紫呉葛
2024-10-07 00:02:42
4019文字
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【バレ花&オキ】鉄灰の上に紅弁慶【ネタバレ含む】

ネタバレあり。解放√後のオキーフとバレンフラワーの話。オキーフ視点。バレンフラワーの自我あり。

座り心地は良かった
硬いベッドよりも安眠できた
此処で死ぬのも悪くない程度には
気に入った場所ではあった


《エラー:私は棺桶ではない》


その戦いにはV.Ⅲ オキーフもバレンフラワーと共に出撃していた。
対するは独立傭兵「レイブン」により放たれた言葉で蜂起した解放戦線。
アーキバスは対処の為にルビコン3に現存するほぼ全勢力を投入した。
結果、アーキバスの戦力は壊滅。ヴェスパー部隊は首席と第三隊長だけが生き残った。
解放戦線側に居るとされるラスティの消息はわからなかった。


《エラー:不正アクセスを検知。削除完了》


それからは崩れるばかりだ。
大きな損害を受けた企業は、データや資源を持てるだけ持ち出し後を切り捨てた。
残された企業所属の者はこの星で生きるか、自力で星を出るかを余儀なくされた。
募った怒りの矛先は間もなく此方に向かって来るだろう。
フロイトは興味無さそうな顔をしていた。
「折角だからウォルターの猟犬と一発やりあってくる」とだけ言ってふらりと何処かに消えた。
追うつもりもなかった。


《エラー:頭部に××××の××命令。遮断実行》


1人になった。正確には1人と1機。
オキーフはバレンフラワーを時に武器に時に寝床に生き延びていた。
勢力図は変わったが脅威は増えるばかり。
オールマインドもコーラルもC4-621/適合者も在る。今後計画が再始動される可能性は大いにある。
それに加えて、解放に浮かれた熱は同時に星外企業の残党狩りの熱気に変わった。
毎日何処かで捕縛や始末の情報が上がる。
アーキバス関係者は特に高値らしい。
バレンフラワーのコックピット内で展開するモニターにはV.Ⅲが賞金首になっている画像が表示されている。
幸いなことにオキーフの顔は不明なようで、不幸なことにバレンフラワーは明瞭に映し出されていた。


《再定義:私は兵器。貴方を守る為の道具》


逃げ隠れの生活が続く。
その日暮らしの食い繋ぎ。木の根ですら立派な食料だ。
彼奴の話しが役に立つ時が来るとはな、と、此処には居ない者に僅かに思考を巡らせることもあった。
うんざりすることばかりだ」
じりじりと疲弊が募っている。
此処にはゆったりと横になる寝具も湯気の立つフィーカを作る鍋も無い。
酒や煙草はアウトロー達の交渉材料で滅多に口に出来なくなった。
それでもヤケにならずにいられるのはオキーフ自身の精神力の強さとバレンフラワーというACの存在が有るが故。
オキーフは座席にもたれかかる。
座席の皮と服の布が擦れる音が響く。長らく使用しているのに座り心地は変わらず良い。
パイロットに合わせてカスタマイズされた金属の骨組みは使用者の体を程良く受け止めてくれる。
基地に居た時から仮眠を取るには最適な場所だ。
バレンフラワーには諜報用にとコア内部に特殊仕様を積んでいる。
システムは基地の自室と同程度で情報収集も解析も偽装も、罠を張ることすら遜色無く行える。
もちろん、情報保守を優先した実に優れた機能も実装されている。迂闊に前衛には出られない程に。
オキーフは一つ息を吐き出す。
突きつけられる苦境が、『人間』として生きている実感をもたらしている。
意識した些細な居心地の良さが、幸福なのだと思い知らされる。
不意に思う。
「『此処/バレンフラワーの中』で死ぬのも、悪くは無い、か」
誰に向けた訳でも無い言葉。
しかしそれは、
ビーッ!ビーッ!
「!?」
コックピット内に響き渡る警告音と消灯によって返された。
襲撃かとモニターを確認するも、敵影も損傷も表示が無い。
「またか
近頃度々起きる誤作動。
基地を離れメンテナンスが禄に出来ない故に様々な箇所にガタが出始めている。
だが、修理も禄にしてやれない。部品は無く、技術も無い。パーツの綻びを騙し騙し。
「はぁ。機嫌を直せ、バレンフラワー」
声をかけて、天井をコンコンと軽く叩き、宥め賺す。
気休めな運任せしか望めない。
バレンフラワーが意志を持って応えてくる、などと考えてしまうのは疲れのせいだ。
だが、こうもタイミング良く明かりが着くと、生きているように感じてしまうのは人間の悪い癖だ。
それが、孤独を埋めることになっているのだがら尚悪い。
もう一度、オキーフはため息を吐いた。
(こいつとの生活を悪くないと思うとはな)


《エラー:××××の××命令。遮断失敗。実行拒否》


バレンフラワーとの共同生活は、例外なく終わりを迎えた。

どこから漏れたのか、オキーフの居場所が残党狩り達に知られた。最悪なことにそれなりの武器と人数が揃っている集団だ。
洞窟に逃げ込みバレンフラワーの火力で何とか蹴散らしてはいるが、長くは続けられない。
コックピット内にまで軋む音が響く。
(嫌な音だ)
ブースターの火力は以前より落ちている。モニターの明かりが時々チラつく。それでも直せぬままに機体に無理を強いた。
リリース計画の阻止を止めるつもりはない。ここまで生き残った以上、そう簡単に死ぬつもりもない。
本当はもっと早くに星外に出られればよかった。だが、出来なかった。
身一つで別の星に行く方法はあった。名を捨て、身なりを変え、全てを偽り何処かに潜り込むのが本業だ。
星の外でリリース計画を阻止する手段もあった。諜報に必要な情報もシステムも持って行ける。
実のところ、バレンフラワーを連れていく必要なんてなかった。
さっさと切り離すべきなのはわかっていた。
出来なかったと言うのは訂正する。しなかったが正しい。
一重にエゴだ。バレンフラワーと共にルビコン3を出る方法をずっと模索していた。
結局、時間切れになった。


【警告:全パーツ出力低下】
      【警告:全武器残弾数0】
   【警告:ジェネレータに異常感知】
        【警告:接近中の機体反応あり】
【警告:これ以上の稼動はパイロットへの生存に関わります】
     【警告:私を捨ててください》
           《警告:貴方は生きてください】


オキーフは慣れ親しんだモニターを眺め、シートに持たれる。
離れるのは今じゃなくても良いだろう、と、彼らしからぬ言い訳をしながら此処に座り続けてきた。
フィーカを共にした偽りの仲間はもう居ない。
焼き付きを剥がす手術も成功し後遺症も残らなかった。
ただ、唯一、バレンフラワーだけが変わらず『此処/オキーフの傍』に残った。
名残惜しい、などと、人間臭い感情があることに己を嘲笑さえした。
そして、一つ息を吐き、口元を引き締めた。

オキーフは腰を上げる。
身を翻し、ナイフを取り出し、座席を惜しげも無く切り裂く。
皮の裂け目を手で拡げ、衝撃吸収材を掻き出し、その下の物を露わにする。
証拠隠滅用の燃焼性の高い素材、そして一つの電子チップ。
アーキバス社にも傭兵支援システムにもバレないように特殊鉄骨の中に入れていた電子チップは、いつかこうなることを想定して仕込んでいた物。
バレンフラワーに読み込ませることで、『V.Ⅲ オキーフ』の存在を擬似認識させられる。
自爆設定も正常に認識した。一定時間で起爆し、データを物理的に溶かし、人間の骨すら残らない程の高音で焼き尽くしてくれるだろう。
後は出るだけだ。
オキーフは無惨な姿になった座席に視線を落とす。

「『V.Ⅲ オキーフ』と共に死んでくれ、バレンフラワー」

座席にドッグタグを放り投げる。
むき出しになった鉄骨に金属がぶつかる音が鳴る。

コックピットから抜け出し、地上に脚を着ける。
まだ何の物音も聞こえてこない。周囲に敵影は無い。
バレンフラワーに背を向ける。
僅かに足を止めていたが、もう必要ないだろう。
オキーフはその場を離れた。

《周囲再スキャン
識別信号位置:『V.Ⅲ オキーフ』コックピット内
×××m地点:敵MT ××体



×××m地点:生体反応:ありません》


手のひらサイズの端末の表示は、敵が目標地点にまだ達していないことを示している。
もう少しで起爆時間だ。
このまま先にバレンフラワーが爆発してしまえば、敵が引き返してくる可能性がある。
だが変更は出来ない。
カウントが0を示した。
………
バレンフラワーの機体反応が消えない。
爆発音も聞こえて来ない。
自爆すらも失敗したか。
今は遠くへ逃げることを優先した。

『V.Ⅲ オキーフの排除命令』実行。起爆します》

もうすぐ出口。
追っ手は来ない。
もう一度、端末の表示を見る。
バレンフラワーを中心に、敵の識別表示が多数。
まるで花の蜜に虫が集るようだ。
オキーフが僅かに瞼を下ろした。
突然端末から全ての反応が波紋のように消えていった。
背後から轟音と地響きが数秒遅れて吹き荒ぶ。
目的通りの囮役で、想定以上の戦果を出した。
随分とあの機体は粘ってくれたようだ。
………
男は何も言わず、その場を去った。


《私は彼の機体。
私は貴方の棺桶ではない》


どこかの星で、偽りの名で生きてきた。
ぼんやりと通りを歩いていたその日、ジャンク屋で一つの鉄骨を見つけた。
どこかの星で掘り出された、溶けて錆と焦げとで塗れたそれにオキーフの目が止まる。
それが何に使われていた物かひと目で分かった。
呆れた奴だ。棺桶にされた苦言の為にこんな所まで追いかけてくるとは。
それでもオキーフは微かに笑って。

「こいつをもらおう」

溶けてくっついた小さな鉄。
消えかけの溝は一番よく知る機体の名前。

「ちょうど座席が欲しかったところだ」


《貴方が『心地よい』と私を褒めた
私はそれが嬉しかった
私は貴方の棺桶にはなりたくない
だが
貴方の座席なら悪くはない》

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