「ガンマさん、それ、ペネンコですか」
思わぬ人が思わぬものを持っているから、つい声をかけてしまった。
「え
……ああ、これですか」
カプセルコーポレーションの廊下である。立ち止まったガンマが、持っていた資料ポーチを軽く持ち上げた。そこには、かわいらしいペネンコのぬいぐるみチャームが、色違いで二つもついているではないか。
昼休みも終盤である。ほとんどの職員は昼食を終え自席にもどり、おそらく最後であろうタイミングで戻ってきた私は、ガンマ1号と鉢合わせた。
ガンマ1号といえば、真面目な職員である。真面目過ぎて融通が利かない部分すらあり、話しかけるにちょっと緊張してしまうような、彼はそんな人だ。そういう彼の持ち物としては、揺れている赤と青のペネンコのチャームは意外すぎた。ギャップを感じるというか、正直言うとものすごく興味を惹かれる。
私もカプセルコーポレーションの研究員であり、早い話が彼の同僚であると言える。せっかくの機会を逃さず、仲良くなりたい。
「ペネンコ、好きなんですか」
「いや、そういうわけでは
……ないわけではないのですが」
口ごもったガンマ1号の視線が困ったように逸れる。
「ファンの子にもらったとかですか?」
「いえ、これは以前大変お世話になった女性からいただいたもので」
お世話になった女性! 浮いた話だったらどうしよう、と考える。あまり根掘り葉掘り聞くのも失礼かもしれない。それに野暮だ。
とはいえ、正直気になって仕方がないという気持ちを、私は持て余した。
「お世話になったというのは、どんな風に?」
野暮天、思わず訊いてしまう。
「それは
……ひみつです」
ひみつか~! と内心で目をつぶった。じゃあしょうがない。
「そうですか
……。その方、ガンマさんがペネンコをもらっても嫌じゃないことを知ってたってことですよね。仲がいいんですね!」
「ええ、仲良くさせていただいています。お迎えの代打に行くこともあるし
……」
お迎えとは、駅への送り迎えなどだろうか。ガンマ1号は続ける。
「実は、その女性の師匠というか、ご家族というか
……に当たる方が、食べ物の贈り物を好まないのです。それでその代わりに、お師匠の好きなペネンコのぬぐるみを贈り続けているのだそうで。私もまだ飲食の機能は搭載されていないから、食べ物をお断りしたら、彼女は『1号くん、ペネンコすき?』と
……。彼女の中ではそういうパターンができているのかもしれないですね」
持ち上げたポーチの先で揺れる2匹のペネンコを優しい目で眺めながら言う表情は、何やらまぶしいような気さえする。
「子どもみたいに純粋で可愛らしい人なんですね」
これはカノジョさんだろうなと思いながら答える私の頬は緩んだ。
「いえ、とても頭のいい女性です。3歳とは思えないくらいに」
聞き間違えたらしい。さんさい、と聞こえた年齢の分部を訊き返そうとしたところで、昼休憩の終わりを告げる短いチャイムが鳴る。やむなしと研究室に向かいながら、ふと気になったことを訊いた。
「ふたつつけてますけど、その赤い方はともかく、青い方はどうして青なんです? もしかして、相手の子の好きな色とか」
「いや」
急に見たことのない顔をして、ガンマ1号はきびすを返した。
「私の家族の分です。彼にも下さったから、私が預かっているんです」
それだけいうと、寂しいような優しいようなよくわからない笑顔を私に向けてから、ガンマ1号は歩き去っていった。
ちょっと仲良くなれた。ちょっと仲良くなれたと思う。が、私は何故だか、どうしたらいいのかわからない気分になって、しばらく立ち尽くしていた。
彼の最後の微妙な表情の、何とも言えない悲しみのきらめきのようなものが、しばらく頭から離れなかった。
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