M
Public 熱草
 

📘【熱草】君と僕の距離

2人きりで遊園地に行く話(8,525文字)

雲一つなく、穏やかに晴れたある日。
僕はそわそわしながら辺りを見渡していた。
今日はあっちゃんと一緒に遊園地に行く約束をしているのだ。
あっちゃんがチケットの割引券を貰ったらしく、よかったら一緒に行かないかと声を掛けてくれた。
高校生になってから2人きりで遊ぶのは初めてで、あっちゃんから誘ってくれた事がすごく嬉しかった。
昨日は緊張と高揚で、あまり眠れなかった。
何を着ていこうかなどんな話をしようかな
あれこれ考えているうちに朝を迎え、目覚まし時計が鳴る前に潔くベッドから出て支度を済ませたので、予定よりも早くに家を出発した。早くあっちゃんに会いたいという気持ちの表れなのかもしれないが。
まだ彼の姿は無い。当然、集合時間の30分も前なのだ。気長に待とう。

しばらくすると、遠くからこちらの方へ走って向かってくる人が見えた。
(あっちゃんだ!)
風にさらされた髪の毛を少し整えて、控えめに手を振る。
「おはよう!ごめんきんちゃん、待たせちゃったかな?」
「ううん!僕もついさっき来たところだから」
「よかったていうかきんちゃん、早いね」
「あっちゃんだって同じだろ
腕時計をちらりと見ると、僕が到着してからまだ10分も経っていなかった。
「え、そうかな?いや、なんか早く目が覚めちゃってさ」
「そ、そうなんだ」
あっちゃんも今日を楽しみにしてくれてたのかな学校外で会うあっちゃんは新鮮で、あまり面と向かって話す機会も無かったから少し緊張する。
「それにしても、良い天気で良かったねー。じゃあ、行こっか」

******

入園してすぐ前方に、身につけグッズを売るワゴンがあった。
カチューシャに帽子、光り物などが置いてある。
こういった場所に来る事はあまり無いが、友達やカップルでお揃いの物を身につけて楽しむのだろうな。
あっちゃんはああいうの着けるのかな。はっちゃけてるみたいで恥ずかしいけど、あっちゃんとなら別に………
「きんちゃん、何か気になる物あった?」
いつの間にか僕の目線はワゴンの方に集中していたようだ。
「あっいや、なんでもない!ちょっと見てただけ!」
「そう?でも、覗いてみようよ!時間はたっぷりあるんだし」
「うん
2人でワゴンに近づいていくと、手前に温泉マークの刺繍が施されたキャップや、オリジナルキャラクターのマフラーキャップなどが置かれていた。
「俺帽子とか似合わないんだよな〜。温泉マークってのもなんか遊園地っぽくないよね」
「待って。あっちゃん、何か買おうとしてる?」
「うん、せっかくだからと思ってあ、きんちゃんこういうの嫌だった?そしたら俺だけ着けるのもアレだし」
「嫌じゃない!!!」
必死なあまり、思ったより大きい声が出てしまった。
「そ、そっか。じゃあカチューシャも見てみようか」
「うんそうしよう」
あっちゃんが欲しいと言うのなら乗るしかあるまい。
……本当はあっちゃんと一緒に着けたいなんて言う勇気は無かったから、渡りに船だった。

某ネズミの国とは違い、デザインのシンプルな動物の耳のカチューシャがいくつか並んでいた。
「動物園みたいだな」
「そうだね。クマにキリンに、えーと、これは犬?」
「キツネじゃないか?あ、ほらタグに書いてある」
「ほんとだ。あ、これきんちゃんに似合いそう!」
あっちゃんは悪戯を含んだ笑みで、ウサギのカチューシャを指差した。しかもピンク色だ。
「こっ、こんなの可愛すぎるよ!女の子じゃあるまいし……あっちゃん、僕をからかってるな!」
「ごめんごめん。そんなつもりないよ。でもほんとにきんちゃんに似合うと思うよ。ていうか、俺がただ見たいだけっていうか……
照れ隠しで強く当たってしまったが、申し訳なさそうにされるとこちらも申し訳が立たない。実際、あっちゃんが僕に何かを求めてくれている事に満更でもない己もどうしようもない。
「ほら、きんちゃんの着けたい物が一番だから。今のは気にしないで」
困ったような笑顔とその気遣いが、僕の逃げ道を塞いでいる事に気がつかないのだろうか……
……いや、これにする」
「えっきんちゃん、無理しなくていいんだよ」
「無理なんかしてない。あっちゃんが選んでくれたから、僕はこれが良い」
あっちゃんは一瞬驚いた顔をしたけど、そっか。と嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあきんちゃんも、俺に選んでくれない?」
「えっ!うーんとそうだな……この中だったらキツネかな?」
「ふ〜ん。ウサギを選ぶのかと思ってた」
「なんで?」
「ん?俺がウサギを選んだ仕返しをされるんじゃないかと思って」
「仕返しって僕はあっちゃんにそんな事しないよ!!」
僕はあっちゃんに喜んでほしくてウサギにしたのに、嫌々選んだみたいじゃないか。
あっちゃんに試された気がして、少しムカつく。

会計を済ませ、各々カチューシャを身につけた。ショーウィンドウに反射したウサギ耳の自分の姿に恥ずかしさが込み上げる。
「やっぱり、変じゃないかな?」
「可愛いよ!!あっ、ごめん。可愛いとか……
そう言われるとますます恥ずかしくなって、なんと返したら良いかわからない。
「あっ、あっちゃんも似合ってる!」
「ほんと?ありがとう。こういう所に来ても被り物とか買った事無かったんだけど、きんちゃんと一緒に目一杯楽しみたいなと思って俺、舞い上がりすぎかな?」
キツネ耳のあっちゃんがふんわり笑う顔に、どきっとする。舞い上がってるのは、僕も同じだよ。

「きんちゃん、まずどこ行く?」
園内マップを広げて、二人で眺めながら考える。
「あっちゃんって絶叫系とか平気だっけ?」
「フリーフォールは苦手だけど、ジェットコースターは好きだよ」
「僕も真下に落ちるのはちょっと怖いじゃあ、これ乗りに行こう!」

園の名物であるジェットコースターは、そこそこスリルもありながら、子供から大人まで楽しめる爽快感が売りらしい。
僕はこれまでの人生で、ジェットコースターに乗った記憶が一度も無い。下から見ると結構な高さがあって、走行するコースターから聞こえてくる叫び声が不安を煽る。でもあっちゃんはジェットコースターが好きみたいだから、乗れないなんて言いたくないしあっちゃんなら「大丈夫だよ」って言ってくれるだろうけど、気を遣わせてしまうから僕が嫌なんだあっちゃんと一緒だから、大丈夫大丈夫
「きんちゃん、怖い?」
「えっ!?な、なんで?」
「なんでってすごく思い詰めたような顔してるからさ。無理しなくてもいいんだよ」
「ちっ、違う!精神統一してただけで」
「ほら、やっぱり怖いんだ」
「そうじゃなくて!僕はジェットコースターに乗った事が無くて、初めてなんだでも、乗れるようになりたいから、これはチャレンジなんだ!」
平静を装っていたのに、あっちゃんには全てお見通しで、結局情けない姿を露呈してしまった。
「ふっ、そういう事か。まぁ何事も経験だからね!はい、リラックスリラックス」
そう言いながら背中をさすってきたので、びっくりして肩が跳ねてしまった。でも心地が良くて、不安な気持ちは何処かへ飛んで行った。



「あっちゃん!もう一回乗ろう!」
「えっ、また乗るの?!三回連続だよ?!」
…………だめ?」
「だ、ダメじゃないよ!乗ろう乗ろう!」
"恐怖"より"楽しい"が上回り、何度も何度もおかわりした。あっちゃんを振り回してしまった自覚はあるが、嫌な顔せず付き合ってくれるからついつい甘えてしまう。

さすがに疲れたので、ふらふらと歩きながら休憩出来る場所を探していた。クレープ屋を見つけて「ここにしよう」と二人で頷く。
「ちょうど甘い物欲しかったんだ〜。あんこのクレープは無さそうだよ」
「あんこのクレープ?得体が知れない食べ物だな」
「きんちゃん和菓子好きだろ?ほらコンビニに生クリームの入ったどら焼きとかあるし、組み合わせ的に無くは無いと思うよ」
「それは和菓子なのか?もうとにかく、この中から選ぼうよ!」
「はいはい」
そんな会話から、ふとあっちゃんの大好物が頭に浮かんだ。
忌まわしきあの茶色い物体____カレー。
だがしかし一番好きなカレーの種類や、肉は何を入れるだとか、そんな事まではわからない。いや、カレーに関しては僕が極端に嫌っているからそんな話には到底ならないが。
……きっとあいつは知っているんだろう。
うっすらと黒い感情が浮かんだのを必死で掻き消した。離れていた数年間を埋めようだなんて、強い独占欲を抱く自分が気持ち悪い。

「俺はバナナチョコクリームにしようかな」
「僕はスペシャルいちごクリームにしよう」
「ふふ」
「な、何がおかしい!」
「なんでもない。あ、お願いします」
あっちゃんがまとめて注文してくれた。「奢るから」の一点張りで、お金を受け取ってはくれなかった。
クレープを受け取ると、二人は向かい合わせで席に着いた。あっちゃんにご馳走してもらってなんだか申し訳なく思っていると、「そんなの気にしなくていいから。さっ、食べよ!」と明るくかわされてしまった。
二人でいただきますをして、一口。溢れんばかりのクリームが、疲れた身体に沁みる……
「きんちゃん、美味しい?」
「うん!すごく美味しい!」
「あ、クリームついてる」
あっちゃんに紙ナプキンで口元をそっと拭われる。
「あっ、ありがと
「ねぇそれ、一口貰っても良い?」
「うん!もちろんはい」
クレープを持っている僕の手ごと掴まれて、あっちゃんの口元に引き寄せられた。
「んー!クリームたっぷりで美味しいね」
び、びっくりした……………僕は不意打ちには弱いんだ…………
顔が急激に赤くなるのを感じて、あっちゃんの顔がまともに見られない。それを知ってか知らぬか「俺のも食べる?」なんて言うから、
「い、いらない!!」
と拗ねた子供みたいに返してしまった。
「チョコバナナ嫌いだったっけ?俺、何にも知らなくて……ごめん」
「ちっ、違う!!いや、その」
だから、すぐに謝らないでほしい。あっちゃんの悲しい顔は見たくないんだ。
あの時も僕のわがままで、あっちゃんを傷つけてしまった。
「きゅっ、急に手を触られたから……びっくりしただけだ。嫌なわけじゃない……
「えっと、つまり俺が手を触ったのは嫌じゃないってこと?」
「はっ?なんでそうなる?!だから、チョコバナナは別に嫌いじゃないってこと!!」
「ふぅん。じゃあほら、あーん」
クレープをマイクのように差し出されたので、突き返す事も出来ず恐る恐る一口食べた。
なんかこれ、カップルみたいじゃないか………
「美味しい?」
「う、うん美味しい
「ふっ、きんちゃんほぼ生地しか食べてないでしょ。もっと食べていいよ」
「もっ、もういい!!早く食べよう!!」
「そうがっつかなくても」

******

食後に何かゆったり乗れる物をという事で、あっちゃんが園のシンボルである観覧車を指差した。
「か、観覧車……
「乗らない?高いのは平気だよね?」
「うん、高いのは、平気
高さの問題ではない。密閉された空間で、あっちゃんと二人きり……緊張しない方がおかしいだろう。頭の中でグルグルと考える。僕ばかりこんな思いをして、なんだか不公平だ。
乗り場に着くとスタッフの人が「こちらの大観覧車は、1周約15分となっております。」とアナウンスしていた。
(じゅっ15分……?!そんなに長いのか……!)
ここは、国内でトップ5に入る規模の観覧車として有名だった。
「きんちゃん、先どうぞ」
軽くエスコートされ、どぎまぎしながら乗り込む。
「上からの眺め、きっと綺麗だろうね」
「そ、そうだね。楽しみだ
正面に座るあっちゃんの顔を見ることなど出来ず、外の景色に目をやった。窓に反射する自分のシルエットを見て、ウサギ耳をつけていたことを思い出して途端に恥ずかしくなる。
頭に馴染んでしまって、すっかり忘れていた……クレープを食べた時もこんな姿で……
しばらく沈黙が流れ、頂上の目前まで到達していた。沈黙を破ったのは、カシャッというシャッター音だった。
「えっ?あー!あっちゃん今、僕のこと撮っただろ!」
「撮ってないよ。景色を撮ったんだ」
カシャッ
そう言いながらこちらに携帯を向けてくる。
「ほらー!確信犯だ!!」
「ごめん。でも、きんちゃんが可愛くてつい」
「かわっ……
だからそう言われると反応に困ってしまうのだが戸惑っていると、追い討ちをかけるように写真を撮られた。
「またっ……そんなに何枚も撮って楽しいか?!僕だって……!!」
仕返しに、自分もあっちゃんを写真に収める。
そういえば、あっちゃんの写真なんて一枚も持ってなかったな。家にある昔のアルバムを探せば一緒に遊んだ時の写真が出てくるかもしれないが、それはもう遠い昔の記憶。今こうして、新たな思い出を刻めるというのは幸せな事だ。でも、何かが足りない気がする。
「あっ、あっちゃん。一緒に写真撮らない?」
「えっ、自撮りってこと?うん、いいよ!」
写真を撮り合うのも良いけれど、やっぱり二人の写真を残したい。とは言ったものの、自撮りなんてした事ないから操作がもたつく。
「むずかしいなうまく画角に入らない
難航しているとあっちゃんが立ち上がり、僕の隣に座る。
「わっ!移動したら危ないよ!」
「ごめんごめん。でも、こっちの方が撮りやすいだろ?」
画角に収まるように、あっちゃんがこちらに寄りかかってくる。心臓が高鳴って、携帯を落っことしそうだ。
「はい、チーズ!」
僕はもう写真どころではなくて、きっとすごく変な顔をしてしまっただろう。
「ふふ、よく撮れてる」
「うん!良い記念になったね!」
あっちゃんもなんだか嬉しそうだし、思い切って提案してよかった。
気づけば既に頂上を迎え、下りに差し掛かっていた。乗る前は長いと感じていたのに不思議なもので、あと少しで終わってしまうのが寂しい。
あっちゃん、僕と遊んでいて楽しい?」
「えっ?何を突然楽しいに決まってるじゃないか。きんちゃんは、俺といて楽しくないの……?」
「そんなわけない!!!」
「だったら、同じ気持ちじゃないか」
「だってあっちゃんは優しいから、僕に気を遣ってるんじゃないかなってほら、今日だってゆ、由布院と来た方が盛り上がったかもしれないし
「えんちゃん?なんでえんちゃんの名前が出るんだよ。」
「由布院……というか、防衛部だ!箱根は遊園地とか好きなんだろ」
「うーんまぁそうだけど。俺はきんちゃんと来たかったから。それ以上でも以下でもないよ」
あっちゃんが心の底から楽しんでいるのは聞かずともわかっていた。でも言葉足らずな僕達だから、あっちゃんの口から聞きたかった。あえて不安をこぼして誘導した。僕はずるい人間かもしれない。
「俺だって、勇気を振り絞って誘ったんだから!」
「え、そうなの?」
「そうだよ。やっときんちゃんと昔みたいに戻れたのに、離れていた期間が長すぎて、何から話せばいいかわからなくて……そのきっかけが遊園地の割引券だったんだ」
あっちゃんなりに、色々と考えてくれていたんだな。まぁ僕の性格からして、こちらからアクションを起こす事はあまり期待されていなかったのかもしれない……
「に、しては落ち着いてるな」
「落ち着いてるって?」
「今日のあっちゃんのことだよ。なんだか僕ばかり振り回されて、体がもたないというか……
「おいおい、ジェットコースターに五回も連続で乗りたいって言ったのはどこのどいつだよ」
「ちがっ……!いや、違くないけど……!そうじゃなくて、なんていうかいっ、いちいちあっちゃんの言動にどきどきしてしまうというか……
「うん」
「だから、その、あっちゃんは涼しい顔をしてるのに、僕だけずっとどうしたらいいかわからなくて、からかわれてるみたいな気持ちになるんだ……
正直な気持ちを洩らすと、恥ずかしさと居た堪れなさで涙が出そうだった。
「それは、きんちゃんだけじゃないよ」
わずかに震える自身の手に、あっちゃんの手が重ねられ、そして優しく握られた。
「あっちゃん
「俺だって、どきどきしてるんだよ。ほら、わかるでしょ?」
もうどちらのものともわからないほどに鼓動が速まる。
「あんまり言うと、きんちゃん嫌がるかなと思ったんだけど黙ってたら伝わらないもんね」
「うんなに?」
少し間をおいて、重なった二人の手を見つめながらあっちゃんが口を開く。
まさか俺が選んだカチューシャを着けてくれるとは思わなかったし、その、本当に、似合ってるジェットコースターで、あんなに楽しそうな顔をするきんちゃんを見たのは初めてで、か、可愛かった。クレープのチョイスも可愛すぎる……あ、お金は本当に気にしないで。好きな子に奢るのは普通だから。少しわがままなところも可愛いし、そのわがままは俺にだけ向けていてほしい……
怒涛のメッセージに固まってしまった。
こんなに可愛い可愛いと連呼されるのは初めてで、今までに感じたことのない、変な気持ちだ……
あっちゃんは僕が嫌がるかもと言っていたが、僕に向けられた独占欲に満更でもないのは確かで、口元が綻ぶ。
……というか、好きな子って…………
……きんちゃん、顔真っ赤」
「うっ、うるさい!!あっちゃんだって!!」
顔をぱっと上げてあっちゃんの方を向くと、至近距離でばっちりと目が合い、時が止まったみたいに離せなくなる。
「きんちゃん……

「間も無く到着でーす!お荷物などお忘れ物のないようご注意ください!」
到着のアナウンスが流れ、慌ててあっちゃんから離れた。
「さっ、着いたよ!た、楽しかったね!!」
僕は声を上擦らせながら、逃げるように降りた。
あっちゃんはそうだね。と言って、いつもの困ったような笑顔を見せた。
あと少し到着が遅かったら、僕の心臓は爆発していた。どれだけ僕を狂わせたら気が済むんだろう……

******

だんだんと日が落ちてきて、園内の明かりが灯り始める。観覧車もカラフルにライトアップされ、昼間とはまた違った印象だ。
楽しかった一日も、もうすぐ終わり。
「きんちゃん、足疲れてない?」
「うん!大丈夫だよ。ありがとう」
普段は生徒会の仕事に勉強、読書と座りっぱなしなので、正直疲労感は否めないが、そんな事も気にならないくらいあっちゃんとの時間が楽しい。
「ちょっとそこのベンチに座ろっか」
そんな僕を気遣ってか、少し休憩しようと言ってくれた。大丈夫なのに。あっちゃんは本当に優しいな。
「昨日から、というか、きんちゃんを誘ってからずっとそわそわしてたんだ。何話そうかなーとか。楽しんでくれるかなって」
「ぼ、僕も……同じようなこと考えてて、昨日はあんまり寝られなかったんだ
「ほんと?きんちゃんもそうだったんだ。」
あっちゃんが嬉しそうに笑うから、照れくさいけど僕も素直に嬉しくなった。
「でもそんな心配なんていらなかった。……色々あったけど、過去は過去だ。これから、きんちゃんのことをもっともっと知っていきたいって、今日改めて思ったんだ」
「あっちゃん……
「もうきんちゃんを不安にさせたくないから俺はずっと、きんちゃんの味方だよ」
……ありがとう。いつもあっちゃんの優しさに甘えてしまうけど、僕にも頼ってほしい。あと、僕のわがままが過ぎたら、ちゃんと叱ってほしい」
「叱るってそんなことしないよ」
「だって、あっちゃんに嫌われたくないし、甘やかされすぎてダメダメ人間になっちゃうかもしれない!」
「どんな君でも、きんちゃんはきんちゃんだよ」
「うぅ……
ほんとにダメダメ人間になっても知らないからな

突如、ドーン!という音と共に二人の顔を明るく照らした。
「わあ!花火だ!!」
僕は思わず立ち上がり、あっちゃんを手招いた。
「見て見て!すっごく大きい花火!!あ、あれハートかな?」
花火なんて久しぶりで、我を忘れて夢中になった。
「あっちゃん、綺麗だね!……って、ちょ、ちょっと!」
「みんな花火しか見てないから。……少しだけ」
あっちゃんがそっと手を繋いできて、心臓が跳ね上がった。他のお客さんに見られていないか不安になったが、あっちゃんの言う通り、みんな空を見上げていた。
大胆な行動に驚きつつ、僕はその手をきゅっと握り返した。
(あぁ、本当に………胸がいっぱいだ………)
繋がれた手に意識を持っていかれそうになりながら、夜空に輝く花火を目に焼き付ける。
横目であっちゃんを見たらほんのり顔が赤くなっている気がしたけれど、花火の光に紛れてしまってよくわからない。僕もそれは同じだけど、あっちゃんにはバレバレだと思う。
こんな顔を見せるのは君にだけだから……安心してね、あっちゃん。




▷作品リスト