はいで
2026-01-10 17:22:39
5908文字
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神罰

・テーマ「神様基準の執着心を抱くサバージオスの除霊話」
・文字数:約4,500文字

〇まえがき
・謎時空
・書きたい所から書いているので、前後そこそこでサクッと終わる
・無断転載禁止
・AI学習禁止














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 これはとある夏の特異点のお話。
 いつ起きたのか、どこであったのかはわからないけれども、どこかで起きた出来事。
 今回の特異点は現代に発生しており、カルデアの面々はホテルを拠点として抑えて快適に過ごす事ができた。
 過去の事例で言うならばルルハワやハワトリアの様な夏の特異点だ。現代の設備の整った環境で、住環境も食事も選り取り見取りな状況。
 特異点の解決方法もイベントへ参加する事によって自然と解決するものだったので、平和だ。
 カルデアの面々は半分休暇をもらったような気持ちで作戦の合間にレジャーや観光を楽しんで過ごしていた。

 現地入りでドタバタした一日目を終えて、二日目にマスターとサーヴァント達はさっそく遊びにもとい、現地の情報を足で集める為に外出したのだが。
 その二日目の夜、オデュッセウスは少ししょげた様子で、ホテルの自室へ割り当てられた部屋へと戻っていた。
「今日はなんだかついてない一日だったな
 なんというか、今日は小さな不幸が多い日だった。
 日中にバーベキューへ参加したのだが、オデュッセウスの育てていた肉が忽然と消えてしまって、楽しみにしていた分がっかりした。
 食べ歩きをしていたら、空から突然トンビが飛んできてまだ半分も食べていない食べ物を掻っ攫われてしまった。
 木の下を通りすがったら突然ヤシの実が落ちて来た。オデュッセウスは持ち前の反射神経で直撃を免れたものの、腐りかけだった実から汁が飛び散り、現地で調達したお気に入りのアロハの汚れを慌てて落とす羽目になった。
「はぁ
 思い返せば、ハンカチへ落ちた染みの様に小さな不幸があちこちに散らばっていた事を思い出して、オデュッセウスはため息を響かせた。
『なにをしょぼくれている、オデュッセウス』
 そんなオデュッセウスへ声を掛ける者がいた。正確には、声ではなく内面からオデュッセウスの心へ直接語りかけているのだが。
 神霊サバージオス。とある特異点での一件からオデュッセウスの霊基へ同居する事になった神霊。
 その始まりこそ突然だったが日々接する内にお互いに親しむようになり、今では背を預け合う相棒の様な、友のような親しい間柄となっていた。
『能天気なお前らしくもない、こんな日もたまにはあるだろう』
 珍しく投げかけられるサバージオスの慰めに、オデュッセウスは苦笑した。
「まあなそれはそうなんだが」
 オデュッセウスは再びため息をついてから呟く。
「今日は結構楽しみにしてたんだ。
 実は俺はあまり特異点の攻略には参加した事がなくてな」
『そうだったのか?』
「ああ。英霊オデュッセウスの力が必要な特異点では、大抵は既に現地へ別の俺が召喚されているから、カルデアに居る俺が出る幕はなかなか回ってこないんだ。
 だから今回同行できた事が嬉しくてな」
 ポツポツと、心の澱を流すように言葉を続ける。
「それに、今回は珍しく平和な場所だろう?俺は冒険が好きだが、平和な日常も好きだ。楽しい思い出は幾らあってもいい、だから皆にも楽しんで欲しい。
 そう思っていたのに、今日は楽しみに水を差してしまう場面が多かったからな。
 事故だったから仕方はないんだがなんとなく申し訳ない」
『なに、誰も気にしていなかっただろう。英雄英傑の集まりだ、多少の事故など誰も気にせん』
 サバージオスは「これは重症だな」と思いながらあくまでも軽く口を叩く。
『今日助けてもらった分は次にでも返せばいい。そういうものなんだろう?人間と言う奴は』
 サバージオスは霊基を共有している都合で四六時中オデュッセウスと共にいるのである。時には、オデュッセウスがひっそりと、普段は隠している弱さを表に出す場面も目にしていた。
 常日頃のオデュッセウスはマスターとマシュという未成年を前に年長者として振る舞い、明るく強く振る舞っている。実際、それができる能力の高さも年の功もあるのだ。
 だがオデュッセウスはあまりに賢いが故に感性が鋭く、それは時に繊細な一面として顔を出すのである。
 例えば、愛する家族が恋しくなって顔を見たいと願っては、当時から長い年月が過ぎ去った現代では大切な家族が既にこの世におらず会う事もできないという現実を改めて思い出し、一人で解決できない寂しさを募らせて鬱々と気落ちしている事もあった。
 そこまで落ち込むのは本当に稀だが。確かにオデュッセウスの中には繊細な側面が存在するのである。
『別にお前は他の奴の不運に巻き込まれたからといって嫌な気持ちになったりはしないだろう。
 それよりも助けに入って「当たり前の事だから気にするな」とか言うタイプだ』
「まあ確かにそうだが
『じゃあお前が不運だったとして別に気にせんでいい。
 今日は不運だったかもしれん。だが明日はまた違うだろう。
 そして明日のお前が幸運で、他の奴が不運だったらお前が助けてやればいい。
 それでいいだろ』
「そう、だよな。うん、そうだな」
 それでもまだアンニュイなオデュッセウスへ、サバージオスはいつもより少し優しめな声音で語り掛ける。
『今日はさっさと寝て今日なんかとはおさらばしろ、お前に元気がないと俺の調子が狂う』
「ああ、そうしようありがとう、サバージオス。少し気が楽になった」
『なに、どう足掻いても四六時中一緒にいるんだ、家主なんだから適当に俺を利用しろ』
「ははっ、いつも傍に居てくれて俺も心強いさ」

 そうして、小さく笑いながら自室の扉をくぐったオデュッセウスの背後で。
 不穏な黒い気配が漂っている事を、サバージオスは神霊としての人間とは異なる知覚で感じ取っていた。





title:神罰





 オデュッセウスは部屋へ入った後、シャワーを浴びてサッパリしてから言われた通りにベッドへ入って眠りに就いた。
 オデュッセウスは大冒険を果たした英雄だが、10年にも及ぶ長い帰路を乗り越えられたのはどこでもすぐ眠れるという長所が理由の一つだろう。
「さて
 ベッドに入ってから数分後。
 オデュッセウスがベッドで完全に眠っているのを確認した後、人知れずサバージオスは霊基の主導権を握って起き上がった。
「お前か、俺の恩人に手を出した屑は」
 その右手が虚空を掴む。
 黒き右手、零落した神霊とはいえサバージオスの神体そのものだ。魔術的な因果律が、空間に隠れて漂っていた澱んだ塊を拘束した。
『----!!』
 声、と表現した方がいいのだろうか?
 無音だった。だが圧があって大気が震えた。
「黙れ、起きる」
 サバージオスは怒る。
 それ以上の圧を出して封殺する。
 既にオデュッセウスの意識は殊更深くへ沈めて起きない様にしてあるので、多少騒いだとしても問題はなかったのだが。
 サバージオスはオデュッセウスにまとわりつく呪いの様な物に気が付いていた。腹がたった。
 こいつが呪いの塊なのか?霊魂なのか?わからないが、怨霊めいた存在がサバージオスの大事な人間へ執着し悪さをしている。気に入って大切に扱っている人間へ害を成している。
 だが本人に気付かせてしまえば、呪いがより深く繋がりを持ってしまうだからこうして夜まで泳がせた。
 それを知らずにこの薄汚い塊は好き勝手してオデュッセウスにベタベタと纏わりついて、小さな不幸を呼び寄せては困らせて遊んでいたのだ。
 神の怒りは既に頂点にあった。
「もう消えろ」
 ぐしゃり、と右手が直々に塊を握りつぶす。
 正体のわからない呪いは、正体がわからないまま消失した。
 部屋に静けさが戻る。
「やれやれ
 サバージオスは穢れの移った右手をだらりと目の前に垂らして、面倒くさそうに眺めた。
 呪いを無理やり捻り潰した反動で消耗してしまった、力が入らない。
 本当に零落してしまったな、この程度の事でとフリュギアの主神だったかつてを懐かしむ。
 もしかしたら短慮な行いだったかもしれない。もっと特異点の情報を手に入れてから罰するべきだったかもしれない。
 それでもサバージオスの目には塵芥に映ったし、何の価値も情報も出てこなさそうだと映った、だからやった。こんな木っ葉にオデュッセウスが煩わされている事が我慢ならなかった。
 アテナの手落ちに怒り、つい己の手を出してしまった。
 今では己の方がずっとずっと格が下だと知ってはいる。それでも、同じ神であるが故に『なぜ庇護する人間に対してそんな手落ちをしたのか』となじりたくなってしまった。
(それにオデュッセウスは生前に散々、執着に振り回されて続けてきたんだ。もう解き放たれていいだろう)
 サバージオスは知っている。オデュッセウスが生前、神々の思惑や執着に振り回される生涯であった事を。
(こんな汚いものあいつは知らなくていい)
 知れば、オデュッセウスはいつの間にか悪意に晒されていた事に表情を曇らせる事だろう。
 サバージオスは許せなかった。このお気に入りの人間の輝きが曇らされる事が許せなかった。
(そして俺の行いも、なあいつにとっては恐ろしい類のものだろう、知らなくていい)
 己も神霊だ。オデュッセウスを振り回した側の類縁だ。
 こんな言動をオデュッセウスの前で零してしまえばうっかり過去の傷を思い出させてしまうかもしれない。
 サバージオスは慈悲深い神ではない。しかし気に入った人間に対してはとことん贔屓したし過保護であった。
 だって大切な宝物なのだから囲い込んで大切に大切にしたいのだ、これは神の性だった。かつて世界を思うがままに支配した覇者であるが故の、独り善がりな傲慢さと我が侭。この行いは紛れもない神としての執着心の現れであり、オデュッセウスを生前振り回したものと同質の感情なのだ。決して平等な慈悲ではない、ここまでするのは気に入った人間が相手だからこそだ、なので気に入った人間を邪魔する輩を処した。神の寵愛というものは得てして理不尽で偏りのあるものなのである。
 だからこそオデュッセウスは何も知らないままでいい。
 自由な輝きを損なわないままいてくれれば、サバージオスはそれでいい。
「俺も暫く眠るか
 サバージオスは窓際に立って右手へふっ、と神の吐息を吹き掛ける。すると呪いの残滓は簡単に浄化されて夏の夜空へ散ってしまった。
 この霊基の殆どはオデュッセウスからの借り物だが、右手だけはサバージオスの霊基でできているので、オデュッセウスには何の影響もない。
 サバージオスは用心深く、オデュッセウスがベッドに入った時と寸分違わぬ姿勢をとってから眠りについた。
 数日も眠れば元通りになる。
 返事をする余裕位はあるので、知恵を貸す事ならばできる。戦闘面が少し心配だがどうやらあまり戦いはない様子だし。サバージオスがマスターに呼ばれて表に出るのは大体周回なので、今回の様な新たな特異点の攻略をする場合はオデュッセウスが前面に立って戦うので影響は殆どないだろう。

 後には何も残らない。
 誰も知らないまま事件の一幕は終わった。












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〇あとがき
・サバージオスの神視点での執着心についてのお話。

・某所で記載した小話の加筆修正版。
 初公開時:2025-07-25 18:10:27
・他の人の語りに共感して書いた作品。
 内容は「オデュッセウスに気付かれない所で『うおっ、神』と言いたくなるような執着心を見せているサバージオスを見たい。智将に気取られない程巧妙に隠して欲しい、蛇だもの」という旨。
・人知れずクソデカ感情爆発させてるサバージオスいいね!!
 このサバージオスはオデュッセウスに気取られずに処理したい、恩人を煩わせる障害を排除したい、自分だけで処理できるならば知らなくてもいいと考えて露払いしています。
 気位の高い格好いいサバージオスが人知れずオデュッセウスを守って、相手に全く気取らせない相棒ムーヴするエモさ。
 この格好良さを表現する為に、智将を欺く巧妙な蛇らしさや神様らしさを詰め込みました。
・なおオデュッセウスの、ペーネロペーへの求婚者全滅エピソードリスペクトです。

・直前に『灰色の海の彼方』(テーマ:オデュッセウスの輝き、生前のオデュッセウスが女神の束縛から解き放たれて自由になる話)を書いていたので、ちょっと対比にしました。
 サバージオスにはオデュッセウスの自由な輝きを愛でて欲しい。
 だってその自由な振舞いにサバージオスは救われたから。
 だからサバージオスはオデュッセウスに対して過保護であってほしい。そして友として対等な間柄でいたいのでその事は一切表に出さない。
 そんな神と人という決して対等ではない二人が、互いを尊重し合いながら、危ういバランス感覚の上で対等な友人としての関係を成立させる奇跡を私は尊びたい。
・『灰色の海の彼方』で孤独に戦っていたオデュッセウスに、サバージオスという味方が一緒に居てその背中を守ってあげていて欲しい。

・その過程で、以前から気になっていたオデュッセウスの歪さについてもチラッと触れさせていただきました。
 サーヴァントは必ず願いを持ちます。(ルーラー以外は)
 ですが、オデュッセウスは「ペーネロペーとの更なる再会を」と願った直後に、長い言葉で自分の願いを否定して口ごもってから「願い事、思いつかんな!」とカラ元気で笑うじゃないですか。バレンタインイベントでもそうでしょう。
 あれってさ表に出さないだけで内面はかなりヤバい葛藤状態だと思うんだよね
 そもそもカルデアのオデュッセウスって全然ストーリーに絡んできませんし一回も内面の掘り下げされていないんですよねでっかい爆弾抱えてるんだろうなぁ
 いつか、その話についても形にしてみたいです。

・なお霊魂の正体は、Fate世界の妖精みたいなイメージで。
 特異点の原因とはマジでなんの関係もなく、本当に悪戯でオデュッセウスに悪さして遊んでただけ。キラキラの魂の人間がそこにいたから、綺麗だし近くでちょっかい掛けて遊びたくなった。その遊び方が陰湿なんですが。