流れザメ
2026-01-10 22:52:07
1986文字
Public ビマヨダ
 

優先すべきは君の幸せ

同棲パロビマヨダで元旦の話。
甘々。

一月一日、元旦。
快晴の空に昇った太陽が清々しく街を照らす中、家の最寄りにある神社で初詣を終えたドゥリーヨダナとビーマは、その足で帰路の途中にあるスーパーに立ち寄っていた。

「雑煮は具材が色々入ってて美味かったが、スパイスの味に慣れてる俺らにはちょっと薄味かもな」
「ならお汁粉の方にするか。アレは甘いのだろう?」
「おう、あんこで餅を煮たやつだからな。甘くて美味かったぜ」

数分前に神社で食べたお汁粉の味を思い出したのか、買い物カゴを持ったビーマの表情がへにゃりと崩れる。
精悍な顔に子供のような笑顔を浮かべたビーマに口元を緩めながら、ドゥリーヨダナはコートのポケットからスマホを取り出した。
お汁粉の作り方について調べてみると、沢山のレシピが検索結果に並ぶ。
大半が餅と一緒に煮込むあんこを作る所から始まっているようだ。
料理人としての意地なのか、それとも本人の尽くしたがりな性分ゆえか。ビーマはドゥリーヨダナに食べさせる料理は一から十まで全て自分で作りたがった。
見知らぬ他人が作った物を口にすることが出来ないドゥリーヨダナの為、神社で参拝客に向けて販売されていたお雑煮やお汁粉を家で作ってみようという事になった今回も、きっとそのつもりでいるのだろう。

(砂糖は家に買い置きしている物が有るだろうから、必要なのは小豆と、餅を作る為のもち米か)

この店に有るか怪しいもち米は一先ず置いておいて、とりあえずはあんこ作りに必要な小豆を探そう。
もち米と違って他にも使用用途がある小豆ならば、このスーパーにも売ってある筈だ。
ドゥリーヨダナが小豆が置いてありそうな乾物売り場へと向かおうとすると、ビーマに腕を引かれて呼び止められた。
どうしたのかと振り返れば、薄紫の瞳が『こっちだ』と反対方向を指す。
ビーマの後をついて行くと、沢山の餅と一緒に様々な種類のあんこが陳列されている一角があった。
年末年始に向けて特設されたコーナーらしく、切り餅、丸餅、あんころ餅。こしあん、つぶあん。パウチに詰められたあんこから缶詰の物まで、実に多種多様な餅とあんこが並べられている。

「口当たりがなめらかなのはこしあんらしいが、神社で食べたやつはつぶあんを使ってたんだよな。どっちが良い?」
「どっちと言われても……。食べた事が無いし、今回はお前に任せるが……、それよりも良いのか?」
「ん?何かだ?」

棚の商品を眺めていたビーマが目だけを動かしてドゥリーヨダナを見る。
その視線に気取った様子は無く、本心から言葉の真意を問い掛けていた。
だからドゥリーヨダナも、思っていた事を素直に口にする。

「お前の事だから、餅もあんこも一から全部自分で作りたがると思っていたのだが」

ドゥリーヨダナが呟くと、ビーマは「そういうことか」と破顔した。

「流石に今から餅を捏ねてあんこを作ってってやってると時間がかかり過ぎちまうからな。俺はさっき神社で食ったから昼までかかっても平気だが、お前をそこまで待たせる訳にはいかねぇだろ」
「ふんっ。お前もそれなりに他人を思いやれるようになったと言う訳か」
「お前がどうしても俺が作った餅とあんこが食べたいって言うんなら喜んで作るぜ?」
「うるさい。調子に乗るな」

わざとらしく片眉を動かして唇の端を釣り上げたビーマの脇腹をドゥリーヨダナは強めに小突いた。
それが照れ隠しからくる行動だと気付いているのか、ビーマは声を殺して笑うばかりでそれ以上言及はしてこない。
買い物カゴにパウチ詰めされたあんこと丸餅の袋を入れ、レジへと歩き始める。
ドゥリーヨダナはその一歩後ろついて行きながら、ビーマの上着の腰ポケットをチラリと見遣った。
スーパーには他にも沢山の買い物客が来ているが、皆一様に自分の買い物に夢中で周りを気にしている様子は無い。
数秒の逡巡のあと、ドゥリーヨダナはそっとビーマのポケットに手を差し込んだ。
ビーマが驚いたように此方を振り返る。
見開かれた瞳にいたたまれなくなり、咄嗟に顔を逸らす。
小さく吹き出す音が聞こえたかと思うと、ビーマの手がポケットの中へと滑り込んできた。
知らず冷えていた指先が、温かい掌に包み込まれる。

「お汁粉食うの楽しみだな」
「お前はさっき神社で食ってただろう」
「人に作ってもらったのと自分で作るのは違うだろ」
「餅をあんことで煮るだけではないか」

気恥ずかしさを隠す為に軽口を叩きながら、会計の順番が回ってくるのを待つ。
ポケットの中の手はすっかり熱を持ち、汗すらかき始めていた。
それでもドゥリーヨダナはポケットから手を抜くことはせず、ビーマもまた、いつまでもドゥリーヨダナの手を握り締めていた。
その後、家に帰ってお汁粉を堪能した二人は、眠気に誘われるまま共に寝正月を過ごしたのだった。