2026-01-07 19:45:56
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Public 宵愁の手記
 

宵愁の手記02

ロフタン解体メモ

#宵愁の手記

テイルフェザーの解体場を借りて作業をしていたら、ひとりの猟師がロフタンの血を分けてほしいと尋ねて来た。
何に使うかまでは問わず、二つ返事で了承する。それは依頼された部位でもなかったし、場所を使わせてもらったり、運搬を手伝ってもらう身からすれば、それは彼らに必要な取り分だ。
猟師から受け取った容器に、頸動脈を切ったロフタンの首元から流れる鮮血を詰めて手渡した。

中身を抜き取ったロフタンの身体を流水に沈めて冷やしている間に、桶に取り出した内臓の処理を進める。
心臓を割って血を流し、それぞれの胃も内容物を落としてよく洗う。
河辺に腰かけて腸の中身を流していると、また別の猟師がやってきた。どうやら、武具を手入れする間の暇つぶしのようだ。この獲物は何に使うものかと訊ねられて、何に使おうかと考えあぐねた。
依頼されていたのは、衣服に使われるという皮だ。他に、肉のほうはいくらか卸すあてはあるものの……
……ああ。腸のほうは持ち帰り、楽器の弦に使おうか。愛用しているギターの弦もそろそろ替え時だろう。しかし、半分も使わないだろう。処理を終えた腸をロープのようにぐるぐると束ねた。
それ以外のものは……全て持ち帰るわけにもいかないし、猟犬の餌にでもしてもらうのが一番だろうか。そんな話をしながら内蔵の処理を一通り終えるまでの間には、猟師は武具の手入れを終えてその場を去っていった。

河川から引き上げたロフタンの後足にナイフで穴を開け、ロープでくくってフックにかけて吊るす。
身まで切らないよう、皮に穴をあけないよう上から下へと丁寧に剥いでいく。
やがて一枚になったものを、机の上に広げた。皮の内側に残っている脂肪を、丹念にナイフで削ぎ落していく。少しでも残っていると、皮の腐敗の原因となる。削ぎ落した脂はあの錬金術師の元にでも持っていけば、石鹸にでも代えてくれるだろう。
一通り削ぎ落とした後、余分な脂と汚れを取り除く為に軽く洗ってから、水気をきるために一度干した。これを後ほど、塩漬けにして依頼主の元へと持っていく。

吊るした枝肉を大まかに部位ごとに切り分けていると、先程の猟師たちが戻ってくるのがみえた。二人とも、両腕に何か大きな荷物を抱えている。
何事かと思えば、彼らは解体場の近くに大仰な焚き火台を設営しはじめた。手際よく薪を重ね、フェザースティックを作り、火打ち金で火を灯す。ひとりが此方へとやってきて、いらないものはどれかと訊ねてきた。
成程、と思った。腸の半分と、頭、残りの内臓を一塊、そして切り分けた肉の部位をいくらか。まとめて桶に詰め込んで渡してやると、そいつは意気揚々と焚き火台の元へと運んでいった。その背を見送りながら、切り分けた自分の取り分を包装する。脚のあたりは自宅へ、いくらかは燻製にして、残りは同居人にでも渡せば適当に調理してくれる。背肉や肋肉のあたりは、あの店に持っていこうか。

そうしているうちに、焚き火の煙に導かれるかのように、集落にいた猟師たちが集まっていた。各々が手に酒や肉やつまみを抱えて持ち込んでいる。少し遅い、昼飯時のようだ。
いくらか後片付けを終えたところで、名を呼ばれた。先程、ロフタンの血を渡してやった猟師だ。
彼は暗褐色の液体が入った瓶を手にしていた。その液体を深めの木皿に注ぎ、此方に手渡してくる。
これは何かと聞くと、グナース族から仕入れたという七天樹の果実酒とガラを火にかけて、ロフタンの血で繋いでとろみをつけ、周辺で採れるスパイスで味を調えた特製ソースだ、と彼は言った。
ソースを入れた皿の中に肝臓の切れ端が放り込まれる。掴んで口に入れると、成程、濃厚な肉の旨味をスパイスのきいたソースがよく引き立てている。感想を伝えれば、気を良くした猟師たちは次々に焼けた肉や内蔵の刺身、今朝獲れたというチョコボの肉なども気前よく皿に盛りつけてきた。酒もすすめられたが、そちらは丁重に断ることにした。
羊の脳はクセのない白子のような味わいで、火を通したものを酸味のあるソースにつけて食べるばかりだと思っていたが、ある猟師がいうには、これはカレーに入れても絶品だという。今度試してみようか、同居人は嫌がる気もするけれど……白子だと主張すれば騙せるだろうか。
頂いた命で腹を満たす、昼下がり。周囲には肉の焼けるにおいと酒の香り、猟師たちの談笑が響いていた。

帰り際。依頼主へと納品する皮に、錬金術師のもとへもっていく羊脂、いくつかの店に土産にする予定の肉と、自分の取り分。予定より随分と軽くなった荷物をまとめていると、先の猟師たちがやってきて、昼飯の分だと言って土産を持たされた。
七天樹の果実酒の瓶が数本に、チョコボの腿肉の燻製と、ベアーの干し肉に、ロフタンのソーセージに……
上手いこと余りものを捌けたと思っていたというのに、これでは振り出しだ。……日持ちするだけ、マシだろうか。
山となった土産を相棒の背に積み上げて、空に朱が差し始めた集落に別れを告げた。