お酒を作ってくれるフリンズさんの話

※ファルカさんが居ます

「おや、いらっしゃいませ」
………………へ?」

 夕刻、お腹が減ったのでいつも通りフラッグシップへ顔を出すと、ファルカさんがカウンターに一人で座っていた。珍しいなぁ、とカウンター席に近寄ると……カウンター内にフリンズが居た。いつもの装飾やケープコートを外しているが、他はいつもの格好に見える、けど……
…………どゆこと?」
「はははっお嬢さん、そりゃそうなるよなぁ!」
 カウンターテーブルをビール片手にバシバシ叩きながら大笑いするファルカさんと、ため息を吐くフリンズを交互に見比べる。なんだこれ?
「ファルカさん、机をそんな風に叩くのはやめて下さい。あなたの力では壊れそうです」
「おっと、そりゃすまん」
 怒られが発生して素直に聞くファルカさんも面白かったんだけど、いややっぱり一番おかしいのはフリンズでしょ。
「フリンズ、なんでカウンター内にいるの?」
「今日からフラッグシップの新人バーテンダーになりました。お嬢さん、ご注文をどうぞ?」
「はぇ?」
「はっはっは!ノリが良過ぎるだろっ」
 またファルカさんが机をバシバシ叩くので、フリンズがキッ睨んで「ファルカさん?」と怒ってて「す、すまん」と謝るファルカさんが見れた。なんだこれ、コントかな?

「つまり、今日はフラッグシップが空いてるからって、コイントスで負けたフリンズが臨時バーテンダーやることになった……ってこと?」
「そうなりますね」
「負けてたら俺がカウンターにいた可能性もあったんだがなぁ」
「カウンター内が狭くなってデミアンさんが困りそう」
 ――視界の隅にいたデミアンさんが、一瞬だけ顔を歪めて笑いそうになってた。私は見逃しませんでしたよ!
「ですから、せっかくなので何かご注文頂けますか?」
「うーん、そうだなぁ……。じゃあ、バーテンダーさんの美味しいオススメご飯と、オススメのカクテル下さい!」
「畏まりました」
 優雅に一礼する彼を見て、「「おぉ」」と私とファルカさんは声を揃えてしまった。

「料理は僕担当ではありませんので、厨房の方にお願いしました。貴女の好きな、ベリーとお肉のソテーですよ」
「やったー!お腹減ってたんだよね」
「あとは、僕が選んだドリンクはこちらです」
 …………おや、ジュースが来たね?
「おいおいフリンズ、そりゃないんじゃねーの?これが美味いのは確かなんだが……
「貴女はお酒飲むとご飯が食べられないでしょう?ですから、一杯目にはこちらのアップルサイダーを選びました」
「それはそう……なんだけどさぁ?せっかくフリンズがバーテンダーなのに!」
 文句を言いつつも出されたアップルサイダーを一口飲む。あ、めっちゃ美味しい。
――お嬢さん、ニコニコしてんじゃん……
「えへ、美味しいからね、つい」
 ふふん、と満足そうに笑うフリンズが「それが正解の品でしょう?」とか言ってる。

 
 ***

 
 ご飯も食べ終わったので、追加注文してみた。さてさて、次は何が来るかなぁ。
「バーテンダーさん!次のオススメは?」
「俺も!泡じゃないやつにしてくれ」
カウンター内のフリンズが「ご注文承りました」と言い、軽い会釈をして店内奥へ向かう。すると、ファルカさんが話しかけてきてくれた。
「なぁ、お嬢さん」
「なぁに?ファルカさん」
「フリンズのバーテンダー姿、正直どうよ?」
「めっちゃ良いよね!ファルカさん、写真機持ってない!?」
「即答かよ!……持ってねぇな……、持ち歩かねぇもんな。旅人が居たら持ってそうだけどよ」
 残念!と思いつつ私も持ち歩いてないからねぇ。今度から旅人さんの真似して手荷物に入れておこうかな。

「お待たせしました、どうぞ」
「わー!なにこれ綺麗!」
 差し出されたのはググプラムのジュース……なのだが、グラスに小さな蒼い炎が乗っている。
「なにこれ、魔法?元素か何か?」
「ふふ、そうとも言えるかもしれませんね。吹き消してからお飲みくださいね」
「フリンズ、お前……
「ファルカさんはお静かに。ほら、貴方にはこちらを」
 フリンズが人差し指を口元にあてつつ、ファルカさんに差し出したのは、見たことないお酒だった。って、こっちもグラスに炎が?!
「お前なぁ何て酒を提供してんだよ……
「こちらは僕のキープボトルからですよ、特別です」
 ニコ、と笑うフリンズに冷や汗をかくファルカさん。めちゃくちゃ強いお酒なんだって。
 一緒に出してもらったカットフルーツと共に、美味しいジュースを楽しめた。なお、ファルカさんは少しぐったりしていた。


 ***


「はい!そろそろ私もお酒飲みたいんですけど!」
…………畏まりました」
 ――めっちゃ渋々承諾してるじゃん。フリンズはまた店内奥へと向かう。承諾してくれたからには、何が来るか楽しみにしておこう。ちなみにファルカさんはさっきと同じお酒三杯目を注がれて、カウンターに突っ伏している。それでもグラスから手を離さないのは凄い執念だね。

「はい、こちらをどうぞ。アルコールも少し加えていますよ」
「か、可愛い……
 差し出されたグラスはベリーの小径だった。なんだけど、普段見るソレとは違っていて。
「これは、飴細工?」
「えぇ。特別に、ですよ」
二種類のベリーの間に、ランプ型の飴細工が鎮座していた。すごい綺麗。
「この飴細工も、フリンズが作ったの?」
「えぇそうですよ。お気に召しましたか」
「うん、とっても!」
 思わず溢れる笑顔はそのままにドリンクを一口飲んで、飴細工やベリーを食べていると、カウンター内のフリンズも微笑んでいた。
「なぁに?面白いことでもあった?」
「えぇとても。――僕が提供したものを美味しそうに食べて飲んでくれるのが、こんなに楽しいとは……初めての感覚ですね」
「あーちょっと分かる。頑張って作った手料理食べてもらうとか、嬉しいもんね」
「それは実に良いですね。では、貴女の手料理もお待ちしてますね」
 そんなことを言っているフリンズの声がやけに近く聞こえて、目線を少し上げるとフリンズの顔が近くて、ぇえ?
……そろそろですかね」
「なに、が……あれ?」
 そっとカウンター内から差し出されたフリンズの手が、私の頬を撫でた……かと思ったら、視界がクラクラした。カウンターテーブルに倒れ込みそうになったところを、彼の手が支えてくれる。
……お酒にこれだけ弱いのが分かっているのに、なぜ飲みたいと仰ったのです?」
「えへへ、バーテンダーしてるフリンズが……格好良かったから……だよ」
「おやおや、それはまた……随分と情熱的ですねぇ」
 彼の冷たい手のひらが心地よくて、自然と擦り寄りながら、そのまま目を閉じた。


 ***


「それでは、彼女を送ってきますね。デミアンさん、カウンター業務楽しかったです、ご協力ありがとうございます」
「えぇこちらこそ。次回は、他のお客様のお酒も作りますか?」
「ふふ、それは遠慮しておきます」
……あと、カウンターのファルカさんは、どうしましょうか」
「そうですね……、あとで僕が回収に伺いますので、そのままでどうぞ。潰したのは僕なので、ね」
 ふわふわと自分の体が浮くような感覚がある。フリンズとデミアンさんの会話は、意識の遠くから聞こえてくるようで、ぼんやりしている。無意識に何かを掴むと、カチャっと音がした。
「おや、起こしてしまいましたか?――いえ、まだ寝てますね。寝てて良いですよ」
 その声がとても優しくて、そうか寝ていいのか……と再び目を閉じた。

 
 次に目が覚めた時は、自分の家の天井が見えた。しっかりベッドの上で寝ていたみたい。なぜかフリンズのコートを掴んで寝ていたらしいこと以外は、いつも通りだった。
 …………それは、いつも通りではないね?



『これは置き土産、ですよ』