熾し火

FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
オメガバース現代転生パロ近藤さんは黒剣ちゃん。
お昼に上げた『埋み火』の続きです。
ヒート部分はすっ飛ばしました。
いつか書きます(いつだ)。
つか、途中からオメガでやる必要なくね?
と思ったのは内緒。

 巣の中がいいと俺がわがままを言うとかで、ヒート中のそれはいつも床だ。
 最初は巣にするのに集めたものをベッドに移動させたこともあったけれど、どうしても俺が嫌がるのだという。
 ついには歳が折れたらしい。

 今回のヒートは思いのほか長かったようだ。
 長くても短くても、歳は何も言わないけれど、俺が身体を痛めないようにクッションやら、敷き毛布やらがいろいろ追加された巣の中を見れば、大体どれくらい籠もっていたかはわかる。
「近藤さん、メシ食えそうか?」
「うん」
 目が覚めてぼんやりと枕を抱えていたら二人分のトレーを持った歳が入ってきた。
「ならよかった」
 こういう時用に寝室に置いてある簡易テーブルを引き寄せてその上に食事を置いてくれる。
 メニューはオムライスにコンソメスープ。
 歳は本当に器用に何でも作ってくれる。
 一時は偏食気味だったこともあるらしいが、俺と暮らすようになってからはそれは改めた、と主張する。
 いまでも改まってないと思うのは、俺が関わらないところで丼飯に沢庵とかで食事を済ませることがあるのを知っているからだけど、とりあえずは言わないことにしている。
「髪、やっといたからな」
 まだ惚けた頭でスプーンを手に取れば、歳は俺の左右の髪を後ろで編み込んてくれていた。
「ありがと……
 ゆっくりとスープを啜り、食事を腹の中に収めていく。
 味付けも、食感も、どこまでも俺好み。
 ふわふわなとろけるたまごに、まろやかなスープの相性がなんともいえない。
「そういえば、歳」
「なんだい? 近藤さん」
 だいぶ頭の中がすっきりしてきたので、ヒートに入る直前に気になっていて、珍しく覚えていたことを聞こうと思った。
「いつもは聞かないのに、気分がどうのとか、言ってなかったか?」
「あぁ、そのことか……
 聞いてから、そういえばあの青と黒の羽織をどうしたか覚えてなくて辺りを見回した。
 それは俺たちの下敷きになってくっしゃくしゃのよっれよれになって見つかった。
 ついでに言えば俺のよだれと涙とあまり声には出せないようなものでめちゃくちゃだ。
「ごめん……こんなにしちゃって……
 大事なものだとわかっていたのに、手を出した挙げ句こんなにしてしまった。
「気にしなくていい、そんなとこに置いといた俺が悪い」
 歳はしばし考える顔をしたあと、俺の方を向き直った。
「近藤さん。今から俺が言うことは、本当のことだが、信じられなければ妄言として流してくれていい」
 怖いくらい真剣な眼差しで言うものだから、俺は無意識にそれを握りしめた。
「あんたと俺は──今この世に生まれる前から一緒にいた。その羽織は……その証だ──」

 歳の話はこうだった。
 簡単に言えば前世、俺と歳はその時も一緒だったという。
 その時の世界には今みたいなαとかΩとかいう概念はなかったそうで、同じ男として一緒にいたという。
 その頃から歳は、俺に深い想いと、欲を抱いていたと。
 じゃあこの羽織がその証なら、今の名が表すとおり新選組の近藤勇と土方歳三だったり? と茶化して聞いたつもりが、歳の物凄く思い詰めた瞳にあって、それが冗談ではなかったことを思い知った。
 新選組の近藤勇と土方歳三として死んだ後、俺たちは一時的に生まれ変わったりする過程から切り離され、さーばんと? という特殊な存在にされたという。
 俺のこの髪や目の色はその時の影響が色濃く出ているとの話だった。
 想いを伝えることができたのはその時で、恋人同士にもなれ、身体の関係もあったと聞いて、今更と思ったがつい赤面した。
 その後、何年経ったかははっきりしないが、そのさーばんととかいう宿命からは切り離されたらしく、こうして人間として生まれ変わって、自分たちは再会したと。

「俺は、いまでもその頃の記憶がある。だからあんたを不快に思わせることがあるかもしれない。その時は隠さず言ってくれ、改める。そして、あんたがもし思い出すことがあったら……まず言ってくれ。黙って何かしようとは、しないでくれ」
………………
 歳は真剣だった。
 その言葉に嘘や作り事が混じっているとは思えなかった。
 そして俺はそれを聞いて──思い出す気配は、一切なかった。
 ヒート明けのぼんやりした頭だからじゃない。
 俺の魂からは、その記憶は綺麗さっぱり洗い流されているようで、歳の言葉は信じられるが、現実のような気は一切しなかった。
──俺は、歳のことを想っていなかったのだろうか。
 恋人にもなったと言ってくれたのに、忘れてしまったと言っていいのだろうか。
「俺は……
 急に切なくなった。
「ごめん……とし……おれは……おもいだせない……
 大事な大事な歳を、俺は忘れてしまったのかと。
 涙がひっきりなしに溢れてきた。
 こんなに好きなのに、番になってくれて、めちゃくちゃ嬉しいのに、ずっとずっと想っていてくれた歳に、何も返すことが出来ないなんて。
「近藤さん」
 歳は泣く俺を抱きしめて優しく頭を撫でてくれた。
「どっちだっていいんだ。俺はあんたがいてくれればいい。伝えたのは……俺のエゴだ。言わないまま、この関係を続けたくなかったからなんだ」
 歳の気持ちはよくわかった。
 多分俺が逆の立場でも、同じようにしていたと思う。
「俺は……俺だって、歳がいればいい! 他に何もいらない!! 前の記憶なんていらない、今の俺だけを見てくれ!!」
「あぁ、もう俺はあんたしか見ねぇよ。過去なんて関係ない」
 歳が言い終わるか終わらないかのところで、不思議なことが起こった。
 先ほどまでちゃんと形を保っていたはずの二枚の羽織が、急に綻びたかと思うとぱらぱらと崩れ落ち、糸くずの一本に至るまで綺麗に消え失せてしまったのだ。
……これって」
……もう、縛られる必要は、ないってことだな」
 あの羽織はいつの間にか歳の手元にあって、まるで自分たちの存在を、前世を忘れるなと言うように何度しまいこんでも表に出てきていたという。
 きっと、俺が記憶を取り戻すことはない、そう思った。
 だって、その呪縛は、いま消え失せたのだから。
 その代わり──
「歳……大好きだ……ずっと好きだ。それこそ、次に生まれ変わってもおまえの番でいたいよ」
「俺もだ、近藤さん。何度生まれ変わってもあんたと番いたい。……それだけが、俺の願いだ」
 きっとこの誓いは果たされる。
 だって、俺たちは運命の番だから──。