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asahito
2026-01-09 20:04:46
4724文字
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Corpse Reviver⑥
前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒
https://www.pixiv.net/novel/series/7583585
一部R18です
続編である今作の第1章(錦上京キャラ中心)はこちら⇒
https://www.pixiv.net/novel/series/14625442
一部R18です
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。
ユイマンにAirTagつけようか悩んだ阿梨夜さんはいたと思う。
でもユイマンもエンジニアだから対処法知ってるでしょうね。
たいていの事は私が頭を下げればそれで終わる。相手の溜飲が下がればそれで解決する。本当は相手に非があろうと。
それで厄介事を避けられるならそれでいいとずっと考えていた。醜い存在がわがままを言える権利などない。
けれどどうしても譲れない時。そういった考え方で生きて来た人間は、どこで折れていいか分からなくて。
そう悩んでいるうちに、結局大切なものを逃してしまうのだ。
「ユイマン
……
」
駅前のカフェでひとり、ホットミルクを飲みながら沈んでいても。別に誰も声を掛けて来ることもなく、思い思いに過ごしていることはとてもありがたい。
今日何杯もコーヒーを飲んだから流石に胃が気持ち悪く。心を落ち着ける為にも牛乳を選択し、心の均衡を必死に保つ。
家に帰ろうが今夜は外食だと思っていたから食材はあまりないし。スーパーに寄る気力はないし。
今の状況でお腹が空くなんてことないから、ただ動くこともなく岩の様に佇み沈んでいた。流石に牛乳一杯で粘るというのは恥ずかしい客の為、もっとここにいたいと思ったら追加で何か注文するべきだとは思うが。
スマートフォンは全く振動を上げず。彼女からの連絡は一切ない。
私の近くには楽しそうにおしゃべりに興じる大学生くらいの女の子二人が近くにいて、ずっと恋の話をしている。
結婚前であろう二人はどんな性格の相手と結婚するのが理想かをひたすら楽しそうにしゃべっているが。
誰かと結婚すれば後は全てがうまくいくような口調に、そんなことはないだろうと冷静に突っ込みを入れている自分に気付き。
私も既婚者の方の目線を持っているのだと、左手の薬指を見つめてまた彼女の事を思い出す。
こんなことをしている場合ではない。本当はすぐにでもホットミルクを飲み干し、店を出て探しに向かうべきであろう。ここから彼女の向かいそうな所。
新幹線や飛行機に乗られてしまってはおしまいだが。それ以外であれば私の足の届く場所にいるかもしれないのに。
あの時投げかけられた言葉が私の足に縄を巻き付け。その足を街に向けずに家に帰れと、命じるのだった。
ユイマンが、私を拒否した。
私の手を払いのけて、離れたいと言い放った。
豊姫はあの後特に私に何も言わず。そのまま迎えの運転手が待機している場所まで歩いていき優雅に車に乗っていった。
お抱えの運転手を指図できる程度には。あの会社はまだ、ダメージを受けても。その面子と威厳は保っているという事だ。
あいつらの持っている企業なんて腐るほど世界中にあるのだから。一つくらい潰れてしまえ。見せしめだ。
そう呪詛を心の中で唱えていると。ユイマンは俯く私の顔を覗き込み、申し訳なさそうに語る。
『本当に、仕方なかったの。帰り際エレベーターで偶然会ってリーダーに見送りをお願いされたから
……
』
彼女の言い分はもっともだった。守衛さんに渡していた紙は来訪者用のカードか何かで。
付き添った人間が入館証を見せて最終的に手続きを終える仕組みだったのだろう。身内であれ、入館証がなければ決して自由に中には入れない。
それはセキュリティとしては当然のやりかたなのは。私だって知っている。
『
……
断れなかったの?』
『だって、私しかいないし。リーダーは会議を控えてたから無理だった』
私と豊姫が親戚関係にあることはユイマンも知っている。私が彼女を快く思っていない事も。
ユイマンは、自分が追い詰められた時の幹部は豊姫ではなかったから恨んではいけないと言っているけど。
その追い詰めた幹部だって私の血縁であり、豊姫の血縁でもある。見るもあからさまな一族経営の大企業。自らの技術や能力よりも血筋を重んじる時代遅れの組織。
倒産する企業の典型のようなやり方でも。国に関わる仕事も昔からずっとしていた分。目に見えない血縁のパイプが張り巡らされ、私の中にも流れている。
それが嫌で私はこの一族の会社に就職すること嫌ったのに。ご丁寧に何かの企画展示の際、賛助として名前を売って来るから吐き気がする。
その賛助のお陰で皆に多くの展示品を楽しんで貰えているどうしようもない矛盾を、抱えながら。
『豊姫は、まだこの会社に関わってるのね
……
』
ここで立ち話をしているとお互い都合が悪い。守衛さんは先ほどのやり取りを見て、訝し気な視線をさっきから送っており。
退社になってわらわらと社員が出ていく出口の前に立っていると邪魔になるだろう。
私は先に自動ドアを通り歩きながら駅に向かうことを選んだ。これからお店に行こうなんて気分にはなれない。
『阿梨夜、今日の夕食のお店
……
』
『
……
ごめんなさい、また今度にしましょ。食べたければ一人で食べて来て』
何も口に入れたくなかった。一刻も早く私の煩わしい血が流れてる、この建物がある場所から去りたかった。
どこに行ったってこの血が流れている。どこに行ったって私は、その血筋から逃れられない。
だから彼女もあの時仕事を辞めて
―
もっと好きな事をして私と暮らせばよかったのに。何故、異動を条件に留まることを選んだ?
ユイマンは何も言わず私の後ろについてきた。並ぶこともなく、私の腕を取って歩くこともなく。
明らかに彼女を理不尽な事で困らせているのは分かっている。なるべく、彼女の仕事に口出しをするのも愚かな事であると。
分かっているのに、冷静にならなければならないのに、どうしてこんなに噴火のような烈しい感情が湧き上がる?
心が状態で変化する物質だとしたら。かつて見た、粘り気の強い溶岩が。私の中に溜まって爆発しそうな衝動。
何をすればそれが大人しくなるか分からない。彼女に慰めを求めて寝台の上で縋り付くのも、違っている気がして。
彼女の事を想っている筈なのに、結婚していようが契りを誓おうが。気持ちは一緒になれないのだと。当たり前の事が、どうしようもなく腹立たしかった。
街は仕事終わりの人々で溢れ、活気に満ち。酒という気晴らしを探したり趣味に没頭するための店を覗いたりと思い思いに過ごしていて。
その楽しそうな顔を見ても、どうした自分だけがこんな惨めな気持ちにならなければいけないのか。
豊姫が現れなければ、私たちも今頃は手を繋いで軽い足取りのままお店に向かっていたはずだ。
あいつは自分に責任はないと言っており。あいつが後始末をしたのは事実だ。
劣悪な条件で部下を雇用した社員を苛め抜いた人権侵害
―
そんな奴の後に就くならば、クリーンな存在が求められるという事で。相当の手を打ったのだろう。
実際にその場所であったことは、結局社員でもない私は何も分かってないだろうと言う豊姫の言葉は正しい。
彼女の立場を、決定できたのは。私ではなくて。あの会社に関わる全ての私以外の人々であったことは事実だ。
それでも。豊姫がもっと前からユイマンを知っているのなら。何故、彼女が入社をする前に
―
お前は止めなかった?私は必死に止めなかった?
駅に辿り着き電車に乗ろうと鞄の定期券を取り出すと。ユイマンは足を止めて、改札を通るのを拒んでいるようだった。
私は振り向き彼女の表情を見ると。思いつめたような表情を浮かべ、まだ帰りたくないと言う。
『どうして?帰ろうって言ったのはユイマンだよ』
『今帰っても絶対に楽しくないもの。今からでもお店は入れるから食べましょうよ』
楽しい一日だった。そう思えるように過ごしましょうと彼女はいつも言っているから、よかったことで上塗りしようという思考なのだろう。
だけどそんなことで上塗りできるほど。私の抱いている血筋へのコンプレックスは、浅くはない。
『
……
帰りたくないとか、今更言わないでよ。遠回りになっちゃうしユイマン疲れてるでしょ』
彼女の私の御機嫌伺のような態度に苛立ちが湧き。私が強い口調になったのをユイマンは聞き逃さない。彼女は聡明なのだから。
少し黙った後に彼女は狩りの時の様に瞳を鋭くさせ。蛇の威嚇の様に私に尖った牙を剥く。
『私の為?貴方の為でしょ?何もさせない事が私の為なら、阿梨夜の思い通りなんか絶対ならない!』
明るい彼女が怒ることはあまりないから。こんな口調で言うのは、きっと本当に彼女の不愉快な部分を私が指摘したせいなんだ。
『ユイマン
……
』
『ついて来ないで
……
家には帰るから』
冷たく低い声で言い放った後に。微かに、ごめんなさいと呟き。
彼女はバッグを抱えて駅と逆方向に向かっていった。すぐに追いかけようとしても、人混みの多い場所だから彼女はうまい具合に人込みに紛れていき。
私は追いかけようとした矢先、荷物を抱えた観光客の大柄な外国人にぶつかりそうになり。
慌てて英語で謝罪をした後、すぐに彼女を見失った。
外国人は構わないよ大丈夫だよという仕草をした後。またどこか陽気に笑いながら去っていったが。
咄嗟に違う言語に脳のリソースを割いたせいで、注意力が飛んでしまい彼女が行った方角も分からなくなった。
叫べば足を止めてくれるかもしれないけど。こんなところで名前を叫んで追いかけるなど。動画や写真を撮られて面白おかしく笑われるだけだ。
私はぎゅっと拳を握り俯くと。彼女の言葉通り彼女とは逆方向に歩み出し。別の出口からどこか静かになれる場所を探した。
彼女は幼い子供じゃない。私の背中を懸命に追いかけ、結婚できないと駄々を捏ねるような面影はない。
もうちゃんと働いている身で、ある程度のお金も持っている。自分の意志で私の伴侶となることを選び。自分の意志で私と生きると決めた身なのだ。
それでも。チームは異動になったとはいえ、彼女を追い詰めた会社にまだ在籍して。豊姫たちの為に働いているという事がどうしても許せなくて。
さも彼女を自分だけの力で助けたかのように、豊姫は私に恩を売り。
逆に私に対し実家の事から逃げるなと諭して来た。逃げているんじゃない。関わりたくないのだ。最初からいつも妹が家の中心にいるのなら、もうそれでいいじゃないか。
今更どうして。私にも中心に戻って来いとなど言えるのだ、恥知らず共。
「
……
」
空になったミルクのカップを見つめ。マンションに帰るかどうするかをまた考えた。
ユイマンを追いかけても、追いかけなくても。どちらも正解であり、正解ではない。
私の選ぶ選択肢はいつも正解ではない。彼女が地元を離れて私の元に来たいと言った時。止めていれば何も起こらずに済んだの?
どうしても阿梨夜と一緒にいたいから私もここで働く。そう言って、私の所に来てくれたのは嬉しかった。
あの時は別々だったけど数年の勉強の後、彼女の就職が決まった時。
その内定が出た会社の名前を見て
―
私は嫌な鼓動が止まらなかった。あの時止めていれば彼女は傷つかずに済んだかもしれないのに。
『大丈夫よ。大きな会社なんだからこんな下っ端の社員なんて気にも留めないわ』
寧ろ、インフラだから簡単に潰れないよと誇らしげに胸を張り。まだ新米の学芸員だった私は彼女を養える自信がなかったから。
阿梨夜が病気やケガをしても、これで大丈夫だねと笑っていた。
その笑顔が眩しくて。彼女となら大丈夫かもしれないと、思っていたんだ。
私に流れる血が彼女を踏み握り、心を殺す事になるなんて。未熟な私も想像ができなかった。
だけどこの血がある限り。足は動き、心臓は刻みをやめない。どう私が動こうとそれは死ぬまで続くのだ。
続く
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