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紫呉葛
2025-05-28 20:20:09
6160文字
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【あみだ原稿】【オキラス】瑠璃雛菊の鎮魂歌
何でも許せる人向け。解放√、ラスティ・オキーフ生存、捏造設定、ネタバレ込み。【お題】花束、死別、むっつりスケベ、セリフ「狡い人」。
服を脱ぎ捨て、ベッドに寝そべり、指にはめた金属の輪を眺める。
墓に刻む名は無く、入れる遺骸も無い。
未だに実感が無い。
きっとこれが『死別』というものなのだろう。
独立傭兵レイヴンを筆頭に、立ち上がった解放戦線が星外企業や封鎖機構を追いやってから早数月。未だ残る戦いの爪痕。
バスキュラープラントから遠く離れた各地では、飛び散ったザイレムの残骸を解体し資源にする日雇いの作業場が出来ていた。
そんな場所の一つで、かつて『V.Ⅳ ラスティ』と名乗っていた男が、今日も汗と土埃に塗れていた。
大きな壊れた部品の塊を、外壁を切り取り、ケーブルなどの使えるところを回収し、使えない基盤は砕く。一人労働者としてルビコンを見ていた。
そんな彼は、MTを動かせるからと重宝され、人柄を気に入られては人が集まる。
ルビコニアンの一人が、娘がいるんだお前さん貰ってやってくれないか?と、帰る前のひと会話で集まる中で声を掛けた。
『ラスティ』と名乗っていた男は、中が汗でしっとりしている厚手の手袋を外しながら相手の言葉を聞いていた。
薬指の指輪が煌めく。
一度その金属の輪に視線を落とし、顔を上げて相手に少し寂しげな笑みを見せる。
「申し出はありがたい。ですが、私はあの人以外と、添い遂げるつもりはないのです」
悲しい過去を彷彿させ、相手もそれ以上は続けなかった。
『ラスティ』と名乗っていた男はいつもの明るい笑みに戻し、軽く挨拶を述べ、作業場を後にした。
居住区から少し離れた、小さな一軒家に戻ってきた。
明かりの無い廊下を突き進み、物音一つしない部屋に入り、声をかける。
「ただいま」
椅子の軋む音と共に、文字の羅列しか映していないモニターを静かに眺めていた男がゆっくりと上半身を捻り帰宅した者を見やる。
「おかえり」
質素な家に男の二人暮らし。
「オキーフ、夕食はもう済ませたのか?」
「まだだ。ラスティ、お前は先に着替えてこい」
お互い、二人だけで居る時は以前の呼び名を使う。こちらの方がしっくりくるとはラスティの談。
「調子は?」
洗面所に向かおうとする背に、オキーフがいつもの問いをかけた。
ラスティの体には人工的に造られ接合された部位がある。人並みに動けるようになったが、全盛期ほどでは無い。戦闘でなければ機体の操縦は遜色なく行えることだけは救いだった。
「問題ない。現場も順調さ。このまま進められれば、予定通りに終わらせられる」
二人には計画がある。オキーフが提案し、ラスティがそれに乗った。今は準備期間だ。
「そうか」
オキーフはそれだけ返してモニターに視線を戻す。キーボードを叩いて中断の操作に入る。
その後ろ姿をジッと眺め、少し口角を上げて、
「今日、女性を紹介されそうになった」
今度はラスティがオキーフの背に言葉を掛けた。
別段報告をする必要の無い話題を、わざと。
「もちろん、丁重に断ったさ。何せ、私には」
靴音を立てて進み、オキーフの横に立ち止まる。
キーボードを叩く手を掴めば、手を止め抗う事も無く。
ラスティはオキーフの指に自分の指を絡める。誘いを掛ける。
「パートナーがいるからな、此処に」
指輪の無い左手に、指輪の嵌めた左手を見せつけるように重ねて。
オキーフがラスティの爪を撫でる。了承の合図を送る。
興味が無さそうに見えて、しかし滅多に断らない。そんな相手の返事にラスティは満足げに笑みを浮かべる。
するりと手を離した。
自分の指にはめた指輪を外そうと、薬指に反対の手の中指と親指をかける。
かつてオキーフが最も愛した女性の為に用意した指輪。
それを『偽装』の為に彼が貸してくれている。余計な詮索が減るからと。
確かに不要なアプローチも過去の追及も目減りした。だが作業中に手袋をしていてもこの指輪を傷付けないようにと気にしてしまう。
使うのは他者の前に居る時だけとラスティの方から条件をつけた。
それ以上は借りられない。
今日の仕事も終わった。他者も居ない。
だから、外そうとして。
今度はオキーフがラスティの手を掴む。
「外すな。俺の『パートナー』なのだろう?」
相変わらず表情から意図が読めない人だ。ラスティはオキーフの目を、彼の見ているものを探ろうと視線を合わせる。やはり、掴ませてくれない。
我が儘に付き合わせているのもあって、彼がかつての想い人の代わりにしたいというのならばそれすら甘んじて受ける覚悟はある。
あと何度肌を重ねられるかわからないのだ。もうどんな理由であろうと触れられるのならば構わない。それで良いんだ。
限られた時間の中で、この細やかな幸せを、もう少しだけ。
「貴方が、そうしたいのなら」
胸の奥が少し痛い。人工神経が不調を訴えているだけだろう。
ラスティは、笑った。
それは今からだいぶ前。
ザイレムが落ち、ルビコンⅢはルビコニアンの手に戻った。
ラスティはレイヴンや解放戦線の者達の裏方として、日々忙しく駆け回っていた。
星外企業や封鎖機構との大きな争いは集結しても、些細な戦いは燻るように残っている。課題は山積みだ。動くものなら何でも使いたいと言うのが解放戦線達の現状。
アーキバスの放った艦隊を退けた後、オルトゥスと共にラスティは撃ち落とされた。だが、コアに大穴が空いたにも関わらず奇跡的にも生存し、失った部分まで人工物で補修されていた。何処の誰が助けたのかは
…
知らない。
偽名を使い、別の機体を使って、一人のルビコニアンとして、人の目を避けて生きていた。
だが、『V.Ⅳ ラスティ』という『因縁』はどこまでも付き纏う、
何度か見つかり、命を狙われた、
どれだけ尽くしても、説得の言葉は届かなかった。
守りたいものに背を狙われる日々はいつまでも変わらなかった。
それでも、この命全てを使ってルビコンを奪われない星にしていきたい。
それだけが生き残った自分の責務、命の使い方だと信じて。
だけどやはり、狙われるとやりにくい。生傷は絶えなかった。
その日の復讐者は後ろからやってきた。
「お前は、『V.Ⅳ ラスティ』だな?」
お互いが腕を伸ばせば届く距離で声をかけられた。
くぐもった声、マスクでもしているようで声の音色が分かりにくい。
人が殆どやってこない、薄暗い倉庫。殺すには打って付け。
熱い視線を向けてくるから敢えて此処にやって来たが、しっかり着いてきてくれた。
言い分を聞こう。内容次第では、またこの手を汚すことにもなることも織り込み済み。
「そうだと言ったら、やはり君は私を殺すかい?」
振り返える。
そこには、帽子を目深に被る長身の男が、前髪の隙間から覗く鋭い眼差しで睨んできていた。
武器は持っているのだろう、片手が後ろに隠されている。
「あぁ」
と、短い返事。
殺すことを肯定するにしては、少し違和感がある。殺気立っていない、怒りが見えない。手練か、雇われか、しかし今の時点では結論付けられない。
「理由を聞いても?」
「お前自身、わかっているだろ」
「そうか。私は貴方に恨まれるだけのことを、してしまったのだろう」
大半は戦闘に参加していた大切な人を殺してしまったか、アーキバスというだけで恨んでいるかだ。
必要だったからなどと言う言葉は通らない。ならばせめて怒りの言葉くらいは受け取る義務がある。罵倒でも恨み言でも、相手の気の済むまで聴こう。
ただし、相手に寄る。この男はどうにも妙で、得られた短い言葉を反芻しながら答えを探る。
「だが、もう少しだけ待ってはくれないか?今を生きるルビコニアン達の安定した生活の為にも」
「待てると思うか?」
「思うさ。貴方ならば。違うか『V.Ⅲ オキーフ』」
言葉を交わして確信した。その目の向け方で行きついた。伊達に意識して見ていた相手ではない。
彼も認めて、帽子を脱ぎ、マスクを下げた。目の色や髪型が違うものの、そこには見慣れた目つきの男が居た。
彼に再び会えた驚きと喜びを抑え込みながら、ラスティは問う。
「オキーフ、何故貴方が此処に?」
何処かで生きているとは思っていた。だが、ルビコンにいるとは思っていなかった。
彼がこの星に居る理由はわからない。そもそもアーキバスに居た頃から彼の目的を掴むことはできなかった。
「言っただろう。お前を殺しに来た」
「
…
良いのか?あの場所から私を助けたのは、貴方だろう?」
重症だったラスティは残っていたアーキバスの医療施設で治療を受け寝かされていたとレイヴンから聞いている。そんな場所に連れて行き、最大限の治療を要求出来る者は限られている。それも企業にとっての裏切り者に使用する人物ともなれば。
「だからこそだ」
オキーフが背後に隠していた物をラスティに突きつける。
たとえそれが凶器であったとしても避ける気は無く、差し出されたそれにラスティは顔を向ける。
それは、丸めて束ねられていた紙。
受け取って見てみると、それは星外の観光地のパンフレットばかり。捲ってみれば、海や牧場、森に歴史的な建造物、中には惑星内のツアーまである。
見た事のある地名と鮮やかな色の花束に目を止める。彼の故郷。かつて行ってみたいと口走ったが、行くことは無いと言う前提だった。それが、目の前に突き出されている。
だが、これが殺すことにどう繋がるのか、意図が掴めず困惑するラスティに、オキーフは淡々と言葉をかける。
「助けた後の命をお前がどう使おうが止めるつもりは無い。だが、不本意で奪われるのを見過ごすつもりも無い」
『ラスティ』であることを知られて何度も殺されそうになっていることを知っている。だからこそ、オキーフは星外からルビコンに戻ってきた。
「『ルビコンを取り戻そうとする男』『V.Ⅳ ラスティ』を消す。お前は星を出ろ。一生戻るなとは言わん。だが今は離れる方が最善だ」
ラスティには、星を離れる選択肢を選ぶ理由がなかった。
まだレイヴンや解放戦線の面々が奔走している中で抜け出す訳にもいかない。
まだルビコンⅢの為に戦わなければならない。自身を捧げなければならない。
それ以外、在りはしない。
「私はこの星のためにと、同胞をこの手にかけた。罰も受けずに、安全圏で生きろと言うのか?」
星外に出る、その言葉に視界が揺れる。
そんなこと許せる訳がなく、残る言い訳を探した。
「お前が手にかけた人間は少なくないだろう。そいつら全員がお前に報復したとして、その先に残るのは『人を殺した』という現実だけだ。それがお前の望みだと言えるか?『V.Ⅳ ラスティ』が何処かで無様にくたばったと知れば、踏ん切りもつくだろう。その方がまだ救われる」
「
……
詭弁だ」
「あぁそうだ。だが、『人間』なんてそんなものだろう」
オキーフが手を伸ばす。
「ラスティ」
彼はどう足掻いても私を生かそうとする。
だが、星のため、故郷の為にと全てを捧げることだけを続けて来たのに、どうして今更変えられようか。
彼の手を掴みたい、無いと思っていた欲望が湧き上がる。
それは許されないと理性が押さえつける。
だから、騒めく気持ちを抑えて、答える。
「頼む、待ってくれ。少し時間が欲しい」
拳を握りしめ、まっすぐ、オキーフを見つめる。
「星の外に出るのは
…
受けよう。『ラスティ』によって支障が出ているのも、わかっている。だが、
……
まだルビコンを離れる訳には、いかないんだ。レイヴン達をこのまま放ってはおけない」
ラスティが請け負っている作業も懸念している事項もまだまだ残っている。それを投げ出したくはない。
「名と容姿は変えろ。一年、期間をやる。それまでに片付けるぞ」
「了解だ、それまでに終わらせ
……
待ってくれ、オキーフ、もしかして
……
」
オキーフの言葉に引っ掛かりを覚え、ラスティが問う。
「今日から俺の家を使え。偽造用の物も一通り揃えている」
その用意周到さにラスティも思わず負けて、顔を片手で覆って笑い声を零した。
――――
『V.Ⅳ ラスティ』だった男が死んだという噂が星を駆け巡った。
あれからさらに新たな偽名と容姿となり、ルビコンⅢでオキーフと同棲してもうすぐ一年が近付いている。
生傷は途絶え、比較的穏やかな暮らしをしている。
ルビコンの情勢はある程度安定してきた。ラスティが離れてもレイヴン達だけでやって行ける程に。
ゆっくり考える時間が増えた。時々、星外の観光地のパンフレットを眺める。
透き通る海、青々と茂る草木、明るい陽の下で笑顔な人々。
ルビコンもこれらの地のようになって欲しいと何度も願った。そうなるようにと戦ってきた。
だがそれを打ち切る。
もうすぐこの星ともお別れだ。
オキーフもルビコンを離れ別の星でやることがあるらしい。出立は同じ時だが、お互い行先は違う。
一人旅になる。過去も、想いも、無きものにして。
全てを切り離す。その日は目前。
ラスティが服を脱ぎ捨てベッドで寝転がって、手を伸ばしてジッと指輪を眺めている。
「欲しいか?」
オキーフが上から覗き込んで問いかける。
「これは貴方の大切な人の物だろう?」
微笑みを向けた。しかし自分でもわかるくらい作った笑顔だった。
素直に言えば彼は本当に贈ってくれるだろう。返そうとしても持っていて良いと言う程度に、この指輪に対して執着が薄い気がする。
アーキバスに入る前から持っていたと聞いている代物だ。それだけ手放せなかった物を受け取る資格も無い。
もうすぐ離別するというのに、本音を出して彼に余計な物を受け取らせるわけにはいかない。
「
……
まだ気付いてなかったとはな」
オキーフが呆れ顔を向ける。
寝そべるラスティの横に一度腰を下ろし、数秒考えこんだ後、少しだけ言いにくそうに口を開く。
「
……
あいつの指は平均的なサイズだった」
あいつというのは、オキーフがこの指輪を贈ろうとした相手のことで。
「お前の指のサイズと平均的な女の指のサイズは違うだろう」
言葉の意味はすぐに理解した。その言葉が指し示す意味を捉えるのに少し時間を要した。
「
…………
!?オキーフ、まさか!?」
ラスティがガバッと身を起こす。
珍しく、オキーフが口角を上げる。
「渡すことなく終わった物だ。だが、材質は上等品。多少厚みは減ったがお前でも合うはずだ」
オキーフの双眸が、ラスティを真っ向から捉える。
「そいつはルビコンの為に生きることはできなくなる、地獄への片道切符だ。受け取る気は?」
零れる笑い声が震える。不意打ちに戸惑うほど弱くはないはずなのに。
今までずっと一人で立てていたのに。
「狡い人だ。ここまでしておいて、トドメにそんな誘い文句を言うのか」
何もかもを切り捨て、独りで歩くのだと思っていた。
だけど彼はどこまでも『私』の傍に居てくれる人だった。
星の為だけに生きる、それ以外の選択肢を増やしてくるなんて。
手を重ね、肌を重ね、変わらぬ表情で相手を視る。
――
ルビコンのために全てを捧げた『ラスティ』という男は、最期に星に別れを告げた。
薬指に指輪をはめた男は、その星に背を向けて、隣の男と共に去った。
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