紫呉葛
2025-03-06 00:56:04
1901文字
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【オキラス】オキーフと狼になってしまうラスティの小話 おやつver

ラスティ視点。一部の情報については勝手な設定になり実際とは異なるかもしれないのでご注意ください。

1匹の狼が獲物を狙う
一息で、仕留めて
意気揚々と帰路につく

『私/ラスティ』は、満月を見ると狼になってしまう特異体質を持つ。
意識は人間の時と同じまま、肉体は狼そのものへと変貌する。
故に、食べられる物も変わってくる。
犬に玉ねぎを与えてはいけないように。
人間の時は食べられるものを、意識では「食べたい」と思っても、体には毒となる。
それをオキーフも知っている。だから、彼は狼になった私の前では飲食をしない。
フィーカすら飲まない。
彼は平然としているが、我慢していることは私だって気付いている。
あれは、オキーフが気に入っている酒が手に入ったから共に飲もうとしていた時だった。
うっかり満月が視界に入って、狼になってしまって。
彼は漸く口を付けようとした酒のグラスを持ったまま硬直し、ゆっくりとテーブルに置いていた。
表情こそ動かさなかったが、良い状態で飲めなかったことは惜しかっただろう。
私が戻るまで結局彼は手をつけなかった。
「気にせず食べてくれ」と促したこともあったが、「その気になったらな」と躱されてしまう。
共に食べられる物があれば良かったのだが、星外から供給される飲食物には加工が施されている。
それは、人間だけが食べられるようにと調整されている。逆に、他の生き物は食べることができない。
かく言う私も、実際身をもって体験した。
アーキバスに来る相当前の、狼になって独り隠れてやり過ごしていた時の一つ。
ルビコンⅢへの侵入者達が置き去りにした残飯を、空腹の余り、口にした。
星外の食品について何も知らなかった。
その時は、死ぬかと思った。
その話を、オキーフに話した。
目ざとくも彼は匿ってくれる時に尋ねてきたのだ。
「狼の食えないものは、やはり食えないのか?」と。
だから包み隠さず話した。笑い話として。
オキーフは盛大な溜息を吐いていた。
彼は、狼についての情報を事前に調べてくれていた。
狼当人と言っていいのだろうか、そんな私より詳しかった。
本来ルビコンⅢに存在していたのかわからない生き物の生態をこの星の中で知る術は無く。
シュナイダーに所属していた時ですら探すことが困難だった。
それを、星外でも早々集められる量ではない狼という生き物の資料を見せつけられた。
オキーフの本領をこんな所で知るとも思わなかった。
彼には、何も返せてはいない。助けられてばかりだ。
それに普段からモニターと睨み合いにより、まともに食事をしないことのある人だ。
食べられる時に食べて欲しい。
その為に、避難と称してレーションや軽食を多めに持ち込んではいる。消費については何も言えない。
しかし。何か良い方法は無いものか。
狼になった私と、人間であるオキーフが食べられる物があれば良いのだが。
そんな時に、とある情報を得た。

満月の日まであと数日。
ナイフを片手に獲物を捌く。
材料に関しては、実戦データと引き換えにシュナイダーから調達して貰った。彼らは欲しいものさえ手に入るならば他には関心を向けない。探りもしないだろう。
この調理は時間のかかるものだが、完成は間に合う。
そうして、満月その日、瓶に詰めたそれを持ってオキーフの部屋に向かった。

「これは
受け取ったオキーフが瓶の中身を眺めて言葉を途切れさせた。
瓶を傾けて回せば、赤黒い板状の物がカラカラと硬い擦れ音を立てて回る。
「ミールワームのジャーキーさ」
オキーフが手を止めた。
「ルビコニアンの間では、保存食としてよく作られていたんだ。これは、狼も食べられる」
少し瞼を下げて彼を見れば、真偽を確かめるように視線を合わせてきた。
そして、納得したようで。
「そうか」
と、瓶をテーブルの上に置いた。
オキーフが「少し待っていろ」と、席から離れる。
食器の触れ合う音、液体の注がれる音。
戻ってきた彼の手には2種類のカップ。
白い湯気をゆらめかせる、濃淡の違う茶色い飲み物。
「試しに1口ずつ飲んでみろ」
言われたとおりに口にする。
似ているような、似ていないような。
「コーヒーと茶だ。どちらも同じ原材料を使っている」
そう言って彼が見せてくれたのは、1つのパッケージ。
そこには、文字と黄色い花が描かれている。
「たんぽぽの根?」
「茶の方を薄める必要はあるが、狼も飲めるものになる」
オキーフの言葉に弾かれたように顔を上げてその目を見る。
口の端を釣り上げて、彼が言う。
「これなら同じものを飲んでることにならんか?」

満月のその夜。
1人の人間と1匹の狼が同じ部屋で同じ物を美味しくいただいた。

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