紫呉葛
2024-10-17 00:44:25
3628文字
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【スティラス】 鳥の好む木の枝に

機体自我あり。ラス空腹とスティヘ自我お悩みの中である物を見つけただけの小話。前半がラス視点、後半がスティヘ視点。ラス視点前半に戦友は出てくる、だけ。

ラス視点

ラスティはスティールヘイズと共に空を地を駆け抜けた。
弾丸を叩き込み、ブレードで薙ぎ払う。
視線の先は常に同じ。
ラスティの目に合わせ、スティールヘイズの視界も追従する。
機体はただ、乗り手によって操作される道具でしかない。

任務の合間に僚機に話しかける。
相手はあの独立傭兵「レイブン」。
長丁場となったこともあり、調子を尋ねる。
相変わらず相手は個を見せない反応を返してくる。
それでも沢山の言葉を掛けた。
『君の活躍を良く耳にするよ。流石だな戦友。だが休めているのかい?連続の出撃では食事をとる時間も少ないだろう。空腹は時に判断を鈍らせる。良ければ栄養剤を分けよう』
『何を見ているんだ、戦友?あぁ、あの木が気になるのか。あれは実が成る種類の木だ。以前はルビコニアン達が育て、途中で放棄したのだろう。あの結ばれている紐は目印しで当時の名残だと言われている。時々見かけるものさ』
相手の背景は掴めなかった。
だが、共に肩を並べ戦うことが出来た、それだけでも良い時間だった。
任務を終えて、各々帰路に着く。
スティールヘイズが空を駆ける中、ラスティは僅かに目を細める。
連続出撃をしていたのは何もあの独立傭兵だけではない。ラスティもまた無茶な指示に平気な顔で従っていた。
栄養剤で取り繕っていたがそれも限界。体を動かすことに特化した液体では摂取出来る栄養が偏り精神も満たされない。
堪えることには慣れている。慣れているだけで好ましくは無い。
疲労に空腹、そして得られない『戦友の背景』、指を動かすのも億劫な気分ではある。
「今日はよく戦ったな、スティールヘイズ。君も疲れただろう?早く戻って休もう」
己を奮い立たせるようにスティールヘイズに声を掛ける。
雪のチラつく空の下、赤い炎の尾を引いて。

別の日、別の日場所、別の任務中。
待機命令を受けてラスティはスティールヘイズを地に立たせていた。
続く激務、続く仮眠と栄養剤漬け。
前回まともに休んだのは何日前だったか。
この任務が終われば暫く戦況は落ち着くとされている。機体の精密検査も含め休みを得られるはずだ。
さすがに、そろそろまともな食事にありつきたいな」
ラスティは天井を見上げてぽつりと本音を零す。
コックピット内にその声は掻き消えて。
暫く口を閉ざす。
気持ちを切り替えるべくラスティは視線を外に向けた。
「ん?」
スティールヘイズの視界が映し出されているモニターに、覚えのない操作が表示されている。
「ロックオン?だが、機体反応は無い何に反応をしているんだ?」
機体反応が無ければターゲットアシストも起動は出来ない。
だがスティールヘイズは何かを捉えている。
新手の迷彩を持った機体か、スティールヘイズの異常か。
表示されている距離は武器の射程範囲外。
感知したからには、放っておく訳にもいかない。
警戒しつつラスティはスティールヘイズの脚を進める。
距離は縮まる。
目標からは何も動きが無い。
ラスティの目にはまだ捉えられていない。
何が在るのか。
距離280。バーストライフルの有効射程範囲内。
150。スライサーを叩き込める距離。
80。それでも何も見えなくて。
スティールヘイズの視界で注視して漸く見えたのは小さな白と赤の点。
(あれは?)
機体の腕が届く近さで立ち止まる。
眼前には野生下で陽の光を求めて高く伸び、枝に雪を乗せた樹木群。
その中の1本に、垂れ下がる1本の紐。
スティールヘイズの腕を使って枝を掴み、寄せるようにしならせる。
ドサドサと雪が落ち、ロックオンされた対象の白も抜ける。
ラスティはスティールヘイズをそのままに、コックピットの扉を開けて外に出る。
胸部の上を歩き、引き寄せ物に手を伸ばす。
それは手で包める程の大きさの赤い果物。
この痩せた土地ではもう出来ないと言われていた、ラスティ自身初めて本物を見るルビコンで育った実。
「スティールヘイズ、君はこれを見つけたから、私に教えてくれたのか?」
ラスティはスティールヘイズのカメラアイに視線を向ける。
機体は喋らないし反応もしない。
だが確かに指し示したのは『彼/スティールヘイズ』だ。
「私がまともな食事を求めたから?」
スティールヘイズは人工知能を積んでいない戦闘兵器。
意思など……あるはずが無い。
ラスティはスティールヘイズに絞る瞳を向けたまま、しかしすぐに緩ませて。
果物をもぎ取る。
そして、歯を立て、シャクリと音を立てて一齧り。
「!」
ラスティの瞳に差し込む光が大きくなる。
滑らかで少し硬い皮とザラつきのある果肉が咀嚼の度に小気味の良い音と歯ごたえのある食感を響かせ、甘さと酸味のある果汁が滲み出て口の中に広がる。
類似品の加工食品を食べたことがあったが、比にならない味の濃さ。
こくりと喉の奥に通す。
胃の中に落ちていくまでを意識してしまう。
自然と、眦が下がり、口角が上がっていた。
「ありがとう、スティールヘイズ。君のおかげで、とても上手い食事にありつけたよ」
己を思ってくれた愛機に心からの感謝を伝える。
この星にはまだ力強く育つモノがある。
私の傍には共に歩んでくれる『機体/相棒』がいる。
ますます立ち止まる訳にはいかない。
必ずルビコンの解放を成し遂げてみせると奮い立たせて。
ラスティは果実をがぶりと齧った。

エンド





スティールヘイズ視点

スティールヘイズはラスティと共に地を空を駆け抜ける。
指示されるままに稼動し、火を吹かせる。
視線は常に乗り手に沿って。
スティールヘイズの視界はラスティの目に追従する。
乗り手によって操作されるのが、機体なのだ。本来ならば。

スティールヘイズは聴いている。
ラスティが今回も通信を行っている。
相手はローダー4の乗り手、彼が『戦友』と呼ぶ人間に対してだ。
好意を表す抑揚で沢山話しかけている。
人間にとって『空腹』は良くない。
この種類の植物には彼らが捕食出来る物が発生する。
通信の中からそういう情報を取り入れている。
ログとして通信内容を保存するようプログラムされてはいるが、それとは別に、スティールヘイズ自身の記憶領域にも保管している。
ラスティに必要な行動を取るために、持っている方が良いと判断したから。
「今日はよく戦ったな、スティールヘイズ。君も疲れただろう?早く戻って休もう」
ラスティが声を掛けてくれる。
疲れている状態なのは君の方だろう。バイタルサインが良くないと明示している。
保持している情報を洗い出しても、君の助けになるものは早期の帰投しかなかった。
ほんの少し、出力を高くして駆けることにした。

別の出撃。
ラスティは操縦を止めている。
通信で「待機」と言われたからだろう。
彼がコックピット内で何かを言った。
さすがに、そろそろまともな食事にありつきたいな」
スティールヘイズは一部理解できなかった。
バイタルを見るに、おそらく『空腹』というものだろう。
だが、彼の言う『まともな食事』とは何なのだろう?
持っている情報には解答が無い。調べる手段も無い。
人間が摂取できる有機物を探す機能は持っていない。
彼を助けることは出来ないのだろうか?
戦う為だけの道具でしかいられないのだろうか?
―――せっかく自我を得たのに
視界の角度は変えられない。ならば遠くを見れば良い。
スキャンの範囲のその先へ。
人間の痕跡、火の痕跡、植物の相違、それらを情報に瞬間的に照合を掛けて。
本来『機体』に備わっていない機能、『自我』だからこそ出来る人の真似。
《ターゲットアシスト起動》
見つけたそれに標準を合わせる。
きっと乗り手は気付いてくれる。
そう信じていたら、スティールヘイズの脚がゆっくりと前に動かされた。
標的に近付く。
《流石、俺の乗り手だ》
ラスティはスティールヘイズの腕を動かし手繰り寄せる。
コアから出てきて、木に成った物に触れている。
「スティールヘイズ、君はこれを見つけたから、私に教えてくれたのか?」
彼が振り返り問いかけてくる。
だが、俺には返事をする機能が無い。
「私がまともな食事を求めたから?」
それが君の求める『まともな食事』なのかは解らない。
彼は、木に成っていた物を手に持ってに口を寄せた。
瞳孔が小さくなって、大きくなって、きらきらしている。
口を閉ざして、黙って、息を吐いて。
そして時々見せてくれる顔をする。
「ありがとう、スティールヘイズ。君のおかげで、とても上手い食事にありつけたよ」
ラスティがスティールヘイズに温かくなる表情を向ける。
きっと、ラスティが望むことを叶えられたのだろう。
《君が満たされたのならば、俺も『嬉しい』よ。ラスティ》
スティールヘイズはほんのり目の明かりを薄くした。

エンド