おから
2026-01-08 18:22:41
1720文字
Public いかがわしい
 

このライターに預けてみてもいいかな

出会って8年の🐇🐢が闇期以来初めて関係を持った。🐇が擦れてます。ハピエン

 先に目覚めるんじゃなかった。
 兎耳山は最悪の気分をどうにかしようとサイドチェストに置いた煙草の箱とライターを握りしめてベランダに出た。
 Tシャツにボクサーパンツは流石に寒かったが、そんな事どうでもよかった。
 兎耳山の心とは真逆の、清々するほど爽やかな朝焼けだった。
 最後の一本だった煙草を咥えアークローヤルの箱を握りつぶす。
 ライターで……十亀からプレゼントされたジッポライターで火をつけようとしるが、火がつかない。
 そうだ、ガスが切れていたんだった。
「くそっ」
 咥えていた煙草を左手に指し、兎耳山はらしくない吐き出し方をする。
 なんで目を覚ましてしまったんだろう。
 いつもなら絶対に十亀の方が先に起きるのに、今日に限ってどうして起きたんだ、と。
「はぁー……
 兎耳山らしくない溜息が出る。
 別に先に起きたってよかったんだ。いや、良くはない、何もよくない。
 十亀が先に起きていれば昨日の事なんて酔った勢いにできて、知らなかった振りをして今日をまた始められる筈だった。
 それなのに神様はそれを許してくれなかった。いや、そもそも神様はもういなかった。
 酔った勢い?
 チューハイで酔えるほど子供じゃない。
 明確な意思を持って兎耳山は十亀を抱いた。
 八年間抱き続けた恋心なんてラベルが劣化して何が何だか分からない感情を殺す事もせず初めて……あの頃以来初めて抱いた。
 最悪だ。
 拒んでくれなかった十亀も最悪だ。
 こんな感情、持っているなんて知ってほしくなかった。けれども十亀があんな事言うから、全部、全部瓦解した。
「好きなやつなんかつくんないでよ」
 好きな人がいるんだぁ、なんて台詞八年間一度だって聞いた事なかったのに。
 カチ、カチと十亀から二十二歳の時にプレゼントしてもらったジッポライターを弄ぶ。
 朝焼けはいつしか朝へと変わり、背後から気配を感じる。
 なんて貶されるだろう、貶してもくれないかもしれない。どう考えても後者だ。
「ちょーじ、ライターつかう?」
「つかう」
 兎耳山がよくライターを忘れるから、吸わないのに十亀がライターを持っている事が多い。
 どこから取ってきたのか……コートか、百円ライターを大きな手から受け取る。
 十亀は覚束ない足取りで兎耳山の隣に立つと、寒いねぇと呟いた。
 インナーとボクサーパンツだけならそりゃあ寒いだろう。というか、あの状況でちゃんと下着を脱げた自分たちを褒めたい。
「ちょーじ童貞じゃなかったっけ」
「亀ちゃん抱いてたじゃん」
「そっかぁ」
 何がそっかぁだ。
 兎耳山は受け取ったライターで最後のアークローヤルを吸い始めると、随分縮んだ身長差に思いをはせながら、あの頃よりは楽だったなぁとぼんやり昨晩の事を思い出す。
 なんて言ったんだっけ。
 そうだ。
「亀ちゃんオレ以外に好きなやつ作るの?」
 十亀は苦笑いをして兎耳山を見た。
 ああ、この男をあれだけ泣かせたんだな、と妙な実感が湧いて来て、今更恥ずかしくなってきた。
「ちょーじ以外好きにならないよ」
「でも昨日好きな人ができたっていったじゃん」
………いいんだぁ、もう」
………
 そりゃそうか、男に犯されて好きな人がどうとか言えるわけないか。けれども兎耳山は罪悪感もなくアークローヤルを吸う。こうなったら奪うのみだ。
「ちょーじ」
………
「昨日言ったこと、ほんと?」
……ほんと」
「そっかぁ」
「?」
 やけに嬉しそうな十亀に妙な既視感を覚えながら、兎耳山は煙草を唇から離した。
 そして、そのまま昨日七年振りにキスをした唇にキスをした。
「ちょーじは、オレがいいの?」
「亀ちゃんじゃなきゃ嫌だっていった」
「オレの事好きってほんと?」
………ほんと」
 本当はこのままの関係でもいいかな、なんて思っていたし、どうせ十亀も自分以上を作る事もないと思っていた。
 それをぶち壊したんだから、本音も出るというものだ。
「叶っちゃったぁ」
 至極嬉しそうに笑う十亀。
 そして、間違っていなかったことを知った兎耳山。
 なんだ、先に目覚めてよかったじゃないか。