紫呉葛
2025-02-14 01:11:09
2710文字
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【オキラス】ヘテロフィラスの香り花

なんでも許せる人向け。バレンタインネタ。オキ視点

時折開ける扉から入る空気に混じって、アーキバス社内に甘い香りが微かに漂う。
愛を伝える日だの恋を実らせる日だのと騒がしくなる、もうそんな時期かと暦を見た。
諜報には利用するが個人では記念日を重要視しないが故に、それを頭の片隅に追いやりながら毎日情報との睨み合いを続けていた。
結果、気がつけば当日の1時間前である。
そして、予想はしていたが、律儀にも彼はやって来た。
「やぁ、オキーフ!」
光風霽月とも思えるような笑顔で、ラスティがオキーフの部屋に入ってきた。
彼に視線だけを向ければ、出撃間近なのだろう、パイロットスーツに上着を羽織った姿だ。
「なんだ?」
オキーフはモニターに向けていた体を45度ほど椅子を回転さて向きを変えた。
真正面で相手を視界に捉えれば、その爽やかな笑顔に嬉しさを乗せてラスティが目を少し細める。
「明日は日頃の感謝を伝える日、なのだろう?今回の任務は長引きそうでね。貴方に、先に渡しておきたいんだ」
ラスティが片手に持っていた小箱をオキーフの前に差し出す。
上質な紙と凝った意匠、星外であっても安易に手の届く物ではないと一目でわかる。
「同僚に贈るにしてはかなり上等だな」
「その同僚に、相当世話になっているからな。奮発したんだ」
ラスティが目を弓形ににっこりと笑う。
もはや褒められない事をしたのだと隠そうともしない彼に、オキーフは呆れ顔。
それでも、数秒、黙りこんで。
ありがたく受け取ろう」
オキーフはラスティの手から箱を掴み上げた。
満足したように手を引くラスティ。
目的を果たし、雑談もそこそこに退室しようと背を向ける。
そんな彼に、オキーフが言葉を投げる。
「戻ってきたら此処に来い」
ラスティが振り返る。口を真一文字に少し不思議そうな顔をしながら。
だが、受けた言葉がこれから戦場に向かう者への激励が込められていると理解したようだ。
口角を上げて凛とした笑みになり、
「貴方からお誘いだ。這ってでも来てみせるさ」
片手を上げて、ラスティは扉へと歩む。
オキーフは扉が自動で閉まり切るまでそちらを向いていた。
全くをもって目が離せない奴だ。その危なっかしさも偽りに織り交ぜた本音も。
そんな彼から目が離せない己に、うんざりする。
一つ息を吐いて、またモニターに戻る。

ノックが響いたのは日付が変わる2分前。
入室を許可すれば、ラスティが約束どおりオキーフの部屋にやって来た。
間に合わそうと無理を押したのだろう、取り繕った笑顔に疲労が乗っている。
オキーフはラスティに椅子に座るよう促す。
最早彼専用となっている椅子がすんなりと埋まるのを見届け、入れ替わるようにオキーフはモニターに停止を掛け終えて立ち上がる。
丁度ケトルの湯も沸いたところ。
常に2杯分用意しているフィーカを手際良く淹れていく。
湯気の立ち上る2つのカップを運び、ラスティの前に先に置く。
おとなしく座って待っていた彼は、表情を輝かせて礼を述べる。
香りに表情を緩め、美味そうに一口喉に通すラスティを、対の位置にある椅子に腰を下ろしたオキーフは眺める。
他の飲み物を用意出来る中で俺の淹れたフィーカを求めるとは、物好きな奴だ、と思いながら。
そんな奴に、わざわざ好み通りの一杯を入れる己も大概物好きだ、とも思いながら。
「ところでオキーフ、用件はなんだい?」
ラスティが本題を問う。
「あぁ
オキーフが視線を外す。
椅子の傍に設置しているサイドテーブル。その上に乗せらている、両手大の一つの紙包み。
それを掴み、オキーフがラスティの前に置く。
「謝意に日など関係ない、と言いたいところだがな」
日を意識して贈って来た者を無下にする程非情では無い。
まして、彼が相手なのだ、最善も尽くそう。
「感謝するよ、オキーフ」
ラスティが眦を下げ、声を弾ませている。
早速包みの紙を外すと、厳かなデザインの箱。その中には小さな瓶の形をしたアルミ箔包みの菓子が数個並べられている。
その一つ一つは違う色をしていて、ラベルが貼られている。しかし書かれている文字はラスティが読めないものだった。
「初めて見る物だな」
目を丸くして、1つ指で摘んで持ち上げて、しげしげと眺めて。
匂いは特になく、硬い菓子が入っているようだとまじまじ観察して。
笑い声を零しながら、まるでキラキラと輝く石を宝物のように見つめる子どものように、楽しげに目を細めている。
そんな彼にオキーフが言う。
「ラスティ、包みを剥いで好きに食ってみろ」
摘んでいる菓子からオキーフに視線を移したラスティは、口を閉ざし探るように目を見つめて。
軽く挑むような笑みを向ける。
「あぁ、では、いただくとするよ」
ペリペリと包みを剥がすと、寸胴な瓶の形の茶色いチョコが姿を現す。
それを口の中に放り込んで、一齧り。
「ん!?」
舌の上にどろりと溢れる液体に、ラスティが瞠目する。
酒だった。しかも度数の高く、その辺の安酒なぞ比べ物にならない深みのある味。
少し飲み込めば、喉を気持ちよく滑り落ちていく。
ボリボリと音を立ててチョコを噛み砕けば、控え目なチョコの甘さと酒の辛さが混ざり合う。
こくんっと飲み込んで、ラスティが魅かれるように頬を緩めている。
口に合ったのだろう、余韻に浸る彼は目元を綻ばせたままだ。
「ふっ
思わず、オキーフが吐息を立てる。
ラスティが瞳を引き絞って彼を見た。
しかめっ面はすれど、緩めることの無いオキーフが、ラスティが初めて見る表情を向けている。
「やはりお前はそういう食い方をするか」
こういう時だけ警戒を緩める、否、素を見せてくる奴だと思っていたが、裏切らない奴だと感心してしまう。
ラスティという男は、本当に美味そうに食う。
未知に近い珍しい菓子だろうと、泥より少しマシなフィーカだろうと。
フィーカを一口喉に流しこみ、瞼を下げる。
まだ微かに口の端が吊り上がったままだ。
「正しい食べ方があるのか?」
吊られて嬉しさの色を乗せた目をするラスティは、チョコをもう1つ摘み上げながら聞く。
「瓶底を切り落とし、中身を飲む。それからチョコを食う」
「それは、随分と上品だな」
ラスティがカラカラと上機嫌に笑う。
彼の疲れの色が鳴りを潜めたのをオキーフはつぶさに見ていた。
「まだ『用件』を言っていなかったな」
その言葉にラスティが動きを止めて、オキーフを見つめる。
「12時間、お前を使う申請を通してある。上等なそれをしっかり味わえ」
ラスティが本日数度目の驚きの表情になり、そして、くすぐったそうに、笑った。

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