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水樹
2026-01-11 01:11:00
3589文字
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結果オーライでも許さない
スグアオ/sgao
アオイがキビりますが、例のダンスはしません
「はあ
……
」
コーストエリアの一角で、長い長いため息がサンドイッチの上に落ちる。近ごろアオイの作るサンドイッチは、彼女のため息がトッピングされてばかりだった。
ため息の理由はわかっている。スグリと出会い、すれ違って拗れて、ゼロから友達をやり直した。今のアオイとスグリの関係を表すのならば、「友達」で「ライバル」だ。それで十分だった。
十分だった、はずなのに。
足りない。
……
足りない。
アオイの心には、もう一つ別の関係を望む気持ちが生まれてしまっていた。
……
スグリと、「恋人」になりたいと。彼の「特別」に、なりたいと。そんなの叶うはずない、欲張りだと思いながらも、望むことを諦められずにいた。
「
……
だめだめ。いつまでもこんなんじゃ、スグリに心配かけちゃうよね。きりかえないと。スグリとは友達、友達
……
。
……
友達で、がまん、しなくちゃ」
「がお゛ぼゔっっ!!」
「モゲゲーーっっ!」
「わあっ!?
……
もう! こら二人ともー! けんかしないの!」
なぜか突然始まったオーガポンとモモワロウのけんかを仲裁すべく、手早く持っていたパンを乗せたアオイは気づかなかった。
自分の分にと作ったサンドイッチに、淡い桃紫色のもちがはさまってしまっていることを。
そして、気づいたときにはすでに遅く、ほんのり甘いそれが、のどを通り過ぎていた。
「キ、ビ
……
。スグ、リ
……
」
思考と理性が、毒に侵されたようにどろりと溶ける。
足が、体が、欲望のおもむくままに、動き出す。
スグリ。すぐり。スグリ。
わたし、きみがすきなの。
きみのぜんぶがほしいの。
すぐり。スグリ。すぐり。
ちょうだい。ちょうだい。
きみのぜんぶ、わたしに。
わたしに、ちょうだいな。
「がおっ!? ぽに、ぽにおーっ!?」
「モモワーイ!」
「!! がお゛ゔ!!」
再び始まった、オーガポンとモモワロウのけんかを止めることもなく。
ドームを探す。いない。
教室をのぞく。いない。
ならば部室は。いない。
「すぐり。すぐり
……
。キビ
……
」
アオイの足は止まらない。誰かに呼びとめられようとも進んでいく。まるで、全く聞こえていないかのように。
ようやっと止まったのは、とある部屋の前。
アオイの探し人である、スグリの部屋の前。
ノックもせず開けたドアの先には、探し人。
アオイの目が、弓なりに、細められていく。
その瞳は、怪しく淡い、桃紫を宿していた。
「アオイ? ノックもしねえで一体どうし
……
わぎゃあっ!?」
「んふふっ。スグリ。スーグリぃ
……
」
「えっ、あっ、アオ、イ?」
アオイはスグリをぎゅうと抱きしめたまま、じりじりと進む。何が起きているのか理解しかねているスグリはそれに押され、ひざ裏がベッドの縁に当たる。
「っ!」
「ふふっ」
すんでのところで手をつき、押し倒されることは防いだものの、アオイがスグリから離れることはない。それどころかスグリの足をまたぐ形で、その上に座られてしまった。
「アオイ、一体どうしちまったんだ? あのえと、とりあえず、離してくれねっかな
……
?」
「んー? んふふっ」
「えぁ、う、ううう
……
」
スグリの願いを聞き入れることもなく、くすくすと耳元で楽しそうに笑い続けるアオイ。一方スグリはというと、まゆを寄せ唇をかみしめ小さくうなるだけで、アオイを引き離そうとはしていなかった。それを実行できるにもかかわらず。
一体どれほどそうしていただろうか。アオイは時折スグリと自分の頬をすり合わせたり、抱きしめる力を強めたり緩めたりしながら、彼に密着し続けていた。
そしてスグリは。
「も、もう離して
……
」
「スーグリ。スーグリぃー」
オーバーヒート寸前になっていた。
それでも無理やり引きはがさないのは、スグリにとってアオイが「誰よりも大切にしたい女の子」、ひいては「好きな人」だからに他ならない。下心と理性がスグリの中でせめぎ合った結果、身動きできずにいた。
だがそれももう限界をむかえそうになっており、意を決したスグリの両手が、アオイの肩に触れる直前。
「!?」
「ふふっ」
ふに、と柔らかいなにかが、スグリの頬に触れた。一体何がと認識する前に、それは再びスグリに触れる。
頬に。目尻に。こめかみに。額に。しまいには首のほくろにまで、アオイはスグリに、キスの雨を降らせていた。
「〜〜っっ!! アオイ! もういい加減に
……
って、え?」
「キビ
……
?」
そこでやっと、スグリとアオイの目があった。だがスグリの月色が捉えたのは、星を散りばめたような輝きをもつチョコレート色ではなく、彼の故郷を壊滅させかけた桃紫。
「あ、アオイまさか、モモワロウのもちさ食べちまったの!?」
「
……
キビ」
体を離されたのが不服なのか、あるいは詰められたのが気に入らないのか、アオイの頬が少しだけむくれる。けれどそれも一瞬で、肩に添えられたスグリの左手をつかまえると、そこに頬ずりをしはじめた。
「ちょ、あ、アオイ」
「すき」
「
……
えっ」
「すき。すき。だぁいすき」
「えっ
……
え?」
「あのね、スグリ。わたしのぜんぶを、スグリにあげる。だから、スグリのぜぇんぶ、わたしにちょうだい?」
「
……
は? えっ?」
スグリを見つめるアオイの表情は、瞳の色さえ除けば恋する乙女そのもので。ただその瞳は、スグリが恋焦がれたそれではなくて。
「
……
スグリ」
「〜〜っっ!! だっ、だめ!!」
「ぽにがおーーっっ!!」
「モ
……
」
スグリがぎりぎりで競り勝った理性を総動員してアオイをベッドに押し倒したそのとき。オーガポンが勢いよくドアを開けて入ってきた。その手には、目を回したモモワロウとツタこんぼうをたずさえて。
「ぇあっ!? おっ、オーガポン!?」
「
……
ぽに?」
「ちがっ、こ、これはそのっ
……
!」
「ぽにぽに、ぽにっ。ぽにおん」
「えっ、ちょ、ま、待って! なんで出てこうとしてるの!?」
「ぽにぽにおー」
「待ってってば! 鬼さま!」
スグリの願いもむなしくぱたん、と目の前で閉まったドア。見つめていても、それが再び開く気配はない。諦めて踵を返すと、ベッドの上には。
「
………………
」
「えと
……
アオイ?」
「
………………
」
アオイが、「ちいさくなる」と「まるくなる」をくりだしていた。隠しきれていない耳は、熟れたりんご色に染まっている。
「
……
戻った?」
「
…………
はぃ」
「そっか。よかったー」
「
…………
」
スグリが腰掛けると、アオイは抱えたひざの向こうから、チョコレート色をちらりとのぞかせる。だがそれも一瞬で、再びひざの向こうへと隠してしまった。
「
……
ごめん、なさい」
「ん? 何が?」
「操られてたとはいえ、わたし、スグリに
……
」
月が見開く。以前モモワロウ騒動が起こった際に操られていた人たちは、なにも覚えていなかったようだった。だからスグリも、アオイがさっきまでのことを覚えているとは思っていなかったのだ。
「
……
もしかして、覚えてる、の?」
「
…………
うん。全部じゃ、ないけど」
「
……
そっか」
「だから、その
……
ごめんなさい
……
」
ただ、アオイが謝る理由がわからない。謝罪をうけるようなことは、少なくともスグリにとっては何もされていない。それどころか、むしろ。
「
……
謝る必要ね。俺、不謹慎かもしれないけど、ちょびっと、うれしかったから」
「
…………
えっ」
今度ははっきりと姿を見せたチョコレートに、月が弧を描く。
「アオイ。俺、きみが好き」
「
…………
へっ?」
「友達としても、ライバルとしても。
……
一人の女の子としても、アオイが好き」
「えっ、あ、あの、スグリ?」
「アオイの全部を俺にくれるっていうんなら、俺も全部、アオイにあげる。あげられる」
「えっ
……
え?」
スグリの左手が、アオイの三つ編みにそっと触れる。まるで宝物に触れるように、やわらかく、やさしく。
「
……
アオイ」
「ひゃいっ!?」
「俺の
……
恋人に
…………
なってくれますか?」
「
……
! はいっ
……
!」
そして二人は、晴れて恋人どうしとなれましたとさ。めでたしめでたし。
それはそれとして。
「モモワロウ! きみのせいで大変だったんだからね!?」
「がおぼうっ!」
「モモ
……
」
「そんな顔したってだめです!
……
結果オーライだったのは
……
まあよかったけど
……
。でもやっぱりだめなものはだめ! くさりもち禁止!!」
「モゲゲ!?」
「がお!」
モモワロウを、許すわけにはいかなかったとさ。めでたしめでたし?
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