フリンズさんとピアノを見つける話


「このお店、ピアノがあるよ?珍しいねぇ」
「おや、本当ですね」

 たまたま入店した喫茶店の片隅に、古いピアノが設置されているのを見つけた。「ご自由にどうぞ」の張り紙付きだ。
 美味しいケーキに舌鼓を打ってから席を立ち、ピアノを近くで見てみる。最近ピアノなんて見かけなかったけど、こんなお店にあったとは。ケーキも美味しかったし、リピ確定だね。

 鍵盤の蓋を開けてみて、ポーンっと一音鳴らしてみる。もうそれだけで良い音だった。ピアノの音好きなんだよね。でも、うーん。
「演奏は、あまり得意ではないんだよね……
「そうなのですか?」
 いつの間に居たのか、フリンズもピアノ近くに来ていた。
「そうなのです。……あ、でもあの曲ならまだ弾けるかも?」
 以前、大好きな映影の主題歌をこれでもかと友人と練習したことを思い出した。せっかくなので、とピアノ椅子に腰掛けて、鍵盤に手を乗せる。さてさて、弾けるかなぁ。
 
 ♪〜
 お、主旋律は手が覚えてる!右手だけで、ある映影のメインテーマを弾いてみると、とっても楽しくて、覚えている譜面の記憶を必死に手繰り寄せた。キリの良い所まで引き終わると、背後のフリンズからパチパチと拍手を貰う。
「素晴らしいですね。どんな曲なんですか?」
「へへ、ありがと。好きだった映影の曲なんだよね。今度一緒に見る?」
「それはそれは。えぇ、是非ご一緒させてくださいね」
 最近は見てなかったし布教する意味も込めて、今度作品を探してみる事を決意した。

「調子に乗ったので、もう一回弾いても良い?」
「もちろんどうぞ」
 よし、今度はもっと上手く弾くぞ……と始めの音に指を乗せる。すると、後ろからフリンズの髪が滑り落ちて、その蒼いカーテンが私の頬を撫でた。横目でフリンズを見ると、少し前屈みとなった彼の左手がピアノに添えられる。
 少し動揺しながらも私が右手で主旋律を引くと、フリンズが左手で伴奏を奏でた。その落ち着いたリズムが心地よく、私の弾く音も自然と先程よりも楽しげな音となった。

 一曲弾き終わってからフリンズの方を仰ぎ見ると、彼の顔も下りてきて、おでこにちゅっとキスが降ってきた。思わず私が目を丸くしていると、店内のあちこちから小さめの拍手を頂いてしまった。
 こ……こんな拍手を貰うなんて経験は初めてで、ピアノ椅子から立ち上がって一礼し、先程までいた座席に急ぎ戻った。フリンズはフリンズで、微笑みながら優雅に一礼して私の後を追ってくる。あ、これ多分……店内の女子数名が撃ち抜かれてるでしょ。
 
 彼も席に着いたことを確認し、気になったことを聞いてみる。
「もしかして……この曲知ってた?それと、フリンズってピアノも弾けるの?」
「いえ、先程の貴女の演奏で初めて聞きましたが、こんな伴奏が合うのでは……と思いまして。ピアノ自体は、昔は嗜みましたがいつぶりなのか思い出せないぐらいですね」
「そ、即興ってこと?!」
「はい、そうなりますね」
 優雅に少し冷めた紅茶を飲む彼を改めて見つめる。天は二物を与えずとは言うものだが、フリンズを見ていると才能だらけの人も居るってことを思い直して感心してしまうよね。あでも、この人……『人』じゃなかったわ。
「ふふ、そんなに見つめられてしまうと、僕に穴が空いてしまいますね」
――その程度では、フリンズの欠点にはならないよね」
「おや、僕の欠点探しですか?怖い話でしょうか」
「ちがうちがう」
 眉を顰めて困った顔をするフリンズに対し、私は笑いながら片手をヒラヒラと揺らして否定する。
「ふむ、ではどのような話だったのですか?」
 うーん、改めて聞かれると……どんな話だったのかな。

……私は、どんなフリンズでもやっぱり好きだなぁって話かな?」
「ふふっ、とても良い話でしたか」
 お互いの目線を合わせて、笑い合うこの時間がずっと続きますように。



『私の知らなかった、新しい彼をまた見つける話』