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ぶ
2026-01-07 19:45:21
2880文字
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宵愁の手記
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宵愁の手記01
ワイルドホッグ解体メモ
#宵愁の手記
風を切る音が響き、ワイルドホッグが地に倒れ伏した。
雌のホッグだ。眉間にはしっかりと矢が突き立っている。
死んではいない。けれども生きてもいない。外傷もなく、理想の状態で仕留めることができた。
相棒のきゅーちゃんに獲物を括り付けて、手近な解体場まで引きずり歩いた。
ウルズの恵みを抜けて、クォーリーミル付近のアッパーパスを流れる河辺の解体場へ。
まずは血を抜く。動かないよう足を縄でくくり、頭を下にして傾斜で頸動脈を切り裂く。
まだ動いている心臓がポンプとなって、鼓動のたびに鮮血が噴出した。流れ出る血を、いくらか瓶に注いで蓋をする。
新鮮な血は、料理にも使える。猪の血に塩を入れて、蒸して固めるだけでも、豆腐のような食感の栄養豊富な食糧になるのだ。
生物の血というものは本来臭みもなく、栄養価も高いが、しかし、驚くほど足が早い。生物が死んで体温が下がり始めた瞬間から、猛烈な勢いで腐敗が始まる。獲物に外傷が増えれば、そこから入り込む雑菌がより腐敗を速めてしまう。可能な限り生きたまま、余計な傷を作らず仕留める理由はそこにある。血生臭さというのは、血が腐敗した臭いだ。
放血が弱まる。僅かに痙攣していた獲物の身体もその頃には動きを止めていた。
脚を開いて、腹を上にして、腹の中ほどから尾のあたりまで腹膜を切らないよう薄く皮を裂く。肛門を抉り、腸を外に引き出した。
足が早い内臓は一般家庭には出回りにくいが、新鮮な猪は内臓が一番美味だと思う。依頼されていたのは背肉のあたりだが
…
それなら内臓は自分用に持って帰ろうか、と思うほどだ。
まず胸骨を割って開くと、横隔膜が見える。ハラミの部分だ。のどに切れ目を入れて食道、気管を切除し、引っ張りながら食道を横隔膜のあたりで切り取ると、胸部周辺の内臓が一塊で取り出せる。
気管、食道は軟骨で、コリコリとした食感が楽しく、よく酒のつまみとして調理されている。続いて肺。食感が柔らかく、煮込みやソーセージに混ぜられる。
そして心臓。これはどう調理しても美味い。そして、肺と心臓に囲まれた、小さな塊は胸腺。味は濃厚で、こんがりと焼いて食べると大変美味だ。
胸部の次は、腹側の内臓だ。搔き分けながら肛門側に引き出していた腸を内側から引っこ抜き、適当な箇所で膀胱につながる大腸を切断した後は、背骨の手前側を切りながら、内臓をまとめて取り出し、水を溜めた桶に放り込んで一度すすぐ。腰辺りの背骨に張りついている、ふたつの腎臓も切り外した。
そうして中身が空っぽになった身体は、しばらく河に沈めておく。仕留めた獲物は、直ぐに冷やす事で腐敗を防止する事が出来るのだ。しっかりと縄を括り付けて、河底へ放り投げた。
まず、内臓を覆うようにへばりついている網状のものを切除する。アミアブラと呼ばれる脂肪の膜だ。一般には煮込み料理にそのまま入れて食べられることが多いが、ひき肉を丸めた料理の型崩れを防ぐためにも使われるらしい。
次は胃を取り出し、縦に割って胃の内容物を確認した。獲物が食べているものは、肉質に大きく関わる。南部森林に生息するホッグは、アリゲーターペアやホワイトトリュフなどを主食としていることが多く、脂が乗って甘みのある肉質となりやすい。
胃に溜まっていた内容物を流水でよく洗い流して、処理は終わり。胃のそばにある脾臓も切り出し、並べて置いた。これは淡いレバーのような旨味がある。
続いて肝臓。心臓と肝臓だけは、無知な狩人でも必ず持ち帰るくらいには、大変美味な部位として知られている。
肝臓に付属している緑色の胆嚢を切りはずし、胆汁があふれることがないよう細い紐で切り口を縛った。胆嚢は食用としては使えないが、乾燥させて胃痛等に効く薬にすることができる
…
らしい。薬師や錬金術師に売れるだろう。
胸腺と同じ味わいのある膵臓を取り出せば、次に子宮。歯ごたえが楽しいコブクロと呼ばれる部位だ。新鮮であれば刺身でも食べられる。残るは腸部分。
小腸、大腸、直腸
…
どれも煮込みに使われたり、ソーセージの入れ物になるものだ。これも中身を絞り出すように流水で洗い流して、処理は完了だ。
内臓についている血を丁寧に洗い流し、しっかりと布で水分をきる。処理を終えて経木でつつんだものを、綺麗な麻袋につめた。
内臓の処理を終えたあとは、しばらく時間を置いた後、水に沈めておいたものを引き上げる。
まずは皮を剥ぐ。腹から一直線に皮を割いていき、足首の周りに切れ込みを入れたら、あとは剥すだけ。皮の表面は硬いが、脂の乗ったホッグの身から皮を剥すのは容易だ。
身を切らないよう慎重に皮と肉の間に刃を入れて行き、首周りまで皮を剥いだら、皮が付いたまま頭を切り落とす。
この皮はどう処理しよう。堅い粗皮は革防具として重宝される。革細工師のもとへもっていけば買い取ってもらえるだろうか。
そうなると頭部は不要だ。頬肉や舌、脳に眼球
…
どれも食材や薬の素材としては重宝するものだが。
考えた末、ワイン煮に最適な頬肉と、シチューに使える舌を切り取り、様々なの素材となる堅い角を根本から折る。
残りは今回は引き取り手もいない為、森にかえすことにした。無暗に持ち帰って腐らせるよりは、森の獣の糧となったほうがずっといい。
内臓を抜き、皮を剥いで頭を外してしまえば、それは市場でも見慣れた食肉の形になった。
解体用のナイフに持ち替え、腕、胴、脚のみっつの部位にきり分ける。まずは腕肉。膜を切るように腕と胴体を剥がしていき、肩甲骨に沿って削ぎ落とす。
両側の腕を落としたら、腹腔を開く。肋骨と背骨の継ぎ目にナイフで切れ目を入れたら、力一杯両側に開くと、背骨と肋骨が大きく外れ、綺麗に腹部が開いた状態になった。
肋骨の下の膜を切り、僅かな大腰筋をそぎ落とす。ヒレ肉とも呼ばれる希少部位だ。これが取れたら、背骨にナイフを突き立ててへし折り、胴体と下半身を切り離していく。
下半身だけになったら、尾骨の周りに切り込みを入れ、骨盤を剥していけば、ふたつの後足部分が取り外せた。足首の先が残ったままだが、これも皮を剥げばぷるぷるとした食感がたまらない煮込み料理になるし、燻製にしてもいいだろう。
最後に胴体。首元の部分に切り込みを入れ、先程切れ目をいれた肋骨の間から背骨と肋骨を切り離していく。骨に沿って肉を削いでいき、背骨を取り外せば、胴体を左右に切り分けることができる。
肋骨の上にある膜と内脂を剥ぎ、背側の骨に沿って両側の背肉、肋骨周辺の肉と順に切り落とす。
残った肋骨と背骨は、骨付きの肋肉はスペアリブとして様々な料理に重宝するし、背骨はスープに使えばいい出汁が出る。
これでだいたいの部位の解体が完了した。あとは必要に応じて細かく分けるだけだ。
一息ついて身体を伸ばす。それぞれの部位を綺麗に経木に包んだら、依頼の品だけ分けて、綺麗な麻袋に詰めた。
さて、納品を終えたら、お裾分けの時間だ。いただいた命の欠片を相棒の背に乗せて、集落への帰路を歩いた。
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