呆けた。仇遠の言葉の意味は理解できているのだが、はいそうですかと受け入れることなど到底できない。
「しがない盲人に、そこまで心を割かずともよいのだぞ。情が深いのは、お主の良いところではあるが」
「・・・・・・。お前、それ、本気で言ってるのか?」
「?意味のない嘘などつかぬ」
哥舒臨は、ふうと息を吐いた。
怒ってはいけない。いい大人なんだから、冷静に話し合うべきだ。怒らず、冷静に・・・・・・・・・いや、これは、無理かもしれない。
「つまり・・・本気で好きでもないのに、軽々しく愛を囁ける男だと。俺のことを、そういう風に思っていたわけだな?」
押し殺した怒りに、哥舒臨の声は震えた。彼の質問に、仇遠は「む?」と首を傾げる。
「そのようなつもりでは」
「なら、どういうつもりだ」
「お主の心を疑っておったわけではない。ただ、某は剣の腕が立つばかりで・・・盲のつまらぬ男だ。愛嬌があるわけでもなく、色事にも疎い。無論、女性のようなまろい体もしておらぬ。お主を楽しませるには、力不足であろう」
「はァ・・・?」
哥舒臨は地を這うような低い声を漏らした。彼の怒りの理由が分からないのであろう仇遠は、ますます訳が分からないといった風に首を傾げている。
その態度に心底イラついた哥舒臨は、仇遠の胸倉を掴んで引き寄せ、その唇に噛みついた。
「んぅ・・・?」
仇遠は不思議そうにしながらも、哥舒臨の舌を受け入れた。
ぬるぬると舌を擦り合わせ、上顎をべろりと舐める。仇遠は「ん・・・」と小さな声を上げ、哥舒臨の舌をちゅうと吸い上げた。今日はなかなか積極的だ。
仇遠のしたいようにさせてやると、彼は哥舒臨の口内に舌を捩じ込んできた。お返しとばかりに舌を吸ってやると、気持ち良さそうに声を漏らす。
「ふ・・・っ、ん、ん・・・」
哥舒臨は、このまま仇遠の舌に噛みついてやろうか、どうしようかと迷った。
この朴念仁に、どれだけ俺が怒っているのか知らしめてやりたい。だが、そのために彼を痛めつけるというのは気が引ける。
「は・・・っ」
結局、哥舒臨は仇遠の舌に噛みつかぬまま口づけを終えた。我ながら甘いな、と自嘲する。
「・・・怒って、おるのか?」
「ああ、怒ってる。俺がどれだけお前のことが好きか、まったく伝わっていなかったからな。自分の気持ちを軽んじられて、怒らない奴はいないだろう」
「・・・すまぬ」
「・・・もういい。お前、先に風呂入って来い。お前に拒否権はない」
そう言いながらも、仇遠が本気で嫌がったら自分は諦めるのだろう、と哥舒臨は思った。
そうやって仇遠の意思を尊重するのも、痛めつけたくないのも、全て彼への愛ゆえだというのに。どうすれば、この気持ちを伝えることができるのだろうか。
「承知した」
仇遠は静かに頷くと、部屋に備え付けられた風呂へと向かっていった。
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