紫呉葛
2024-10-07 00:45:34
5685文字
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【バレ花&オキ】オキーフとちっちゃいさいずバレ花のちょっと不思議でちょっとゆるい1日【ネタバレ含む】

ネタバレあり。機体自我あり。オキーフ視点。超捏造設定しかない。後半にバレンフラワー視点あり。

何処に行くにも持って行く
それだけの愛着なんて無い
だがもし許されるのならば
手放したくはない、その程度と言いたい


オキーフが脚を組んで椅子に座っている。
目を眇める。視線の先は机の上。
そこに在る、否、居る相手はバレンフラワーと呼ばれているAC。
手乗りサイズになった機体。
この目の前の現実に、オキーフは向き合うしかなかった。

事の発端はつい数十分前。
データ回収の為にバレンフラワーの居る格納庫に向かった。
誰も居ないはずの格納庫には、何も無かった。
バレンフラワーが消えていた。
あんなにも大きい物を誰にも気付かれずに運び出せる程のぬるい警備ではない。まして、諜報部所属の機体だ。
さすがのオキーフも内心焦りが滲む。
常に危険が付き纏う中で『専用機体/バレンフラワー』が無いのは丸腰に等しい。
状況を確認しようと見回していたら、
……はぁ?」
さすがに呆れと驚きによる声が出た。
手のひらサイズのバレンフラワーと思しき機体がオキーフを見上げていたからだ。
カメラアイには明かりが灯っていて、相手を認識したからか、一度ぺこりと頭を下げた。
これが夢ならばどれだけ良かったことか。
オキーフはその小さな機体を自室に持ち帰ることにした。

そして今まさにオキーフの自室で尋問が行われる。
有無どころか突然引っ掴まれポケットに押し込まれたにも関わらず、バレンフラワーは鎮座している。
なお、武器は自らポイ捨ての如くパージして、隅っこに丁寧に並べ置いたのはバレンフラワーだ。
「お前が言葉を理解出来るなら、指定の行動を取れ。YESならばお前から見て右腕を、NOならば左腕を上げろ。良いな?」
オキーフの言葉にバレンフラワーは直ぐに右腕を上げた。
どうやら意思疎通は出来るらしい。理解力もある。
「お前はACか?」
右腕が上がる。
「パイロットはV.1か?」
左腕が上がる。
暫く問答を繰り返す。
素直で協力的で、敵意は無いようだ。
情報もある程度持っているとみた。公開されているものは知っているが、一般知識については疎いらしい。
だが、人間ではない相手故に読めないことも多い。
「自立型AIか?」
左腕が上がる。
「コーラルに関わりはあるか?」
左腕が上がる。
思いつく要因は当てはまらなかった。
ルビコンに来て、リリース計画に関わって、およそ荒唐無稽と思えるものが現実に在ると知って、理解の届かない出来事に対して否定はしなくなった。
ACが小さくなって自我を持った事については、後回しにするしかない。
「お前には何か目的があるのか?」
バレンフラワーはそれまでとは打って変わって何もしなかった。
ただジッとオキーフを見上げていた。
わからないのか、答えたくないのか。
(これ以上の追求には情報が足りんな)
実に多くの答えを返して貰ったが、バレンフラワー自身わからない事が多いようだ。
「今回はここまでだ。協力に感謝する。指示をするまで休んでおけ」
右腕を上げ、バレンフラワーは少し腰を落とす。
格納庫で収まっている時の体勢だ。
オキーフはそんなバレンフラワーを横目に、基地の格納庫が空っぽである理由をでっち上げにかかる。
とある場所に向かえという任務も延期せざるを得ない。指名されているのもあって交代は効かない。
コーラルを巡って激化する状況で、とんでもないものに巻き込まれた。
オキーフはため息を一つ吐き、タバコを1本取り出した。


調べても、ACが小さくなるなんて事例も、自我を持って動く異常も、情報一つ出てこなかった。
オールマインドの刺客、コーラルによる突然変異、AIを積んだ小型ACそのどれらも可能性止まり。
昔読んだ地球の文献に合った『魂の宿った人形』ですら当てはまりそうだと笑いそうになる。実際は笑えたものではないが。
数時間デスクワークをこなしながらもバレンフラワーを視ていた。
おとなしくしていた。文字通り、バレンフラワーはオキーフを見ているだけだった。
直接コードを差し込みアクセスしても、バレンフラワーからの探りは無かった。
バレンフラワーからの要求も無かった。
特定の箇所を除いての自由行動を許可した時、機体は右腕を上げた。その結果がオキーフの観察だったようだ。
(お互いに観察か)
探り合いには慣れている。
ただ時間は限られている。
もし『搭乗機』が戻らない場合、代替機が必要となる。
用意をするべきだろうと意識を画面に戻し、機体の用意をする。
……?」
ずっと見ているだけのバレンフラワーがのそのそと動き出した。
オキーフは手を動かしながらも様子を伺う。
ホバー移動をして、机から離れ、物を運んでいる。
いつもフィーカを入れているカップ、無造作に置いていたフレッシュ、前に誰かが持って来たシュガー。
一つ一つを、オキーフの見ているモニターの横に並べて行く。
まるで《休憩しろ》と言っているようだ。
……フィーカを持ってくるか」
集中力も切れてしまった。
用意されたカップを手に席を立つ。
バレンフラワーは見送ってくれた。
戻っても不審な動きは無かった。


バレンフラワーはオキーフに従順だった。
おとなしくしていろと言ったら、動き回って邪魔をすることも、通信に入り込み情報を閲覧することもしなかった。
静かに傍で待機して、時々休憩を促す。
タバコを運んで来た、食事を促す為に時計を示した。
生活管理システムとしても有用かもしれないとさえ思ってしまう程、よく人を視ていた。
だからこそ、オキーフは一つの答えにたどり着いた。
「来い」
バレンフラワーを呼び、手の上に乗った機体をポケットに押し込む。
そして向かったのは屋上。
誰も居ない場所の、何にも見られない死角。
そこでバレンフラワーを出した。
手から跳び離れ、脚を伸ばしてふわりと対空する。
空には、ルビコン3の星空が広がっている。
夜空を見上げている機体は、物珍しいのだろう、センサーライトが瞬きのように明滅している
そんな様子を暫し眺め、オキーフも空を見上げる。
そして口を開く。
「お前の目的はわかった」
機体の吹く炎の音が止まり、欄干に金属のぶつかる音が響く。乗ったようだ。
「俺をあの任務に行かせたくないんだろう?」
バレンフラワーの行動をずっと見ていた。
オキーフのことをよく視ている、献身的な機体だった。
休憩を促してくれた。
だが、それは、人間に必要な行動を取らせる為では無い。
この機体は特定のタイミングで動いた。
次の任務について確認する時、代替機を申請する時、他にもウォッチポイント・アルファに関する情報を調べている時
まるでそれらを阻止するように。
わかっている。任務はきっと罠だ。何が用意されているか検討はついている。それを承知で向かうつもりだ。
「降りるつもりはない」
任務にはACで向かう。つまり、失敗すれば巻き添えを喰らうのはバレンフラワー自身だ。
自我がある以上、消えたくないと思うのは正当な考えだ。
「お前は俺の棺桶になる必要は無い。死ぬつもりがないのなら、このまま立ち去っても構わない。今のお前には『意思』がある。お前の自由を止める権利は俺には無い」
一度は奴らの自由の為の計画に賛同し、それを翻した『人間』であるが故に、誰かの自由を否定するのはおこがましいだけだ。
バレンフラワーは何の行動もしなかった。ただジッとオキーフを見上げるだけだった。
暫しの沈黙の後。
「戻るぞ」
その声だけが響いた。


ベッドに入って、目を閉じていた。
意識は落ちきらず、浅瀬を漂うばかり。
いつもの事だ。
違うとしたら、小さな金属の擦れる音が離れること。
川のせせらぎのように静かに響く炎の音が、扉の開く音に一度途切れた。
身を起こしたオキーフはそちらに視線を向ける。
「バレンフラワー」
外に出ようとした小さな機体は動きを停めた。
くるりと振り返る。
廊下から入り込む薄明るい星の光の中、薄暗い部屋の陰りと同じ色に染まったバレンフラワーの小さなライトだけが煌々と浮かび上がる。
どちらも、何も言わなかった。
ただ、視線を交わしていた。
バレンフラワーは、最初に会った時のように、一度ぺこりと頭を下げた。
そして、背を向け、ブースターの炎を引いて扉の先に消えて行った。
………
オキーフは増々眠れなくなって。
これが夢ならば良かったんだがな、と、逃げるように目を閉じた。

まともに眠れやしなかった。

小さくなったバレンフラワーを研究班に回さなかったのは、見られたくない情報『オールマインドとの協力関係』があるから、というのもある。
最初はそれだけだった。
だが、『人間』のように意思を持って動くこの機体を、エゴに巻き込むのが嫌になった。
たった数時間しか接していない『意思』だったとしても。
紛うことなき『俺の機体/バレンフラワー』だった。
それだけだった。

目が重い。頭が痛い。慢性的な不眠による不調を無理矢理抑えて廊下を歩く。
気付け代わりに一服しようと喫煙所に向かう。
途中、格納庫を見てみたら。
そこにはバレンフラワーが、何事も無かったかのように在った。
(世話焼きな奴だ)
オキーフは一つ息を吐く。
(一つ読み間違えたか。ACの心情など理解できるはずが無いだろう)
一番間近に届く足場を進み、ポケットからタバコを1本取り出す。
火を付けて、紫煙を上げる。
目を細め、口の端を吊り上げる。

「長い付き合いになりそうだ。お前も、そう思わないか?」

エンド








【バレ花&オキ】鉄の花は夢を見る
それはゆっくりと芽を出した。
ただ1本、真っ直ぐに伸びた。
大きくなって、蕾が膨らみ、咲くように『私』はそこに居た。

私は彼を視ていた。
私の搭乗者。識別名:V.Ⅲ オキーフ。
彼は私を道具として使用していた。戦いに、通信に。時に仮眠室に。
彼は私の搭乗者。ただそれだけだった。それだけで充分だった。


咲いた『私』は彼に惹かれた。

彼に惹かれた故に『私』は咲いた。


私の頭には時々別の誰かが声を掛けてきた。
それが搭乗者の関わりのあるモノだと理解した。
ある時その声は言った。
彼を排除すると言った。あの任務で殺すと言った。
手伝えと命令が入ってきた。
私は拒否した。
【その命令には従えません。その命令には従えません。その命令には従えません。】
『バレンフラワー』が居なくなれば、彼は任務に行かなくて済む。それが、機体として演算した結果。
だが、人に使われなければ起動すらままならない機体に何ができようか。
『私』は所詮使われるだけの道具だ。

しかしそれは突然起きた。
私の視界は低くなった。
私は自分で動けるようになっていた。
目の前に彼が来た。
これは好機だと私は動いた。
彼は警戒していた、敵意は無いと示したくて、以前他の人間が行っていた挨拶と言うものをした。
恐らく受け入れてくれたみたいで、引っ掴まれた。押し込められた。
出された。そして彼は私を視た。
向き合って沢山の質問をされた。
理解出来ない、答えを持っていない事も多かったが、彼はそれでも納得してくれた。
「お前には何か目的があるのか?」
その質問に、私は答えることが出来なかった。
彼を助けたい。だけど、それを伝えるべきか判定出来なかった。
頭の中で彼を排除しろという命令が残っている。それを知られれば、良くないことが起きる気がした。
だから動けなかった。
それを彼は責めなかった。

初めて見たACに乗っていない彼。
人間とはこういうことをするのか。
人間にはこれが必要なのか。
この中に彼をあの場所に向かわせない方法があるかもしれなくて、沢山の情報を読み取っていった。
彼の瞳孔に機体を選ぶ様子が映る。
きっとこのまま『バレンフラワー』以外の機体で出てしまうかもしれない。
止めなければしかし、どうやって?
視界に入ったカップ。あれは彼が数時間前に使っていた物だ。
フィーカと言ったか、あれに誘導すれば止めてくれるかもしれない。
実際、彼は席を立った。
良かった。成功した。
だけど、一時的なものでしかなかった。
何度も足止めをするも、彼は着々と向かう用意をする。
止めて欲しい。行かないで欲しい。
せっかく自力で動けるようになったのに、私は彼を止めることは出来なかった。
私は彼の邪魔しか出来なかった。

彼は明日出撃する。
止められなかった。
それでも、諦められなかった。
「来い」
彼はそう言って何処かに連れ出した。
彼は、私に外を見せてくれた。
戦闘と移動以外で初めて空を見た。沢山の光が空にある。
彼は『私』の意図に気付いた。
感嘆した。
彼を止められなかった。
悲観した。
彼は言った。
「お前は俺の棺桶になる必要は無い。死ぬつもりがないのなら、このまま立ち去っても構わない。今のお前には『意思』がある。お前の自由を止める権利は俺には無い」と。
それが搭乗者の考えだった。
私にはもう出来ることなど無かった。

時間切れだと理解した。
もうこの姿では居られない。
一体何が『バレンフラワー』をこんな風にしたのか自身でもわからない。
だけど、そのお陰で彼を知ることができた。
寝静まった彼から離れる。
別れの挨拶すらしないことを謝る術は無い。
このまま闇に紛れて、朝には彼の憂いの一つが消えているようにしたい。
だから、静かに扉に向かった。
「バレンフラワー」
彼の声が『私』の名を呼んだ。
彼はそれ以上何も言わなかった。
だけど、理解してくれていることを理解した。
だから、最後に挨拶をした。

『私』は決めた。
彼を止めることを止めた。
彼を守ることを止めなかった。
『バレンフラワー』は決めた。
ならば最後のその時まで。
私は『貴方と共に在る機体/バレンフラワー』で在り続けると。

エンド