だってチハルが最初に言ったんじゃん。でもそれだってマキナが悪いんだよー。は、あーしは別にやりたくなかったしやりたくないって言ったじゃん。もう、リョーコちゃんにちゃんとマキナ止めてとか言われたけどムリだよぉ。そもそもいっつも原因はチィなんだから。
ここはネオ町田のなんか可愛い感じのカフェ。そこでカートと俺の目の前で繰り広げられる元気な応酬。てか元気だなって思っちゃうのって若さとの差を感じてるってことなのかな、もうサイボーグになっちゃったから若さとか関係ないんだけど。
「ねぇーもう、チハル疲れた……。」
「……そりゃそんだけ元気に言い合ってれば疲れるんじゃね。」
あ、やっぱりカートも二人のこと元気だなって思ってたんだ。
「カートくんとマックスくんは喧嘩とかしないの?マキナってばいっつもこんなんだからさぁー。」
「はー?こんなん喧嘩じゃないっしょ、チィがワガママ言ってるだけじゃん!」
こっちを挟んでまた言い合いが始まりそうな展開に、二人の顔を交互に見遣る。カートも目をきょろきょろさせて、やむなく口を挟んだ。
「俺のミスはマックスのミスだし、マックスのミスは俺のミス。俺らチームだから。どっちのせいでも自分のせい、それで喧嘩になるわけない。」
カートの言葉で言い合いは止まり、二人はこちらを見遣ったり互いを見たり、今度は向こうがきょどり出した。
「んあー。……それって一心同体的なアレっすか?」
えっとマキナちゃん、が恐る恐るというか、頭を掻く仕草をしながら問うて来た。
「それはどうだろ、まあ確かに喧嘩はしないけどねえ。カートは俺の手足じゃないし、俺はカートの頭脳じゃない、カートだって自分の考えがある。」
俺の返事に、二人に加えてカートもこちらを見て来たが、何も言わなかった。
「……え、チハル分かんなくなって来た……それってふたりは……合体ロボってこと……?」
「いやもっと違うでしょ。」
余計に混乱させてしまったチ、チハ、チハルちゃんと、それにツッコミを入れるマキナちゃん。参考にならなさそうだし思ってた答えと違うんだろうけど、激しい言い合いは治ったし、まあ良いでしょ。
その日は確かにそう思っていたんだけど。
「あいつなんか!あいつなんか!」
ここは新如月のファミレス。そこで顔を上向けに頭を振る俺に、目の前の二人はそんな俺を見て、二人で顔を見合わせた。
「マックスくんの今言ったの、なんかの歌のフレーズ?またミナミちゃん?」
「いやミナミちゃんではない。あーでもなんか、女三人組だった気ぃはする……。」
「ふーん。」
「いやチィ自分から振っといて興味失せるなし。」
「だって結局分かんないんでしょー?歌のお姉さんー?それに喧嘩なんかしないって言ってたマックスくんとカートくんが喧嘩してる理由もー?」
「いや二人が喧嘩してる理由はこれから聞こうって流れっしょ。てかゲームとかじゃないよな?そんなあーしらよりクダラネー理由?」
「黙秘します。」
二人がまたこちらを見た。
「はー?そっちが喧嘩した後って仲直りってするんだよね?って訊いて来たから、お?どしたどした?って冷やかしに来てやったんじゃねーかばーか!」
「マキナが喧嘩売ってどーすんのもー!」
この二人とは別のタイミングだけど、聴取されたことを思い出す。あの嘘つけなくなるキャラメルでもまたあれば、こんなことにもならなかったのかな。
「っていうか俺も分かんない。」
「はあ!?」
「マキナぁ!」
「てか喧嘩の始まり?って何。いつ?」
「それはぁー……。」
「ええっと?」
「直感で!ここって思うとこでいんじゃね?」
「……へえ?」
うーん、じゃあ。
「何処から話したらいいんだろう。」
俺とカートは背景に同じ景色が少し被ってるけど、根本のバックボーンまでは同じじゃない。ただ、その少しの同じ景色を見たことで、考えの擦り合わせが必要なくて、楽だから一緒にいて、そういうの、それを仲良しと言って良いのか俺は本当には分かってなかったのかもしれない。
だから俺が要らないゴミだって切り捨てたものが、本当にはカートには欲しいものだったかもしれない。本当はちゃんと擦り合わせなくちゃならなかったそういうのを、俺は取りこぼしちゃってたのかもしれない。そういうのが、なんかどんどん降り積もるみたいになっちゃったのかも。
カートが俺らはチームだって言ってくれるから、自分の体もカートの一部だと思ってなるべくぞんざいに扱わないように、回線とディスクの負荷に余裕があるようにしてるけど、全体の優先順位的にはやっぱ消費しなくちゃならないものだから、でもそうすると。
「カートが不機嫌になる。」
女の子二人は今は静かに良い子にしているから、話を続ける。
カートが万が一傷付くとしたら装甲とかの外装だけど、俺は中身を消費するからヤバいだろって、外的に現れてなかったら分かんないんだからなって、困った顔で言うから。そんなん直接相手取るカートだって内部干渉だったら危ないのにね、まあそれだったら余計に俺が競り勝つけど。それにアニマトロニクス、カートの顔に怪我が出来たら勿体ないって思っちゃうんだよね。カートも自分の頭は自分で守るんだけど。ほら俺の顔なら有っても無くてもって感じじゃん。
「カートは不機嫌になるけど。」
そもそもさ、カートは不機嫌になるけど俺に嫌がらせしてくるとかダサいやつじゃないし、俺のことを遠避けたりするわけでもないんだよね。結局俺が勝手に気不味くなってるだけなのかも。マックスなんか知らねえ、って、そういうことカートは言わないんだよね。なのに俺と来たら。
てか最初にさー、カートくんが大暴れしてる間にデータ抜いたり増援切ったり証拠消したり、こっちが勝手にしてたことに対して、すげーじゃん助かったわって言って来て。俺はカートの働きを利用してただけなんだけどね。それで今の会社に入社試験合格出来たって。あ、これ言って良いのかな、まあ試験ってどうせ抜き打ちだから、関係ないか。兎に角それ以降だって俺の仕事尊重してくれるし。俺なんかコレなのに、ね。
「あいつなんか、あいつなんか。」
俺の知らない銀河系まで飛んでって、幸せになってほしい。
「なんてね。幸せがなんなのかよく分かんないけどね。」
俺のつまんない話に黙って耳を傾けてくれた二人。良い子だねー。
「……えてか喧嘩したって話じゃなかったん?不機嫌って、ガキかよ。」
「ちょっとムッとされちゃった感じー?」
「あーしそいつにもっと怖い顔されてんですけど。」
「俺はされないもん。」
「マックスくんってカートくんに甘やかして貰ってんだねー。だからマックスくんもカートくんちょっとでもゴキゲンでいてほしーんだ!」
「……そうかも。」
あれ、そんな話なんだっけ。いや違う違う、俺は。
「カートには銀河系の幸せを掴みに飛んでってほしいんだって!」
「俺も行くならマックスも一緒だよな。」
え。四人目の声の方へ、三人で振り向く。
カートくんじゃん。
「カートくんやっほー。」
「うっす。」
チハルちゃんとカートが挨拶してる。え、マキナちゃん、まさかマキナちゃんが呼んだんじゃないよな。
「マックス。」
「あ、ハイ。」
「もう帰ろ。」
「え。」
ええ〜。そんなの、帰らない理由はないんだけど、帰る理由もない。
「早くしろ。」
でも呆気に取られて思わず黙り込んでいると、またカートが呼んで来て、曲がってもいない筈の、俺の上着の襟をいじって来る。カートが不機嫌になってしまった。
「つかさー、マックス良いの?」
「え?」
「そこの人達スピード違反公務執行妨害警察車両爆破の凶悪犯罪者だぞ何されるか分かんねえぞ怖いじゃん。」
「ちょっと初見時の仕返しやめろーぉ!も、帰んなよ。」
「マックスくんカートくんばいばーい。」
マキナちゃんとチハルちゃんからも帰るように言われてしまう。もう完全に話を聞いてくれる感じではなくなってしまった。カートが上着を引っ張って催促して来る。
ファミレスを出て黙々と歩くカートに着いて行く。いつも二人でぶらぶらする時は、俺が突然寄り道しても怒らないで付き合ってくれるのに、今全然そんなことしちゃ駄目な雰囲気。帰宅直行便って感じのカート。
「え、あの。俺たちってひょっとして喧嘩してたりする?」
「は?してない。」
訊いてみてもカートに即座に否定される。してなかったか、そりゃ何より。
「何。俺と喧嘩別れして銀河系まで飛んでってほしかったってこと?」
「違う。全然。」
カートは本当にはそんなこと思ってなくて、確認だけしたみたいな具合で訊いて来た。だから俺の答えにも、へー、みたいな。
「逃げても迎えに来るかんな。」
だからまたただの確認みたいな調子でそう行って来る。
「俺らの罪状はスピード違反と砂糖の密輸でじゅーぶんしょ。」
やらかすのも、捕まんのも一緒、ってね。
「あー、ね。」
カートは俺の返事に満足そうだった。こっちを見て来る。うお、眼差しが眩しい。
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