用法用量、守りましょう

土方さんが熱を出しました。
現代転生パロ、近藤さんは黒剣ちゃん。
2026年1月1日に上げた『夢の語り部』と同シリーズの同棲している二人です。

本当は七草がゆでやろうと思ってたネタでした。

 歳が熱を出した。
 在宅ワークが多い俺とは違って、毎日外に勤めに出ているのだから、うつされることもあるだろう。
 そうなると途端に困るのは……衣食住でいう食の部分だ。
 情けないことに俺は料理が全くといっていいほど出来ない。
 その辺り、いつも歳に頼りっきりなのだ。
「歳、具合はどうだ?」
 氷嚢を取り替える時、目を覚ましていたので様子を聞く。
「あぁ……大丈夫だ……。それよか近藤さん、ちゃんとメシは食ってるか?」
 掠れた声で返事が返ってくる。
 俺の心配より自分のことだろうと思うが、的を射ていて明後日の方向を見るしかない。
「出来合の弁当でも、惣菜でも、コンビニでもいいからちゃんと食え」
 自分で作れ、と言わないところがわかっている、と変に感心した。
「うん、わかってる。買い物に行ってくる、何か欲しい物はあるか?」
「特にねぇ……あぁ、あとで水が欲しい」
「あとじゃなくて、今持ってくる」
 すぐに立ってコップに満たした水を持ってくる。
「歳、水……
 戻ってきた時には歳は眉間に皺を寄せて眠っていた。
「ごめん…………
 熱はかなり高いようだ。
 さっき測ったら三十九度八分。
 インフルエンザも疑った方がいいのだろうか。
 市販薬は常備してあるが、薬を飲んでもらうにも何か腹に入れた方がいいだろう。
「すぐ帰るから」
 タオルで歳の額に浮かぶ汗を拭い、俺は外出した。



 幸いにも徒歩圏内に比較的品揃えのいいスーパーがある。
 歳と時々買い物に来るので、迷うことはない。
 風邪、というか熱を出した時には何がいいんだろう。
 自分が世話をされたことがないから少し考えてしまう。
 いつも、具合が悪いときは丸まってじっと耐えていた覚えしかない。
 それでやっと親が気付き、医者に行って終わり、というのが多かった。
 大したことがなかったのが幸いだったのか不幸だったのかはわからない。
「まずは…………?」
 汗を掻くから水分の補給は必要だろう。
 口当たりのいいスポーツドリンクなんかがいいかもしれないとそちらに向かう。
 長引いた時のことを考え、数本買い込む。
 自分がされて嬉しいことを考えればいいのだろうけれど、経験が薄すぎて迷うばかりだ。
 そうだ、調べればいいじゃないかとスマフォを取り出す。

 熱があるときの食事──

 食欲がないのなら無理に食べずに経口補水液、スポーツドリンクなど。
 食べられそうなら温かくて消化によいおかゆやうどん、スープ類……

──おかゆって、こういうときのものなのか。
 無知すぎて自分が嫌になる。
 とりあえず必要そうなものと、あと自分の分も忘れずに買う。
 あとで『ちゃんと食えって言っただろう?』と言われたくはない。



「ただいま」
 玄関でそう言っても返事は今はない。
 まずは買い物袋を台所に置き、食事を用意する。
「歳」
 部屋を覗くと、歳は目を開けていた。
「あぁ、お帰り……
 辛そうではあるが、言葉ははっきりしている。
 その点だけでも安心して、ベッドのサイドボードにトレイを置く。
「おかゆ、買ってきた。食べられるか?」
 温めるだけのレトルトだけど、俺が作るよりかマシだろう。
「ありがとよ、近藤さん」
 よっと微かに声を出して歳が起き上がる。
「大丈夫なのか?」
「幾分かはましだ。関節とかも痛くねぇから、大事はないと思うぜ」
 器を手に取ろうとするので、取り上げた。
「近藤さん?」
「フラついてるじゃないか。こぼしたら、事だ」
──だから。
「口を開けるんだ、歳」
 スプーンに少しおかゆをすくって差し出す。
「と、……待て……近藤さん……
 歳は手で顔を押さえて俺を制止した。
 熱じゃなく、耳と顔が赤い。
 そうかもしれない、子供じゃないからいまさら『あーん』なんてされても嬉しくないのかもしれないけれど。
「ダメだ。ほら、口を開けろ」
 俺は食い下がる。
「それとも俺に食べさせてもらうのは嫌か?」
「嫌じゃねぇ」
 恋人からのそれなら男のロマンだ、とかなんだとか呟くが口を開けない。
「なら、口を開けろ! ほら、あーんだ」
 我ながら色気がない、そう思ったがそれが俺なんだから仕方がない。
「完敗だ、近藤さん」
 ついに歳は困ったような顔をしつつ、口を開けた。
 ぱくりとスプーンに食らいつき、すこし咀嚼したあと飲み込んだ。
「もう一口」
 今度は、いたずらっ子のような顔をして、口を開け逆に強請ってきた。
……ほら」
 その顔を見て急に恥ずかしくなるが、なんとか耐えてみせた。
 そうこう繰り返すうちに器は空になる。
「ありがとよ、近藤さん」
 おかゆと一緒に持ってきてあった薬を用量、水で流し込み歳は一息ついたように息を吐き出した。
「あんたに甘えられるってのも、いいな」
 やっぱり辛いのか、そう呟いて歳はベッドに横になる。
「歳……
 顔を覗き込んで、口付けをしようとしたら手で塞がれた。
「うつるかもしれないから、ダメだ」
「気にしないのに」
「二人揃って寝込んだら、大変だろう?」
 歳は俺の前に回した髪を指に巻きつけ、もてあそびながら言った。
 たしかに、そうではある。
「じゃあ、治るまで毎食あーん、だからな」
……それは……
 嬉しいような、恥ずかしいようなと呟いて、歳は枕に突っ伏した。
 それくらい甘えてくれたっていいじゃないか。
 いつも、その百倍は甘えさせてくれてるのだから。