紫呉葛
2025-08-31 22:32:27
6211文字
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【チャvsラス】チャティとラスティによる機体戦のようなもの

なんでも許せる人向け。チャティ視点。サーカスとスティールヘイズの戦闘メイン。

「頼んだよ、チャティ」
カーラの見送りを受け、チャティはサーカスの操縦を開始した。

グリッド086を出て、地上へ。
使える廃材の情報が入ってきたので、チャティはMTに乗れるRADの人間を数人引き連れて目的地へと向かっていた。
動かなくなったストライダーの残骸を通り過ぎ、土と廃虚が入り乱れる元居住区。そこで彼らは一度脚を止めた。
その数百メートル先に複数の機体反応。
識別情報を照らし合わせると、アーキバス社の部隊だと判明した。
MT隊員達はチャティの指示を待っている。
カーラが「あんた達はチャティに従いな。ちょいと遠いから無駄に動くと地上で干からびるよ」などと冗談交じりで脅したのもあるが、元より彼らはチャティとの遠征を何度も経験している連中である。理解がある分、チャティとしても計画が立てやすい。
現状で取れる動きを弾き出す中、アーキバスの方に動きがあった。
『それ以上の接近は、アーキバス社に対する敵対行為と見なすことになる』
一歩前に出た機体、識別名:スティールヘイズから搭乗者であるV.Ⅳ ラスティが警告する。
《ここは俺達RADの縄張りだ、不法侵入はそちらの方だ》
と、チャティが言い返す。
『君たちの縄張りを、明確にするものはあるのか?』
明確に出来る物が無いと知っていて放ってくるラスティからの問いに対して、
《無いな》
と率直に返すチャティ。
スティールヘイズからは笑い声もため息も届いてはこなかった。ボスなら笑うところだったのだが。
反応が無いことに何とも思ってないので、チャティは言葉を続ける。
《それでも俺達RADには必要な物がこの先にある。阻害するモノは排除も辞さない》
立ちはだかるヴェスパー部隊の人数、配置、対して引き連れるRADの面々の癖や機体性能を元に、チャティは演算を終えた。
少しの間黙っていたラスティは、スティールヘイズの頭部を少しだけ上げる。サーカスを見据える。
『君は、戦友の知り合いだったな。できれば穏便に済ませたいのだが
スティールヘイズが片腕を上げ、仲間に指示を送る。
ヴェスパーの隊員たちが動きをみせる。
《お前たちは指定ポイントまで下がっていろ》
チャティがMT部隊に後退と待機の通達する。
仲間の不満そうな声を聞き流し、チャティは指示を続ける。
《一定時間が過ぎればアラームが鳴る。鳴ったら今回は諦めて撤退しろ。お前達の損失をボスは望まない》
少々投げやりな返事をするものの、MT達は後退していく。
レーダーが皆が指定の位置に着いたことを示している。
そして、どうやら相手の方も用意が整ったらしい。スティールヘイズを残して隊員が後ろに下がっている。RADのMTを潰す可能性は低いようだ。
サーカスとスティールヘイズが場に残る。
スティールヘイズが遠くに通信を送っている。その信号をチャティは掴んではいるが解析はしなかった。
暗号化されているそれを紐解き探るにはメモリが足りない。
スティールヘイズの戦闘データは持っている。アリーナや機体の残骸から回収したデータなどからパターンの抽出はしていた。故に、九割のリソースを注がねば大破を間逃れない、というのがチャティの分析だ。
それ程の危険視をしている相手が、早々に地を蹴った。銃口をこちらに向けながら。
サーカスはキャタピラを全力で回し、前進する。弾丸が外れる角度を選んで。
チャティは周辺情報を洗い出す。
膝を着きすでに燃え尽きた機体の残骸、今にも崩れそうな亀裂だらけの建物、崩れて地に突き刺さるグリッドの道だった大きな鉄骨
バーストライフルの射線と射速から、サーカスは機体の残骸を遮蔽にすべく曲線を描いて走る。
スティールヘイズは銃撃しながらもサーカスの向かおうとしている先に走行している。そのまま跳ねて射程範囲に戻すつもりだろう。
それよりも先にサーカスが遮蔽物に姿を隠した。
腐食の進んだ走行が砕け、金属の欠片が数回、舞い上がった。
そのまま突き進み止まることなく遮蔽物から出たサーカスはスティールヘイズに標準を合わせて右肩のクラスターミサイルを放つ。
頭上から落ちてくる攻撃に対して相手はクイックブーストで横に逸れるだろう、その着地方向にハンドグレネードを向ける。
予想通りにスティールヘイズは動いた。
角度と距離の誤差も演算の範囲内。直撃を狙いハンドグレネードの弾を射出。
着弾。
火薬と土の煙が一瞬、辺り一帯を塗りつぶす。
爆風が一帯のビルを揺らし破片をボロボロと落とさせる。
サーカスはキャタピラを回し続ける。
レーダーで読み取れる相手のAPの削れ具合から、直撃はしなかったものの爆風等が当たったと推測できた。
しかし、かすり傷程度で奥手になるようなAC乗りでは無い。
霧散していく煙の中から飛び出したスティールヘイズは曲線を描いて地上を滑る。
両手を伸ばしている。バーストライフルとバーストハンドガンが咲いた花のような火を明滅させる。
迫り来る20以上の弾丸。個々の威力は低いものの的確にサーカスを叩き続ける。それも、側面から関節やキャタピラ部分という脆い部分を狙って。
命中精度の高さは戦闘ログから得られていたが、実際は数値以上。経路と戦略の一部再演算が発生する。
サーカスが正面を取ろうとするがスティールヘイズはそれに合わせて向きを変えて側面を維持してくる。
関節の特定部分のダメージ数が蓄積する。
幾度かの蛇行を交え、二十棟もの立ち並ぶ団地のような建物を遮蔽物にしてようやく銃弾の雨を通り過ぎた。
だが、センサーは建物の向こうで並走しているスティールヘイズを捉えている。
隔てた先でも並走を続けてくる。隙間から覗く紺色の機体が真横にぴったりと貼りつくように。
サーカスはハンドグレネードでスティールヘイズの走行経路斜め前の建物を攻撃した。
岩状の破片や千切れた鉄骨が四方八方に矢のように飛ぶ。お互いの進む先に落ちてさらにでこぼことした道になる。
スティールヘイズは速度を落とさないまま、まるでステップを踏むように最小限の動きで避けている。
だがそれでも構わない。
サーカスの左肩の垂直ミサイルが蓋が開き、順に火を上げる。
高く昇る熱源は、目標を捉えつつ最高高度を目指す。
跳ねるのはあまり向いていないサーカス。だが、キャタピラ故に悪路に強い。己で作ったでこぼこ道を速度を落とすことなく走り抜ける。
対するスティールヘイズは僅かな左右の動きによってコンマ数秒程度の遅れを積み重ねだしている。
そのまま建物を抜けると、チャティの視界に半歩後ろになったスティールヘイズが表示される。
チャティの演算のうちの、この状況で高確率で行うであろう二つのうちの一つの行動をスティールヘイズはとった。
そのパターンの場合、取るべき行動はAIが読み取れる情報全てをかき集めて腕を、脚を稼動させる。
相対する敵機体はその両腕を伸ばし命中する的確なタイミングで銃声を響かせる。
被弾を続けながらも加速と減速と少しの曲げを加えて脆い部分を庇いながら駆け抜けるサーカス。
降り注ぐ垂直ミサイルをブーストオンの速度だけで横走行ながらに躱していくスティールヘイズ。
相手の進行方向にサーカスはクラスターミサイルを放った。
挟まれる寸前でスティールヘイズが前方に跳ぶ。
その一瞬の減速の間を逃さず軽量バズーカを撃ち込む。
スティールヘイズは両手の武器を撃つのをやめて、真上に素早く上昇する。
バズーカの弾はスティールヘイズの背後にあった高いビルに直撃し、まるで下部を抜かれたジェンガのように危ういバランスになりながらも倒壊だけは耐えた。
飛び上がったスティールヘイズが上昇を止め、そしてプラズマミサイルを撃ち出す。
追跡力が高く爆発範囲が広いその兵器をサーカスはなんとか振り切ったが、追い込むようにブーストを掛けてきたスティールヘイズを、最速で切り替えた回避ルートを使っても引き剥がせなかった。
速度を乗せた軽量二脚の蹴りがサーカスのコアに叩き込まれる。
人間ならばこの激しい揺れに脳震盪を起こしていただろう。
戦っているのが『俺』でよかったとさえ思った。
二機が大きく円を描くように軌跡を着ける。
お互い向き合いながら腕を突き出して。
ここぞというタイミングで火を散らせ、操縦桿を目一杯引き被弾を抑える。
サーカスの塗装が所々削れ、装甲も小さな凹みが重なって穴になりかけている。
それでも土を巻き上げ走った。
サーカスが一度、元グリッドの大きな鉄骨の影に入る。
そして、クイックターンの後に逆走を始めた。
スティールヘイズもそれにすぐさま対応し追ってくる。
サーカスがキャタピラの回転をそのままに上半身だけを振り返らせる。
逆走しながらハンドグレネードを、垂直ミサイルを、クラスタミサイルを、軽量バズーカを放つ。
それでもスティールヘイズは食らいついてくる。
バーストハンドガンを、バーストライフルを、プラズマミサイルを撃ってくる。
獲物を狙う肉食獣に追われるというのはこういう事なのか、とメモリの片隅で持ち得る情報の中から似た事案を照合する。
相手はアーキバスのヴェスパー部隊隊長、簡単に見逃してくれる相手ではない。
被害を最小に抑えるならば、否、ボスが笑える結果にするならば、今回の状況ならばチャティ一体で戦うのが最善だった。
戦う前から勝率が低いのだと、様々なパターンを検討したが確率は上がらなかった。
速さでも技量でも勝てない、当てられない。
だからこそ。
当てる相手を変える。当てる方法を選ぶ。
最終目標は、笑える状況にすること。
チャティはずっと最善にたどり着く為に最善を選び続けていた。
ハンドグレネードを撃った。躱されて、スティールヘイズの後ろの高層ビルに当たった。
垂直ミサイルを放った。あれはすぐには落ちてこない。
少し間を開けてクラスターコンテナを撃った。スティールヘイズは横に跳ねて避けた。
それでもサーカスは攻撃を続けた。
〔警告:AP残り30%〕
〔警告:脚部損傷率80%〕
〔警告〕〔警告〕〔警告〕
チャティは対話型のAIとしてカーラに作られた。決して戦闘用ではないし、経験もログ回収した分を含めても多くは無い。だけど角度の微調整や着弾時間の計算は人間に負けない。
チャティは人間とたくさん話をした。友人である『ビジター/621』とも話した。ビジターは戦いのことを多く話してくれた。チャティの知らない戦い方を教えてくれた。実践したことのない方法のやり方を得た。
AIならば切り捨てる低い勝率。その中の、低い部分を選ぶという選択肢と勝ち取る可能性を知った。
だから、チャティと言う名のAIは、識別名:サーカスという機体を走らせ続けた。
度重なる爆風と衝撃。
サーカスが放ったハンドグレネードが直線的に突き抜ける。
するりと避けられて、ビルに命中し破裂する。
それで良い。最初からそのつもりだった。
位置、角度、時間、速度。必要な要素が今揃った。
スティールヘイズの背後に位置した下部が抉られたビルが崩れ出し倒れ込んで来る。
垂直ミサイルとクラスターミサイルがスティールヘイズの左右、そして上空を塞いだ。
退路を絶たれ加速を抑えたスティールヘイズを真正面に捉え、サーカスが軽量バズーカを構える。
発射速度も角度も誤差範囲内。
左腕から機体に反動が駆け抜けるがサーカスの脚は止まらない。
建物の倒壊による土埃とバズーカの爆煙でセンサーが一瞬機影をかき消す。
続ける走行で煙から抜ける。
機体の反応を捉えるべく最速でレーダーを響かせる。
1秒、2秒、3秒
捉えたのは、ミサイルのアラート。
プラズマミサイルが煙の中から急接近して来る。
サーカスがクイックブーストで避けた。
しかし、ミサイルが着弾し巻き上げた硬い岩がキャタピラを詰まらせ、ガクンと大きく身を揺らしてサーカス自体が急停止してしまった。
いくら脚を回そうとしても動かない。このような状態を抜け出す機能は無い。
視界範囲内にスティールヘイズの姿。
それも、ほとんど被弾していない状態。
腕の武器を入れ替えていて、スライサーが青白い光を展開している。
避けられない。サーカスがこの状況を打破しようにも残されたハンドグレネードでは近すぎて逆当てられない。
コアから本体を離脱させるのも間に合わない。
〔アラート:総員撤退。この場を放棄しグリッドへ帰還しろ〕
セットしていたアラートが響いた。
レーダーがRADのMTの撤退を表示する。
笑えない状況だ。だが、悪くない結果だ。
それがチャティというAIが出した結論だった。
視界領域が青白い光に染まる。
《ボス
その言葉を表示して。
スティールヘイズのスライサーは、急に消失した。
クイックブーストで横に後ろに二度跳ねるスティールヘイズ。
その機体の居た場所に穴が開く。
鳴り響き急激に大きくなるブースト音。
そして、サーカスとスティールヘイズの間に着陸する一体のAC。
621が駆るローダー4。
サーカスを背に隠すように立ち、スティールヘイズにアサルトライフルを向ける。
対するスティールヘイズもローダー4にバーストハンドガンと視線を向けている。そして、ラスティが公開通信で声をかける。
《やぁ、戦友。君が此処に来るとは。彼らに雇われたのかい?》
ローダー4からの返事は無い。
その場に暫しの沈黙が流れる。
スティールヘイズがまた何処かと通信をしている。
ふむ。戦友、君と戦うのはどうやら、今回では無さそうだ。ちょうどこちらの作業も終わった。これ以上彼らと戦う理由は無い》
スティールヘイズが腕を下げた。
チャティ達RADが戦いを続けるのは変わらず不利だ。
ローダー4が助けに来てくれたが、このまま戦いが終わるのならばチャティにとっても好ましい。
《戦友、君には、私と戦う理由はあるかい?》
何も言わない。しかし、アサルトライフルを持つ腕をゆっくりと下げた。
《戦う意思が無い、と受け取るよ。私達は引き上げる。また会おう、戦友》
スティールヘイズが隊員達を引き連れて去っていくのを見送った。
数秒だけ、スティールヘイズがローダー4を見ていたようだがそれ以上は特に何も無かった。
『チャティ!無事かい!?』
カーラからチャティに連絡が入った。曰く『ウォルターの元にチャティ達とヴェスパー部隊の交戦の情報が入り、ビジターが救援を名乗り出てくれた』とのことだ。
《ビジター、感謝する》
チャティが伝えると、ローダー4が一つ頷いた。
このまま護衛も引き受けてくれるらしい。
ボロボロになっているサーカスだが、
『笑える状態だ。気にするな』
と、抑揚の無い、しかし上機嫌な機械音声が送られた。

エンド
















「やぁ、オキーフ。こちらは無事に終えたよ」
間に合ったようだな』
「あぁ。貴方のおかげで、いいタイミングで戦友が来てくれた」
〔オキーフ、この情報を、独立傭兵レイヴンとそのハンドラーに送ってくれないか? 相手は、戦友の友人なんだ〕
次は無いぞ』
「わかっているさ。今夜、報酬の戦闘ログととっておきのフィーカを持って行くよ」

エンド