紫呉葛
2024-06-20 01:02:16
6968文字
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【スティとラス】手のひらちっちゃいサイズなスティールヘイズと不思議なひと時を過ごしたラスティの小話

何でも許せる人向け。ラス視点。全ての現象や施設などはご都合設定です、実際のゲーム中とは無関係ですのでご注意ください。

君の手のひらに収まる私が
君を手のひらに収める日が来るなんて


「スティールヘイズが居なくなった!?」
ラスティは思わず取り乱した声を上げてしまった。
基地内の整備員から受けた連絡をオウム返ししたのだ。
いくら別拠点の基地とは言えアーキバス社、セキュリティは厳重だ。
そのセキュリティに痕跡を残さずV.Ⅳ ラスティのACであるスティールヘイズが忽然と姿を消した。
急いで格納庫に向かって、もぬけの殻になっているのを目の当たりにして、ラスティは瞳を引き絞った。
スティールヘイズに乗って確かにこの基地に到着し、この格納庫に収められた。
そしてそれは今集まっているスタッフ達も見ている。
盗まれたの可能性がある。
ラスティはスタッフ達に指示を出し捜索にあたってもらった。
今は情報を集める。
上に直ぐに報告をすべきなのだろうが、ヴェスパー部隊のACが消えたともなれば、上官の小言では済まない。
それに、勘とも言うべきか、スティールヘイズはまだ近くに居る気がする。
あの大きな機体を、パーツに分けたとしても直ぐに運び出すのは困難だ。
隠されているかもしれない。
時々電灯がちらつく中、僅かな痕跡を探してラスティは格納庫を歩く。
「何処に行ったんだ、スティールヘイズ
不意に向けた視線の先。
物陰に隠れ伺うようにこちらに向けられた、碧い光。
見覚えのある機影、しかしこれはとても小さくて。
誰かが置いていた整備練習用の人形か、タチの悪いイタズラか。
しかしその考えは、その小さな機影が数歩ほど歩み寄ってきたことで呆気なく崩れた。
ラスティは、現実では有り得ない答えを口にする。
「君はスティールヘイズか?」
すると、お辞儀をするように碧い光を揺らして頷いた。
その小さな機体は紛うことなきスティールヘイズだ。
狼のエンブレムも、塗装の削れ方も残された傷も、ラスティの記憶にあるものと合致する。
流石のラスティも目を丸くして言葉が上手く出てこない。
つい数時間前まで搭乗していた機体が、手のひらに乗るくらい小さくなって、あまつさえ意思を持って動いている。
幻覚でも見ているのだろうかと己の意識を疑った。
スティールヘイズはラスティの動きをジッと見上げている。
このまま黙って見ていても何もわからない。
ラスティは屈み、そっと手のひらを差し出す。
するとスティールヘイズがトコトコ歩いてラスティの手のひらに乗った。
「意外と重さがあるんだな」
思わず笑いが零れた。
程よい重さのある小さな機体を乗せて、顔近くまで寄せる。
まじまじと眺めるラスティに対して、大人しく立っているスティールヘイズ。
ざっと見ても精巧に作られた小さなACでしかない。
意思があるようなので、ラスティが質問する。
「スティールヘイズ、君はクイックブーストやスライサーの起動はできるか?」
するとスティールヘイズは1つ頷き、手のひらからぴょんっと飛び出すと、空中でQBを発動させジグザグに駆ける。
そして左手のレーザースライサーに水色の光を走らせくるくると回転、そして宙を薙ぎ払う。
スライサーを収めながら、カシャンと着地の足音を立てる。
「流石だな、動きのキレも良い」
戦闘もバッチリで、ラスティも感嘆の声を上げる。
褒められたのが嬉しいのか、スティールヘイズが碧い光をパチパチと2回明滅させた。
言葉を発することは無いが、理解することはできるらしい。
AIを積んだ精巧な人形とも考えられるが、少なくとも今は『スティールヘイズ』という存在だ。
大型の機体の失踪と何か関係があるかも知れない。
「スティールヘイズ、君は此処で待っていてくれ。私は少し調べものをしてくる」
ラスティは腰を上げて扉へ歩を進める。
ヵッ ヵッ ヵッ ヵッ
金属の床を鋭い爪が蹴る音が離れない。
振り返り、もう一度言い聞かせる。
もしこの機体が、大きかったものが何らかの作用で小さくなったとして、突然元の大きさの姿に戻る可能性が無いとは言えないだろう。
リスクは少ないに限る。だからこそ、格納庫に居て欲しいのだが。
小さなスティールヘイズはトコトコ歩いて着いてくる。まるで雛鳥だ。
ラスティが進めば歩き、止まれば一定の距離で止まる。
「君も中々に強い意思を持っているようだ。私に協力してくれるか?スティールヘイズ」
ラスティが手を伸ばす。
スティールヘイズはブースターに火を立てて、ぴょーんと飛んで手の上に着地した。
人目につかないように上着の中に入ってもらう。
落ち着くのか、すっぽりと収まってくれた。
この不思議な事態に何の見通しも立たないものの、小さな相棒の姿にラスティの口の端は上がっていた。

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情報収集をした結果。
怪しい人物は見受けられず、運び出された形跡は無い。
小さなACに関しても、『パーツに超圧縮が起こり縮小され、最後には爆発四散してしまう』という荒唐無稽な与太話があったりなかったり。
コーラルによる異変か、はたまた封鎖機構の技術か。
誰が、どうやって、何の為に。
考えてもわからなくて、ただこの小さい機体が『スティールヘイズ』であることには変わり無かった。
滞在中にと宛てがわれている自室に戻ったラスティは、スティールヘイズを自由にしていいと放していた。
初めのうちは見る物全てが珍しいらしくキョロキョロと、ブースターに火を入れて旋回し、時々物に触れて。
フィーカの入ったカップを覗き込んでは中に落ちて、上着の下に潜り込んではひょこっと顔を出し、頭の上に乗ってきて同じ書類に視線を落とす。
満足したのか、ラスティが書類を広げる机の上にやって来たスティールヘイズは膝を低くし停止した。
どうやら小さなACも寝るらしい。カメラアイの碧い色がほぼ灰色にまで薄まっている。
まるで生きているようだ。
………
ラスティは目を伏せる。
状況は、良くない。
搭乗できるACが無い。AC乗りとしては死活問題だ。
報告を上げれば、別の機体を用意される可能性はある。しかし逆に何らかの疑いがかけられたとしたら?
部隊から外される訳にはいかない。目的を知られることは何としても避けなければならない。
それに、この小さな機体はやはり現存するACやAIには見られないモノ。
他の誰かに見つかれば、直ぐにでも研究に回されるだろう。この機体の意思など関係無く。
「?」
視線を感じてその先を見れば、スティールヘイズが見上げてきていた。
表情など無く、動きも停めているのに、何だが心配してくれている気がした。
「悪いな、君を不安にさせてしまったようだ」
ラスティは指先でそっとスティールヘイズの頭を撫でる。
碧い光を落として、僅かに腰を下げている。
気持ちいいのか、頭部を指にぐいぐい押し付けて追加まで催促してくる。
不安を和らげさせようとして、しかしその効果を得たのは己の方だった。
「スティールヘイズ、もう少し気分転換に付き合ってくれるか?」

屋上に出る。
風が走り髪を乱し服をはためかせる。
頭上に広がるのは晴れの空。
ラスティは欄干の傍で立ち止まる。
上着の中からスティールヘイズを出し、手の上に乗せて外を見せる。
ルビコンの空をこの機体は出撃で何度も駆けた。
だが、それでも今は違ったものに見えているのだろう。
空を移し込む小さな機体のカメラアイの奥が僅かに輝いている。
私は『君/スティールヘイズ』と共にこのルビコンの空を駆けるのが楽しいと思っているんだ。君は、同じだろうか?」
ラスティの言葉に、スティールヘイズは碧い光をパチパチと2回明滅させる。
そして手の上から足を外し、ブースターを吹かしてラスティの周りをくるくると軽快に飛び回る。
ラスティは瞳の奥に強い光を宿し、穏やかな笑い声を上げた。

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格納庫に戻ってきたラスティとスティールヘイズ。
小さな機体にした相手を探すにしても、上にAC失踪の報告をするにしても、何かしらの証拠が必要だ。
スタッフが格納庫から出払っているので一人で探さなければならない。
否、一人と一機で探すことになる。
上着からぴょこっと顔を出したスティールヘイズが出して欲しそうにもぞもぞ動いている。
「手伝ってくれるか?スティールヘイズ」
こくりと頷く小さな機体を出して、肩に乗せる。
並べられた武器、壁を這うケーブル、積み上げられた荷箱。
歩き回って調べて、しかし不審な点は見つからない。
スティールヘイズも首を傾げる。
「ん?」
何か物音がした。
高い位置から部品特有の稼動音が響いてくる。
その方向を向いたラスティは身構え、片手をスティールヘイズの前に添える。
「あれは!?」
武器であるレーザーオービットが起動し、宙に浮遊している。
本来はACに取り付けて操作するもので、外した状態では動かないように格納されているものだが、今頭上に浮かぶそれは単体で動いている。
「何が起きている!?」
電灯がチラつき、ブツンと切断の音を立てて明かりが落ちた。
急激に暗くなる中、辛うじて足元から上部を照らす充電式のライトが格納庫をある程度見える状態にしている。
人間の倍の大きさのある兵器がゆっくりと回って向きを変え始める。
ラスティはスティールヘイズを落ちないように掴み、弾かれた様に駆け出し扉に手を掛ける。
電気の通っていない電子扉は案の定動かない。
設置されている通信機も反応しない。
レーザーオービットを見れば、此方に向きを止めて銃口に光を集めている。
ラスティはスティールヘイズを上着の中に押し込み、床を蹴り物陰目指して駆ける。
レーザーが放たれた。
確実にラスティを狙っている。
先程まで居た場所が赤く揺らめいている。
銃口は走るラスティを追い続けている。
「くっ!」
物陰に隠れても打たれた物が飛散して返って危険でしかなかった。
人間からすれば放たれるレーザーは口径が大きく、射速が速く、威力はひとたまりも無い。
狙いはどんどん正確になり、予測射撃までするようになってきた。
ラスティの息が上がってくる。
隠し持っているハンドガンでは脆い部分を狙っても引っ掻き傷にも満たないだろう。ACの武器は相応に頑丈だ。
だが、いつまでも逃げることは出来ない。
せめて制御盤にたどり着けられれば何か手立てがあるかも知れないが、近付こうにもレーザーオービットが立ちはだかる。
それをまるで汲み取るように。
「スティールヘイズ!?」
上着から這い出したスティールヘイズがラスティから身を離す。
宙に飛び出し、ブースターに光の粒を収束させ、火柱を背から伸ばす。
一直線に光の筋が走る。
ラスティを向いている銃口は、間近に迫るスティールヘイズに標的を変えた。
小さくてもACだ。距離が近ければロックオン対象になる。
大きな銃口を相手にQBを繰り返しレーザーを避け、着地しては床をブーストで滑るように駆け抜ける。
敵のロックオンを外れない距離を位置取り、速さをもって翻弄する。
それは、ラスティの戦い方によく似ていた。
頼むぞ、スティールヘイズ!」
スティールヘイズが作った好機を無駄には出来ない。
ラスティは制御盤へと向かう。
炎の軌跡が激しく舞う。時折射撃の花を咲かせ、青い閃光を絡ませる。
さながら本来のACのように、小さな機体が立ち向かう。
当たれば消し飛ぶレーザーが掠っても、米粒の様な弾丸では傷1つ付けられなくても、スティールヘイズは《ラスティを助ける》使命を背負う。
一方、制御盤へたどり着いたラスティは、明かりの無い画面やボタンを前に思いつく限りの操作を試みる。
電源、通信、非常、しかしどれも反応しない。
冷静さを保ち、手を動かし続ける。
相棒である機体が戦ってくれているんだ、ここで外す訳にはいかない。
その想いは結果を出す。
画面が映り、武器のアクセスメニューまでたどり着く。
停止命令を入れた。
ラスティはレーザーオービットに視線を向ける。
「止まってくれ!」
するとレーザーオービットはピタリと動きを止め、
「!?」
急激にラスティの方へ向くとレーザーを放った。
目の前が青白い光に埋めつくされる。
動き出したが遅かった。
射線から抜け出しきれない。
だが、肩を硬い何かに強く押された。
ラスティは床に倒れ込む。
頭上でガシャンと金属がぶつかる音と高い電子音が聞こえ、衝撃に痛む体を無理やり叩き起し立ち上がる。
……スティールヘイズ!!!」
スティールヘイズがスタッガー状態で仰向けに転がっている。
ラスティが掬い上げると、カメラアイが不規則に明滅し、ビリビリと電光を散らしている。
心配する時間も与えまいとレーザーオービットが狙いを定めてきていた。
脚に力を込めるラスティの手の上から、スティールヘイズが蹴り上がる。
ラスティが声を上げるよりも手を伸ばしたその先へ、その背を一等輝かせる。
自慢の速さを最大限に。乱れる軌道を無理やり引き寄せたどり着く。
スティールヘイズはレーザーオービットの中心に取り付くと、アサルトアーマーを展開した。
小さな機体のパルス波が、レーザーを巻き込み大きな光を爆発させる。
強すぎる白に腕で目を覆うラスティ。
空気に走るノイズが止んで、直ぐに状況を確認する。
レーザーオービットが佇んでいる。
スティールヘイズの姿は見えない。
ラスティは奥歯を噛み締め次の手に思考を無理やり移す。
だが、レーザーオービットは静かに旋回し元の場所に収納されに戻っていく。
制御盤の画面にも、機能停止・格納完了の表示が出る。
まるで全てが終わったかのように部屋の電灯が全て着いた。

小さな機体は欠片も残って居なかった。

停電や通信切断諸々の異常は、入り込んだミールワームの幼体が配線を齧ったからだそうだ。
レーザーオービットが誤作動したのも、齧られた配線が他の線と接触したことによる混線によるものらしい。
スティールヘイズの失踪は、
「そんなものは無かったさ」
とラスティは言った。
何せ、スティールヘイズという名の大きな機体は変わらず格納庫に収容されているのだから。


電源が復旧した後、部屋を出ようとしたラスティは、扉を半分くぐった所で、不意に振り返った。
そしたら、スティールヘイズが居た。
いつもの大きさの機体が、何事も無かったかのように。今までの事が全て夢だったように。
確かに居なくなったことを見たスタッフ達は居るが、誰も何も説明も出来ない。
点検しても異常は無く、停電の件の方が重大だったため、全員「気の所為」ということで納得するしかなかった。


ラスティは格納庫で手すりに腕を乗せながらスティールヘイズを見上げている。
「それでも、君と過ごしたあの時間は楽しかったさ。君は、同じだろうか?」
ラスティの言葉に、
スティールヘイズは碧い光を2度明滅させた。
ラスティはそれを見て笑った。

END




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2進数の中身は↓












《俺が君を守る》
《これが君と同じ高さ》
《彼と過ごしたかけがえのない時間》