埋み火

FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
Ωバース現代転生パロ近藤さんは黒剣ちゃん(長っ!)
唐突に書きたいところを書きたいだけ書いてしまいました。

 俺の番はマメで清潔好きだ。
 だから──この時期は困る。

……ない」
 ないのは当たり前だ。
 だって、昨日洗濯をしたから。
 ぼんやりとした頭で籠になんとか残っていた今朝まで歳が着ていたパジャマを抱きしめる。
 番になって五~六年、同棲を始めてはもうちょっと短い。
 ヒートが来るようになってほぼすぐくらいに歳と番になったから、苦しめられるとかそういうことは少なかったけど、やはり悩まされる時は悩まされる。
 それが、今だ。
 俺は巣作りに固執するタイプ、それも衣類がお好みのようで、本能だから仕方ないけれど、それが始まると歳の寝室の、しかも床で作り始める。
 歳にはいつも「ベッドで作ってくれていいんだぜ?」と言われる。
 うん、ごめん──こればっかりはどうしようもないんだ。

 少しでも匂いの強いものを、とベッドのシーツを引き剥がす。
 枕も手元に引き寄せる。
──足りない。
 玄関のスリッパ、洗面台のタオル、リビングのクッション。
──全然足りない。
 フラフラとクローゼットに向かう。
 今まで気付かなかったけれど、整然としたその片隅に、それはあった。

──これは、だめ。

 それを目にした途端、なぜか強い制止がかかる。
 でも、本能には逆らえなくて手に取ってしまった。

 歴史とかに疎い俺でもわかるそれは、青い新選組の羽織──と、同じようなデザインの黒い羽織。

 ゆかりのある観光地のお土産でも売っているものだから何処かで手に入れたのかもしれないのだけど、歳がそういうのに興味があると言うことは知らない。
 でもきっと、これは歳にとって大切なもの。
 汚したりしたらだめなもの。
 そうわかっているのに手元に引き寄せて匂いを嗅ぐ。

──安心できる歳の匂いだった。
 何よりも強く、優しい匂いだった。
「とし……
 なぜだかわからないけど、無性に涙が出た。
 これを歳が大事にしてくれていることが、物凄く嬉しかった。


 理由は──。


「近藤さん! すまん! 始まったか!!」
 帰ってきて、玄関にスリッパがなかった。
 そんなことを気にするまでもなく、匂いですぐわかる。
 番のヒートが始まっている。
 始まると必ず自分の寝室で巣作りを始めるから、迷うことなくそちらへ向かう。
「近藤さん──ッ……
 自分の心臓が、一瞬止まったかと思うくらい衝撃があった。
──近藤が、浅葱の羽織と黒の羽織を抱きしめて泣いている。

 まさかこれは。
 様々な憶測が瞬時に頭を駆け巡る。
 やはり処分しておけばよかったという後悔も襲ってくる。
「こんどう、さん……
「とし……
 呼びかけるとびく、と身体を震わせ近藤は土方の方を向いた。
「ごめん、よごし、ちゃった……
 紅い瞳からぽろぽろと涙を零して近藤が言う。
「そんなもん、いくら汚してくれてもいい」

──どっちだ、これは。

 土方は激しく自問自答する。
「だって、これ、としには、だいじなものだろう……?」
 離したいけど本能で離せない、といった風に近藤は震えている。
「そんなことより、近藤さん……
 やっとの思いで傍らに近づき、その朱鷺色の髪を梳いた。
「気分が悪かったり、変なものが見えてたりしないか? 頭が痛いとか、ないか?」
「ない……よ?」
 壊れ物を扱うような手、そちらの方が近藤には疑問だった。
「なんで?」
「いや……
 土方はほっと息を吐いた。
 どうやら思っていた心配はなさそうだと。
「随分、古いものだからな。カビとか生えてて体調悪くなっちまったのかと思って」
「そんなの、ない。歳のあったかくていい匂いがする」
 すん、と甘えるように鼻を鳴らして上目遣いに見上げてくる。
「そうか……

 前世の記憶。
 互いに互いを縛るもの。
 そんなものはない方がいい、土方はそう思う。
 だから近藤には取り戻して欲しくない。
 取り戻したとて、自分からの想いは何ら変わるものではないけれど。
 番になった以上、近藤が自分から離れられないことはわかっているけれども。
 その羽織を見つけられてしまったからには、一度は話さないといけないことではあると思うけれど。

「とし……?」
 いつもなら答えてくれる番の、躊躇うような素振りに近藤は疑問を抱く。
「すまん……そうだよな」
 このヒートが終わったら、きちんと話そう。
 土方はそう思って近藤を抱きしめた。