冬暁
2026-01-10 23:54:35
1476文字
Public 鳴保
 

シルバーのお守り

鳴保ワンドロライお題【お守り】より。

「宗四郎。手ぇ出せ」
「なんや、急に」
「いいから」
 急かされるままに手を出すと、手のひらにコロンと落とされたのはお守りやった。
 紫色に、淡い桃色の紐。表にも裏にも刺繍はなく、何のお守りなのかも、どこのお守りかもわからない。
「やる」
 ぶっきらぼうな言葉。唇を引き結んで拗ねたように向かいに座ると、弦くんはゲーム機を弄り出した。
 読んでいた本を閉じてローテーブルに置く。改めてお守りを見てみれば、違和感がいくつもあった。
 一見すればよく出来ているものの、布も紐も神社で使われるものとは違う。それに結びも少しだけ歪だ。
「もしかして、弦くん作ったん?」
……別に」
 ふい、と目が逸らされる。機嫌が悪そうで、でもそうじゃないってことはもう知っとるよ。
 羽根でくすぐられているような、柔らかくてくすぐったい気持ちになる。
「こんな綺麗に作れるん、流石やなぁ」
 指先で撫でればざらりとした布の奥に何かが触れた。何を願って、何を閉じ込めたんやろう。
「どんなお願い事したん?」
 隣に座ってその肩に頭を預ける。ゲーム画面は二周目のオープニングに突入しとった。ボタンにかけられたままだった指先がピクリと震える。
「中、見ていい」
「開けてええの?」
 弦くんは拙い仕草で頷いた。お守りを開けるのは気が引ける。でもこれは手作りのお守りで、その作り手がええと言ったなら。
「なら、開けようかな」
 袋を開けば、そこには小包があった。金箔の入った白い和紙。中には硬質な感触がある。丸い。窪んどるな。輪の形や。
 チラリと隣を見れば目が合った。光を吸い込んだ瞳が、僅かに揺れて逸らされた。
……指輪?」
 シルバーが輝く、美しい指輪。ライトに照らせばその内側に光る緋色の石がある。
「弦くんの目ぇみたいやなぁ」
 自分の口からこぼれた言葉にはたと気づく。指輪に嵌め込まれた弦くんの色。ただの指輪じゃない。
 弦くんを見ると頬が紅く色づいていった。
——ずっと、お前と一緒にいられますように」
 耳をすまさなきゃ聞こえないくらい、小さな声やった。
 僕らは指輪をつけられない。得物を使う上で手の感覚が大事やからって理由だけじゃなく、単純に強度の問題や。スーツを着れば僕らの力は何百倍にも膨れ上がる。普通のもんじゃ怪獣を殺す力に耐えられへん。
 僕らほどの戦力になれば、尚更。
 つけたらあかんわけじゃないけど、つけたら壊してしまう可能性の方が高い。
 せやから、貰えるなんて思ってへんかった。
「とびっきりのお守りやん」
 冷たい感触が心地良い。幸福に満たされて心が温かい。
 貰えんでも一緒に居られるだけでええと思っとった。でも、貰ったらこんなにも嬉しいもんなんやなぁ。
「ありがとう、弦くん。大事にするわ」
「大事にしなくていい。お守りなんだから」
 何周目になるかもわからんオープニングが流れるゲーム機をそばに置いて、弦くんが僕の手に手のひらを重ねた。無造作な仕草。素直になれない弦くんは、心を渡してくれる時ほどそっけない。
「ボクの願いを叶えてくれたら、それでいい」
「日本最強が作ったお守りなんて、これ以上ないな」
 この人が見てるところで、死ぬわけにはいかんから。もう目の前で失わせたくないから。
 何より、僕がずっと一緒にいたいから。
 お守り袋に込められた未来への願いを、叶えんわけにはいかへんなぁ。
「なら、僕も弦くんにあげたいわ。弦くんと一緒に居れるように、目一杯願いを込めてな」
 身につけられんでも、そばに居れるお守りを。


Posted by 冬暁/薄明