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悠環 彰
2026-01-06 22:36:06
2926文字
Public
MCU:バキサム(同居アース)
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カフェでブランチ
バキサムのサムと、シャロン。
カフェでのひととき。
※ミニイベント【#月いち36の日】掲載作
「よぉ、シャロン」
キンと空気の冷えた冬空の下。道の向こうからやってくる人物の姿を目ざとく見つけてしまい、さて知らないフリで通り過ぎるかUターンするかと考えている内に声をかけられてしまった。
「嫌そうな顔してくれるなよ」
苦虫を噛み潰したような表情で立ち止まるシャロンを見て、苦笑を浮かべながらもサムはこちらへ足を向けてきて目の前に立った。
「ごめんなさいね、正直者なもので」
「あからさまにされると傷つくな」
「じゃあ、これ以上傷つけないようにさっさと行くわ」
と、再び歩き出そうとしたところを呼び止められる。
「邪険にするなって。それとも、この後急ぎの予定でもあるのか、正直者さん」
肩越しに不機嫌そうな視線を返してやるが、微塵も堪えない様子でいつもの気のいい笑みを浮かべながらひょいと親指を手前に引いてお誘いのポーズを取る。
「良かったらコーヒー一杯分くらい付き合わないか」
奢るよ、とまで言われれば予定もない以上邪険にもできず、振り返り肩を竦める。
「”もう一人”はどうしたのよ。そっちに付き合ってもらえばいいでしょ」
「生憎出掛けててな。その迎えまでの時間、暇なんだ」
そういうこと。シャロンは盛大にため息をついてみせると、先に立って歩き出す。それを追うように視線を向けてくるサムに、ついてこいと顎をしゃくる。
「ブランチを摂る予定だったの。お気に入りの店があるから、そこで奢ってくれるなら」
シャロンの言葉にぱっと嬉しそうに笑みを浮かべて、サムがついてくる。やれやれ自分もだいたい甘っちょろい。まぁ、恩赦を取り付けてくれた相手なのだ。ちょっとした機嫌取りと情報収集に付き合ってやってもいいかと気分を切り替えながら、D.C.の街を目的のカフェへと歩き出した。
「ホリデーは家族と過ごせたのか?」
席についてドリンクと軽食に手を付けながら挨拶代わりの軽い近況報告をしていた流れで、サムがそう言った。久々に味わうお気に入りのバケットサンドを頬張りながら、ちらと視線を返す。
「流石に今年はね。国に帰って最初のホリデーだし」
「そうか、そりゃ良かった」
気にしていたのだろうか、ほっとしたように表情を緩めるのを見ながら、全く本当にお人好しだと思う。もちろんある程度場数は踏んでいるので無邪気に正義の味方をするような人間ではないが、関わりを持った人間や身内など一度懐に入れた人間にはすこぶる弱い印象だ。
「アナタは? 家族と、それとも”もう一人”と?」
これ以上自分の方を詮索されるのも居心地が悪いのでやり返す。
「風の噂で聞いたわ、”アレ”と同居しだしたって」
「流石、情報が早いな」
サムは困ったように笑みを浮かべつつ、コーヒーで間を作る。お互いがお互いのペースに呑まれないようにしているように感じる。
「ホリデーはその”アレ”と、だな」
サムがバッキーと同居を始めたという情報は、特に苦労なく簡単に知れた話だ。バッキー側は公には表舞台に立っていないとは言え、新キャプテンアメリカがこのアメリカの首都で他人と同居を始めればどうしても人目にはつく。そう隠そうともしていないようだったし。
ただ、シャロンとしては本当に同居しているのかと少し驚いた。マドリプールで見た彼らの様子は、お世辞にも”友人”と呼ぶのすら憚られるものだった。サムが盾を背負って表舞台に立ったあの日はだいぶ打ち解けた様子はあったにせよ、同居をするほどとまでは思っていなかったのだ。どちらも、他人をプライベートスペースにまでは簡単に入れない人間のようにも見えていた。
「よく寝食共にしようなんて思えたわね」
理解できないと首を振れば、軽い笑い声が返る。
「全くな。俺もよく同居する気になったもんだと思うよ」
「あら、仲良くやってけるから同居したんじゃないの」
「まぁちょっと色々あってな。今ではだいぶ慣れたよ」
そう言ったサムの表情を見て、思わず呆気に取られる。随分と気の抜けた、慣れたなんて表現とはだいぶちぐはぐに感じる穏やかな表情をしていたからだ。シャロンの記憶にあるサムは、もう少し余裕なく、周囲の目を気にして、常に気を張っているイメージが強かった。それがこんな、柔らかに笑うようになっていたとは。
まさか、アレのおかげで?
信じられない、という表情を浮かべていただろうか。サムはコーヒーカップを置いて、肩を竦めてみせる。
「しかし、随分とシャロンの中でアイツの評価は低いんだな」
対するシャロンは当たり前でしょと鼻で笑ってやる。
「不可抗力でアイツも被害者だったとは言え、人生狂った原因みたいなもんだもの」
どうして高評価を得られようか。それに何より。
「私に、イヤな女になったなって言ったのよ」
「あー、うん、それは」
「まともに喋ったこともない私に!!」
一瞬の間があって、サムがそうだったかと首を傾げる。
そうなのだ。バッキーはマドリプールで再会したシャロンのことを、言うに事欠いて「イヤな女」と評したのだ。それまでほとんど喋ったことも、顔を合わせたことすらなかったのに。あの時一体誰が装備一式を届けてやったと思って!
「私の何を知ってるってのよ!」
沸々と怒りを思い出し声を荒げるシャロンを見て記憶を振り返り思い当たるところがあったのか、うーんとサムがフォローの言葉を探して詰まる。シャロンとしてはサムにも思うところはあるが、何より一番物申してやりたいのは今はもうここにはいないスティーブと、そしてバッキーになのだ。
「
……
まぁ、結構突拍子もないこと言い出す時あるよな」
「アナタがフォローしても評価は変わらないわよ」
バケットの最後のひと欠けを放り込んで、紅茶を流し込む。
「いや、フォローとまでは
……
俺も腹を立てることがない訳じゃない」
言う割には、随分と楽しげな顔で笑っている。
「
……
惚気は聞かないわよ」
「
……
お前、どこまで知ってるんだ」
どこまでとは。揶揄の言葉にやたら緊張したトーンで返されて、疑問に片眉を跳ね上げる。だが。
「サム!」
割り込んできた声に、シャロンは振り返らずとも誰が来たかに思い当たって心底嫌そうな顔を浮かべてしまった。それを見てサムが改めて苦笑する。
「ここを待ち合わせ場所にしないでよ」
「すまん」
「シャロンも、ハッピーニューイヤー」
そう挨拶をされては流石に返さない訳にもいかず、シャロンは同じ言葉をバッキーに返す。そして、バッグを手に席を立った。
「迎えが来たなら、もう私は必要ないわね」
「シャロン」
思わず声を上げるサムを一瞥して、ふっと笑う。
「じゃあねサム、良い一日を」
「っ、ああ。無理やり誘って悪かったな、ありがとう」
シャロンも良い一日を、との声にひらひらと片手を振りながら歩き出す。椅子を引く音がしたので、恐らく空いた席にはバッキーが座ったのだろう。店を出てから興味本位で窓越しに彼らの姿を盗み見る。
「
……
なるほど。どこまで、ね」
向かい合い笑い合う二人の表情にシャロンはひとりごち、ふっとため息をつくと人混みの中へと消えていった。
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