sbksm2025
2026-01-09 21:07:18
3961文字
Public オメガバースパロ
 

100年前の君とハッピーエンドを・これは恋・

ドラマ第5話

「礼はいい」

そう言って大の男たちでも怪しい鉄の塊を一人で荷台から下ろしたバッキーに驚き、サムはゆっくりと近づいた。壊れたものを届けにきたと言われる。
まさか新しい翼をくれるのか?お前が?なんで?
明らかにバッキーの手作りではない高性能アタッシュケースはワカンダしか考えられない。ジモとの決着をつけに行ったのだと思っていたがどうしてそうなるのだ。ジモを勝手に連れ回したんだからワカンダに怒られてるはずだろ。
何で俺のために頭を下げたんだ。
言いたいことを口から絞り出す前にパイプから勢いよく水蒸気が飛び出した。メタルアームを使えば良いのに、駆けつけてスパナで助けてくれる。
それを指摘すると

「つい忘れるんだよな、俺右利きだから」

知らなくてもビジネス上は困らない一部を垣間見て心が解けていくようだった。こういう会話も全部すっ飛ばして拗れた関係になってしまっていたから。今ならバッキーの苦しみを前よりわかってやれる気がする。

「手伝おうか?」

またバッキーの方が言葉を捻り出すのは早かった。何かが変わる音がして、顔が見れなくなる。
しかし

「姉貴には手を出すなよ」

姉への妙な空気に急いで釘を刺した。それはもちろん純粋に姉を心配する気持ちと正直に言うと落胆の気持ちであった。サムは今、落ち込んだ。
Ωは番のことしか愛せないがαは違うのかもしれない。覚えていないバッキーは他の人間と恋に落ちていくかもしれない。
サムにとやかく言う権利は、たとえ番であろうと無いのだ。ひどく胸が痛むこの感情はΩなのか、それとも自分の気持ちなのか、もうサムはわかる。



「泊まってけよ」

姉貴に手を出すなと釘を刺すなら、バッキーは他のホテルに泊まらせて良いだろうに。サムはもうバッキーを信用し過ぎていて、かつ警戒しなさすぎる。しかし頸のことやいろいろと聞くチャンスかと、言葉に甘えた。
サムの家についてまず2階に招かれたが一通り部屋を確認してから

……計算間違えてた、俺の部屋かソファーしか空いてない」

そう気まずそうにこぼした。本当に行き当たりばったりの提案だったのだろう。
その2択だと、バッキーはスティーブと同じ部屋で寝泊まりしたことが何度もある。夜通しボードゲームなんてしたこともある。が、αであることが事実なら選ぶものは決まっている。

「ソファーでいい、お前と同じ部屋は何するか分からないしな」
……なんだよその言い方」

意を決して攻めた言葉を選ぶとサムが固まる。困ったときはそういう反応するんだなと微笑んだ。
廊下を左右見渡してからサムの腕に手を添える。

「サム、正直に言ってほしい違ってたらそれでいい。俺はお前に、その

サムの瞳が揺らいだところをバッキーは初めて見た。もしかして相当なことをしたんじゃないのか、バッキーの喉が渇く。

「サム!バッキー!部屋決まった?決まったなら夕飯手伝って!港に差し入れ運びたいの!」

しかし下の階から一日外作業していたと思えないサラの声がこだまする。一瞬にして静かな廊下に戻った。

「わかった、今行く」

その半分にも満たない声量で返事をしたサムからギ、と廊下の軋む音がした。いつのまにかバッキーと距離が空いている。

「その話は待ってくれ」
じゃあいつするんだ」
「少なくとも今じゃない」
………わかった」

結局バッキーはサムがそう言うなら何も言えず、ソファーで一晩過ごした。サムのブランケットを借りて、すぐに眠れたことに驚く。
起きて彼がいないとわかり港に出向いて、また二人の時間を過ごした。船の修理のこととか、これからのカーリへのアクションとか、核心には触れず細々と互いの話をする。
スティーブと盾を通して見ていた姿を、潮風のなかクリアに見つめるのは心地よかった。

そして

「ただの二人だ」

そう言って終わるはずだった会話をサムが終わらせなかった。
十数メートル離れたバッキーの名前を大きな声で呼び戻したのだ。




サムは木に盾をかけて改めてバッキーに向き合った。

「話があるんだ」

バッキーがどこで気づいたかはどうでも良かった。ただもうサムに逃げる気はない。いい加減この気持ちをはっきりさせるべきだ。答えは出た。プロテクターの透明性を0にしてそっと外す。
もう発情期は終わっているから問題ないと思ったがバッキーの鼻がわずかに動いた。

「俺のコレ、」
「やっぱり壊れてたか?……違うよな」

黙って首を縦に振る。

「壊れてない、ずっと正常だ。プロテクターも俺も」

頸を覆うと内面だけではなく、外側も熱くてバッキーに反応しているようであった。

「お前は覚えてないかもしれないけど、俺の番は誰だと思う」

言うのが遅くなってごめんと、心の中で謝罪してバッキーの目を見た。今まで観てきたなかで一番色素の薄い瞳がサムを見つめ返してくれている。

「バッキー、お前なんだ」

くるりと背中を見せて頸から手を離すとバッキーが息を呑んだ。想像以上なのか、想像通りなのか。次に向き合うとバッキーは自分が許せず小刻みに震えて首を横に振っていた。
そりゃそうだ。Ωについて調べるうちに番の噛み痕のサンプル画像も見た。どの痕より酷かったし内出血の範囲が広い。

「お前今までどんな気持ちで、!」
「苦しむ必要なんてない、これは俺もお前も、逆らえない状況だった。突然だったんだ」
「何がだ!」
聞いてくれ、俺はΩじゃなくてβだった」

バッキーの抑揚に合わせず、平静を保とうと声をキープした。
そしてバッキーと出会うまでβとして生きていたこと、バッキーは洗脳の後遺症もあったということ、サムは番を失いたくなくて言えなかったこと、順を追って説明していく間、バッキーは黙って聞いていた。
言葉を選んだつもりではあったが当事者のバッキーにはキツイことに変わりない。

「悪い、悪かったごめん、サム」

当然彼の口からは謝罪の波が押し寄せる。

「謝ってほしいわけじゃない。……俺とお前が運命の番だなんて、スティーブだって信じない」
………運命?」

なんだ、そこは知らないんだなと口角を上げた。Ωには運命のαがいて、出会うと直感的にわかること、そのときの反応はそれぞれだが互いに無視はできないこと、稀に発情期を強制的に発動させることを教えた。
運命の番、は文に起こせばロマンチックだが、心と性が一致するとは限らない。バッキーもそれに気づいたらしい。

「そんなのサムが不利益だ、解消しよう。できるんだろ」

サムもそれがいいと思っていた。ずっと何年も、それが自分の、互いのためだと信じて疑わなかった。あの日再会する前であれば同意していた。
サムは盾を一瞥して、バッキーを見る。

「もし、お前が嫌じゃないなら俺はこのままでいいと思ってる」

バッキーが小さく口を開けて呆然としていたがサムはそのまま続けた。

「バース性のせいじゃなく、お前が好きなんだと思う」

昨日港で再会して、ずっと勇気を出して歩み寄ってくれたのはバッキーだった。だから今回はサムが踏み出す番だ。呆気にとられてフリーズしたバッキーはまだ何も言ってくれない。

「笑えるよな」
「笑わない、」

慌てて否定したバッキーに手を硬く握られた。今すぐ遠くに離れないことに安心してしまう。吸い込まれそうな青を前にサムは続けた。

「返事は今すぐじゃなくていいし、同情なんていらない」

去ろうとしたサムの手をバッキーがそのまま離さず引き留める。

「いいやもう待たせたくない、今させてくれ」

Ωのせいだ。期待なんてしたくないのに、期待してしまう。スティーブから聞いている通りバッキーは女が好きだろうしサムは好みから外れている。おそらくバッキーを困らせている。痛いほどわかってるのに頸がじくじくと熱を持ちはじめた。

「サムがそう言ってくれるのは嬉しい、けど……番は解消したほうがいいと思う」

あんなに固く握ってくれていたバッキーの手が離れて足元が冷たくなる。しかしそれを自覚する前にバッキーの温かな手が壊れものに触れるように頸を覆って、逆の手で腰を引き寄せてきた。
抱きしめられてると気づいた頃には耳元にバッキーの声がして、

「それで改めて俺の番いになってくれ、サム。……俺も好きだよ」

愛おしそうに歯形を撫でられて、冷えたはずの足から震えた。何度自分の手で撫でたって虚しいだけだったのに、もっとして欲しいと、思ってしまう。

ほらこの匂い、やっぱりサムの香りだったろ。言った通りだ」
「誤魔化すの大変だった」

少し体重を預けたらバッキーの腕の力が強まった。

「サム、抱きたくてしょうがない」
ストレートだな」
「普段はこうじゃない筈なんだ、でもお前が好きで、欲しくてたまらない一番甘い匂いがする」
「っ、こら」

一転して雄の瞳をしたバッキーが噛みつくようなキスをしてきそうだったため顎を押して拒否する。バッキーがαに呑まれてしまう前に、サムは慣れた手つきでプロテクターを装着した。不満そうなバッキーが可愛いだなんて惚れた弱みもいいとこだ。

「カーリのことが終わってからな。キスも」
じゃあなんで今言ったんだ」

サムは盾を拾って、特訓の続きに戻ろうとする。

「お前は愛の鞭が好きだろうけど俺には飴が必要だったんだ」

強く立てる、魔法みたいな存在が。
流石に少し恥ずかしかったからサムはほんの少し、わからない程度だが、大股でその場を去った。
俺もその飴貰うからな、なんて聞こえてきたから振り返らず笑っておいた。


最終話