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紫呉葛
2024-06-13 01:23:46
3367文字
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【6とスティヘ(ラス)】火√if生存昏睡ラスをスティヘに乗せて意思疎通をしたかった6の小話
何でも許せる人向けです。ネタバレ含みます。タイトル通りです。6視点です。6がとても迷子です。6しか喋りません。
個人的な一つの答え、みたいなものです。
―――
あの時、何故あの場を離れたのか俺自身にもわからない
星を焼いた。
自由になった。
ACに乗っていたから、傭兵業で食い繋いでいた。
もうコーラルの声も聞こえない。
「俺/C4-621」を知る者はもう居ない。
何の目的も無く生きていた。
未だ体は義体の部分が多いが、行動に支障が無い程度に再手術はした。
病院で予後の問題無しとの結果を貰い、そのまま直ぐに立ち去る
…
つもりだった。
何気なく覗いた小さな病室。
ベッドの上で包帯に身を包み、目を閉じ浅く呼吸している一人の男の姿。
視認した621は思わず呼吸の仕方を忘れた。
『ラスティ』
この手で落とした、『戦友』と呼んでくれた人がそこに居る。
スタッガー状態のように動かない己の体は漸く瞬きを思い出し、連動するように足が動いて状況を問いに向かっていた。
病院側に聴けば、傷は癒えているがずっと昏睡状態のまま、引き取り手も居ないらしい。
深く思考するより先に、621は彼を引き取った。
それから様々な治療を試したが、ラスティは目を覚まさない。
傭兵業を放り投げ、目覚めさせる方法を求めて飛び回った。
偶然か必然か、ジャンク屋の品揃えの中にスティールヘイズを見つけた。
塗装は削れ落ち、部品抜けと断線塗れ、傷と凹みと灰の化粧。
だがACであることには変わりないことを示す価格。
621は迷わず高額なそれを買い揃え、整備して、動くようにした。
機体を見た時に脳裏に過ぎったかつての己の姿。
ACを通して見ていた世界。
ラスティをコアに乗せ、スティールヘイズに繋げる。
電子音声の起動の掛け声。
621は機体の真正面に立ち、見上げる。
バイタルに異常は無い。機体にエラーは出ていない。
1秒が酷く長く感じる中で、僅かな音を、僅かな動きを逃さないように、見守る。
だが、どれだけ待っても変化が無い。
この方法もダメだったようだ。
諦めるべきなのかもしれない。だが、どれだけ失敗しても諦めることができなかった。
――
お前に、生きる意味を
小さなノイズが聴こえた。
621は目を見開く。
スティールヘイズの目に碧い光が灯った。
金属の軋む音を立てて、ゆっくりと頭部が動く。
ラスティを見つけた時のように621の心臓が大きく鼓動した。
やっと目標を達成したのだ。
ラスティが意識を取り戻した。
ぼんやりと辺りを見るように動いていたスティールヘイズの動きが621の前で定まった。
視線が向けられているのがわかる。
彼は、何を思っているのだろうか?
暫く沈黙だけが続いて。
「ラスティ
…
」
漸く621は声を出した。
何を言えば良いのかわからなくて、彼の名前を呼ぶことしか出来なかった。
彼の星を焼いたことを謝るには罪悪感が足りず、久しぶりと挨拶するには親愛さ等無く、言葉を選ぶにはラスティの気持ちも己の気持ちも理解不足で。
彼の出方を待ってみた。
スティールヘイズが少し前に傾いて、しかし負担が大きかったのか、碧い光が明滅し、消えて、停止した。
「
………
」
621は暫し黙って見上げ続け、そしてラスティをスティールヘイズの接続から離した。
バイタルが安定している時に、何度か接続した。
起動して、目に明かりが灯り、頭部が動く。
最初は頻繁に接続は落ち、バイタルが乱れることもあった。
それでも、ラスティとスティールヘイズの相性が良かったのか、起動時間が伸び、指先が動き、ぎこちなくはあるが上半身も稼動させられるようになった。
それでも、「対話」は出来なかった。
そもそも通信手段が無い。
スティールヘイズには発声機能は無く、メッセージを作成しようにも621が文字が扱えない。
621からの一方通行でしかない。
スティールヘイズの動く様を621は何も言わず制限せず、ずっと見ていた。
彼のやりたいように動いて欲しくて。
彼自身を取り戻して欲しくて。
ウォルターのように意味を与えようにも、そもそも621自身が意味を持っていなかったが故に。
スティールヘイズが滑らかに腕を動かせるようになった。
ACを1体置くのが限界の手狭な格納庫だ、そろそろ歩行訓練も兼ねて外に出てみるべきか。
そう考えていた時に、スティールヘイズが横を向く。
隣に吊るしていた物が気になったようで、金属の手が掛けていた布を剥いだ。
そこには、ローダー4の頭部だけがあった。
「それは燃え殻だ」
621がスティールヘイズに答える。
「『スティールヘイズ』を買い戻すためには手持ちが足りなかった」
スティールヘイズはジッと頭部に視線を留め、ゆるりと正面を621向ける。
何も言えないスティールヘイズに、理由を問われている気がした。
話さなければならない気がした。
聞いた彼が如何に動こうと受け入れる。それが621が最初から決めていたこと。
「
……
何処からどう話せば良いか、わからないが
……
お前には知る権利がある。聞きたく無ければ拒め」
しかし、スティールヘイズの碧色は失われることなく、まるで「話してくれ」と言うようだった。
「長くなる
…
無理はするな」
ウォルターに仕事を与えられた時のこと。星を焼くに至ったこと。
「沢山の命を奪った。焼かれる星から遠ざかった。なのに、未だに俺の命の使い方がわからない」
ルビコン3に来る以前の記憶も戻らず、ウォルターに望まれた『普通の生活』というものを理解できず、漠然と生きて傭兵業を続けていたこと。
「俺は、お前を目覚めさせることで
……
生き残った意味が見つかるのではと思った」
ひたすらに模索する日々を続けていたこと。
「使い方がわからない。ならば、お前にくれてやった方が良いのだろう」
全ては自身の身勝手だということ。
「もう今の俺には、お前に抵抗する手段が無い。殺したければ殺せ」
スティールヘイズは、動かなかった。
きっと、長い話を聞かされて疲れたのだろう。
いつ殺されても気にしないので、今日はここで切り上げよう。
621は不意に、ずっと心にあって、言語化に悩んでいたものを口にする。
「ラスティ、俺は、お前が生きていてくれて、
…
おそらく
…
これは、『嬉しい』」
大きな影が621の頭上に覆い被さる。
スティールヘイズの腕が掲げ上げられている。
―――
あぁ、お前は、それを選んだのか
621は逃げることも慌てることもなく、ただただ変わらない眼差しでスティールヘイズを見上げていた。
グシャッと鈍い音がした。
スティールヘイズが腕を振った。
横に。
機体の拳は、吊るされていたローダー4の頭部を壁に叩きつけ殴り潰していた。
破片がぱらぱらと落ち、パーツ内部のコードが溢れて垂れている。
湾曲と亀裂の具合からもう修理は不可能だ、だがそれは気にしていない。
621は目を見開きスティールヘイズを見上げている。
何故俺を殺さなかったのかわからない。
彼は恐らく怒っている。首筋がヒリヒリと痛む。
彼が救おうとしていた星を終わらせたのだからそれは当然の反応のはずだ。
だから、怒りを621にぶつける理由になるはずなのに。
―――
俺には、わからない。
下方に頭部を向けているスティールヘイズの動きをジッと待つ。
機体の腕がゆっくりと壁から離される。
頭部パーツが賑やかな音を立てて床の埃を撒き上げる。
碧色の光が621を見る。真っ直ぐ、射抜くように。
彼は、もう一度、腕を上げた。
少し錆の入った金色の手が向かってくる。
迫り来る。突き刺すように伸ばされた指。
621の目の前にスティールヘイズの手が置かれた。
まるで、握手を求めるように。
「
………
」
621は彼の手を見る。
ラスティはあの時、言っていた。
『「ようやく君を知ることができた」「もう少し早ければ、違う未来もあっただろう」』と。
―――
お前を知ることが出来れば、違う未来を、この命の使い道を、見つけられるだろうか?
―――
せめて、お前のために使いたい。
「お前の考えは、まだ俺には理解出来ていない。だが、お前が望むのなら死ぬことも殺すことも受け入れる」
―――
最後まで『戦友』と呼んでくれたことが『嬉しい』と感じたから。
「ラスティ、俺と、ともに」
621は、スティールヘイズの手に手を重ねた。
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