2026-01-07 19:47:50
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Public 宵愁の手記
 

宵愁の手記05

グリフォン解体メモ

#宵愁の手記

先日、年配の同業者にチョコボ用のキャリッジを安く譲ってもらった。何でも、仕事の規模を縮小するから引き取り手を探していたのだそうだ。彼は古いキャリッジだと言っていたが、大事に手入れされてきたようで目立った傷もなく、古びた屋根を貼り変えれば新品に引けを取らないほど十分に綺麗なものだった。
キャリッジは地面に接地しないよう青燐ガスによって浮き袋で車を浮かせており、それを維持するための青燐水の補給は都度必要となるが、得られる利点に比べれば些細なものだ。きゅーちゃんに合わせたハーネスを調達し、装着してみたところ、どうやら彼女も張り切っているように見えた。
大型の獲物の運搬は、きゅーちゃん一羽では荷が重かったところだ。積載量も増えたことで仕事の幅も広がることだろう。

狩りの獲物を各地へ納品する為、南部森林からギラバニアへ。道中、拾った同行者を何名かラールガーズリーチまで送り届けた後、本来の目的地である山岳地帯南部まで足を運んだ。
グリフォンの肉は少々筋肉質だが味わい深く美味であり、何より栄養価が高い。味は馬肉のようだとも鶏肉のようだとも形容されることもあるが、その独特の味わいはそれこそ"グリフォンの肉"としか言いようがないだろう。一方で生息地が雲海や山岳地帯のような易々と人の踏み入らない高所に限られることや、巨大且つ獰猛な性質で狩猟が難しいことから、知る人ぞ知る高級肉として需要は高く、買い手がつくものだ。

狩りの準備のために狩場付近の集落、コールドハースに向かう途中、集落の外に異様な巨体を見つけた。周囲に散らばっていたのは、エルカの残骸だ。
それは青い羽毛の巨大なグリフォンだった。想定外の遭遇だったが、集落が襲われる可能性も考えるとこのまま野放しにしておくこともできないだろう。
急所を狙って矢を射掛けたが、分厚い羽毛に阻まれて貫くことがかなわない。予想以上の大物だった。獲物に余計な傷を作るのは不本意だったが、致し方ない。今為すべきことは狩猟ではなく、討伐だ。一度退いて弓を置き、キャリッジに積んでいた大剣を装備し直し、改めて討伐へと向かった。
幸い、付近を通りがかった知人の加勢により、想定よりも早く方が付いた。

グリフォンをキャリッジに引っ張り上げて水辺に移動させ、解体を始める。
これほどの巨体となると解体も一苦労だろう。
グリフォンは有翼綱の生物で、四足歩行の大鷲のようなものだ。内臓などの身体構造は鳥のそれだが、骨格などは馬のような百獣綱に近い形をしている。翼を持つ鳥類特有の竜骨突起はなく、翼は重心を調節するための第二肩甲骨から生える。また、はばたくための筋肉が付くように肋骨の一部が巾広になっている。
首元の羽毛を掻き分け、頸動脈を切り血を流す。しっかりと血抜きを終えたあとは、解体に邪魔な翼を取り外す為、剣鉈を使って関節部分を断ち切っていく。身の丈3ヤルムはあろうかという巨体を支える翼も相当なものだ。両側の翼を切り離し終えたら、脚を開き、肛門から首元まで、内臓を傷つけないように慎重に腹を裂いていく。さらけ出した胸骨の丁度真ん中に鋸を入れ骨を開いていき両側に引っ張ると、僅かに内臓を取り出す隙間ができた。

内臓は飛翔に特化して軽量化されたであろう鳥類にそっくりの構造をしている。内臓を覆う横隔膜を切除し、まずは手前に見える肝、そして心臓を切り外した。脂を切り落としながら砂肝を取り出す。砂肝に繋がる食道を素嚢と一緒に切断した。切れ込みを入れて割り、内容物を捨てて膜と肉の間にナイフを入れて膜を取り外した。
雌の個体のようだ。きんかんと呼ばれる未成熟卵をいくつか掬い出しながら、輸卵管も取り外した。これらは一緒に串焼きにしてもいいし、もつ煮に入れても美味いだろう。
食用にはできない胆嚢や細かい器官、脂を取り除き、腸や脾臓、腎臓などもまとめて水を張った桶に突っ込んだら、空っぽになった肉が残る。
この巨体を水に沈めて洗うのは些か難しいだろう。内臓を取り出した後は、中に溜まった血を掻き出し、桶に汲んだ水で綺麗に洗い流した。
内臓はひとつひとつ水辺で内容物を処理し血を洗い流す。水気は綺麗な布に吸わせてよく切り、同行してもらったララフェルの少女に包装の手伝いを頼んだ。

続いて皮を剥いでいく。首と足首にぐるりと切り込みを入れ、更に腹の切れ目にかけて一直線に、肉を切らないよう皮に切り込みを入れていく。そこから少しずつ羽毛と一緒に皮を剥いでいき、地面に接地している背中側だけを残して、大きく広げておいた。こうして広げておけば、食肉に砂が付着する心配もなくなる。
討伐の際に傷をつけてしまったが、これだけ青く美しい羽毛と丈夫な革はそれでも高値がつくだろう。グリフォンの革は主に術士の軽装防具の素材になる。
頭を切り落とせば、あとは枝肉の状態になる。この形になってしまえば、あとは百獣綱の解体とそう大差がない。

肉は少しずつ切り分けながら解体することになるだろう。ナイフを解体用のものへと持ち替える。
首に一直線にナイフを入れて左右に分け、肩まわりで一度ぐるりと切り込みを入れたら、骨から剥すように切り落としていく。首すじにある白い脂肉の部位は別に切り分けた。首周りは筋肉質で引き締まった身をしているので煮込みにするのが適しているが、細切りにして歯ごたえを楽しむのもいいだろう。

脊椎と肋骨の接点は軟骨となっていて、ナイフで何回かなぞると切れ目が入る。左右に切れ目を入れ、肋を開くように押すと簡単に外すことができる。
僅かな大腰筋は肉質が非常に柔らかい希少部位だ。これを削ぎ落してから脊椎に沿ってナイフを入れ、半身ずつに分け、背骨を取り外していく。

半身に分けた後は、まず肋骨の上にある膜と内脂を剥ぎ、余分な肉や繋がっている胸骨を削ぎ落しながら骨と肉の間に切り込みを入れる。更に肋骨の一本一本の間にも切り込みを入れれば、肉と骨の隙間にナイフを差し込みながら一本ずつ手でむしり取ることができる。
肋骨を全て外し終えたら、残った脊椎などの余分な骨を削ぎ落し、肉を適当な大きさに切り分けていく。腹周りの肉は脂肪と赤身が層になっており、濃厚な味わいがある。背肉のほうはきめが細かく、そのまま焼くなどしたほうが味わいを楽しめるだろう。肉を適当な大きさのブロックに切り分けたら、それぞれ部位ごとに包みながら作業を進めていく。
胴体の肉を解体し終えたら、肩甲骨に沿って肉を削ぐように前肩を取り外していく。関節にナイフを入れて骨を断ち、更に骨から剥すように肉を切り落としていく。肩周りの肉は赤身と脂のバランスが良くどのような料理にも使いやすい。
続いて後脚部分の肉を切り分ける。骨盤に沿うように切り込みを入れながら肉を削いでいき、後脚を取り外したら、前肩と同じように両脚とも骨から剥しながらブロックに切り分けていく。後半身は飛翔の為に軽く後脚は前肩に比べて華奢だが、これも脂肪が少なく柔らかい赤身肉がとれる。

これをもう半身も同じように切り分けたら、処理は完了となる。手を借りながらすべての包装を終えて、キャリッジに積み込んでいく。
残った皮の余分な脂を削ぎ、畳んで丸めてキャリッジに乗せた。骨と頭は近場に放り、他の獣や土壌の糧とすることにする。
キャリッジにはかつてない量の荷物が積み込まれている。肉だけで優に千人前はあるだろう。それでもキャリッジの浮き袋は沈むことなく安定した佇まいをみせている。
肉のほうはいくらかは自分の分け前にもらい、残りは調理をしてみるとのことで、討伐に手を貸してもらった知人の傭兵団に譲ることにした。
皮は近々、革細工師ギルドにでも持って行ってみることにしよう。
その日の帰りは、傭兵団の事務所にある保冷庫へと肉を詰め込んだ後、さてどう調理したものかと想像を働かせながら残りを自宅へ持ち帰った。