うずめび
2026-01-07 03:41:06
2408文字
Public ウル博
 

贈り物はあなたがいい(ウル博)

ウル博で贈り物の話。いつもどおりのゆるふわな単文です。

年末年始が多忙ですっかり間に合わなかったクリスマスネタです。今更な感じはありますが、もったいないのでおかせて頂きます。

 贈り物というのは贈る相手によって想像するものが変わる。甘いものが好きな子どもであればケーキやお菓子、酒を嗜むことを趣味としているなら酒や肴など。
 大抵は相手の趣味と嗜好に応じて贈る物を想像しては、関係性を加味して調整を加えるものだ。職場の先輩や尊敬する先生であれば改まったものを用意し、気の置けない友人や幼なじみであれば多少の悪ふざけの品や趣味の品が許されるように。

(ーーーでは、私からウルピアヌスに贈るとしたら何がふさわしいだろう)

 ドクターとウルピアヌスを示す関係性はそれこそたくさんある。ロドスにおける責任者と協力者、名目上は同じ組織に所属する上司と部下。もっとも私的にいうのであれば。

(恋人、ということになるのだが)

 互いに傍にいることを望み、熱に触れる事を許した関係性は親密さでいえば家族の次に深いものになるのだろう。そうであれば贈り物も相手を深く思ったものになるに違いない。例えば相手がもっとも望むものを贈るであるなど。
 ウルピアヌスが望むもの。そう考えるとドクターは途端に困ってしまう。彼が望むものは自身の未だ取り戻せない記憶であり、それを渡せるのであればドクターとしても願ったり叶ったりではあるのだが、残念ながらクリスマス前に都合良く思い出せるような代物ではない。よってこの候補は却下である。
 そうであれば次の候補として上がるのはドクターの首なのだが、親しい人と穏やかな時間を過ごす日の贈り物としてはあまりにも不適切だろう。 
 それにドクター自身もまだ成すべきことがあり、首は最後まで取っておくべきだ。テラの全ての災禍の原因を取り除くまでとは行かずとも、少なくとも旧人類が原因のものについては責任を果たす必要がある。残念ながらこちらも却下になるだろう。
 そうしてぐるぐると睡眠不足の頭で考え、どうにかこれならと迎えた当日の夜。情報共有を終えた執務室にて、悩んだ経緯を話すとともに手にした贈り物を前にウルピアヌスはたいそう複雑な顔をしていた。

……やはりこの贈り物では君に喜んでは貰えないだろうか」

 手にしたチューリップの秘薬を見てドクターは微かにうつむく。
 膨大な実戦データからシーボーンの生態や特性をドクターが分析し、医療部門のチューリップを中心に実験を重ねた軟膏は先日ようやく完成したものだ。体内のシーボーン細胞が生み出す副作用を押さえる薬は、常にシーボーンを相手に前線に立ち続ける人の助けになるだろうと思ったのだが、そうではなかったのだろうか。

「君に喜んでもらえるものが私にはわからなくて。ならば少しでも君の助けになるものを贈りたかったのだが」

 間違っていたのならすまないと言葉を続けようとしたところで、深々とため息をついたウルピアヌスが薬を受けとり、ドクターの腕を引く。そのまま優しく抱き止められてしまうものだから、そっと顔を上げれば仕方ないなと言いたげな瞳と視線が絡んだ。

「事情は理解した。贈り物については感謝している。お前の分析力、並びにロドスの医療部門の研鑽についても同じく」

 だがな、と重ねられる言葉の響きは優しい。

「陸の文化には詳しくないが、今日は親しい者と穏やかに過ごす日だと聞いた。そんな日にまで記憶だ首だと言うつもりはない。お前のしたいようにすればいい」
「私のしたいこと……

 常日頃、自身の残された時間を気にする人と今日を一緒に過ごすことをドクターは考えていなかった。ーーー否、考えていなかったわけではないが、ウルピアヌスがそうせざる負えない理由の一端が自身にあることを理解していたから、そうすることを早々に諦めていたのだと思う。
 だから情報共有のついでにせめて役に立つものを贈ろうと考えて、開発していた薬を完成させようと少しばかり徹夜を繰り返し。贈り物を受け取ってくれたらそれでいいと自身を納得させたのではなかったか。けれど。

(ウルピアヌスと一緒にいたい)

 ささやかでも穏やかに今日を愛しい人とすごしてみたい。今からでもそれを願うことは許されるだろうか。

「ーーーあなたと一緒にすごしたい」

 迷って、けれども確かに発せられたドクターの小さな声にウルピアヌスは赤い瞳を緩やかに瞬かせる。さらりと目元を撫でられ、そのまま手を繋がれて歩きだしてしまうものだから慌ててドクターは足を動かした。

「ええと、どこに」
「お前の自室だが、食事や飲み物は置いてあるのか?」
「ここのところ医療部のラボにいたから、めぼしいものは何も」
「食堂は人目が多いか。先に購買部に寄ってからだな」

 共に過ごすのであれば必要なものだろう。そうかけられる声が嬉しくてドクターは頷く。
 煌びやかな装飾も豪華なごちそうも、既に当日となってしまったから、あるものはきっと限られるのだろう。それでも共にすごしたい人が傍にいるのなら、それこそがドクターにとっての素敵な。

「ありがとう。ウルピアヌス」

 ーーーそうして二人で連れだって歩く今のドクターは知らない。この後、ドクターの自室で語らうなかでクリスマスについて詳しく説明されたウルピアヌスが再びたいそうなため息をつくことを。
 曲がりなりにも情を交わらせた相手に対して共に過ごすことを遠慮する態度は元より、贈り物の候補に自身の命を持ち出すのは寝不足のドクターが悪いのか、あるいはそう思わせてしまう自分が悪いのか。何れにしろ後日仕切り直しが必要だとウルピアヌスがひっそりと決意することを知らない。
 そうして年を越す前に行われた情報共有の後、あの時の仕切り直しだとウルピアヌスがドクターのために時間を作ってくることも。一日中傍にいてドクターの望むように髪を触らせ、歌をうたってくれることも、今のドクターには預かり知らぬ少しだけ先の幸せな未来の話。